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第15話 アットホームなお城です(築千年越え)

タイヤ交換しましたが雪が降りません。

降ってほしい訳ではないのですが…




「今はあまり街の人々と顔を会わせたくない」というキリナの要望で、センヤ達は街の裏通りを歩いて城へと戻った。




街を抜け、聖騎士軍が建てた鉄格子の様な門を通る。

森の中の階段でも、子供たちは文句の一言も言わずに登ってくれた。




そして大きな門の残骸を抜け、一行は城の敷地内へと足を踏み入れた。




「でっ……でかーー!!」




「うそー!!??」




子供たちが驚くのも無理は無いだろう。

ボロボロだがホントにホントにホントにホントに城なのだ。




「お兄ちゃん!行っていーい?」




子供たちがキラキラとした目でセンヤを見つめる。

うん、純粋な目だ。子供はこうでなくては。




「どうぞ…と言いたい所だが、この城は見ての通りボロボロだ。なので大変危ない。そして難儀な事に俺とサナが住んでいるのは最上階だ。という訳で」




ブァサッ




「全員、俺と空の旅を楽しんでもらう」





「あっ!コウモリの羽!」




コートはキリナの店に置いて来た為、翼が丸出しだったのである。

なのでキリナが裏通りを通る、と言った時は少し安心した。




聞く所によると、魔力を流し込み、空を飛ぶ事の出来る道具があるらしいが、この辺りは魔力濃度が皆無の為に、誰も使う者は居ないという。




なのでセンヤは傍から見れば『使えない道具をファッションの為に身に付けている少しアレな貴族』の様に見えてもおかしくは無い。

恐らく先程の聖騎士軍達にもそのような変人として見られただろう。

まぁその方が本物の吸血鬼として、人々を驚かせる事も無くて良いのだろうが。







「い、良いのセンヤさん…?アタシ重くない…?」




(さっきは気が動転してたけど……普通に持ってもらったよね…アタシ)




「違う、逆だ。キリナさんはもっと食べるべきだ。軽すぎる」




「あ、あはは……」




キリナは嬉しいけどあまり嬉しくないような、微妙な表情だった。

センヤは興奮した子供たちが広間の外に出ない様、一番最初に子供たちを纏めるキリナを連れて行く判断をした。




ゆっくりと飛び上がり、上昇する。

上からは城の様々な部分が見えるが、本当にボロボロだ。

いや、少なくとも築千年以上でこの位なのはまだいい方なのか?

