第38話 世界の終わりとはどうあるべきか
魔王一派が初登場です。
〜グァンダレラ大陸〜
グァンダレラ大陸。
ここは今現在、人ではなく、魔の存在……魔王が統治している。
魔王はセンヤがこの世界に来る、およそ5年前に突如として出現した。
魔王、そして吸血鬼の王が倒されて暫くしてからの話。
デュラハルド大陸は『何故か』誰かが大陸を統治しようとすると、一向に減らない魔物たちの存在、そして建設の際に必ず事故や、予期せぬハプニングに見舞われる為、権力者や富豪は、魔王が倒され魔物の数を大きく減らしたグァンダレラ大陸へ、自身の国、城を作るべく、こぞって移住した。
しかし、今より5年前、グァンダレラ大陸に存在する『世界の裂け目』と呼ばれる、かつて誰も底を見た事が無い程の深淵から、ある日、不気味な『黒い影』が這い上がって来た。
『黒い影』はグァンダレラ大陸を徘徊し、僅か3日で人間の国や城を破壊、そして人間達を殺戮した。
『黒い影』の誕生と共に、魔物達は突如として数を増やし、生き残った人々は命からがらリズアニア大陸へと逃げ出し、グァンダレラ大陸の現状を伝えた。
グァンダレラ大陸の中央付近、『世界の裂け目』に取り囲まれる様に位置する魔王の居城、通称『黄昏の城』。
『黒い影』が現れた途端に、メイクゴブリン達は誰に指示されることも無く、この城を1日で完成させた。
この城に住むのは『黒い影』である魔王、そして魔王を補佐する『巫女』そしてその力を認められた『魔将』、城の治安維持、彼らの身の回りの世話をする魔人の使用人である。
普段は魔将達は、一部を除きこの城には滞在せず、独立した自身の屋敷に住んでいる。
それぞれの一族は『魔人筆頭』が纏めている為、共に同族と住む者もいれば、遠く離れた場所に住む者、各部族を転々とする者、この城に住む者など、性格によってバラバラである。
しかし、今日は偶然タイミングが合った為、普段より多くの魔将たちが、この城の一室、魔将の滞在室に集まっていた。
「なぁ、世界ってどう滅ぶと思う?シュヴァルツ」
無邪気そうな赤髪の男は、シュヴァルツと呼ばれた眼鏡を掛け、本を読む男の灰色の長髪を、暇つぶしに編み込みながら聞いた。
「ええぃ止めろ鬱陶しい!お前は魔王様のお言葉を忘れたか?それに聞くならまずお前から答えたらどうだ、アスワード!」
シュヴァルツはイライラしながら頭をグシャグシャと振り乱し、編まれた髪を解く。
乱れた髪を整え、不機嫌そうにアスワードへと返事を返した。
「俺はそりゃあもう人間皆死ぬじゃん、建物とかももう大炎上!燃え盛る国を俺らが跋扈する。ま、こんなもんだな!」
在り来りなものではあるが、子供から大人までが想像する世界の終わりとは、やはりこういうものだろう。
「私は……そうだな、この世界は煩すぎる。全てが死へと染まり、世界の陸全てが墓場となる。……私は無と静寂の世界を望む。美しいとは思わないか?」
シュヴァルツは読んでいた本を閉じ、眼鏡を掛け直しながら己の世界の終わりをつらつらと語る。
「なんか暗いな。57点」
「お前が聞いたんだろう!そして点数を付けるなッ!じゃあお前は5点だ5点!」
「うるせーぞぉおぉ!!!貴様らぁぁぁ!!!」
「痛ぇっ!」「痛ぁっ!」
ふざけて話を聞かないアスワードと、それを知っているが言わずにはいられないシュヴァルツが騒いでいると、今まで2人が話していた声から数段やかましい声が響き、宝石がピンポイントで2人の頭に命中した。
「貴様らァ!ここは皆が集まる場所ォ!お静かにお願いしまァァァす!!」
「ノワル!お前が1番やかましいッッ!!」
緑のグラサンを掛けたモヒカン男が、パッツパツのジャケットを筋肉でブチブチ破壊しながら、大声で部屋の使用ルールについて叫ぶ。
「思うに!!世界の終わりとは!!」
「聞いていたのか…」
「スゥゥゥ〜〜………」
「……」
「……」
「人間共から金銀財宝宝石プラチナダイヤモンドを取り返し、その海に溺れるゥゥゥーー!!!!!」
「やかましい!!!そしてお前が1番俗っぽい!!ルールに無駄に厳しい癖に!!」
「皆が集まる場所だから騒ぐなと言っているだろぅがァァァ!!!!!チェレンを見習え!!」
「痛てぇッ!」「痛ァッ!?」
アスワードとシュヴァルツに、またもや宝石をクリーンヒットさせるノワル。
ルールに厳しく、自身はルールを積極的に破るグラサンモヒカンの魔将、それがノワルである。
「目ぇーさめた。ちょー覚めた」
「すまない、起こしたか…チェレン。ノワルを恨め」
ソファで眠っていたチェレンが、目をこすりながらむくりと起き上がる。
彼は立派な男なのだが、フリフリのスカートを身に付け、髪型も紫のロングヘアであり、傍から見れば可憐な美少女である。
「いぃーや、構わないよ」
「チェレン!!貴様が考える世界の終わりとは!!」
「寝起きの奴にすぐ聞くなよ…」
「この星の破滅」
「そして答えるのか……大きく出たな」
チェレンは指先から小さな魔力を球状に固め、ふよふよと浮かばせて回した後に、それをぼんっ!と爆発させた。
