第9話 語られる歴史
知り合いに「お喋りが多い」と言われたので場面描写を頑張ります。なので少しお勉強の為、次話が遅れるかもしれません。
〜麓の街、ラグディス…路地裏の廃墟〜
そこは廃墟なので当然、灯りなどは無かった。
路地裏は月明かりさえ入る事は無く、部屋は相手どころか、自身の手すら見える状態ではない。
室内は家具が散乱し、窓も殆どが割れていた。
…乱雑な部屋、その中央にあるボロボロの椅子に、痩せぎすの老人が座っていた。
そして正面にはキリナに脅しを掛けていたガラの悪い男がおり、暗がりの中、何やら話をしているようだった。
「と、言う訳でして」
「そうか。そろそろ他の金貸しや返済が滞ってる馬鹿共に見せしめが必要な頃合いだったんだ。家ごと燃やせ」
「…へ?」
痩せぎすの老人は特に興味も示さず、それが当たり前というように、その言葉を口にした。
「ガ、ガキ共は上の奴隷商の旦那方に売り飛ばせば良いのでは?」
ガラの悪い男もまさか間接的に子供たちを殺せ、と言われるとは思っていなかったのだろう。
焦った男は老人に他の案を提案する。
男の意見に対して老人は、ため息を吐きながら淡々と話す。
「…あの程度の金すら返済できねぇって事は、ガキ共も満足に飯が食える状況でもねぇ。んなガキ共を売っても1人あたり2万メロ程度にしかならねぇさ。それなら大口で借りた奴らの見せしめにした方がもっと大きなリターンを狙える」
「それとテメェ…」
「俺に意見したな」
老人が闇の中、座ったままの状態から、高速で手のスナップを効かせる。
「あッ…!?」
瞬間、ガラの悪い男の額には深々と短刀が突き刺さっていた。
老人は相当な手練なのか、男の額からは一切血が流れる事は無く男はそのまま白目を剥いて廃墟の床に崩れ落ちた。
「ハァー…俺は俺より弱ェ奴の意見は聞きたくねェんだ。最も…お前にはもう聞こえねェだろうがな」
「只今戻りました…って、な、なんだぁっ?」
別のメンバー達がロウソクを灯しながら廃墟へと戻ってきた。
入るなり仲間の死体が目に入り、男たちは驚きの声を上げる。
老人はメンバー達にも淡々と指示を出した。
「ソイツはこのグェネリロに意見した。だから死んだ。片付けとけ。それと明日の昼、キリナ・クレイトスの家を燃やせ。他の連中への見せしめにな。キリナ本人は店に居るだろう。ガキ共が焼け死んだのを見届けさせたら攫ってこい。ガキ共が苦しんで死んだ事を心に刻み付けながら…ゆっくり、ゆっくりと…殺す」
淡々と語るグェネリロだったが、後半、無表情だった顔に歪なシワを刻んだ笑みが浮かぶ。
微かなロウソクの灯りに、ぼんやりと照らされるグェネリロの顔は酷く不気味だった。
男たちはそれを見て数歩後ずさる。
「あぁ…明日が愉しみだ…」
〜キリナの家〜
キリナの案内でセンヤは裁縫室へと入った。
中には作りかけの服や、近々、店に持っていく服が掛けられていた。
奥には裁縫道具があり、なんと全てが手縫いの道具だった。
「ここは母さんが使ってた部屋。道具も全部引き継いだんだ。形見っていう形見じゃ父さんがこの家を、母さんが裁縫道具かな」
壁にはどことなく、キリナの面影がある男性と女性の写真が掛けられていた。
「ん、今年で丁度、吸血鬼が倒されて千年目らしいよ、じゃあ、始まり始まり〜」
キリナの声のトーンが、子供たちへのお話モードに変わる。
「す、すまない、普通で頼む」
「あっ……はは、つい…」
「では改めて」
キリナは鎧に身を包んだ勇者らしき人物と、いかにも悪そうな顔の吸血鬼が戦っている絵が載った表紙の本を、捲り始めた。
「話は今より千年前。当時、魔王は既に勇者によって倒された後の事。世界は平和になった。だけど人間を統べる王、世王にはまだ不安が残る。それはここから離れた大陸に住む吸血鬼たちの事だった」
捲ったページの挿絵には、髭を生やした王がデフォルメされた姿で頭を抱えている。
頭上の、王の脳内らしきフキダシの中には、表紙の吸血鬼が高笑いを上げているような姿があった。
「当時、吸血鬼たちは魔王、人間どちらにも関与せず、完全に独立した国家を築いてた。世王は沈黙を続ける吸血鬼たちを、不気味に思ったんだ。そして世王は魔王を倒した勇者に依頼をした。『離れの大陸に住む悪しき吸血鬼共を1匹残らず殲滅してきて欲しい』って」
「勇者はそれを快く了承し、兵士達と吸血鬼たちの大陸へと攻め込んだ」
「一方、吸血鬼たちは一見無害に見えたが、実は人間たちを全て吸血鬼の同胞にし、種族の分け隔てのない平等な世の中を作る。という歪な平和を作ろうとしていた」
