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第2話 名前のない少女




「せ、聖騎士軍相手に喧嘩売っちゃいましたね……」




 聖騎士軍の兵士たちが全員逃げ出したのを確認した茶髪の少女が、恐る恐るセンヤの背後から出て来た。

 彼らは指揮官が瞬殺されてしまった恐怖で逃げ出したが、彼女は指揮官が殺された事にも、そして間違いとはいえ、人を殺めたセンヤにも特に驚く素振りは見せず、聖騎士軍と明確に敵対してしまった事の方が、問題と思っているようであった。




「す、すまない。怖がらせてしまった……わざとではないんだ、本当に殺すつもりは無かったんだ……」




「いえ、大丈夫です。吸血鬼様に殺意が無かったのは何となく分かりますから!吸血鬼様の方こそ大丈夫ですか?」




 人を殺してしまった、それも少女の目の前で、その事が重なったセンヤは軽く立ちくらみ、剣を杖代わりにして片膝をついてしまった。少女はそんなセンヤの背中をさすり、彼を気遣う。




「ありがとう……怒鳴っただけで人が吹っ飛んだり、剣を受けようとしただけで人を殺してしまうなんて……やっぱり俺は本当に……」




 剣を鞘へと仕舞い、両の手のひらを見つめる。明らかに肌の色素が薄くなっており、血色が悪く青白い。

 指先にある爪もやや鋭くなっており、気を付けないと触れた物を傷付けてしまいそうだ。

 近くに割れた手鏡を見付け、埃を払って自身の姿を確認する。

 髪や顔のパーツなどは、変わったような感じはしなかったが、やはり肌は青白く、歯の犬歯部分の鋭さが増している。




「……どうやら、本当に吸血鬼っぽいな……」




「ええ!吸血鬼様は吸血鬼様です!」




 少女は自信満々に頷く。しかし、この少女はセンヤが恐ろしくないのだろうか。

 実際、センヤと少女の今の関係は、宝石の所持者と盗人という関係である。

 まずセンヤ自身に宝石を所持しているという記憶は一切無い為、別にこの少女を咎める気も無かったが。




「そ、そうか……あっ……うっ……うぇ……」




 視界に入った指揮官の亡骸を見て、センヤは吐き気を催した。

 申し訳ないが、センヤは軽く合掌をした後、少女と共に剣を使って指揮官の亡骸を穴の空いた床から、下の階層に落とした。




「君にまでこんな事を手伝わせてすまない……その、失礼な質問だとは百も承知だが、あまり抵抗は無いのか?俺が指揮官を斬った時も驚いてなかったようだし……ええと……」




 センヤは彼女と出会ってから、まだお互いに一度も名前を名乗っていない事に気が付いた。

 なんだか、少女と出会ってから色々あった為に、かなり時間が経った様な感覚を覚えた。実際はまだ30分も経っていないというのに。




「すまない、今更だが名前を教えてくれないか?」




「名前ですか?名前……うーん……どれを選べば良いでしょう……」




 少女は困った様に首を傾げ、考えている様であった。自身の名前を伝えるだけで良いというのに、彼女は何をそんなに難しく考えているのだろうか。

 しかも名前を伝えるにあたって、普通の者ならば決して出てくる筈のないワード、『どれを選べばいい』と彼女は言った。




「……『どれ』だと?………どういう事だ……?」




「……はい。『奴隷の女』『メス』『クズ』……この辺りがよく呼ばれる私の『名前』です」




「奴隷だと……?」




 目の前の少女は、先程と変わらないトーンでそれを口にした。それが当たり前だと言うように。

 彼女はその名前の意味が、なんなのか知っているのだろうか。




「違う!そんなモノじゃなくて本物の名前だ!」




「……無いんです。名前。私、生まれて名前も付けられるより先に、捨てられたんです。けれど、そこで私はたまたま奴隷商に拾われて、今までずっと、誰かに買われて、売られて、買われて………私は今、ここにいます」




