第18話 千年夜の覚醒鬼
覚醒します。覚醒。
「セ……センヤ様っ!」
「サナちゃん、行っちゃ駄目!」
「で、ですが…!」
突如として、闇よりも深く、底の知れない黒炎へと呑まれたセンヤ。
驚いたサナは、センヤの元へと駆け寄ろうとする。
しかし、何が起こっているか状況が把握出来ない為に、キリナによって静止される。
ボッ…!ボッ…!ボッ…!
「な、何…?」
城内を薄暗く照らしていた蝋燭の炎が、突如として勢いを増し、城内はまるで昼間のように明るく照らし出された。
「な…何が起きてるの…?」
〜宝物庫〜
「あぅ……こ、ここは……?あれ、私……身体が………」
〜屋上〜
「……お、これは千年ぶりの復活ライブっすかね」
〜調理場〜
「3、2、1………ブーケちゃん、ふっ!かーーつ!」
〜王の私室〜
「ヴァスターリア様………いえ、新しい記憶……センヤ・アカツキ・デュラハルド様……………センヤ様。フフ、この身体も千年ぶりですね」
────────────────
様々な事態が同時多発的に発生し、キリナは混乱していた。
それ故に、城内のそれぞれ別の場所にある瓦礫の山が音を立てて崩れ、中から複数の人影が現れた事に気づく事は無かった。
轟々と燃え盛る黒炎に飲まれた、宿敵であるが、宿敵では無い男。
勇者……ソルシエラは警戒し、弾き飛ばされた後もセンヤからは、かなりの距離を保っていた。
今や太陽は完全に沈み、空に近い城の後ろには、大きな満月が輝いていた。
やがて黒炎は人の姿を取り、バチバチと火の粉を夜の空へと飛ばしながら、その正体を現した。
彼の右手には、今まで持っていた細身の剣ではなく、無骨だがどこか上品な気高さ、美しさを思わせる、漆黒の柄と美しい紅の刀身を持つ大剣が握られていた。
髪は黒ではなくなり、長さも腰まで伸びていた。
それは、頭から雪のような純白、そして下へ行くにつれて、血のような紅にグラデーションがかっていた。
身体はソルシエラから受けた痛々しい傷があった筈だが、今や何事も無かったかの様に完治していた。
決定的に違うのは、普段の人の良さを伺わせるセンヤとは違い、表情、仕草、立ち振る舞いから全て上品ではあるが、氷の様に『生』を感じさせない。
「…久しいな、ソルシエラ」
センヤ……いや、センヤでは無い男は、氷のような表情で薄く笑う。
「その大剣……終告げる紅薔薇……ヴァスターリア、やはり貴方でしたか…」
そう、彼こそが真の千年前の宿敵。
お互いの信念、信条を掛け、命を奪い合った。
「……ソルシエラよ。我は貴様に封印されてから、此処とは似て非なる近しい世界へと、自らの自意識だけを転移させた。無論、我の記憶は消した状態でな。『人間』という生き物を知る為に」
ヴァスターリアは終告げる紅薔薇を構える事もなく、悠々とソルシエラの元へと歩き出した。
「ある時は貴族、ある時は農民、そしてまたある時は奴隷、兵士、社員、犯罪者………女として生きた事もあった。そして最後に、多くの人の悪意、多くの人の愛情、その両方を、その身に受けた男………。命が終わる度に、我はその記憶を集め、自身の精神内でそれを体験した。そして我は千年を掛け『人』として生き、『人』を知った」
そして今度こそ、千年前の宿敵同士が、大きな満月に照らされ、真正面に向かい合った。
「だが……貴様は様々な物を失ったどころか、何か『余計な物』を詰め込まれたのでは無いか?世界を廻す為の『装置』としてな」
