第37話 裁きの黒翼、黄泉への誘い
第二章、おしまいです!
魔物化装置を自身の肉体に大量に取り付けたギンベッカは、元のフクロウの姿が分からなくなる程に、異形の怪物へと変異した。
「……ォラアッ!!!!」
ギィンッ!!
ギリギリギリギリ………!!
「シャアッ!!」
ギンベッカの剛腕がセンヤに叩き込まれる。
しかし『真血解放』状態のセンヤには、あらゆる攻撃が通用しない。
このまま拮抗状態を続けても、何も進展が無いので、センヤは一旦終告げる紅薔薇を離し、メロの元へと戻る。
「クククク……!!無駄ダ!!コノ『三流品』ハ突然変異ヲ起コシ、私ハ進化ヲ遂ゲタ!!思ワヌ収穫ダ………『原初鋼鉄』…!コノ世界ニ存在スル物ノ内、10本ノ指ニ入ル硬サヲ持ツ、魔力ヲ通サヌ鋼鉄ダ!!」
「『三流品』に救われるか。不幸中の幸いだな、ギンベッカ」
ギンベッカの言葉は、どうやらハッタリでは無い様であった。
その証拠に、鋼鉄の翼を切り付けた終告げる紅薔薇の吸収した魔力は微々たるものであった。
「ククク…!ソウダ、コノ私コソガ『最高傑作』トナレバ良イ!!キエェエエェェエエ!!!!」
ギンベッカは『原初鋼鉄』で出来た羽根を翼から飛ばし、センヤとメロへ攻撃を仕掛けてきた。
「『紅魔法』守護の四章『苦難の茨』」
センヤは守護魔法の茨を展開し、メロを鋼鉄の羽根から守った。
メロはその隙に茨の護りを抜け、そのまま飛び上がり、ギンベッカの背後へと回り込んだ。
「…ハァッ!」
ギンッ…!ガンッ!ギィンッ!
「うっそ、硬ぁっ!?……うひゃあっ!」
メロの黄泉脚が、ギンベッカの鋼鉄の翼に弾かれる。
そしてギンベッカが巻き起こした強風に煽られ、メロは吹き飛ばされて地面へと激突しそうになった。
しかし間一髪、センヤがメロを抱き抱え、怪我をする事は無かった。
「大丈夫か、メロ!」
「あ、うん………ダイジョウブ……」
(顔だけは無駄に良いなこの男…!)
「クククク!!!アマイッ!アマァイッ!」
ギンベッカが吹き飛ばされたメロを見下ろし、煽るように翼をバサバサとはためかせ嘲笑う。
変異前は冷静を装っていたが、本来の性格は、このように人を嘲るのが好きな性格らしい。
「ムカつく…!」
メロが黄泉脚でダンダンと地団駄を踏む。
湖の下では作業を止めないメイクゴブリンが焦っている事を、彼女は知らない。
「魔法で動きを止めたいが、ギンベッカは身体がゴツくなっているが、素早さもかなり上昇している。狙って魔法を当てるのは至難の業だ」
「しかし、俺とメロの身体能力は奴の速度にも追い付くはずだ……次は2人で行くぞ!俺が翼を引きつける、メロは背後を取れ!」
「分かった!」
「ゼェアッ!!」
センヤは再び空へと舞い上がり、ギンベッカへと攻撃を仕掛ける。
予想通り、ギンベッカは変わらず鋼鉄の翼で、終告げる紅薔薇の刃を弾く。
ギンッ!ギンッ!ギィンッ!
「効カヌ!効カヌ!効カヌゥゥゥ!!!」
ギンベッカはセンヤの攻撃を弾く為に、両翼を使っている。
今なら背後がガラ空きになっている筈だ…!
…フッ
今度は音も無く背後に回り込んだメロは、槍となった黄泉脚を、翼と翼の間、鋼鉄となっていない部分へと突き刺そうとする。
気配を感じたギンベッカが、驚きの表情で後ろを振り向くが、メロの黄泉脚は既に避けられない………
「ナッ!?…………トデモ言ウト思ッタカ!!クククク……ハハハハハ!!!」
ベギッ……ボギッ……バリッ………!
