第93話 大国へと這い寄る黒影
〜前回までのあらすじ〜
デュラハルド大陸に新たなる国が出来ると言う話は、全世界へと光の速さで伝わっていた。
しかし、リズアニア大陸の大国、バンデッタはそれどころではなかった。
アンビシャスのカルマがデュラハルド大陸に乗り込む少し前に、2人の魔将と多くの魔人達がバンデッタへと侵攻を始めたのである。
国内に散らばる主要箇所を制圧し始めた魔族達に、聖騎士軍の精鋭部隊、聖羅十傑も黙ってはいなかった。
急襲により後手に回ってしまったが、なんとか戦況を五分五分に持ち込む事に成功した。
しかしそんな中、魔将の不意打ちにより、聖羅十傑の2人が重症を負ってしまった。
公にはされていない、半人半狼の姿となり転生者を喰らう『聖合』を行ったばかりのソルシエラの体調も安定せず、一部の地域では人員が不足していた。
物語は、魔族との戦いが始まってから、数週間経ったバンデッタの聖騎士軍本部・執務室から始まる。
〜バンデッタ、聖騎士軍本部・執務室〜
「ウッソだろ……」
聖騎士軍元帥、エトワール・スターダストの机の上には、最早机の表面すら見えない程におびただしい量の書類の山が築かれていた。
数分前、彼はやっとの事、書類を半分ほど片付けてようやくトイレに立つ事が出来た。聖騎士軍のトップが漏らす事などあってはならない。
しかし、今戻って来たら半分まで減らした筈の書類が、軽く3倍程には増えていた。意味が分からない。
「エトワール、どこに行っていた。最終確認者であるお前が承認しないと現場に物資が届かないだろう」
エトワールが書類の山に呆然としていると、執務室の扉を開け、更なる追加書類の山を手に持った、聖騎士軍元帥の仕事をサポートする秘書であり、エトワールとリリカの幼なじみであるメテオラ・ミーティアが現れた。
メテオラは机に積まれた書類の山の一角に、ドスンッ!と新たなる山を追加した。
頭突きをするんじゃないか、というレベルで、無言でメテオラへと詰め寄るエトワールだったが、彼は後ろへとステップで下がり眼鏡を指で持ち上げると、エトワールを一瞥しため息をついた。
「リリカを含めて十傑、そして皆が命掛けて戦ってんのに、元帥の俺が出て行かなくてどうする!!現に聖羅十傑の内、アルベーロとラフゥサの2人が重症だ!!」
「それは僕だって重々承知している。しかし資源や諸設備等、許可・承認を得なければ現場に物資が届かず、結果的に更に兵を殺す事になるぞ」
「だからそんなもん好きなだけ使え!承認なんか後回しで良い!時間の無駄だ!!お前だってラフゥサの事が心配で、重症を負わせた奴をぶっ倒したいだろ!!ん!!!???」
「……ッ!……事務の者達を忙殺させる気か?後々の調整やら何やらを全て被るのはお前だけじゃないぞ。それと、僕がラフゥサを気にしているのは飽くまでも仲間の1人としてだ。勿論アルベーロも心配しているさ。重症だが死にはしない。ならばそれ以上問題は無いだろう」
「オ゛ア゛ーーーーーーッッッ!!!!!!メテオラ君は素直じゃねぇなあーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
エトワールはメテオラの髪をぐしゃぐしゃと掻き乱すと、大きなため息をついて椅子に座り、書類に速攻で目を通し、承認、否認を次々と仕分けていく。
国は国民に敵対種族との戦闘状態を宣言しているが、国は国で民の生活が別のサイクルで回っている為に、兵士や戦闘に関係無い事の優先順位はあまり高くないが、それらの承認にもエトワールは関わっていた。
デュラハルド大陸に、アンビシャスのカルマ率いる機械兵軍団が乗り込む少し前、世界最大の規模を持つ国、バンデッタに2人の魔将が現れた。
だが、易々と魔将に国を明け渡す程、人間達も甘くはなかった。
バンデッタは超巨大な城塞都市であり、中央には世王の居城が存在する。
それを護り囲むように、聖騎士軍の本部とアラガ教の大聖堂が建てられ、世王への行く手を阻んでいた。
バンデッタと敵対しているアンビシャスも巨大な城塞都市なのだが、アンビシャスは攻めの造りに対し、バンデッタは堅牢な護りに特化した造りをしていた。
だからこそ、魔王が推薦した2人の魔将はとてもタチの悪い者達だった。
2人は幻魔族の魔人、ヒタムとユオダス。
ヒタムは力は落ちるものの、自身と誰かの1人の分身を大量に増やす事が可能であり、ユオダスは自分と、触れた事のある誰か1人を自在に転移させる事を可能とする能力の持ち主であった。
数多の分身と転移能力により、彼らの本体を見付けるのはほぼ不可能に近く、聖騎士軍は不利な戦いを強いられていた。
おまけに魔人筆頭や、彼らに率いられし魔人達、魔物もかなり現れており、彼らはさながらバンデッタを陥落させる勢いであった。