ヴァスターリアの言葉に、眉をひそめるソルシエラ。
思い当たる節があるのだろう。
「…貴方には関係の無い事です。……こちらからも聞かせて貰いましょう。ヴァスターリア、古き亡霊よ。今更この世に戻り、貴方は一体、何を成すつもりですか?」
ソルシエラの終知らぬ蒼薔薇を持つ手に力が入る。
ヴァスターリアの答えによっては、ここですぐにでも激しい戦闘が始まるだろう。
「聞いていなかったか?最後に人の世を生きた我、『紅月千夜』の願いを。……揃い過ぎた条件は、主人格を奴に渡す運命の『事故』を引き起こした。しかし、だからこそ願いを聞くことが出来、我は奴になら、この身体を譲って良いと思えた」
(……ヴァスターリア…………)
センヤは今、視覚や聴覚などをヴァスターリアと共有していた。
視界などは通常と変わらないのに、手足が勝手に動き、口は物を喋る。
「…甘い、彼の言葉、理想は戯言に過ぎません。世界の半分も見えていない。コインの表側だけを見ているだけの子供です。都合の悪い裏側の事など何も知らない」
それを話すソルシエラの表情は、何かを隠している様な、そしてその事を口に出来ない、とても曖昧な『人』のような顔をしていた。
「ハッ……だが奴ならこう言うだろう『だからと言って、最初から諦めて何もしないのか。それが手を差し伸べない理由にはならない』とな。人間嫌いを名乗る者が聞いて呆れる」
「だが、我も奴と同じ人生を送れば、同じ事を言ったであろう。……最も、我が奴ならば、一度でも頬を叩かれた時点で、相手の喉笛を噛みちぎっていただろうが。クク………やはり何度生まれ変わろうと、根底は変わらぬな」
それまで貴族的な振る舞いを見せていたヴァスターリアが獣のような、不敵な笑みをソルシエラへと向ける。
「良いか!紅月千夜!!無理、不可能、夢、理想……!!そんなモノは力無き者の戯言に過ぎん!!貴様のやりたい様にやれ!!その為に、この世界において『最高の肉体』『最強の力』をくれてやろう!!全ては現実となる!!貴様の道行きを我に見せよ!!!」
ヴァスターリアはセンヤに、心からの激励、そして『最高の肉体』『最強の力』を差し出すと、主人格をセンヤへと返し、自身は深層意識の奥底へと消えた。
「……ヴァスターリア………」
センヤは左手を胸の中心にかざす。
どこまでも、果ての無い、確かな力を感じる。
ソルシエラの中に広がるモノが暗黒の空虚ならば、センヤの中に広がる力は果てなき道、光注ぐ無限。
ボロボロになったコートを脱ぎ捨て、漆黒の翼を広げる。
そして頼りない細身の剣から、美しい大剣へと形を変えた終告げる紅薔薇の切っ先を、ソルシエラへと向けた。
「此よりは、我ら『鬼』が支配せし魔刻……第2ラウンドだッ!!勇者ソルシエラ!!」
「ヴァスターリアは消えましたか……スキル『武人の激励』『高速移動』『鋼の肉体』『戦闘狂の咆哮』『盗賊の身躱し』」
宿敵、ヴァスターリアが認め、身体を譲られた男を目の前にし、ソルシエラはスキルを重ねがけする。
もはやソルシエラに『遊び』は無く、完全にセンヤを殺しに来るつもりだ。
ーーッ……!
ギィンッ!!!!
(……見える!)
終告げる紅薔薇で、終知らぬ蒼薔薇を受け止める。
完全に同調した肉体は、ソルシエラの動きを完全に読む事が出来た。
そして、あれだけ重く感じられたソルシエラの終知らぬ蒼薔薇が、今やとても軽く感じられた。
ギィンッ!ガッ!!ギィンッ!ギィンッ!ギンッ!ギンッ!ギィンッ!!
