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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
996/2953

996. 出張戦闘 ~イーアン&親方

 

 親方は、皆に『なんだったの』と、男龍に呼び出されたことで受け続けたが、元気を失くして答えはしなかった。


 凹んだタンクラッドが、そのまま荷馬車に乗り込んで、何も言わずにナイフの作業を始めたので、ドルドレンもミレイオも聞きにくい(※何でちゅーしてもらったの&どーして元気ないのって)。


 仕方なし(?)。焚き火も片付けたところなので、休憩を終えて午後の旅路に出発する。



 だだっ広い、荒野にも似た、街道とは名ばかりの道。僅かに道の印と思しき、道標を確かめながら、南を目指して進む馬車。


 ドルドレンは、テイワグナに入ったばかりの数日間。

 動けば魔物に遭っていたことから、ここのところ、魔物と全然遭わないなぁと思っていた。


 それもあって、ザッカリアを呼んで横に座らせ『音楽を聴きたい』と、のんびり昼下がり。


 弦を弾いた子供も、同じようなことを思っていたようで、奏でながら『魔物。あの嵐の後で見ないね』と言う。馬車の斜め前を進むバイラが振り向き『私もそう思っていた』と伝える。ドルドレンは頷いて、皆同じことを感じている、と答えた。


「ミレイオが。あの日に戻って来て言ったのだ。『()()()()魔物は随分倒したかもしれない』と。そうだとしたら、相当な量だったのだ」


「何となく、もう・・・()()()()は、超えていそうな気もするのですが。どうでしょうね」


 バイラは、ゼヘリ地区から遠ざかる道を後ろに見て、『もうじき。戦闘かなと』と呟く。ザッカリアも音楽を奏でながら『俺もそんな気がするよ』と一言。ドルドレンは暢気な感じ。『そーお?』手綱を取りながら伸び伸びしている(※元々、馬車の民だから)。


「総長、あんまり戦ってないから、ダレてる気がするよ」


「何てこと言うのだ。ちゃんと戦える。ダレてないぞ」


 子供の辛辣な言葉に、嫌そうな顔を向けるドルドレン。疑わしそうな子供に『そういうことを、言ってはいけない』と教育。バイラは二人を見ていると、総長の立場なのに、彼らは平等なんだなと思わされる(※良き哉)。


「ザッカリア。総長は長い間、ハイザンジェルの魔物相手に、死ぬ気で頑張ってきた。

 今は場所も違うし、状況も変わった。他の仲間でしか、動けない戦闘もあるだろう。出番が来るまで、皆、それぞれの持ち場にいるものだよ」


「良いこと言うな、バイラ」


 バイラが微笑んで子供に教えると、ザッカリアもちょっと言うこと聞く。横で総長が有難がるのが、どうなんだろうと思うけれど(※上司に厳しい)バイラの話もそうだな、と思えるので頷いた。


「でも。あんまりよく分かんないよ」


「そうだね。じゃあ、思い出すんだ。例えば、私たち『人間』の状態でしか、動き回れないことがあっただろう?特別な力を受け取っていないけれど、この状態じゃないと、近寄れない場所もある。