 淡々と語る少女の表情には、一切の悲しみなど感じさせず、ただそれが当たり前で、受け入れるべき運命であるというような、諦観のようなものがあった。




「………その過程ですら、名前を付けられなかったのか。そして、そんな格好でこんなボロボロの城に宝を探しに来ているというのも、今の主人の命令か」




「……はい。宝も、そうです。立ち入り禁止区域には手付かずのお宝が多く眠っているらしくて、それが歴史的な価値も含めて高値で売れるみたいです」




 少女のボロボロの衣服は所々破け、血が滲んでいた。無理も無いだろう、普通の少女が、こんな廃城を十分な装備もなく探索するなんて、足を滑らせて下の階に落ちれば、下手をすれば死んでしまう事だってあるだろう。




「君は……今の生活から抜け出したいとは考えた事は無いのか……?」




「……考えた事が無いんです。どうなるかなんて。このまま、また少ししたら別の人の所に売られて、それをずっと繰り返していく……これからも、この先も。そうして働けなくなったら死んでしまうんでしょうね。……世界なんて、弱くてちっぽけな私の事なんて、知らないんです」




「そんな………!なんで…………」




「なんでそんな悲しい事を言うんだ……!」




「…………………………なんで………、私………………涙、なんか…………………わたし………………」




 少女の涙が頬を伝い、服をぎゅっと握り締める、傷付いた手に落ちた。センヤの胸には、激しい怒りと悲しみが広がっていた。

 あの一筋の光も見えない絶望の日々、未来なんて考えられなかった。ただ、その日を生きる為の毎日。

 あの頃の嫌な記憶がチカチカと脳裏を過ぎり、握った拳に爪が食い込む。




「君は……あの頃の俺と同じだ」




「……吸血鬼様が、私と同じ?」




 少女は顔を上げ、センヤを見上げる。涙を流す彼女は、先程よりも更に小さく見えた。

 誰にも頼れず、世界から切り離された、ひとりぼっちの少女。




「……あぁ。だが俺は、人生の恩人とも言える人に救われた。世界が変わったんだ。……俺がそうしてもらったように、俺も君を救いたい。世界を、君がもう一度好きになれるように」




 少女の目を、センヤは真っ直ぐと見つめ、手を差し出す。ここで、彼女を救えるのは自分だけだ。

 例え命を落とそうと、この身が別の身体に移り変わろうと、『人に優しく』『誰かを助ける』という両親、爺さんの教え、千夜自身の思いが変わる事は無かった。




「………吸血鬼様………………どうか…………どうか私を、まだ見た事のない世界へ…………連れて行ってください!」




 差し出されたセンヤの手を、少女が握り返す。傷付いた少女の手は、吹けば消えてしまいそうな、しかしそこに確かに存在する、ほのかな熱を持っていた。




「ありがとう、手を握り返してくれて。必ず、俺が君を新しい世界へと連れていく。希望に満ちた明日を迎える事が出来る世界に。まずは君の今の主人の所へ案内してくれ。……あまり大きい声では言えないが、押し通すくらいの力はある筈だ」




「きゅ、吸血鬼様が今、外に出たら……灰になっちゃうんじゃ……」




確かに、吸血鬼は陽の光が弱点であり、その他にも数々の弱点が存在するという事は知っている。

それだけ人々は吸血鬼という存在を恐れ、話に尾ひれが付いて行き、藁にもすがる思いで『弱点』という事にしていったのだろう。




「いや、陽の光を浴びた途端に消滅するわけじゃない。現に俺は先程から、割れた窓から差し込む陽の光を浴びてる。少し、心做しか力が入りにくい気もするが、それでも普通の人間とは比較にならないと思う」