そして広間の壁に空いた大穴、それを隠す為の布をずらし、そこから中へと入る。




「中も広いね…」




「広さだけが取り柄なんだ」




その後、大興奮の子供たちを3人ずつ広間へと運び、最後にサナを運んだ。




「や、やっぱり陽が昇っていると下がクッキリですねぇ……」




「すまない…早く階段を補修したいんだが…目をつぶっていてくれ」




全員を運び上げ、センヤは一段落ついた。

が、しかし荒城の王は忙しなく動く。




「さて、戻っては来たが、寝具が圧倒的に足りないな…少し出張ってくる。ついでに軽く食べ物も買ってこよう。服も欲しいな、特に寝間着だ」




破れた服を着替え、予備のコートを羽織る。

そしてセンヤは出掛ける前に、キリナに耳打ちをした。




「キリナさん、俺がこんな事を言うのはおかしいとは承知の上だ……だが、俺がキリナさんを噛んで、吸血鬼化すれば、手の後遺症が、残らなくなるかもしれない」




「得られる物は長寿、身体能力の向上……失う物は人間としての自分。そして、愛する者達が人である限り、幾つもの別れを経験するだろう」




キリナヘと吸血鬼になるメリットデメリットを伝える。

センヤは生前から知っていた訳では無い。

この身体で目覚めた時から、既に知識としてそれを知っていた。

きっとこの身体の元の持ち主、『内なるモノ』の知識だろう。




「…少し、考えさせて欲しいかな」




「勿論待つ。いつでも良い、聞かせてくれ」




人を辞める事は抵抗があるだろう。

サナの場合は主人と決別させる為に、目の前で吸血をした。




後々謝ったが「センヤ様の物ですよサナは!それに同じ吸血鬼って何だか本当の家族になったみたいで嬉しいです!ふへぇ……」と、ニコニコしていた。







再び街へ来たセンヤは、宝石をもう1つカンテー爺さんの所へ持って行き、150万メロで換金してもらった。

軍長殺しの件で、残念な美人支部長に罰金を納めたからであった。




何でもこの男性は元々別の大陸に住んでおり、王の元で様々な考古学を探求する王宮歴史学者だったらしい。

現役時代は仕事、生活で掛かるお金の全てを王宮が支払ってくれていた為に、給料を全く使わなかったという。

引退後は元々居た大陸に歴史的な道具の博物館を建設し、この大陸で、出張なんでも鑑定団を営んでいるようだった。




宝石を売ったお金で、一通り物を揃えたセンヤは、両手いっぱいに物を抱えながら城へと戻った。




「ただいま。今戻った」




「おかえりなさい!」




「兄ちゃんそれ…木?」




「フッ…まぁ見ていてくれ」




腕をまくり、そして布のタオルを頭に巻く。

トンテンカンと、大工吸血鬼のセンヤは廃材で大きな長いテーブルを急造し、広間の中心に置く。




ツヤも付けたいがそれはまた今度。

椅子も手早く作り上げ、人数分をあっという間に完成させる。

…なんだか王の間っぽい雰囲気がやっと出てきたのでは無いだろうか。




部屋の端には、これもまたセンヤが作ったベッドが沢山並んでいた。

吸血鬼のスタミナに感謝である。




「ふぅ………今日はもう夕飯にしようか」




長テーブルの上に買ってきた料理を並べる。

そこに燭台とロウソク、そして買ってきた不思議な香りのお香を並べた。




子供たちは街の端から山の上に登ってきたので、相当お腹が空いていたようだ。

出来合いのものだったが、各々あっという間に間食した。




今日は様々な事件が起こった為、子供たちは普段とは違った疲れ方をしていた。

自分たちがまだ中にいる家が燃やされ、親代わりのキリナを傷付けられた。

孤児だった子供たちは家や親を喪うショックが蘇ったが、それをすぐに押し流す程の怒涛の1日に、一種の興奮状態になっていた。




センヤはそれを悟った為、街の道具屋に相談し、心を落ち着かせ、ゆったりとした眠気を誘うシーラの葉を使ったお香を買い、それを食事中に炊いていたのだった。

サナと子供たちは食事が終わった後、すぐにベッドに入り、すやすやと寝息を立て始めた。




そして、城内で起きているのはセンヤとキリナの2人となった。

2人とも考え事をしているのか、薄暗い広間でセンヤは揺れるロウソクを、キリナは子供たちの寝顔を静かに見ていた。







「…センヤさん、答え。決まったよ」




キリナは意を決してセンヤに答えを出した。

揺らめくロウソクの炎が、決意をしたキリナの顔を照らしていた。




「…聞かせてくれ」




「アタシも……吸血鬼になる」




「…キリナさん、本当に良いんだな?」




「センヤさんの夢。アタシも手伝いたいんだ。あの子たちの他にも大変な子供たちは世界中にいる。世界中の綺麗な服すら着れない子たちに、しっかりとした服を着せてあげたいんだ。だから…」




キリナは服を肩にずらし、首元を露わにする。




「……いつでも、良いよ」




「ありがとう。キリナさん……少し痛いと思うが…我慢してくれ」







「んっ……」







キリナの首筋から血が流れる。

センヤはそれが服へ流れない様に、飲み込む。

生前は口の中を切った際に広がる血液の味は苦手であったが、今ではこの上なく好ましい。




治癒能力が働き始めるまで、センヤは流れる血を吸い続けた。

やがて、噛み跡から血が流れなくなるのを確認すると、センヤは口を離した。




「キリナさん…?」




キリナは余程疲れていたのか、気付けばそのまま、すぅすぅと寝息を立てて眠っていた。




センヤはキリナを起こさない様に、お姫様抱っこをしてベッドへと寝かせた。







(…俺もそろそろ寝るか。少し今日一日を整理したい)





今日はキリナや子供たちもそうだが、センヤ自身も様々な事があった。

グェネリロが言った、甘さと優しさ。




きっと、これを乗り越えなければ世界を変えるなんて事は出来ないだろう。

少し心を纏める時間が必要だった。

センヤも寝間着に着替え、ベッドの中へと入る。







(…)




(…)




(…)




(なんだか…眠れないな…)




目を瞑るが、グェネリロとの戦い、そして『内なるモノ』が瞼の裏に蘇る。




お香は短時間の使用だったので、身体が大きいセンヤには睡眠誘発効果は現れなかった。

見上げた高い天井はロウソクの光すら届かず、真っ暗な闇が広がっている。

センヤはまるで、それが自分の今の心と、同じ様に感じた。




(……少し出るか)




センヤは皆を起こさない様、そっと静かにランタンに火を灯してベッドを抜け出した。








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