壮絶な蒼剣と紅剣の打ち合い。
美しい二対の剣は、まるで使用者の2人が舞を舞っているかのようにさえ思わせた。
「……貰ったッ!!」
ソルシエラが一瞬の隙を突き、終知らぬ蒼薔薇をセンヤの腹に突き刺す。
刀身は完全に通り、センヤの背中すら貫通して、月光に照らされた穂先が、蒼く輝いていた。
そう、蒼く輝いていた。
穂先には一滴の血液すら付いておらず、また、センヤの傷口から血が滴る、という事も無かった。
「人は果てなき空へと手を伸ばす。しかし、その手が届く事は無い。夜、真血解放状態の俺は、言葉通り『夜空』を纏う。……俺に『死』は訪れない」
センヤはソルシエラに蹴りを叩き込み、突き刺さった終知らぬ蒼薔薇ごと、後方へと吹き飛ばした。
「………ッ!!スキル『狩猟神の瞳』!」
吹き飛ばされながらもスキルを使い、弱点を見つけ出そうとするソルシエラ。
深く生い茂った森の中でも獲物を必ず見つけ出す『狩猟神の瞳』。
しかし、逆にセンヤの存在が、目の前から消える。
『狩猟神の瞳』は、センヤを『生者』として捉えていない。
(…駄目だ…捉えられない……ハッ!?)
吹き飛ばされているソルシエラに、センヤは翼で一気に距離を詰め、今度はセンヤの終告げる紅薔薇がソルシエラの身体を斬りつけた。
胸を横薙ぎ一閃、確かに斬られた。
……確かに見た。
鎧ごと切り裂かれ、自身の胸から大量の血液が噴き出すのを。
じわじわとその身に迫る死も、理解出来た。
しかし、ソルシエラの鎧には傷も付かず、血液の一滴すら流れる事は無かった。
まるで先程、センヤに終知らぬ蒼薔薇を突き刺した時のように。
「貴方……何を………なッ!?」
突如としてソルシエラは、ガクリと膝を地へと着く。
ガクガクと全身に力が入らない。
訳が分からなかった。
自分が今、目の前の男に何をされているのか、全く理解出来ない。
『人を殺したくはない』
『大事な人達に仇なす者を、排除しなければならない』
矛盾した2つの願いは、真の姿を現した大剣によって、1つの答えを導き出した。
「終告げる紅薔薇、この大剣は、王の意思を振るう。故に、俺はお前から『体力』そして、貯蔵された『魔力』を吸収した」
「しかし『斬った』という事実は本物だ。貴様は確かに見たはずだ。自身の死を。………今ので丁度『半分』だ………殺しはしない」
目の前に立つ吸血鬼の王は、人間『紅月千夜』としての優しさと、吸血鬼『ヴァスターリア』としての、氷の様な冷酷さを兼ね備えていた。
「夜を纏う、相手を傷付けずに無力化する……?…私は知らない。貴方は意識こそ別世界へ飛ばせど、その身体はずっと封印されていた筈…………まさか、貴方は…!」
話している最中に、ソルシエラは気が付いた。
千年前、この大陸には魔力が存在した筈だ。
しかし、ある時を境に、デュラハルド大陸は魔力が極端に薄い、地域よっては全く存在しない、不毛の地となってしまった。
「……ヴァスターリアは封印されたと同時に、1000年間、この大陸のほぼ全ての魔力を自身の身体へと吸収し、身体の治癒、強化、自身を封印した棺の弱化に使った」
その証拠に、王としての覚悟を持ち、ヴァスターリアに認められたセンヤが『真血解放』をした時点で、このデュラハルド大陸には、地脈から豊潤な魔力が蘇り、再び魔法が使えるまでになっていた。
ソルシエラは悔しさと喜ばしさを混じらせたような表情を浮かべる。
昼に出会った頃とは違い、彼に残された感情の残滓は今、大きく昂っていた。
そんなソルシエラの脳裏には、彼と戦った僅か10日間、しかし、人生において最も高揚した10日間の記憶が蘇り始めていた。
────────────────────────
辺りには、既に力尽きた人間、そして吸血鬼の死体が至る所に転がっていた。
流れ出た血液は既に乾燥し、赤黒く変色し固まっていたが、濃厚な血の臭いは未だに消える事は無かった。
ギィンッ!!!
ギリ………ギリ………ギリ……!!