「突如攻めてきた人間たちに計画が露呈したと勘違いをした吸血鬼たちは、やむを得ず迎撃。これが戦いの始まり」
「吸血鬼たちは兵士たちに牙を立て、同胞を増やしていく。しかし勇者は数秒前まで仲間だった兵士たちを容赦なく切り殺していく」
「そして吸血鬼が同胞を増やすより、勇者がそれらを減らしていく方が上回ってしまった」
「やがて兵士たちは、吸血鬼となって勇者や他の兵士に殺された者、吸血鬼にはならなかったが、吸血鬼に殺された者が大半を占め、大きく数を減らした。吸血鬼も同じく、殆どが兵士や勇者に殺された」
挿絵には兵士の剣で貫かれる吸血鬼たち、鋭利な爪で鎧ごと引き裂かれる兵士たちが描かれていた。
(本当に子供向けなのだろうか…)
千夜の生前の世界でこんな本を子供向けとして出版しようものなら、様々な方面からとてつもないバッシングを受けるであろう。
「そして最後は勇者と吸血鬼の王との一騎打ち。両者の戦いは激しく10日間戦い続けた」
「10日目の朝、勇者の背後から昇る朝日に、吸血鬼の王が一瞬目を眩まされた。勇者はその隙を逃さず、吸血鬼の心臓に剣を突き立てた」
「長い戦いは吸血鬼の王の死、つまり勇者の勝利によって幕を閉じた」
「かくして世界は平和になった。勇者は姫と結ばれ、末永く幸せに暮らしましたとさ」
「おしまい。どうだった?」
「吸血鬼の王は倒された、か…」
(吸血鬼の王は確かに死んだと言った。つまり俺のこの身体と吸血鬼の王は別物なのか…?)
キリナの服屋でそれとなく見た鏡では、身長や体格こそ違うものの、何故か生前の千夜に、それとなく雰囲気が似ていた。
この身体が千夜と同じ顔なのも不思議だが、まさか千年前に倒された吸血鬼の王が似たような顔、という事は無いだろう。
もし千年前に倒された吸血鬼の王と千夜が同じ顔だった場合、丁度あの棺桶に封印されてから千年目に復活を遂げた事になる。
しかしそれはあまりにも話が出来すぎている。
まるで千夜の死が予め決められていた事のようだ。
(…まさかな。……が、他に少し気になる点がある。勇者と王の一騎打ちの流れがあまりにも簡潔で不自然だ。恐らくだが話を伝えるにあたって何か不都合な出来事が起きたのかもしれない)
「センヤさんみたいにどこかで生き残っていた吸血鬼も居るんだね。…吸血鬼にとってはあんまり良い話じゃないし聞かない方良かったんじゃない?」
「あぁいや、聞けてよかったよ、昔の仲間の事。ありがとう」
その場は軽く誤魔化した。
しかし……吸血鬼の王が倒されたのなら、何故センヤは広間の棺桶に封印されていたのだろうか。
まさか形勢不利、と判断した普通の吸血鬼が、勝手に棺桶の中に入り一種のコールドスリープに入ったのだろうか。
いや、その場合、鎖の封印の説明がつかない。
何故自身にあそこまで厳重な封印を施す必要がある。
そもそも普通の吸血鬼では、当時の兵士たちに即バレて棺桶ごと殺されるだろう。
それではこの身体が王の物だったとしたら。
その場合、あの絵本…つまり民間人たちは嘘の歴史を教えられている。
体裁を保つ為、吸血鬼の王は死んだという事にし、完全に倒せなかった為、封印をしたという事実は隠した、これが1番納得がいく。
封印状態で下手に攻撃をすると封印が解ける為、勇者も迂闊に攻撃できず、仕方なく壁に埋め込んだ?
では城内を見回っていた聖騎士軍には、どの様な説明がなされていたのか。
まさか、吸血鬼の王は倒しきれず、封印をしている為に見回りをしてほしい、などと上の人間が言うだろうか。
それではあの絵本が嘘だという事で出版停止にでもなるだろう。
もしかすれば、吸血鬼という情報だけを伝え、『王』という事は、現場には伝えていないのだろうか。
何にせよ今は情報が少なすぎた。
「……うーん…分からないな…」
「ま、難しい話は置いといてお風呂入って来なよ。センヤさん。せっかく沸かしたのにみんな寝ちゃった。場所はここから出てすぐ右のとこ。背中…というより羽でも流そっか?」
キリナが冗談半分に笑うが、センヤは至って真面目であった。
「羽は是非ともお願いしたい…が自分で何とかするさ。気持ちだけありがたく受け取るよ」
センヤはその場を普通に返答し、裁縫室を出ていった。
「…真面目で純情っぽいけど、少し天然なとこもあるって感じ。女性への受け答えは慣れた感じで自然と出来るけど、距離感が近すぎると途端にボロが出るタイプと見た………なんてね」
「はっくしっ!」
キリナはセンヤの性格を読み取る。
部屋を出た本人には聞こえていなかったが、廊下からくしゃみが聞こえてきた。
どうやらキリナの予想は150%的中している様だった。