「あ……そ、そういえば………えへへ………」




普通に陽の光に当たっているセンヤに、少女が恥ずかしそうに笑う。

センヤもその姿を見て、軽く微笑んだ。

これが年相応の少女の、在るべき姿だ。




「さっきの一件で聖騎士軍には顔が割れている筈だ。俺一人ならなんとかなるが、君まで危ない目に合う可能性がある。何か羽織れるものを探そう」




センヤは荒れ果てた部屋の中を探し始めた。

探している途中で気付いたのだが、この部屋は玉座がある王の間である。

当然、衣装部屋では無いので、服のストックがあるかと言われたら微妙である。

おまけに、これだけ荒れ果てていれば、少女より以前にも盗人や、巡回の聖騎士軍達が物品を回収していてもおかしくなかった。




「すまない。決して君の事を責める気は無いが、何か経験則というか、こんな場所に宝や物があったという話があったら聞かせてほしい」




「えーとですね……部屋1つにつき、壁の奥に小さな隠し部屋が1つ必ずあるんです。もしかしたら例に漏れず、この部屋にもあるかも知れません」




「隠し部屋か……よし」




センヤはボロボロになって倒れた玉座と、センヤが先程まで封印?されていた棺桶のある場所へと戻ってきた。

棺桶は壁に嵌っていたらしく、壁には棺桶のシルエットに穴が空いていた。

これだけ部屋がボロボロでも、人々が探そうと思わない場所……。

棺桶の封印が強かったのか、墓荒らしも吸血鬼の墓は荒らせなかったのか分からないが、棺桶に手が加えられた様子もない。

聖騎士軍の口振りから、棺桶が壁から落ちたのはほんの少し前…。

センヤは棺桶が嵌っていた壁の奥を、軽くノックする事にした。

後ろに空間があるならば、反響音が軽くなる筈だ。




(俺なら…この棺桶の更に裏、ここなら見つからない筈だ。ここに隠すな)