紅い大剣と、蒼い長剣。
2つの剣が交差する。
「クク、ソルシエラよ!!感じるか!身体の内を巡る血液の熱さを!!滾りを!!!」
「ハハ…!何を言い出すかと思えば…!つくづく分からない男ですね…!ヴァスターリア!!」
ギンッ!ガッ!ギィンッ!!ギィンッ!!ギンッ!
「……!」
「…ッ!」
お互いの頬に血が滲む。
ヴァスターリアとソルシエラは、お互いの命を掛け、壮絶な戦いを繰り広げた。
力は五分、お互いに全身に無事な場所など無かったが、辛うじて致命傷は逃れている。
最初はお互いの願い、想いを、そして仲間を、同族を殺された怒りのままに戦っていたが、5日目の朝を迎えた頃、2人の間には奇妙なモノが芽生え始めていた。
絶対的強者である2人は、これまでに自身の全力をぶつける事の出来る相手など存在しなかった。
しかし、目の前に立つこの人間、吸血鬼の王は、ここまで戦っても一向に決着が着く気配は無く、お互いの体力を同じ様に消費していった。
ギィンッ!!ギンッ!ギンッ!ガァンッ!!
「ハハハ!!!やるな!ソルシエラよ!!」
「……貴方もしぶとい男だ…!」
お互いのしぶとさに笑みすら出てきた。
願わくば、この戦いが、ずっと続く事を…………
しかし、運命の朝が訪れる。
「……ハァッ…!……ハァッ…!」
やはり勇者といえど人間、ソルシエラは吸血鬼のヴァスターリアの体力には一歩及ばなかった。
ソルシエラの足元は既にフラついていた。
「クオォォッ!!」
ヴァスターリアが終告げる紅薔薇を振りかぶる。
すると、その瞬間、終知らぬ蒼薔薇の装飾である宝玉が朝焼けの光を吸収し、ヴァスターリア向けて激しい光を放った。
これにはヴァスターリアも予想が出来ず、思わず目を背けてしまった。
「グッ………!?」
「……貰ったッ!!」
ザンッ…………!!!
「グッ…………オオオオオオ!!!!!」
ソルシエラはヴァスターリアの胸に、深々と終知らぬ青薔薇を突き立てる。
「『白魔法』封印の絶章『拒絶せし幽世の霊柩』…!!」
すると、地中から白銀の鎖が現れ、ヴァスターリアの両腕を拘束した。
両手にも鎖が突き刺さり、手を無理やり開かされたヴァスターリアは終告げる紅薔薇を地へと落としてしまった。
「クククク……ハハハハハハハ!!!!」
白銀の鎖が、腕から今度はヴァスターリアの身体に絡み付いていく。
ソルシエラは終知らぬ青薔薇を、ヴァスターリアの胸から引き抜く。
引き抜かれた傷口からは、大量の血液が流れ出していたが、ヴァスターリアはそれすら気にしていない様だった。
「ハァ……ハァ………貴方、なんで笑っていられるんですか…?この先、貴方はもう永久に外に出られるかすら、分からないんですよ?」
やはりこの男は分からない。
何故、この絶望的な状況で、高笑いが出来るのだろうか。
「クク……そうか、『生涯最後の戦い』が『最高の戦い』となる訳だ…!ハハハハハ!!」
地面には高速で神代文字が描かれ始め、そこから円柱上に聖なる焔が2人を取り囲み始めた。
ソルシエラは終告げる紅薔薇を拾うと、ヴァスターリアの正面に、剣を地へと突き立てた。
「……何のつもりだ?」
「………この先、絶対にありえないでしょうけど、もし貴方が蘇った時に剣も何も持っていなかったら、私は丸腰の相手を殺さなくてはいけなくなる。……それは地獄に持っていけ、ヴァスターリア」
ヴァスターリアは目を丸くしたが、直後に、更に大笑いを始めた。
「ククク、ハハハハハハハ!!!!『最期の最高の戦い』で、我は『最高の宿敵』を得たか!!ハハハハハハハ!!!!」
焔が吹き上がる勢いが増し、地面の神代文字が高速で回転を始めた。
ここまで来れば、もう終わりだ。
彼に逃れる術はない。
「礼を言うぞ、ソルシエラ」
ヴァスターリアは笑いながらそう言い残すと、中心へと向かってきた炎の柱に囲まれ、拒絶せし幽世の霊柩に、終告げる紅薔薇ごと、封印された。
