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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
994/2955

994. 朝は情報を集めに

 

 出発した旅の一行。テイワグナの馬車の民とも会い、気分も新たなものが加わった朝。



 前を進む荷馬車の御者台には、ドルドレンとイーアン。横に並ぶ青毛の馬にバイラ。3人は話しながら、南へ向かう道を進む。


「ジャスールは気持ちの良い若者だった」


「そのようですね。ドルドレンが笑顔。イイ感じですよ」


 エヘッと笑うドルドレン。コロッとやられるイーアン(※毎度)。

 いちゃいちゃしながら『朝から照れるよ』『だって笑顔が最高ですから。いつでも最高』『イーアンの笑顔も可愛いのだ』『イヤですねぇ、まだ朝ですよ』・・・ウフフ・アハハの状態に、聞いているバイラが恥ずかしくて笑う。


「仲が。本当に良くて・・・すみません。笑っていますが、気にしないで下さい」


「む。構わない。俺は気にしない。誰がいようが、愛する人に正直であるのが一番である」


「ドルドレンは最初からそうですね。タムズにもだけど」


 タムズはまた違うんだよ~と、惚気るドルドレンに、ハハハと笑って『また来てもらうように頼んでおく』と答えるイーアン。バイラはすぐに蚊帳の外(※独り身の人)。


「えー。お邪魔して申し訳ないんですが。ジャスールとは何か、情報が交換出来ましたか?」


 軽く咳払いして、笑う顔をそのままに、バイラが話をやんわり戻す。ジャスールの話をしていた途中だったので、ドルドレンも『うむ、そうだ』と姿勢を正す。


「馬車歌の。といっても、バイラには初耳かな。馬車の民には、文字がないのだ。それはここも同じらしい。それで馬車の民には、歌い継がれる伝説や物語が残っている。

 俺の育ったハイザンジェルの馬車歌と、彼の馬車歌が違う部分があり、俺はそれを訊ねた。馬車歌は、この世界の最初と最後までを歌うという。実際、この馬車歌が鍵になり、動き始めた旅でもあるのだ」


「馬車歌とは、そんなに凄いものだったんですか。

 ジャスールが馬車の民だったというだけでも、驚きましたが。まさかこんなに早くに、旅の民族と会うなんて思っていなくて・・・私は、あの若者が、盗賊の一人かと思ったんですよ」


 バイラの答えに、ちょっとまた脱線する話。

 ドルドレンとイーアンは顔を見合わせて、バイラに『盗賊』と返す。頷いたバイラは『時々、若い者がああして、旅人を狙うから』と話した。


「それでバイラは、連れて行かないと。そうだったのか」


「見た目じゃ分からないんですよ。言葉も態度も板についていると。若くて、あどけない顔をしていても、同情して連れて行ったら、身包み剥がされたなんて。実際、無い話ではなくて」


「テイワグナは思ったよりも。そうか」


 護衛の仕事をしていたバイラだから、そうしたことを知っているのかと思う話。

 ハイザンジェルも盗賊被害はあったけれど、頼まれて退治する対象で、誰かを護衛して送り届けるなどがない騎士修道会には、()()()()()の話だった。


「私。龍になるのも、気をつけねば。あの行動で、オーリンも夜、戻れませんでしたものね」


 イーアンは反省。ミレイオのために、と思ったけれど。

 それに龍気も補充(※赤ちゃんsと一緒だと満ちる)したばかりだったから、じっとしている20分くらいなら・・・と、変化した結果。迂闊でしたよ、と呟く愛妻(※未婚)に、ドルドレンは首を振る。