ギンベッカはニヤリと笑い、なんと背中からもう2つ、骨格を急成長させ、生々しい音を響かせながら高速で鋼鉄の翼を生やした。
ギィンッ!!
メロの斧化した黄泉脚が跳ね返され、メロは全身を新しい鋼鉄の翼に打ち返された。
「キエエエエエエエ!!!!」
地面へと落下したメロへ、追い打ちをかけるべく、ギンベッカは奇声を上げながら鋼鉄の羽根を降り注がせた。
「メロ!躱せ!」
「…ッ!『黄泉嵐』!」
ガガガガガガガガガガガガガッッッッ!!!
メロは地面へと倒れた体勢から回転し、器用に逆立ちとなった。
そのまま黄泉脚を高速回転させ、降り注ぐ鋼鉄の羽根を文字通り蹴散らした。
「…カンナの『千刃乱舞』の真似だけど…なかなかじゃない?」
「無事か、メロ!『紅魔法』治癒の七章『脈動する生命』!」
ギンベッカの元を離れたセンヤは、先程攻撃を受けたメロに回復魔法を施した。
メロの全身が光に包まれ、擦り傷などの全身の傷が治された。
「ありがと、少し打ち身っぽくなってたから」
「無理はするな、約束の半ばで死なれては、俺がメロの友人に殺される」
「どうせ攻撃喰らわないから死なないでしょーが。にしても……どうすれば勝てんのよ…!」
メロが空を悠々と飛び回るギンベッカに悪態をつく。
その間にも、ギンベッカの身体は変異を続けており、その姿は正に合成獣の様であった。
「…いや、勝機はある。…メロ、アレを見ろ」
「アレって…」
センヤはギンベッカの一点を見つめている。
それに倣ってメロも、センヤが見ている方を見た。
あれは…………
ギンベッカの鋼鉄の翼、先程から羽根を飛ばし攻撃を仕掛けているが、その度に再生し、再び羽根を飛ばし攻撃していた。
…が、ギンベッカの右の翼の一部分、鋼鉄の羽根は先程のように瞬時に再生するのではなく、ジワジワとゆっくり再生していた。
「口では余裕を見せているが、ギンベッカ自身、俺達が自分の速度と同等という事に焦りを感じている。だから奴は魔力のリソースを全て『自己進化』へと割いている。俺達を超える為にな。………つまり、他へ回す余裕が無いという事だ」
「…なら、再生が追いつかない程に!」
「そうだ、奴を焦らせ、羽根と魔力を大量に消費させるんだ。『紅魔法』影の番外『虚栄虚飾の王政』」
センヤ自身の魔力を核とし、大気中の魔力でそれを人型にコーティング。
周囲には長銃を持ったセンヤの『影』が、大量に現れ始めた。
「クククク!!!!雑魚ガ何匹増エヨウガ、雑魚ハ雑魚!ハッタリハ通ジン!」
ギンベッカはセンヤの『影』が、自身を撹乱する為の物だと考え、それ以上の意味を考えなかった。
「最初からそれ使えば良いじゃん!」
「いや、今思い付いた……そして量を優先したからな。攻撃を一発喰らえば『影』は消える。『影』は手に持つ魔銃で、俺の任意で銃撃を行う。俺達は引き続き奴に攻撃を行い、少ししたら距離を取る」
「どれだけ変異しようがプライドは変わらなかったみたいだからな、地上へは降りて来ない筈だ。それに、奴は先程も言ったが、俺達に『恐怖』を抱いている。十分な進化が出来るまで、奴は絶対に俺達へは自分から近づいて来ない」
「説明ありがとっ!行くよっ!」
センヤの作戦を聞いたメロは早速、黄泉脚でギンベッカへと飛び立つ、センヤもそれに続き、ギンベッカへと攻撃を仕掛けた。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァ !!!ゴブリン以下ノグズ共ガヨォォォォ!!!!」
ギンベッカは防御を鋼鉄の翼に任せ、剛腕や触手等で攻撃を仕掛ける。
センヤとメロは手数で劣る為、その攻撃も捌かねばならなかった。
「メロ!」
「了解ッ!」
メロの滞空時間がそろそろ終わる為、タイミングを見計らい、2人は地上へと戻る。
「放てッ!」
ダダダダダダダッッッッ!!!!