 次に、もし暗闇の時間だったら、どうだろう。

 強くたって、イーアンたちは動けない。ミレイオやコルステインのような能力がないと、自由が利かないんだ。

 逆もそうだ。明るい時間で空に魔物が出たら、それはもう龍に頼るしかない。イーアンやオーリンたちに頼むよね?君の乗る龍とか」


 そうか、と頷くザッカリア(※先生必要)。ドルドレンもうんうん、納得している(※バイラ優しいから好き)。


 バイラは『皆に振り当てられた立場を使うのが、一番良い動き方だよ』・・・と教え、ザッカリアも『今度は誰が出るんだろう』と理解していた。


「時間もあるし、相手にもよることだ。この前の嵐の時のような、あんな大きい形で出てきたら、さすがに人間の出る幕じゃない。

 でも私が最初に加わった戦闘の日みたいに、大量でも1頭ずつバラバラだったら。私のような、普通の人間でも戦える。ザッカリアが援護してくれた、あの場所のね」


「うん、一緒に戦ったよね!バイラは強かったし、馬も怖がらないから、さすがだなと思ったんだ」


 喜んで、また一緒に動きたがるザッカリアに、笑顔を深めて向けるバイラ。ドルドレン、ここでも自分の影が薄くなる気がした(※しょっちゅう影薄まる)。



 午後の寝台馬車の御者は、フォラヴが引き受けた。シャンガマックは、イーアンの空から持ち帰った話を聞くとかで、イーアンと一緒に荷台へ。


 親方とミレイオは、無言でもくもく作業中。

 さっきの男龍との()()が気になるミレイオ、どうにか、ルガルバンダの話題を出したくて、何度か挑戦してみたが、つまらないくらい素っ気無いタンクラッドの反応に、何か傷心だろうかと気付き、そこからは黙った。

 なので、この二人は、ひたすら自分の制作に没頭する時間。


 手綱を取るフォラヴは、馬と会話しながら(←動物話し相手に出来る人)前の馬車から聞こえる音楽に心地良く過ごす。


 そしてシャンガマック。イーアンが教えてくれる、男龍の話をせっせと書き留めるのに、大忙し。


「持ち帰って聞かせてくれる話を聞く度、いつも思うのだが。

 イーアン・・・じゃなかった。始祖の龍の影響は、この世界全土に広がっていたんだな」


 背を丸め、低い机に置いた資料に、齧りつくような姿勢で書きながら、褐色の騎士は呟く。

 文字は分かっていないが、カリカリカリカリ、ペンで次々に書き込まれる紙面を、見つめるイーアンも『そう思う』と頷く。


「私。そこまで影響なさそうですが。ズィーリーも、遺跡や彫刻などの量からすれば、かなりの影響を及ぼした女龍ですし、始祖の龍なんて、文字通り()()ですよ。

 彼女は、凄まじい力の持ち主だったと聞いていますから、世界中の始まりに、何かしらに関わっていたのでしょう」


「 ・・・・・イーアンも。俺には、そうした影響力があるような・・・気が、するけれど」


「そうですか?私、3度目ですから(※女龍三代目)。そんな、今から残すようなことないような。もう中年ですし」


 アハハ、と笑うイーアンに、目をちょっと向けて微笑むシャンガマックは『俺は、ズィーリーを見たが』と意味深なことを囁く。ん?と思ったイーアンが彼を見ると、漆黒の瞳が自分を見ていて、静かに話を続けた。


「ある遺跡の中で。俺は、ズィーリーの姿を見ることが出来たんだ。彼女はイーアンより少し年齢が若く見え、イーアンの着物に似た服を着重ね、もう少し古い感じの雰囲気に包まれていた。

 雰囲気も顔も、イーアンと似ているとも思ったが、ズィーリーは、イーアンよりも女らしくて」


 と、うっかり。『悪い意味じゃなくて』のつもりで、言葉選ばず言ってしまったシャンガマック。

 目の前の女龍の表情が強張ったのを見て、大慌てで『違う、悪い意味じゃない!』訂正するが(※手遅れ)。


「違うんだ、ごめん。そうじゃない、その、()()()()というのは別の意味で。イーアンの方がずっと、見た目も性格も、体つきも格好良くて」


「ふむ。シャンガマックにさえ、そこまで言われるとは。何ともはや」


 体つきねぇと、声が低くなるイーアンに、褐色の騎士は焦って謝り続ける(※言えば言うほどドツボにはまる流れ)。


「本当に、変な意味じゃなかったんだ。俺はイーアンの方が良いと思うから(←ちょっと頑張って告白)きっと俺みたいに思う人間が、これからも・・・って」


 かなり頑張って本音も交え、大声で謝るものの。イーアンは、つーん(※体型指摘にご立腹)。


 すっと立ち上がって『大切なことはお伝えしましたよ』と、非常に冷たく抑揚のない表情で、座っているシャンガマックを見下ろすと、さっと空を見た(※『もう、行っちゃうから』の気持ち)。