「…フッ………本当に、分からない男だ……最初にして、最後の………友よ」
…ドサッ……
ソルシエラはヴァスターリアが完全に封印されたのを見届けると、その場に力無く倒れた。
そこへ、新たにリズアニア大陸から派遣されて来た聖騎士軍達が現れた。
「棺はどうする…!」
「何かの災いがあるやもしれん!吸血鬼の城にでも置いておけ!まずはソルシエラ様からだ!!」
ヴァスターリアの棺は吸血鬼の城に無造作に置かれ、数ヶ月の間、その場に放置される事となった。
しかし、それが聖騎士軍の冒した最大の過ちでもあった。
倒された城守達が、意識のみで力を振り絞り、城に対象をソルシエラのみとした強力な結界を張ったのだ。
そしてその1週間後、デュラハルド大陸からは、魔力の殆どが消え失せる事になる。
──────────────────────
(まだ私が『感情』を捨て去る前の姿………そう、だから私はヴァスターリアを殺し切る事が出来なかった、中身こそ違えど、今度こそ奴を殺す…!!)
「ハァァァッ!!」
ギィンッ!!ガンッ!ガンッ!ガッ!ギィンッ!
千年前の記憶に奮い立たされた、という訳では無いが、ソルシエラは立ち上がり、センヤへと終知らぬ蒼薔薇による猛攻を仕掛けてきた。
「…半分削られてまだ動けるか、ソルシエラ!!」
「うーーっ!!ファイアー!!!」
そこへ、空気を読まない能天気な掛け声と共に、大きな炎の拳が飛来した。
「邪魔をするなッ!」
ソルシエラはそれを切り払い、新手を警戒し、その場からステップで後退する。
センヤの後ろには、3人の少女が現れた。
右から、紫色のショートで片目が隠れた常に半目の気だるげな少女。
緑色のツインドリルで、常に目が泳いでいる挙動不審な女性。
オレンジ色の髪を後頭部で結び、余り深く物事を考えなさそうな少女。
勿論、炎の拳を飛ばした本人である。
「『雨護の轟咆』ガーゴイル、レイズヴェル。ここに。あー、あー…少し声出し良いっすか?」
「『宝護の鉤爪』グリフォン、ウェンゲージ。ここに。お、お叱りは後程でお願いします…」
「『火護の炎熱』イフリータ、ブーケ。ここに。王様久しぶり!やー…千年って長いねぇ…しみじみだね。しみじみ」
「…3人とも、よく戻った」
ヴァスターリアから引き継いだ記憶の中に、城を護り、王をサポートする『紅月の城護』と呼ばれる者達が存在するというものがあった。
彼女たちは元々『魔』の存在であり、様々なきっかけで各々『城護』となったのである。
センヤ自身、彼女たちとは初対面だが、ヴァスターリアの記憶を読み取ったセンヤは、不思議な懐かしさを感じていた。
「今はアッシャーが、城内に隠れてた人達を最上階の広間へと避難させてるっす。相変わらず真面目っすよ」
「他の方々は……その、お城がボロボロなので、力が足りず……私たちがこの場で最適と判断されたので、優先的に復活できたみたいです……す、すいません、私じゃ力不足ですよね……」
「センヤ様!勇者ぶっとばすよ!!千年前の恨み!!!」
「…よし、では3人共、力を貸してくれ」
「おーせのとーりに」
「お、仰せの通りに…」
「よっしゃー!!」
三者三様の反応だが、彼女達はセンヤの為に全身全霊を尽くすだろう。
そうやって、彼女たちは歴代の王たちを支えてきた。
4対1、数ではソルシエラは、圧倒的に不利であった。
おまけに終告げる紅薔薇で体力、魔力が半分に削られおり、あと一太刀でも喰らえば、センヤは殺しはしないが、もはやその場から動けるかどうかすら怪しい。
そして、昼に出会った時の「あまり時間が無い」という言葉。
ソルシエラは何か、時間的な制限に縛られている可能性がある。
「ハァ……ハァ……流石に、分が悪いですね……」
フッ……
(……?……なんだ?今のは……?)