コンコン……




ガラガラガラガラ………ザアァァァアァ………




経年劣化で風化し、脆くなった壁はノックの衝撃で一瞬で崩壊し、中からはホコリの被ったかなりの金銀財宝が現れた。

溢れかえった金貨は、センヤの足元に雪崩のようにザラザラと崩れてきた。

あまりにも量が多いので、それらは玉座の下にいる少女の元まで流れていった。

奥には中規模の窓の無い部屋があり、センヤが首を突っ込むと、中は埃っぽい匂いと、服やコートのストックが仕舞われていた。




「ええーー!?」




「おっ、と……ハハ……!凄い量だな…、1回1回を豪勢に過ごしても人生数千回分以上は遊んで暮らせるんじゃないか?」




おびただしい量の金貨に足を取られつつ、センヤは中からコートを取り出し、少女の元へと向かう。

転びそうになった少女は座り込んでしまったのだが、もう少しで太ももまで金貨で埋まりそうな程であった。




「き、金貨は現行のものでは無いので使う事はできませんが、『金』としてなら十分な価値がありますよぅ……」




「なるほど。じゃあこの金貨は売って当面の生活費や、城の修理費に使おうか」




センヤと少女は自然と顔がほころんでしまう。

2人ともあまりお金とは縁が無かったので無理も無いだろう。

大量の金貨の合間に小袋のようなものがあったので、その中に金貨を、そして万が一金貨の取引を断られた時の為に、その辺の小さな装飾品も入れた。

箱の中に整頓して仕舞われていたりするような物は流石に売ろうとは思わなかった。




「じゃあ、申し訳ないがこの中から服を選んで羽織ってくれ。……まぁ羽織ると考えたらこの黒コートしか無いが……埃まみれで嫌だと思うが、少しの辛抱だ」




「そ、そんな……こんな上等な服を着るのは初めてですよ……」




少女はどれも同じの黒コートから、あれやこれや迷った末に、センヤが今羽織っているコートよりサイズが小さい同じものを見つけて、それを羽織る事にした。




「吸血鬼様とお揃いですね!」




「な、なんだか照れくさいな……」




やはりはにかむ少女の顔は、年相応の可愛らしいものであった。

上着も決まったので、センヤは少女の案内で町へと向かう事にしたのだが、どうやらここは城の最上階であり、1階まで降りなければならないらしい。

廊下に出ると、やはりここも崩落している箇所が多数あり、最早、人が歩く為の機能を果たしていない所も少なくはなかった。




「この道を君は来たのか……」




「はい、最初の頃は何回か死んでしまいそうな事もありましたけど、慣れれば擦り傷くらいで済みますよ。あ、吸血鬼様、そこは床が脆くなってるので跨いでくださいね」




「おっと!ありがとう」




一応この城はセンヤが城主という事になっているようだが、内部の構造はこの少女の方が圧倒的に詳しいであろう。

そもそも、センヤがここを見るのは初めてである。




「ここは廊下が殆ど崩れているので、少し遠いんですけど回り道をします」




確かに廊下は5〜6mに渡って崩落し、下の階が丸見えになっていた。

その手前も少し穴が空いており、助走も付けられない。

これでは普通の人間がジャンプしても、通るのは不可能であろう。




「俺の背中に乗ってくれ。多分今の俺なら飛び越えられる」




自分が大体どの辺まで跳べるかは分かるものだ。

生前のセンヤは立ち幅跳びで2m50cm程だった。

しかし身体能力が向上していると思われる今では、助走せずに軽く10メートルは跳べる確信があった。




「わわっ!き、吸血鬼様の背中に乗るなんて申し訳ないですよ!」




「良いんだ。遠慮なく乗ってくれ」




「で、では失礼して…よいしょっ…」




センヤの身長も、人間だった頃よりも30cm程高くなっており、2mを少し超えていた。

しゃがみこみ、少女が登りやすくしたが、それでも少女はかなり苦戦しながら登っていた。




「しっかり捕まっててくれ。……ハッ!」




センヤは少女を背負い跳躍する。

思った通り、5、6mの穴を軽々と飛び越える事が出来た。




「わっ!すごいです!」




ミシッ……




「使えるものは使わないとな…………ぁッ!??」




ボゴォッ!!




身長も伸びた分、勿論体重も増加している。

生前は元々、身体を鍛えていた事もあり、細くもそこそこ筋肉が付いていたのだが、この身体は本当に封印されていたのかという程に、更に筋肉が付いており、その分の重さも加算されている。

それに5、6m程の跳躍、風化で脆くなった床が合わされば、着地で床が崩落しない筈もなかった。




ドゴンッ!




「ごっ、5階です!」




バゴォッ!




「4階ぃっで…」




ゴッッ!




「げほっ!3…」




ボゴッ!




「にかっ……」




ボッッ!




「いっか」




ドォォォォォン……!!!




