第16話 城の乱れは心の乱れ
年末は大掃除の時期です。部屋の乱れは心の乱れと言いますが、坊さんも走る師走。暇が無いのです。
朝…
昨夜、センヤは眠れず、気を紛らわす為に小さなランタン片手に羽を広げ、静かに飛びながら城の中を探索していた。
正直暗闇は怖かったが、残っていた燭台にロウソクを立て、火を灯していくのはなんだか未踏の地を開拓していくゲームのようでワクワクした。
恐らくだが侵入者と出くわしたとして、羽を広げて廊下を徘徊するセンヤの方が恐怖の対象であろう。
残骸の形跡で、大まかだが各階の役割が分かった気がした。
それを紙に纏め、どこから手を付けるかを決める。
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1階…吹抜け中サイズ広間、倉庫
状況:悪
優先度:低
2階…使用人の部屋
状況:悪
優先度:低
3階…台所、洗濯、風呂等の水場
状況:中
優先度:高
4階…ホール
状況:中
優先度:低
5階…教会、書庫、宝物庫
状況:悪
優先度:低
6階…王の間、王の私室
状況:中(やや補修済み)
優先度:高
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恐らくこんな所だろう。
各階は元々の部屋としての機能を殆ど失っていた。
人手が欲しいところだったが、外部の人間たちをこの城に多数招くのは、少々気が引ける。
「姉ちゃん手もう治ったの!?」
「後遺症も残らないって!」
「皆心配掛けてごめんね。これでまた服が縫えるよ」
吸血鬼となったキリナの手は完治し、朝には包帯が外せるようになっていた。
子供たちが不思議がっていたが、説明をすると子供たちも吸血鬼になりたがる可能性があった為、あまり怪我が酷くなかった、とだけ伝えた。
サナと同じく、キリナの目は綺麗な紅色に変わっていた。
「皆おはよう。しっかり眠れたか?」
「センヤ様おはようございます!サナはバッチリです!景色はとても素晴らしいですけど…うぅ〜…少し冷えますね」
「あぁ…この寒さは堪えるな…」
継ぎ接ぎのカーテンを開けると、割れた窓から朝日が差し込んできた。
やはり山の上は吹き込んでくる風が肌寒い。
ここは城の最上階ともあり、城の敷地内、そしてその下に広がる森を見下ろす事が出来る。
城を囲む森の下は巨大な峡谷となっており、この城に入るにはラグディスの街、もしくは空からでなければ侵入は不可能であろう。
峡谷の先は深い山々が連なっており、その辺りは余り開拓もされておらず、様々な動物や魔物が潜んでいるとか。
この城のある場所は周囲の山々と比較しても高く、青空がとても綺麗に見えた。
「全員揃ったな?それではいただきます」
「「「「いただきます!」」」」
皆でテーブルを囲み、朝食を食べる。
イチゴ味のジャムを贅沢にたっぷりと塗ったパンだ。
探索中、底が塞がった円柱状の廃材があったので、持ってきたのだった。
中にロウソクを何本かくべて火を起こし、上に鍋を置いた。
暫くしてグツグツと言い出した為、鍋の蓋を開ける。
中身はアツアツの甘いコーンスープ。
肌寒い身体にはよく沁みる。
サナが全員のお椀に取り分け、皆で一口。
コーンスープの温かさに、全員がほっと一息をついた。
(平和だ……)
昨日とは打って変わり、ゆったりとした時間が流れていた。
少しして皆が食べ終わったのを確認し、センヤは今日の予定を話し始めた。
「今日は…そうだな。キリナさんと皆は退屈だと思うが、広間でゆっくりしていてくれ。もし何かリクエストがあれば本や遊び道具を買ってこよう」
「あ、じゃあ暫くしてなかったから今日は勉強の日にしよっかな」
「うそー!?」
「やだー!!」
キリナが勉強を提案した途端に、子供たちからは悲痛な声とブーイングが上がる。
センヤもうんうんと頷く。分かるぞ……勉強嫌だよな…
「サナは俺の助手を頼みたい。まずは3階の水場を直したいんだ。キッチンや風呂場があるからな」
「分かりました!」
「…昨日はランタンだけだったからよく見えなかったな……」
改めて城の3階へとやって来たが、まぁ酷い。
フロア全体に瓦礫や、風で入り込んだであろう落ち葉などが大量に蓄積していた。
各部屋も荒らされており、まずは掃除から始めなければならない状態であるのは誰の目に見ても明らかであった。
「よし、サナ。まずは掃除からだ」
「はいっ!」
センヤが買ってきた動きやすく汚れてもいい服に着替え、2人は頭にしっかりタオルを巻く。
2人とも掃除は好きな方だったので、俄然やる気だ。
………
……
…
「…そろそろ腹も空いてきたな」
「ですねぇ…」くるるー…
サナのお腹から可愛らしい音が聞こえてくる。
腹のすき具合で考えるにそろそろ13時半頃だろうか。
作業に夢中ですっかり昼食を忘れていた。
食べる物が無い為、小休止も兼ねて皆で買い物に行く事にした。
「皆、遅くなってすまない。街に昼食を買いに行こう」
「やったー!」
「もう頭使いすぎてお腹ペコペコ……」
昨日と同じくキリナ、子供たち、サナの順で再び空の旅を楽しんでもらい、敷地内へと着地する。
皆と何を食べようかと、話をしつつ門だったものへと向かう途中だった。
が、その門の向こう側から、何者かが悠々とこちらに向かって来るのが見えた。
「皆、止まってくれ……バリケードに積んでいた材木が門から吹き飛ばされている…あの大きさ、量の物は複数人ならまだしも、1人でどかすのは普通の人間じゃ無理だ」
センヤは警戒し皆を立ち止まらせ、その人物がこちらへ来るのを待つ。
右手はいつでも抜刀できる様、既に剣の柄を握り締めている。
その人物はセンヤ達の数メートル手前で立ち止まった。
ギリギリ剣先が届かない距離。
踏み込みで届くが、相手に防御の時間を与えてしまうだろう。
間違いなく間合いを読んでいる。
「やぁ、皆さん。お揃いでお出掛けですか?こちらは少し時間がズレているみたいで…軽く時差ボケですよ」
身長は170程度。
金、銀で茨のような装飾があしらわれた青の鎧を身に纏い、背中には白銀の鞘。
白、銀、金のグラデーションがかった長髪を風に靡かせ、整った顔は何も感じさせない微笑みを浮かべていた。
一方、センヤは対照的に、紅を基調に金の装飾をあしらう貴族服を身に纏い、その上からは黒いコートを羽織っている。
腰からは細身の剣を下げ、頭髪はやや長め黒髪。
その表情は明らかに前方の人物を警戒していた。
目の前の者が放つ雰囲気は、明らかに常人のソレとは異なり過ぎている。
センヤはその人物と面識は無いが、確信をした。
この身体が覚えている。
「…お前が勇者だな」
千年の時を超えた邂逅。
古びた歴史が、再び動き出そうとしていた。




