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第10話 燃ゆる情景

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朝…




昨夜、センヤは風呂を上がった後、使い古された大きなソファと毛布をキリナに貸してもらいそこで眠った。

ソファからは足が大きくはみ出てしまったが、人様の家でとやかく言うべきではない。






「センヤ様!お湯って素晴らしいものですね〜!」




茶髪から湯気をほわほわ立てながらニコニコとサナが風呂場から出てきた。




「ん、サナも上がったか。じゃあ」




サナと子供たちは朝風呂に入り、サッパリとした顔でテーブルを囲むように置かれた椅子に腰掛け、各々お喋りをしていた。

サナもすっかり打ち解けている。いい傾向だ。

センヤは昨日の残り物を『氷石棚』なるものから出し、テーブルの上へと並べる。




『氷石棚』とは人間たちが主に住んでいる大陸の、山雪地帯から採れる鉱石を加工した棚らしい。

その名の通り、石ではあるが氷のように冷たく、足の早い食材も中に入れておけば暫くは持つ。つまり冷蔵庫のようなものである。






「今朝は昨日の残りですまないな」




「兄ちゃんの料理美味いからいいよ!毎日でも食える!」




「ハハ、嬉しい事を言ってくれるよ」




(……小さかった頃、俺と母さんも同じやり取りをしたな)




センヤは今でも、些細なきっかけで昔の事を思い出してしまう。父さんと母さんが生きていた頃の記憶。

これは虐待を受け、夜中に部屋の隅で泣いていた時、楽しかった思い出を思い出し、何とか心が壊れない様にしていた頃の名残だ。

しかしそれは両親が既にこの世には存在しないという絶望をも深く少年の心に刻み込んだ。






「センヤさん?」




料理を持ったキリナが不思議そうにセンヤを覗き込む。




「…あぁ、すまないキリナさん。少しボーッとしていた」




「あっ、もしかして子供たち多いから疲れた?」




「いや、少し考え事を」




「何か悩みがあるなら聞くよ。アタシの出来る範囲でなら力になるし」




「ハハ、ただでさえキリナさんは普段から頑張ってるんだ。俺の事は良いよ」




「センヤさんよりアタシの方が年上なんだから、頼ってもらって良いんだよ?」




キリナは自分の胸をドンと叩く。

その衝撃でキリナの胸がゆさりと揺れる。






「じゃあキリナさんに余裕が出来たらまたその時話すよ……ん?」




(視線…?)




どこからだろうか。何かこう、悲しみに満ち満ちた視線を感じる。




センヤが視線の方向を見ると、テーブルから先程まで子供たちと楽しく談笑していたサナが、なんとも言えない表情で自分の胸を両手で抑えながらこちらを見ていた。




(あっ、サナ……)




「ふー………ん?どうしたの?センヤさん」




肩が凝るのかキリナは肘を曲げて片腕を回し始めた。

回る度に肘の部分が胸を押しのけてゆっさゆっさと揺れる。

キリナの無自覚な攻撃がサナの心に連続で大ダメージを与えていく。タイミングが悪すぎる。




「…あー…少し栄養のある料理をだな、うん、今度作ってみようと思ったんだ」




「じゃあ今度センヤさんが知らなさそうな料理を教えるよ。アタシの母さんが作ってたオリジナルメニュー」




「っ!是非とも教えてくれ!」




待っていろサナ…キリナさん家に伝わる料理を教わって必ず君にそれを食べさせる。きっと発育の秘密がある筈だ…!








センヤはキリナ、サナ、そして子供たちと食卓を囲んで朝食を済ませた。

食事中、サナがキリナの胸を何回も不安そうな顔でチラ見していたのを見てセンヤはとてもいたたまれない気持ちになった。








「じゃ、アタシはそろそろお店の方に行くよ。センヤさんとサナちゃんは?」




皿を片付け、キリナはストックの服を何着か持ち支度をする。センヤとサナの2人も後に続き玄関で黒いコートを羽織った。




「それなんだがな。キリナさん、昨日のプレゼントとは別にサナの普段着を買いたいんだ。一緒に行っても構わないか?」




「勿論!2人なら大歓迎だよ。食事のお礼もあるし何着かなら好きに持って行って!」




「いや、そういう訳にはいかない。しっかり代金は払わせてもらう」




「じゃあ半額!あの子たちがあんなに夢中でご飯食べてるの久しぶりだったからさ、お礼はするって決めてたんだ」







「よしっ、じゃあ姉ちゃん仕事行ってくるから良い子にしてなよ!誰が来てもドアは開けちゃ駄目!」




キリナは玄関まで見送りに来た子供たちを皆抱きしめる。これがいつもの流れらしい。




「うん!行ってらっしゃい!兄ちゃんもサナちゃんもまた来てね!」




「兄ちゃんの料理美味かった!サナちゃんはまた色んな歌教えてね!」




「今度はまた別の料理を作ろう。是非とも楽しみにしていてくれ」




「ふふ、私も是非とも喜んで!私はまだまだ色んな歌を知ってますよ!」




手を振る子供たちに見送られながら3人は家を後にした。




キリナの家は少し離れた所にあるので、街までは少し距離があった。昇ったばかりの太陽はまだ姿こそ見えないが、街を後ろから照らしており、確かにその存在を主張していた。3人は草が生い茂った中に作られた小さな一本道を歩いていく。