「ゲホッ……ゲホッ……だ、大丈夫か……?」




「げほっ……げほっ……吸血鬼様も大丈夫ですか……?」




床にめり込みそうな着地と同時に、センヤは頭上から落ちてくる瓦礫が少女に当たるのを避ける為に、即座に床を蹴り、床が無事だと思われる方へとステップした。

普通の人間なら身体の関節が砕ける程であろうが、特に痛む場所もなく、改めてこの身体の丈夫さを実感した。

6階から1階までのショートカットには成功したが、直す箇所が増えた上、落ちてくる時にジェットコースターに乗った時のような、あのヒュンヒュンする感覚を味わった。




少女の無事を確認したセンヤは、少女の案内によって城の外へと出た。

太陽の眩しい光が差し、センヤは目を細める。

勿論、身体は灰にならず、感覚として微妙に力が入りにくい程度のものだった。




「……これが……城の外か………」




本来なら木製の門があるであろう城本体の入口は、既に朽ち果ててしまったのか、門の残骸の様な、鉄製の何かが落ちているのみだった。

城の周囲はかなりの面積があり、何かの建物の残骸が多くあった。

そしてこの城を囲い込む周囲の外壁もかなり崩れており、激しい戦闘があったことを伺わせる。

地面は恐らく芝生が生えていたであろうが、誰も手入れをしていなかった為に、殆どが茶色く枯れているか、地面が見えていた。




「このお城が建っている山の麓の町に、私の今のご主人様のお家があります……な、なんだかドキドキします……」




少女は胸に手を当てながら、緊張した面持ちで歩いていた。

センヤは不安げな少女の肩へと手を置き、首を振った。




「君を学校にも通わせずに、こんな危ない事、しかも盗みをさせるような主人だ。君が負い目を感じる事は無いさ」




「ふふ、吸血鬼様は吸血鬼なのに、今まで出会ってきた人たちと比べると1番優しいですね」




確かにセンヤは人に優しく、と教わってきたが、当たり前の事で特別な事をしているつもりは無かった。

しかし少女は、センヤが一番優しいと言った。

この言葉から、如何に少女が過酷な環境で生きてきたかが察せられた。




「確かに、吸血鬼は人を襲う生き物だが……それも変な話だな。……あっ!か、勘違いしないでくれ!俺は別に君を襲う気なんて全く無いぞ!」




「ふふ、私としては、このまま吸血鬼様の手に掛かって、幸せなまま死んじゃうのも良いかなって思ってました…………世界には、それだけ人の皮を被った魔物がいっぱいいるんです」




少女はこの歳にして既に何かを悟ったような目をしていた。

きっと爺さんと初めて会った時の俺も似たような目をしていたんだろうと、センヤはあの日の事を思い返していた。

しかし、奴隷であるこの少女は俺よりも更に酷い目にあって来た筈だ。




暫く歩くと、遠目に見えていたボロボロの門が目の前に現れた。

先程、聖騎士軍がすぐに駆けつけた事もあり、城内や周辺は彼らが巡回をしているのだろうが、この様な門では廃墟愛好家、盗人、誰でもウェルカムである。




「ここ直さないとな……って、そういえばここの所有者は誰になってるんだ?俺が勝手に住んでも良いものなのか……」




「吸血鬼様のお城は聖騎士軍の管轄になっているので、特定の誰かが持っている、という訳ではありませんよ!それにここ、聖騎士軍も扱いに困ってるらしくて、聖騎士軍内の追い出し部屋みたいな扱いになってるみたいです」




「く、詳しいな」




「忍び込んでいると色々な事が聞こえてくるので……」




先程の兵士達の士気が著しく低かったのは、この城が追い出し部屋となっている為であった。

指揮官が倒され、彼ははあっという間に霧散してしまい、そこそこの人数がいたような気がしたが、ここに来るまで誰一人としてすれ違う事も無かった。

確かに、日がな1日ボロボロの城の見回りをするだけで、誰かの役に立ってるような感覚も無いような場所で士気を保てというのは酷であろう。

しかしそれを差し引いてもこの少女に何度も忍び込まれ、今回やっと見つける事が出来た時点で、ここに飛ばされる理由が何となく分かった気がする。




少女の話を聞きながら、門だったものを通り抜ける。

門の下は深い森が広がっており、すぐに階段になっていた。

これも長年の風化でボロボロになっていた為、センヤは修繕費がどのくらいになるか不安になっていた。

2人は深い森の中を、階段を降りて山を下っていく。

少女はあの城に来る度に、こんな険しい山を登って来たのだろう。




(……あれが……町か……やっぱり日本じゃないな、ここ)




階段を降っていると、木々の隙間から町の屋根が見えてきた。

まだそこそこ高い場所にいると分かったが、思ったより時間が掛からずに町が見えてきただけで安心した。

しかし、何と表現すれば良いだろうか、在り来りな表現だが、中世ヨーロッパ風?と言うのだろうか?そんな雰囲気の家々が並び、煙突からは煙が立ち昇っていた。







「さ、そろそろ着きますよ!普段はもう少し歩いて立ち入り禁止の壁に空いた穴を潜って来るんですけど、聖騎士軍の人達は焦って鍵を掛けるのも忘れちゃってるみたいですね……」




少女の言う通り、階段を降りきった少し先に門があった。

恐らく普段は、見張りの聖騎士軍が居るのだろうが、鉄製の檻のような門は開け放たれており、鍵が掛かっていなかった。

その隣にある小さな詰所にも誰もおらず、もぬけの殻だった。




初めての土地に、センヤは好奇心と少しの警戒心を持ちつつ、聖騎士軍に見つからない事を願いながら、少女と共に町へと続く門を潜った。










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