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第39話 純情男とオトメウサギ

長くなってしまったので、キリのいい所を見つけ2話分に分けたのですが、切り取られた後半が短くなってしまいました。


ところで実際、異世界に行ったとして、他の転生者と『自分は事故死です』『奇遇ですね!私もなんですよ』

なんて会話を交わすんでしょうか。


やはりマナー。マナーは大事。

その辺マナー講師さんどうなんですか?




「いただきまーす!」




今朝方、ギンベッカを倒したセンヤとメロは、湖から数キロ離れてはいるが、1番近い村の宿屋を取り、昼過ぎまで眠っていた。




ヤヤガは縄でグルグル巻きにし、村にあった聖騎士軍の駐在所の前に置いてきた。

木陰で震えている所を発見されたヤヤガは、ギンベッカに裏切られ、危うく魔物化されかけたのが相当効いたらしく、終始涙を流しながら、謝罪の言葉を述べていた。

彼は恐らく、ありのままの事を話すだろう。








そして現在、2人は宿屋を出て、近くの飯屋で遅めの朝食、というよりは昼食を摂っていた。




メロはふわふわのオムライス、センヤは野菜がギッシリの厚いサンドイッチを食べていた。

オムライスのケチャップは、自分で好きにかけられるようになっていたので、メロはウサギのマークを嬉嬉として書いていた。




「意外とあっちの世界と変わらない料理が多くて嬉しいな」




「ねーほんと。虫とか主食の文化だったらもう1回死んでた」




メロのその言葉に、センヤは何も言えなくなってしまう。

今でこそセンヤとメロはこの世界で生き、こうやって会話をしながら食べ物を食べているが、2人とも1回は死んでいるのである。




「…あー……ごめん。そういうつもりで言ったんじゃなくて………」




「いや……俺も不用意な事を言った。…すまない」




メロはカンナと一緒に暮らしていた時も、お互いの死因については話さなかった。

今こうやって生きているからこそ、1度体験した死の痛み、苦しみ、悲しみを知っている。




傷口の痛みが身体の中に無理やり押し入ってきて、体内を流れていた温かい血液が、外へと流れ出す。

人を生かす為に動く心臓が、拍動する度に死が近付いてくる。

足へと伝う血液の温かさが、とても熱く感じる程に、身体の温度と『生』が奪われていく。

眠る様に意識を失う、とも言うが、あれは決して睡眠と同じ感覚ではない。

死神に手を引かれ、意識を強制的に持っていかれる。

黒へと落ちる瞬間の絶望は、今まで生きてきた中でも最悪の感覚だろう。

自身がそれを味わった為に、両親も最期に同じ感覚を味わったのかと考えると、深い悲しみが湧き上がる。

センヤはもう、あんな死に方をするのは御免だ。







「ま、その話は置いといて、今日はどうするの?もう昼だけど」




メロが気を使って話題を逸らしてくれた。

確かにセンヤとしても、この話題を続ける自信はなかった。




「まずは知り合いの更に知り合いっていう大工に会いに行く。ここから更に西に行った山奥の村にいるらしい。この大陸の端の方だな」




センヤが地図を出し、机に広げてメロへと見せる。

地図には『グルゥビナ』と書かれており、周囲は山々に囲まれていた。




「うへぇ……遠いなぁ…」




「もし嫌なら戻ってもらっても構わない。遠いからな。ん、城に行けば俺の仲間、家族や使用人もいる。会いに行っても良いが……」




「いーよいーよ。強くなる為に行った事無いとこに行くのも修行の内だしね、はい最後の一口、あーん」




「あーん、うん、美味いな」




メロから差し出されたスプーンでオムライスを貰って食べるセンヤ。

それを面白そうな、そして驚いたような表情で、メロは見ていた。




「アカツキ君あんまり気にならない感じ?」




「ん?そうだな、強いて言うなら俺ならもっとふわふわに作れる」




「いやー…食べるより先にツッコミが来るかなー……って思ったけどさ…間接キスって概念は知ってる?」







ガタタッ!!ガッ!ドガッ!!