一瞬、ソルシエラの姿が半分、狼のような姿に見えた。
人狼と言えるほど、立派なものでは無い、無理やり狼のパーツを融合させたような、醜い生き物の姿。
しかしすぐにソルシエラは元の姿に戻っており、センヤは見間違いだろう、とその場は流す事にした。
息を荒らげるソルシエラは、額の蒼い宝石に手をかざす。
何かかしらのスキルを使用するつもりだ。
多勢に無勢の状況で、回復系のスキルを使ってもジリ貧なのは変わらない。
……恐らく戦場を離脱する気だ。
殺すつもりは無い、だがセンヤは『半分』も体力、魔力を残した状態で帰すつもりも無かった。
奴はサナを殺そうとしたのだ。
その報いは受けてもらう。
「レイズヴェル、ウェンゲージ、ブーケ。……逃がすな」
「うーっす。『轟咆頭蓋鳴らし』…行くぜ…?」
レイズヴェルは先端に悪魔を模した、ガーゴイル型のマイクが付いた棍を呼び出し、思い切り息を吸う。
「……逃げるんじゃァ……ねェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」
元々がガーゴイルであるレイズヴェルは、声での攻撃を得意とする。
遮蔽物がある場合は無効だが、声が届く範囲を直線上、今回はソルシエラのみに向けて、聞かせる事も出来る。
今、ソルシエラの頭には、レイズヴェルのシャウトが超大音量で響き渡っているだろう。
「…くっ……集中が……!」
青く光かけていた宝石が輝きを失う。
やはりスキルを使用するにも、ある程度の集中が必要な様で、ソルシエラの目論見は外れてしまった。
「後は任せたっすうっすうっす」
レイズヴェルはブーケにハイタッチをし、ダルそうに元の位置へと戻った。
「んじゃ次は私の番!『炎の闘技場』!燃えろ燃えろー!」
ブーケが4つ、炎の円柱を発生させ、勇者の四方を取り囲む。
円柱同士は隣合う円柱と融合し、かなりの厚さを持つ炎の障壁となった。
「ウェンゲージパース!」
今度はブーケが飛び跳ね、ウェンゲージの頭で跳び箱をする。
押し出されたウェンゲージは少しよろめきながらも、なんとかバランスを保つ事ができた。
「わわっ!ブーケちゃん、頑張るね!二重螺旋風檻」
風渦巻く檻が『炎の闘技場』を取り囲む。
更にその上に、1つ目の檻とは重ならない形で、もう1つ風の檻が出来上がる。
二重の風の檻が、炎の壁に風を供給し続ける為、炎の壁を打ち破ることは困難であった。
「終わりだ、ソルシエラ。皆の者よ、王の帰還を、そして、新しい王の誕生を祝福せよ……!」
ヴァスターリアの記憶から、最適な魔法を選び、それにセンヤが少しアレンジを加えた魔法。
終告げる紅薔薇を地面へと突き立て、右拳を空へと突き上げる。
その拳には紅い魔力が絡みつき始めており、周囲に溢れ出た力の奔流が大気を震わせる。
…世界には善き者が使う『白魔法』と、悪しき者が使う『黒魔法』の2種類がある。
2種類とも詠唱が少し異なるのみで、各属性を満遍なく使う事が出来る。
しかし2種類の魔法の他に、もう1種魔法があった。
『紅魔法』である。
『白魔法』は使用者が世界的に善き者であると、威力が上がる。
『黒魔法』はその逆である。
2種類とも体内にストックした魔力を魔法→各属性へと変換し放つ。
しかし『紅魔法』は、吸血鬼の一族のみが扱う事が出来、魔力の他に、自身の血液を追加で消費する事によって魔法の威力を上げることが出来る。
漠然とした世界的な自身の立ち位置によって威力変動する『白、黒』と違い、『紅魔法』は自身の血液という生命に直結するリソースを消費する為、『白、黒』とは比べ物にならない程の威力強化を施す事が出来る。
「死を糧に咲き誇れ『紅魔法』破滅の終章『血染めの華園』…ッ!!」
ドォンッ!!!