 立ち上がって出て行こうとする女龍の姿に、大急ぎでペンを置いて慌て、どうにか、誤解を解こうとするシャンガマック。


「ごめん!本当に違うって。どうしよう、ごめん、イーアン。違うんだ」


「いえ・・・ん?おや・・・もう、いいです。はて。これは行くべきか」


「ごめん、謝る。何度でも謝る、許してくれ」


「もういい、って・・・ちょっと・・・いけませんね。急ぎで出かけます」


 腕を掴む騎士の顔を見上げ、イーアンは何か別のことに気を取られたように、もう一度、視線を後方の青空に向ける。

 その目つきは、何かを訝しんでいるようだが、怒らせたことで焦ってしまったシャンガマックは気付かない。


「そんな。『もう、いい』なんて。本当に悪かった。イーアン、イーアン?!ちょ、ちょっと待って!」


 謝り続ける騎士を、既に見ないイーアンは翼をビュッと6枚出すと、シャンガマックの腕に白い龍気を少し流して離させ、手が浮いた瞬間、どんっと勢い良く飛んで行ってしまった。



「イーアン!!イーアン、戻ってくれ!俺が悪かった(※必死)!」


 叫ぶシャンガマックの声と、何かやらかしたような言葉に、さすがに聞こえていた御者のフォラヴは、手綱を引いて馬車を止めた。『何ですか。シャンガマック、どうしたのです』フォラヴは眉を寄せ、すぐに御者台を下りて後ろへ回る。


 それは、荷馬車の荷台にいた親方とミレイオも同じで、叫んでいる内容が『待って』『戻って』『悪かった』であることと、白い光の玉がすっ飛び、どこかへ向かった様子から、ギョッとして馬車を下りた。


「ちょっと、何したの?シャンガマック、イーアンは?」


「バニザット、今の何だ!イーアンはどこへ行った」


 こうなると、荷馬車のドルドレンもザッカリアも、バイラも異変に気付いて馬車を止め、今度はなんだ、と皆でわらわら、寝台馬車へ集まる(※シャンガマック大迷惑)。


「あの、俺。そんなつもりはなかったのに」


「どうしたのだ。今度は何なんだ!イーアンは?」


 足早に近づいてきたドルドレンも、イーアンがいないことで、不安になる。

 お前、何した!と部下に詰め寄り、言い訳する部下から『女らしさ』の引用を間違えたらしいことまで引っ張りだすと、総長はガクッと膝を折って、馬車に凭れかかった(※フォラヴが急いで支える)。


「な。何てことを。イーアンが気にしているのに。お前は」


「俺は本当に、別に悪く言ったつもりじゃ」


「それ。どうやっても、悪くしか取れないわよ」


 ミレイオも参った感じで目を閉じる。『あの子にそういうこと言わないでよ~』帰ってこないかもしれないじゃないのよと、褐色の騎士を睨む。縮こまるシャンガマック(※もう言い訳無くなった)。


 横で大きな溜め息を付いた親方も、腰に手を当てて『別の言い方があっただろう』と呟き、そしてすぐ、ふと顔を道の後ろに向けた。



「うん?何だ。この感覚・・・まさか」


「どうした、タンクラッド。何か見えるか」


「いや。見えないが、変だ。おい、ミレイオ。何か感じないか」


「何かって?何も、別に。どうしたの?魔物か何か?」


 総長とミレイオは、タンクラッドの様子が変わったことで、眉を寄せて『何を感じているのか』ともう一度、訊ねる。

 タンクラッドの表情は更に困惑気味になり、落ち着かないのか『ちょっと、俺も出てくる』そういきなり言ったかと思うと、笛を吹いてすぐ、荷馬車に駆け込んだ。


「タンクラッド。どうした?俺も行くぞ、どこへ」


「すまん、ドルドレン。俺にも何だか分からない。ただ、イーアンが何か・・・それだけは分かる。進んでいてくれ」


 荷台から戻ったタンクラッドは、背中に剣を背負って、驚く皆に急いでそう告げると、やってきたバーハラーにひらっと飛び乗り『後で話す!』大声で伝えてそのまま、あっという間に、後方の空へ飛んで消えた。