先程からシュヴァルツが延々とツッコミ役を担当している為、彼はぜいぜいと肩で息をしていた。
「いいえ、いいえ、違います」
そこへ、魔王に直属で仕える魔将の中では、魔王が復活した5年前からの最古参であるアートルムが現れた。
「進むのは勿論、成長」
「退るのは、成長しませんが、それはまだ人が動き続けている事を意味します」
「進まず、戻らない。『停滞』こそが破滅。世界の終わり。一瞬を永遠に、あの方達はそれを求めています」
アートルムは淡々と語る。
「えぇ、知っていますとも、アートルム。我々はその願いを叶える為、ここにいる」
落ち着きを取り戻したシュヴァルツは立ち上がり、魔将達全員に聞こえるように、自身の美的感性を語り出した。
「思うに…………この世の何者でさえも、美しさは宿る。生きる美しさ、死に際の美しさ、喜び、悲しみ、変わらぬ美しさもあれば、火花のように一瞬で散る美しさもある」
「よく、一瞬の美しさを永遠にしてしまえば、それは瞬時の鮮やかさ、精彩さを欠き、美しさが損なわれてしまう、とも言いますが、そうは思わない」
「世界を犠牲にしてでも、叶わぬ幻影を現実に、一瞬の願いを永劫に………永遠の一瞬、黄昏の中で美しい夢を見る…………私は、そんな世界の終わりがあっても良いと思うのです」
自身の美的感性を語ったシュヴァルツは、満足気に眼鏡のブリッジを中指で上げる。
「難しい事を言って賢そうなフリをしている。15点」
「煩いぞ貴様!!!」
「………」すやぁ………
「…言わんとしている事は分かります。シュヴァルツ。しかし、魔王様の前で言ってはいけませんよ」
シュヴァルツの思いに対して、他の魔将達の反応はややイマイチであった。
「皆さん何かあったんですか?」
紅茶を人数分淹れて持ってきた最年少の魔将、ネグルが首を傾げる。
「ネグル、気にしないでくれ。私だけが理解出来る高等な美的感性だ。……………おや、客人のようだ、私が出よう。なに、せっかく淹れてくれたんだ、紅茶が冷めないうちに戻ってくるさ」
シュヴァルツは深いため息を吐きながら、魔将の部屋を出ていった。
残された魔将達は、ネグルの紅茶を飲みながら、再び各々のしていた事を始めた。
「出て来いやァ!魔王!!」
黄昏の城の門前で、猪、豚、人が混じった様な、体格の良い魔物と魔人達が、何やら怒気を含んだ声で怒鳴っている。
城を出たシュヴァルツは、悠々と鉄門まで歩き、鉄門ごしに彼らの話を聞いた。
「おや、あなた方は……オーク族、強硬派で有名なガイネス派の方々…と、その魔人筆頭、ガイネスさんですね。どうかなさいましたか?」
「どうもこうもねェ!お前じゃ相手にならん!魔王を出せ!あの軟弱者に現状を話さねばならん!!」
「成程……しかし……、あなた方のその態度、身なりでは……話し合いの場には相応しくありませんね」
ドンッ…………!!
「グゥゥ……!?」
シュヴァルツが『圧』を発する。
大気がビリビリと震え、途端にガイネス達は地面へと沈み、仲間達は小指一本動かせない状態になってしまった。
「ふざけるな……!早く、奴に会わせろ……!!」
ガイネスのみが腕を動かし、地面へと手を付きながらも、なんとかヨロヨロと立ち上がる事が出来た。
「流石魔人筆頭。その力に免じて、どうしても、というなら…腕か足の1本を、1人1つずつ戴きましょう」
「…は?」
シュヴァルツの予期せぬ言葉に、ガイネスは間の抜けた声を出してしまった。
この男は何を言っている?
「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!!誰が手足なんか!!」
「ハハ、無理ですか。では、私の時間を使った手間賃を貰いましょう。さあ、立ってください」
『圧』を解除し、オーク達を立ち上がらせる。
シュヴァルツは全員が立ったのを確認すると、右手の人差し指を、軽く右へと振る。
ボギィッ………ブヂィッ………
「…へ?」
ガイネス達オークの右腕が、肩から千切れて地面へと落ちる。
「同じタイミングで腕が千切れ、血が噴き出す…集団行動の美しさが理解できましたか?……しかし、後ろから53番目の貴方、腕が落ちるタイミングが1人だけズレていました。連帯責任です」
「ま、待て!待って……」
ガイネスの声はシュヴァルツの耳には届かず、今度は左へと指を振る。
ベギッ……ギチギチッ……
今度は左腕。
その後もシュヴァルツは難癖を付け、逃げ出そうとするオークの片足を貰い、更にもう一本を奪った。
生命力だけは強いオーク達は、四肢をもがれてさえも生きていた。
「フゥー……フゥー………」
「命までは奪いませんよ。次に私がその道を通る時までには失せなさい。どうせ5日もすればあなた方は四肢が生えてくるでしょう?…それでは」
シュヴァルツは元来た道を、再び悠々と歩き出した。
「アイツ、自分が一番まともなフリしてるけど一番頭おかしいよな」
窓からその光景を見ていたアスワードの言葉に、他の魔将たちは揃って頷いた。