ゴ……ゴゴ……ゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ザンッ…!!ザンッ!ザザザザ………ザンッ!!
魔力を限界まで集めた拳を、地面へと打ち付ける。
すると、紅色の鋭い結晶が次々と音を立て、地割れを引き起こしながら発生し始めた。
その紅き結晶は終告げる紅薔薇の刃と同じものであり、触れた者、貫かれた者は全て体力、魔力を吸収される。
…………………ザンッッッッッ!!!!
そして一番最後に炎の闘技場を、一番大きな結晶が貫き、その先端は大きな月にすら届くのではないか、という程巨大であった。
ピシッ…………キンッ……!
サァァ………………
月光に照らされキラキラと反射する結晶。
少ししてそれはヒビが発生し、間もなく細やかな欠片となって、キラキラと夜の空へと消えた。
「3人共、ありがとう。ウェンゲージ、ブーケ、炎と風を解除してくれ」
「分かりました」
「りょうかーい!」
センヤの指示を受け、2人はそれぞれ炎と風を解除する。
消えた炎の闘技場の中には、満身創痍のソルシエラが荒い息を立て、膝を着いていた。
「ハァ……………ハァ………殺さないのですか……?」
「殺しはしない。……だが、また俺の家族を狙うと言うのなら……その時は、殺す」
一瞬、センヤはヴァスターリアを思わせる程の、絶対零度の顔付きになるが、すぐに元のセンヤへと戻った。
「ハハハ……やはり、貴方はヴァスターリアと似て非なる存在だ……その甘さ、後悔しますよ……新たなるデュラハルド……千年の夜を纏い、統べる者、アカツキ・センヤ。………名前は覚えましたよ……」
ソルシエラはそう言うと、懐から緑色の結晶を取り出した。
それを地面へと落とし砕くと、砕かれた破片がキラキラとソルシエラの周囲を周り始め、やがて発光したかと思いきや、ソルシエラの姿は既にそこには無かった。
「転移緑晶っすね。ここまで使わなかったって事は千年前とはあんまり価値変わってなさそっすねー」
レイズヴェルが「ほーん」というような感じで呟く。
「……ありがとう、ヴァスターリア。俺の道行をどうか、見守ってい、て………く………れ………」
ドサッ…
センヤはそのまま気を失い、倒れてしまった。
真血開放状態が解除され、終告げる紅薔薇こそそのままだが、髪は長さ、色と共に、元に戻っていった。
「ああぁぁっ!!センヤ様がっ!?」
ウェンゲージがアワアワと慌てるが、レイズヴェルは至って冷静であった。
「…千年ぶりの真血開放っすからねぇ……心と身体の負担が凄かったんすよ。ブーケ、足の方頼むっす」
「あいさー」
2人に腕と足を持ち上げられ、仕える王にその扱いはどうなんだというレベルで、雑に城へと運ばれていくセンヤ。
ここ数日間、気をずっと張っていた為、今回の真血解放で全ての疲労がのしかかってきたのであろう。
自身の夢の為、そして、身体を託してくれたヴァスターリアに応える為、紅月千夜はセンヤ・アカツキ・デュラハルドとして、吸血鬼の王となりこの世界を生きて行く事になった。
サナとの出会いが、やがてこの世界の根幹、仕組み、そして命運を変える事になるのを、センヤは未だ知らない。




