第40話 地を駆けるオッサン軍団
夜勤が続いたので少しパワー不足でした……
そしてまだ続くのです……
もしかすると次の更新まで1〜2日程、開くかもしれません。
ユルシテ……
ォォォォォォォォォ………
「…………」
オオオオオオオオオ…………
「……!…!!…………!」
ゴオオオオオオオオオオ…………
「こ…!ちっ………!」
ゴオオオオオオオオオ!!!!
「しゅっ!修行ってこういう事じゃ無いんだけど!!!」
センヤは自身の翼に魔力で強化を施し、とてつもない速度で空を飛んでいた。
普通に歩くと1週間は掛かる距離なので、この方が手っ取り早いと判断した為である。
センヤのコートはメロに着せ、そのメロはセンヤにお姫様だっこをされた状態になっていた。
「しかし軽いな、ちゃんと食べてるのか?」
「アカツキ君そればっか言うよね!!」
「ん…?そ、そうか。いや、なんだか心配でな」
センヤは爺さんと過ごしていたせいか、性格、喋り方までどことなく爺さんに似てきた。
精神年齢が大分高いというか、老いているのだろうか?
老いと言えば、この身体もヴァスターリアが封印された時点で幾つの身体だったかすら分からない。
城護たち曰く、「人格がセンヤ様になってからは顔付きが大分若く、幼くなった」らしい。
『回帰転生者』のセンヤは、ヴァスターリアと顔付きが瓜二つなので、もしかすればあちらの世界でセンヤが死なずに、40代頃まで生きていれば、元のヴァスターリアの顔になっていたかもしれない。
「メロ、この調子だとあと10分くらいだ。我慢してくれ」
「あと10分もあるの………」
(顔は良いし気も利くけどやっぱズレてるこの男)
そして10分後、デュラハルド大陸、北西の端に存在する山奥の村『グルゥビナ』の入口から、少し離れた場所へと、2人は降り立った。
「山だね」
「山だな」
山岳地帯である。一面山である。
「あ、はいコート。翼見られるの不味いでしょ?」
「ん、持たせてすまなかった」
「いーよ、暖かかったし」
「寒かったら言ってくれ。この翼はそういう道具だと説明する」
メロはコートを脱ぎ、センヤへと返した。
コートを着ると暖かく、メロの体温がまだ残っていた。
2人は年季が入った木製のアーチをくぐり、グルゥビナの中へと入った。
ラグディスに比べると、街に人の姿はあまり多くなく、若い者は職を探しに山を降りてしまう為に、老人が多かった。
「こんな所に凄腕大工がいるの?」
「という話なんだがな。取り敢えずテンガイの仲間、オーレンの元へ向かおう」
テンガイの他の仲間は、オーレンを除いて全員城へと戻ったようだ。
彼だけが大工団の動きを見る為に、この山奥の村の宿屋に滞在している。
「おんやまぁ……最近は若い人がよく来るもんだ。カップルで泊まるのかい?」
年季の入った宿屋に、これまた長寿の店主。
この街に宿屋は1つしか無いらしい。
「いえ、この宿屋に宿泊しているオーレンという男が居るはず、彼に会いたい」
即座に否定するセンヤに、少しムッとするメロ。
「あぁ、あの若い人か。あの人は101号室に居るよ。ここをまっすぐ行って突き当たりを右に。そこの一番奥だ」
「ありがとうございます」
店主の言った通りに、2人は廊下を真っ直ぐ進み、突き当たりを右に曲がった。
センヤが歩く度に、床がギシギシと悲鳴をあげる為、なるべく体重をかけない歩き方をした。
『102』と来て『10…』。
右端の『1』のプレートが剥がれているが、恐らくここだろう。
コンコンコンッ……
「オーレン、俺だ、センヤだ」
トットットッ……
カチャ……ガチャッ
センヤの声を聞き、中から足音が聞こえてきた。
中からカギを開ける音が聞こえ、眼鏡を掛けたオーレンが出てきた。
「センヤ様、お待ちしておりました」
古びたベッドの上には本が山積みになっており、オーレンが余程ヒマだった事が伺えた。
「大工団はなんでも、過去に世話になった方の依頼で、この街に居たとか。作業自体はすぐに終わったらしく、村の人々からのお礼という事で、中央の酒場に数日滞在しています」
街の住民達の話も聞いていたらしく、メモ帳に情報、彼らの動きが細かく纏められていた。
「オーレン、待たせてすまない、ギンベッカとヤヤガの件は無事に解決した。これで帰りの道中、何か食べるといい」
そう言うとセンヤは懐から袋を出し、中から3万メロをオーレンに手渡した。
「い、良いんですか?」
「ここに宿泊していた分、そしてその間に掛かった経費等も城に戻った時に教えてくれ。これとは別に払う」
「あ…ありがとう、ございます…」
オーレンは目をまん丸にして、本を街の図書館に返しに行った。
センヤとメロも宿屋を出て、話に聞いた中央の酒場へと向かった。
「ガハハハハハ……!!」
「ダァッハッハッハッハッ……!!」
酒場の前に着いたのは良いが、時間で言うとまだ14時程だ。
しかし中からは、既に酒盛りの声が聞こえ始めていた。
「メロお酒の匂い好きじゃないから外で待ってるね」
「分かった。観光……と言っても、見て回るものも特に無いと思う。なるべくすぐに戻る」
「はいはーい」
メロに見送られ、センヤは酒場の入口をくぐった。
テーブル席には、ゴツい男たちが大盛り上がりで酒を飲み交わしていた。
やはり数日間滞在しているだけあって、中は様々な物が乱雑に置かれていた。
センヤはその中で、1人の男が目に入った。