聖羅十傑の内『木聖』のアルベーロ・ジュピタランダと『天聖』ラフゥサ・ラヌスの2人が、先述の通り魔将の不意打ちを食らい、重症を負い現在は療養を強いられていた。
それぞれ兵を率いる十傑が負傷又は死亡した場合、彼らに付き従う『衛聖』と呼ばれる副官クラスの者が指揮を執る。
しかし十傑程のカリスマ性や、戦闘能力に関してはどうしても劣ってしまう為に、同盟国からの支援を求めたかったが、隣国の彼らにもその余裕は無く、彼らも頻繁に現れる魔物に苦戦しているようであった。
彼らは如何にして、グァンダレラ大陸からその姿を見付からずにリズアニア大陸のバンデッタへ現れたか。
……バンデッタの北、国境付近には、幾重にも防御魔法の掛けられた大きな壁が設けており、聖羅十傑には及ばずとも、聖騎士軍内でも副官クラスの屈指の実力者が配備されている。
何故、そのような事をしなければならないかと言うと、国境を跨いだ隣には『黒の森』と呼ばれる広大な森が広がっており、中には、通常の魔物とは一線を画す、強力な魔物達が潜んでいた。
中へと入った者で生きて帰ったのは、エトワールやソルシエラ、後述のノイギア等、世界屈指の実力者のみであった。
しかしその彼らですら、完全な無傷で帰る事は無く、中の全貌は完全には把握できておらず、依然、分からない事の方が多かった。
分かっている中で最も大事な情報は、森の真下には、闇の地脈が広がっており、そこから発生する魔力が一定の値貯まると、それを介して魔将が現れる、という事であった。
魔将にとっては『初まりのヒト』の血族である『世王』や、アラガ教の大司祭、リラなどの、この世界に生きる人間達への影響力や求心力の大きい立場の人間の首を獲る絶好のチャンスであった。
「やはり『ミュースティカ』のノイギアさんに支援を求めた方が良いんじゃないか?彼らの『魔導星団』なら大規模な範囲の殲滅力は上の筈だ」
「ノイギアさんと俺はプライベートで仲が良いだけだ。『ミュースティカ』は中立国で、あくまで不干渉の立場を取っている。下手な事して『アンビシャス』から睨まれるのはリラだからな。それを読んで、ノイギアさんはわざと話を持ち掛けて来ないんだろう」
「僕なら即支援を要請するがな。その辺、お前は優しいと言うか甘いと言うか……」
「俺も、ノイギアさんも、リラもそうだが組織の頭を張るってのは大変だからなぁ。その苦労を知らん訳じゃない。増してやリラはまだ14歳。父親のゴッデスさんの指名だとしても荷が重いだろう?」
話に出てきた男は世界一の魔法国家『ミュースティカ』を統べる王、『ノイギア・エピテュミア』。
その国は別名『変人大国』と呼ばれる通り、彼らの『魔法』に掛ける情熱は常軌を逸している。
位の高い者ほど大体頭がおかしいが、おかしいからこそ、貴族になりえたとも言える。
ノイギアの先祖は、かつてソルシエラと肩を並べる程の実力を持つ魔法使いだったのだが、当時の世王とはあまり相性が合わず、魔王討伐任務や、吸血鬼討伐等の命令を尽く無視し、ソルシエラと共闘したという記録は一切残されていなかった。
半分キレているエトワールが捌いた書類を、更なる速度で分類別に素早く分けていくメテオラ。
すると、廊下からドタドタと大きな足音が近づいて来ており、2人は手を止めて入口のドアへと視線を向けた。
バァンッ!!
「失礼します元帥ィッ!!東正門から街中へと魔物がッ!!」
「何だとッ!!?巡回や見張りの衛兵達はどうした!!」
「全員気を喪い、痙攣のような症状が!現在は待機中の兵士が緊急で対応していますが、避難指示まで人員が足らず国民がパニック状態に!」
「どういう事だ……?まぁいい、リラには勇者が付いている筈だ!エトワール!僕らも鎮圧に向かうぞ!!」
「しょ、書類は良いのか!?」
「馬鹿ッ!人命と書類どっちが大事だッ!」
「だよなぁッ!!っしゃあッ!ぶん殴ってやらァ!!」
エトワールとメテオラは一目散に執務室を飛び出し、事態の鎮圧へと乗り出した。
廊下の窓からは東の正門付近から幾つも黒煙が上がっているのが見え、戦闘が激化している事がすぐに理解出来た。
「何が起こっている……!?」
エトワールとメテオラは自身の感じている事を口には出さなかったが、互いに何か、今起こっている出来事に、モヤのかかったような言い知れぬ違和感を感じていた。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます<(_ _)>
新年早々、何故ハネルはキラークイーンのスタンドを所持していないのだろう、と悔やむ事が多々ありました。
実際買った事はありませんが、宝くじで超高額当選して山奥の人間がいない場所に引っ越したいとは常々思っています。
今年も時間の許す限り、エタる事なくぽつぽつと更新していきますので、よろしくお願いします。