「サナ、歌が得意なんだって?」




「皆喜んでたよ!勉強なら教えられるんだけどアタシ歌はてんで駄目でさ…」




「色んな家を点々としている時に聞こえてきた歌を覚えたんです!なので歌の名前は分からないんですけどね…」




「街に着くまで何か1曲お願いできるか?」




「な、なんだかセンヤ様の前だと緊張しますね…こ、こほん」




サナは少し恥ずかしそうにしながら小さく咳払いをする。

センヤとキリナは歌を聴くために話を止め、静かに聴く準備をした。

辺りは風に草がなびく音と、どこかで鳴く数匹の鳥のさえずりが響くのみだった。







世界から もし私が消えたとしても




貴方だけは私の事を覚えていてね




月の綺麗な夜は 貴方の元へ




そっと寄り添いに来るわ




貴方と私は 寂しがり屋だから




毎日 泣いているでしょう




貴方と私が 愛を確かめ合う時は




ずっと 来る事は無いのでしょう




貴方が孤独な夜は 貴方の傍へ




きっと寄り添いに来るわ




世界から もし私が消えたとしても




貴方だけは私の事を覚えていてね












静かな草原にサナの伸び伸びとした声が広がる。

今は亡き女性がまだ生きている想い人への気持ちを語る歌詞をサナは歌い上げる。

センヤとキリナはその歌声に聴き入ってしまう。







「ど、どうでしたか…?」




「…綺麗だ」




「…うん!サナちゃん歌だけでご飯食べていけるよ!」




「え、えへ…」




「城の補修が終わったら是非とも大きなホールでもう一度聴かせてほしい」




「センヤ様が喜んでくれるなら!」




サナは2人の前で歌い自信が付いたのか、喜んで快諾してくれた。





少ししてラグディスの中心部…から少し離れたキリナの服屋へと到着した。

料理などを提供する店は仕込みの為、朝から煙突の煙をもくもくと立ち上げていた。

反対に武器屋や道具屋などの店は余裕があるらしく、まだ1階の店頭部分には人の気配は無かった。




「さ、こっちこっち」




キリナは2人を連れて店の裏口の鍵を開け、店内へと入る。裏は裁縫道具や糸、ボタンなどのストック、そして店頭へまだ並んでいない商品の服などが所狭しと並んでいた。




「狭くてごめんね。ここはお客さんから預けられたほつれた服とかを直すとこなんだ」




キリナは年季の入った木製の作業台を撫でながらしんみりと昔の事を語る。




「小さい頃はこの作業台で服を仕立てる母さんをよく見てたんだ。父さんは接客担当でね。高い服が売れると裏口まで走ってきて母さんとアタシに報告してくれたんだよね」




「…ま、それも昔の話。どーれ、アタシも準備するかな」




「キリナさん、俺とサナが何か手伝える事は?」




「良いよ良いよこれくらい。そこの椅子に座ってて」




「キリナさん!センヤ様は力持ちですから大丈夫ですよ!サナも一応吸血鬼なので多分力持ちになってます!」




サナが鼻息をふんすとマッスルポーズをとる。




「センヤ様も!」




「お、俺もか…こうか…?」




サナに言われてセンヤもキリナに向けてマッスルポーズをとる。

急にマッスルポーズを取り出す2人にキリナは吹き出してしまった。




「あっはははは!!じゃ、じゃあお言葉に甘えて店の外に台と服を並べるのを頼もうかな!」





キリナが涙を拭きながら2人に頼んだ。

そんなに面白いかと思い、サナとタイミングを合わせて不意打ちで、もう一度振り向きざまにキリナに向かってマッスルポーズをとった。





…キリナは暫くの間床へと倒れ込み準備どころではなかった。

後日「朝早くにキリナちゃんのお店から笑い声のような奇声が聞こえた」と周囲の商人たちは首を傾げていた。





街の向こう側にあった太陽は徐々に高く昇り始める。

店の外の路地には商品の補充の為に馬車に乗って村の外から来る商人や、他の店の店員同士で世間話を始める等、徐々に人が増えてきていた。





「さ、そろそろ店を開けよっかな」




「じゃあ俺たちもサナの服を見ようか」




「ゆっくりしてって!何か聞きたい事があったら遠慮なく聞いてよ!」




「お願いします!」




サナはキリナに90度の綺麗なお辞儀をした。やはり服選びは慣れていないんだろう。





午前中、店には服のボタン縫いつけを頼んでいた男性や、特注で服の制作を頼んでいた女性が服を引き取って行った。

途中、10時のおやつという事でセンヤは外でキリナとサナに露店でクリームやフルーツの乗ったパンと、お茶を買ってきた。




「いつまでも居て申し訳ないな。サナの服もある程度決まったしキリナさんにお昼を買ってきたらお暇させてもらうよ」




「や、お昼なんて良いよ!そこまで甘えらんないし!」




センヤは無自覚だったが、年上だろうが年下だろうが未成年にはとにかく甘やかしをしてしまう。

もしかしたら汚い大人嫌いの反動がこちらに来ているのかもしれない。





しかしその時だった。






「キリナちゃんッ!大変!!!」




ほのぼのとした店内の雰囲気が一変する。

普段はキリナが営む服屋の正面で、ちょっとした小物を売っているお姉さんが血相を変えて店内に飛び込んできた。







「貴方の家が火事だってお客さんが!!」








「…え?」





キリナは持っていた自身で手縫いした商品の服を店の床へと落とした。






「う……嘘…うそうそうそうそ……」





子供たちの事、父の遺した家の事、母から継いだ裁縫道具の事。

纏まらないキリナの思考は涙となって頬を伝う。

センヤは即座にコートを脱ぎ捨てた。







「キリナさんッ!捕まれ!サナは店じまいを頼んだ!」





「はい!センヤ様!どうか皆を助けて!!」





「任せろ!!誰1人死なせはしないッ…!」







センヤは茫然自失のキリナを抱き抱え、即座に羽を広げる、街にひしめく人々に羽を見られる事も厭わず、街からキリナの家へと全速力で飛んだ。









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