センヤの号令と共に、『影』はギンベッカへ向け、一斉射撃を開始した。
「グッ…ヌウウウウウウ!!!!」
質より量を重視した四方八方からによる射撃は、鋼鉄の翼を持ってしても防ぎきれないらしく、ギンベッカに僅かながらもダメージは入っているようだ。
「鬱陶シイッ!!サル共ノ浅知恵ガ!魔人ノ私ニ通用スルトデモ思ッタカ!!」
「エエエエエエエエエエエエアァァァァ!!!!」
『原初鋼鉄』による羽根の五月雨撃ち。
今度はセンヤ、メロ、そして『影』をも対象として捉えているので、かなりの広範囲に羽根が降り注ぐ。
一発でも当たれば『影』は消えるが、ギンベッカはそれに気付かずに、羽根を大盤振る舞いし、かなりのオーバーキル気味である。
再び『苦難の茨』でメロと自身を覆ったセンヤは、自身の『影』がかなりの勢いで減っている事を確認した。
ギンベッカの羽根の消費量、そして再生速度、『影』の減り方を見て、センヤはメロに指示を出した。
「メロ、このペースだと恐らく奴の翼はもう丸裸だ。羽根が止み次第、反撃を開始する。メロは奴の翼を頼んだ」
「おっけ。じゃあトドメはアカツキ君に任せたよ。男と男の約束、あるんでしょ?」
ギンベッカの元へと向かおうとするメロが、歩きざまに片手を上げる。
「ありがとう、メロ。奴に決着をつける」
センヤはメロの片手を叩き、2人はそれぞれの仕事をやり遂げる為に、別々の方へと向かった。
ドドドドドドドド…ドド……ドッ……ドッ………
ギンベッカは鋼鉄の羽根を打ち出すのを止めた。
羽根が当たった周囲の地面は、畑が耕された様に掘り返され、愚劣なゴミ共が作り出した分身の姿も、そして、高潔な『魔人』へと逆らった2匹のゴミの姿も見えなかった。
「フゥー……!フゥー……!ク、クククク…!クククククククク!!!ハハハハハハハ!!!!死ンダ!ヤハリ私ガ負ケル筈ナドナァイッ!………………オヤ?」
羽根を免れた木々の間に、かつて共にこの大陸の街、村を壊滅させようと画作した男、ヤヤガの姿が見えた。
「…あ、あぁ………!!ギ、ギンベッカ殿……」
「……マダ、シブトク生キ残ッテイタカ………」
奴の姿を見ていると、先程破壊された最高傑作の事が脳裏によぎる。
そうだ、この男があのメスの攻撃を躱していれば、真の最高傑作がこの世に生まれ落ちていた筈だったのだ。
「……悪運ノ強イ奴ダ……ダガ、貴様ノ存在ハ実ニ不愉快極マリナイ…!!……貴様は殺ス………」
ギンベッカがヤヤガに向けて、僅かに残った鋼鉄の羽根を打ち出そうとする………そう、ギンベッカの油断、慢心は二度目である。
一度目の油断で彼が学びを得ていれば、彼は一度撤退し、体勢を立て直す事も出来た筈だ。
そして、黄泉へと誘う、冥府の兎に気づく事も出来た筈だ。
「アンタ、随分寒そうになったじゃん」
「ナ……ッ!…ハ、早ク魔力ヲ……!」
「────させないから」
ザザザザンッ……!!
メロの日本刀モードの黄泉脚が、丸裸となったギンベッカの4つの翼を根元から切り落とした。
「キ…貴様ァァァァ!!!何ヲシテイルゥゥゥゥ!!!!!」
「ブッ飛べッ!」
メロの蹴りが顔面に炸裂し、ギンベッカは陸地へと文字通りブッ飛ばされた。
ォォォォォォォ…………!!!!
……ドォォォォォォンッ…!!!!