「タンクラッド!!」


 ドルドレンが叫んでも、もう聞こえるはずもない。龍は親方を乗せて、きらーんと消えてしまった後。


『何なのだ。一体。イーアンが何だって?イーアンは、怒って出て行ってしまったのに』凹む部下を睨みつけて、ドルドレンは訳が分からないと、ミレイオに言う。

 ミレイオも首を振って『私だって』と、空を見上げた。何が何だか――


「でも。とりあえず。出ましょう。タンクラッドも、イーアンを連れて帰ってくるわよ。あいつ、何か気がついたんだと思う。

 どっちみち、イーアンを見つけることが出来るのは、タンクラッドだけだし」


「それ・・・何気に切ないのだ。俺にその力がないとは」


 仕方ないでしょ、と苦笑いして、ミレイオはドルドレンの背中を押し、皆に『このまま進もう』と伝える。


「待つことでもないわよ。必要なら呼ばれると思う」


 何となく、大事(おおごと)には思えない(※イーアンが怒ったのはダメだけど)。それもあって、ミレイオも心配は残るものの、一先ず、馬車を進めることにさせた。

 もしかしたら。タンクラッドはさっき、男龍に新たな力・()()をもらっていたのではないか。ミレイオには、それも気になっていた。



 *****



 イーアンは飛ぶだけ飛んで、ぎゅっと急停止。空中で急停止は、意外に頑張りが必要。


「ふむ。当たりましたよ。でも・・・ここからですね。どうしましょうね、私一人では時間が持たないかしら」


 イーアンの見下ろした山中には、木々を飲み込む勢いで、魔物が溢れ返っている。龍になって退治したいが、龍気を考えると、側に龍がいないことが少々、懸念。


「ミンティン、呼ぼうかしらねぇ」


 せこせこ、爪でどうにか退治していられるような数でもない。

 木々の合間を(うごめ)く影を見ていると、かなり広範囲に進んでいる気がする。『この広さで、この数は。龍になってボーッて(←単純表現)しないと』間に合いませんよ・・・呟くイーアン。


 龍気必須・・・ミンティン呼びましょう、うんうん頷き、笛を取り出した時。


「む。どなた?」


 近づいてくる龍気を感じて振り向くイーアンの目に、燻し黄金色の渋い龍がエラそうに飛んでくる姿。


「あらっ。タンクラッドですよ。すごいセンサーですねぇ、何て丁度良いタイミング」


 親方、有難う~ イーアンは手を振ってお出迎え。ちょっと追いかけられ過ぎて、気持ちワルイ時もあったけれど(※親方過敏)。こういう時は大歓迎。『こっちですよ~』手を振り振り、助かったと笑顔を向ける。


「イーアン!魔物に一人で」


「はい。何か大量に出てきた気がして。それで」


『シャンガマックが』と訊こうとして、それは言わない親方(※天然だけど気は遣える)。何となし、その言葉を引っ込めた気配を感じるイーアンも、それは触れず(※こっちも鈍いけど勘は良い)。


 二人はお互いの目を見つめ、うん、と頷く(?)。


「私。龍になりますため、バーハラーが来て下さって助かりました」


「俺が来たんだ。俺が」


 そうですけど、と笑いながら、イーアンは『とにかくね。一刻争いますから、急ぎますよ』と親方に言い、心得ていそうなバーハラーに『お願いね』よしよし、お顔をナデナデすると、バーハラーも据わった目で頷いてくれた(※プライド高い)。



「よしっ。やるか」


 武者震いしたイーアンは6翼を広げ、真上へ飛ぶと、そのまま真っ白い光に包まれ、光が膨れ上がったすぐ、白い大きな龍に変わる。

 魔物の広がる、山中の森林を見下ろしたその目は、全く容赦しない、鋭い光を輝かせていた。

お読み頂き有難うございます。

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