酒場の1番奥、カウンター席で1人で飲んでいる男。
周囲の男もかなりの筋骨隆々、髭をかなり伸ばし、山賊の親分のような風貌だが、カウンター席の男はどの男たちよりも雰囲気、貫禄が人一倍大きく感じられた。
水を差すのも悪いが、もしかすれば酒を飲んでいる時の方が、話が通じるかもしれない。
センヤは落ちている物を踏まないように気をつけながら、カウンター席の男の元へ向かった。
「失礼します。お楽しみの最中に、興が削がれるのは承知の上です。俺は…」
「…言わんでもいい、……そのコートの印、吸血鬼の一族だな?儂はロッシュ・パラツオ。『パラツオ大工団』31代目棟梁をやっている」
ロッシュは小さなグラスにビンの酒を注ぎ、それをグイッと一息にあおる。
「ご存知でしたか。実は、今日は折り入って……」
センヤが仕事の依頼を言いかけるが、ロッシュは手を突き出し、それを遮った。
そしてロッシュは持っていたグラスを置き、センヤへと向き直ったかと思うと、急に深々と頭を下げた。
「儂の遠い先祖が世話になった。『鬼無くしてパラツオ無し、過去が無ければ明日は無し』…パラツオ家に伝わる言葉だ。力を貸すように言われている。もし依頼だと言うのなら、喜んで手伝おう」
ロッシュはそう言うと、頭を上げてゆっくりと手を差し出した。
センヤはその手を握り返すと、ゴツゴツした手の中にある温もり、そして直感で、この職人は良い仕事をする、と悟った。
「宜しくお願いします。ロッシュさん」
(…なんだか、爺さんの手を思い出すな)
頑固そうだが、人の良さそうな表情を浮かべる所は、爺さんそっくりだ。
ロッシュは握手を終えると、飲んでいた酒をグラスに注ぐ事無く、酒のビンごと一息に飲み干し、カウンターに全員分の飲みの大金を置いた。
「ロッシュさん、お代は結構ですよ。我々が出来る唯一のもてなしですから。また来てください」
店主がカウンターのお金をロッシュの元へと返すが、ロッシュはそれを受け取ろうとはしなかった。
「儂は人を無為に喜ばす冗談や嘘は言わん。次、依頼を受けた場合を除いていつこの村に来るか分からん。そして、これは数少ない収入源だろう。義理と人情だけで生きていける程、この世は甘くはない。先立つものは金だ。ちゃんと受け取れ」
「…ロッシュさん………では、受け取らせて頂きます。ありがとうございました!」
店主は深々と頭を下げる。
「本当はお前さんとも今ここで飲みたいが、吸血鬼の城までは距離がある筈だ。すぐに向かおう。内容はそっちで聞く。なに、大抵のモノは作れる」
「おーい!お前達!仕事だ!!」
ロッシュは立ち上がり、男達に大声で呼び掛ける。
「よっしゃ!やるかァー!!」
「ロッシュさん!次の仕事はなんですかい!」
「まぁだ知らん!だがパラツオ家において、生涯の恩人とも言える方からの依頼だ!何がなんでも全力でこなすぞ!」
「よっしゃぁー!!!」
「皆の衆!儂に続けェー!!!」
先程よりも更に大盛り上がりの酒場の様子を、入口からチラリと覗くメロ。
薄暗い奥から何かが向かってくるのが見える。
「ウオオオオオオオオオ!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「ぎゃーー!!!???」
メロが驚いて入口から身体を仰け反らせる。
男。男。男。男。男。男。男。男。
大量の男たちが間欠泉のように、酒場の入口から大量に現れた。
なんなのだろうか、これが男祭りか。
そして一番最後に、見知った顔の良い男が現れる。
「待たせたな」
「な、何アレ……」
「『漢』だな」
「…イミワカンナイ」
センヤは漢たちの背中を、腕組みをしながら信頼の眼差しで見送った。
いや、2人も追わなければならないのだが。
メロはそんなセンヤの事を半目で見ながら、また空の旅が始まる事を察し、大きなため息をついた。
ドドドドドドドドドドドドド!!!!
「オラァー!!走れ走れー!!」
「オオオオオオオオオオオオ!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!
先程まで酒をあんなに飲んでいた男たちは、全くそれを感じさせない程に、山を跳ね降り、木々を飛び跳ね、物凄いスピードで地を駆ける。
ガチムチで髭面のオッサン達が土煙を巻き上げて地を駆ける。
先頭を走る最高齢のロッシュ。
他のオッサン集団とは10m程の間隔を常にキープしている。
センヤとメロはそれを空から追った。
翼もそこそこのスピードが出ている為、ロッシュ達がかなりの速度で走っている事が分かる。
「おお……凄いな、ロッシュさん」
「…何これ」
死んで別世界に来たと思ったら、同郷の顔が良い吸血鬼にお姫様抱っこされて、空から走るムキムキのオッサン軍団を見る事になろうとは。
シチュエーションが謎すぎる。
そして気が付けば、先程立ち寄った村を通り過ぎ、更にギンベッカと戦った湖も通り過ぎた。
オッサン達の勢いは衰える所か更に勢いを増し、なんとラグディスの正面入口までもが見えてきた。
「メロ、そろそろ降りるか」
「早くない!?ねぇ早くない!?」
「ロッシュさん達ならやれると信じていた。力こそパワーだな」
「同じ意味じゃん!イミワカンナイ!!」
1週間掛かる距離を、この大工団は僅か1時間ほどで走破した。
2人は地へと降り、同じ様に走りながら彼らの背中を追った。