翼を失ったギンベッカは、地へと堕ちた。
そう、先程まで空から見下ろしていた、人間の手により、愚劣な人間共と同じ地へ、もはや策とは無縁の怒りの形相で。
恐らく変異する前のギンベッカは、今の自身の姿を見て、こう言うだろう。
「なんです…?この方が『魔人』……?怒りに我を忘れ、無様な醜態を晒し、そのような汚らしい見た目の者が……『魔人』ですか……クク、面汚しですな、視界に入れる事すら躊躇われる…」
力に溺れる愚か者、そして彼自身が最も軽蔑する、無様な同族の姿となり、地面を這いつくばっていた。
「グウウウウウ!!!!オノレ……許サン…!!殺ス……殺スゥゥゥゥゥゥ!!!」
ギンベッカはヨロヨロと立ち上がり、自身の翼を切り落とした大罪人の姿を探す。
翼は無くなろうが、この変異を遂げた身体がそうそう負ける筈が無い。
あのメスを辱め、自ら死を願うまでに痛みを伴う拷問を施してやる。必ず、必ず。
しかし、雲1つ無い夜空の月明かりに照らされるギンベッカに、裁きの黒翼の影が差す。
「……貴様、貴様ハァァァ!!!!」
大きな月を背に、天上高く夜空から、裁きの王が現れた。
「この空の元では全てが平等だ…!ギンベッカ!!そして『悪』は……等しく裁かれる…!!」
「黙レ黙レ黙レェェェェエ!!!『魔人』ニ逆ラッタ貴様コソガ罪深イ!!裁カレルノハ……貴様ダァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
咆哮するギンベッカは残された魔力を全て使い、『原初鋼鉄』を拳に纏わせる。
そしてセンヤの終告げる紅薔薇を真下から迎え撃つ体勢を取った。
「ギンベッカ!人々を弄び、罪なき者を殺し、己の欲と策に溺れた貴様自身が、対価を支払う時だ!!!」
「コノォ…!グズガァァァァァァァァァァ!!!!」
「ギンベッカァァァァァァァァ!!!!!」
ギンベッカへと迫る終告げる紅薔薇の刃に、紅い炎が轟轟と燃え盛る。
体力、魔力を吸収するものでは無い、正真正銘、終告げる紅薔薇は大剣としての役割を果たそうとしていた。
「終わりの時だ…ッ!!!『天上天下ッ!裁鬼月刃』ッッ!!!!」
「キエェエエェェエエアアアアア!!!!」
センヤの燃える終告げる紅薔薇が、ギンベッカの『原初鋼鉄』の拳と激しい閃光を明滅させながらぶつかり合う。
そして………
ビギッ……!ベギッ…ギッ…!ギッ…!
ギィィンッ!!
「ウグゥ…!オ、オ、オ…!オオオオオオオオ!!!!!」
「悪しき者へ永遠の終わりを…!!終告げる紅薔薇ッ!!!」
ギンベッカの『原初鋼鉄』の拳は砕け散った。
そして、終告げる紅薔薇の燃える刃が、拳、腕、銅、ギンベッカを真っ二つに両断した。
「終ワラヌッ…!私ハ………終ワラヌゥゥゥゥゥ!!!!!ギェアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
ギンベッカは全身が炎に包まれ、やがて身体の全てが消滅し、夜風に吹かれその身体を無に散らした。
「………終わったか。テンガイ、男の約束は確かに果たした」
約束を果たせた事、そしてメロも無事だった事、様々な思いが重なったセンヤは、小さく安堵のため息をついた。
「おつかれ、アカツキ君!やるじゃん!」
メロが笑いながら、センヤへと近付いてきた。
センヤも自然と笑みが零れ、2人は笑いあった。
「ありがとう、メロ。しかし強いな、黄泉脚」
「当たり前じゃん!だってメロはメロだからね」
メロは黄泉脚を解除し、その場で一回転してセンヤに悪戯っぽく笑いかけた。
そして、戦いの終わりを告げる様に夜が明け始め、遠くの空には太陽が昇ろうとしていた。