「お、お客様、大丈夫ですか!?」




「なななななんでもない、ダイダッダダッ大丈夫だ」




「んふっ………んふっ…ふっ……ふっ…!」




派手に椅子から落ち、店員が心配の声を掛ける。

センヤは平静を装うが、喋り方からして駄目そうだ。

メロはセンヤの反応を見て、必死に笑いをこらえていた。




お金を払い、2人は店を出た。

会計の時にも店員から心配されたが、手を震わせながら大丈夫だ、とセンヤは話した。




「アカツキ君、純情か!ピュア過ぎ!」




「人とあまり関わって来なかったんだ、そ、そういうのには慣れていない…」




「でもアカツキ君バリバリ人と関わって首突っ込んでない?」




「…さっきの話に戻すつもりは無いが、あっちの世界では嫌になるほど『人の悪意』を味わった。だから人と関わるのを遠ざけていた」




「勿論、この世界にも同じ悪意を持つ者も居る筈だ。だからこそ……かは分からないが、俺はかつて悪意を受けた側として『悪意の傍観者』である事を辞めようと思った。まぁこの力ありきの話なんだけどな。俺が普通の『転生者』だったら、この選択をしていたかは分からない」




昔、何かの本で読んだ事がある。




『力なき正義は無能であり、正義なき力は圧制である。力なき正義は反抗を受ける。なぜならは、つねに悪人は絶えないから正義なき力は弾劾される。それゆえ正義と力を結合せねばならない』




この世界の正義と、センヤの持つ正義の形は違うのかもしれない。

しかし、少なくとも年端もいかぬ少女を奴隷として扱う事は、きっと正義ではない。

サナと出会った日、センヤは人々を救う為に、この力を使おうと決心した。







2人は街を出て、草原へと出た。

ある程度街から離れたのを確認すると、2人は木陰で立ち止まり、センヤはアッシャーに連絡を始めた。




『アッシャー、聞こえるか?』




『センヤ様、どうなさいましたか?』




『他の城護たちと手分けして、ラグディスの中に居る奴隷の数を調べてくれ。それと、奴隷商人と思われる人物を街の中に入れるな。数が増減しては困る』




『かしこまりました。それと、報告しようかと少し迷っていたのですが、私からもお伝えしたい事が……』




『…?襲撃の他に何かあったのか?』




ボードン襲撃の件は、テンガイの思いをある程度通して知っていたが、その他にもどうやら何かあったらしい。




『襲撃は既にご存知でしたか。いえ、その際に、私達が気付くよりも先に、サナ様がキリナ様の危険を察知したのです。直後にサナ様は倒れ、重度の疲労を確認した為に、ベッドに寝かせていましたが……』




『サナに何かあったのか!?』




『いえ、先程、目覚めたには目覚めたのですが…、右腕に、謎の刻印(・・・・)が現れました。城護たちで身体を隅々まで調べましたが、何の異常も見付からず……今暫くは私達で経過を観察します』




『刻印…?そうか………何かあったらすぐに知らせてくれ。その場合はすぐに向かう』




『かしこまりました』




アッシャーとの念での連絡を終える。

謎の刻印、アッシャーは確かにそう言った。

そしてキリナの危機を城護より先に察知した………特殊能力…?スキルだろうか。

ソルシエラのように、転生者でなくとも、何か特別な力を持っているのかもしれない。

サナの事も心配だったが、先にやるべき事をやらなければならない。




「…何かあったの?顔、凄かったよ」




「……ここに来てから出来た俺の『家族』だ。妹みたいな感じだけどな。少し疲れが溜まって倒れたようだ。今は幸い、目が覚めたみたいで大丈夫なようだが……」




一応、メロにはサナの刻印の話は伏せる事にした。

メロはすぐ帰れと言うだろうし、もしその刻印、そして危険を察知したという能力………その2つに関係性があるならば、あまり知る者を増やしてはいけないと考えた。

もしサナの能力が『未来予知』や『危険予知』などの能力の場合、この世界中の国が、サナの能力を欲しがるだろう。




「ふふ、良いね。家族」




メロが遠くを見て、独り言の様に呟く。




「なるか?家族」







「…え?」




メロは目を見開き、センヤの方を振り向いた。

恐らく生前の、あっちの世界でもした事のない、そんな表情をメロはしていた。




「妹や弟は何人いても良い」




「アカツキ君………そーいうとこ。本当にピュアっていうか………はぁ………」




げしっげしっ




「痛っ!地味に痛いな!」




メロは疲れたようにため息を吐き、何にも変化させず、そのままの黄泉脚でセンヤのスネを蹴る。




それと同時に、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ湧き上がった、自分でも意外な乙女心を返せと、そんな想いを乗せながら無言でスネを蹴るメロであった。













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