「今回は、これも運命かも。俺はジャスールに会えて良かったのだ。龍が見えなければ、彼は俺たちを追いかけてこなかった。

 出会ったからこそ、テイワグナの馬車の家族をきちんと知ることが出来たし、貴重な馬車歌まで聴けた。これは、イーアンのお陰なのだ」


 優しい伴侶にお礼を言って『気をつけて()()ことにする』と頷くイーアン。

 横で話を聞いているバイラは、ちょっと笑って『すぐ側に龍が寝ている食事なんて、人生で初めてだった』と感動を伝えた。イーアンもドルドレンも笑う。


「私は自分が龍になるとも、思っていませんでしたよ」


「俺だって、奥さんが龍になる人なんて想像もしたことなかった」


「皆同じですね。私は食べながら、龍に寄りかかる日が来るとは、夢にも思わなかったです」


 寄りかかられても、皆がちっこ過ぎて分からないイーアン龍(※デカいから)。そうでしたか、と笑って『また龍になったら、登ってもいい』ことを、バイラに伝えておいた。バイラはぶんぶん首を振って『畏れ多い』と苦笑いしていた。



「さて。では私はそろそろ」


「うむ、気をつけて行くのだ。男龍に宜しくね」


「はい。ジェーナイにも、宜しく伝えましょう」


 ジェーナイ・・・?って誰、とドルドレン。イーアンはちょっと固まって『あらやだ。話していなかったか』と思い出す。話したような、話していないような。

 聞き慣れない名前の正体を求める灰色の瞳に、イーアンも了解して『話していたと思ったのですが』と申し訳なさそうに言う。


「ファドゥの赤ちゃんです。大きくなって、最近、人の姿にもなれるようになって。

 可愛いのです。こんなおちびちゃんで、髪の毛真っ白でくるっくる。銀色の体に白い角と翼があって、今は一生懸命、言葉を覚えていますよ」


 抱っこした時の大きさを両手で示した笑顔のイーアンに、ドルドレンも『へぇ』と笑顔になる。


「俺が抱っこした時は、大きめの赤ちゃん龍だったのだ。イーアンに祝福してもらえたと、ファドゥが話していた。もう、姿を変えるようになったとは」


「スゴい早い成長ですけど、ジェーナイが大変頑張る子だから、という理由の方が大きいです」


 嬉しそうなイーアンに、ドルドレンが『イーアンにも似てるのか。ファドゥは髪の毛サラサラ真っ直ぐだ』と言うと、イーアンは、はたと気がついて『あ。そうなのかしら』と考える。


「何かね。龍の赤ちゃんたちって、龍気の強い相手の影響を受けるようなのです。だから、そういう意味では、今回の子供たちはもしかしますと」


「全員、イーアン似」


 アハハと笑うドルドレンに、一緒に笑うイーアン。『笑うのは似てるって、最初から言われています』と言いながら『今度ドルドレンも、ジェーナイに会ってあげて』とお願いした。ドルドレン、笑顔で頷く。


「では、行って来ます」


「はい。行ってらっしゃい。ジェーナイにも宜しく伝えてくれ」


 はーい・・・翼を出したイーアンは手を振りながら御者台を出発。して、すぐ、後ろの馬車に降りる。『ん?イーアン、降りた』ドルドレンは眉を寄せてバイラに確認。バイラも振り向いて『シャンガマックと話しています』と教える。


 それから数十秒後。笛の音が響く。


 ガルホブラフが来て、イーアンはオーリンと一緒に、改めてお空へ飛んで行った。見送ったドルドレンとバイラは『オーリンか』と頷き合った。



 *****



 イヌァエル・テレンへ向かう空の道。


 オーリンは龍の背中から『さっき、シャンガマックに何か頼まれた?』と質問。イーアンは横を飛びながら頷いて『遺跡のことです』龍頭の人と空の孔の関係を、詳しく知りたい要望を受けたと話す。


「それ。昨日、イーアンも聞いてみるって言っていたよな」


「はい。どうもですね、シャンガマックの知識が増えていたようで。この辺ちょっと微妙ですが(※多分ホーミットだと踏んでいる)・・・・・

 まぁ、それもありまして、アムハールのような『空』を用意した()()は誰だったのか、もし分かればと、伝言を頂きました」


「知識が増える?それもよく分かんないけど。でもそうだな、空の孔って、アムハールでは精霊のためだった話もあるし。他にもあるんだな」


 そこら辺を、男龍に訊かないとね・・・イーアンは飛びながら答え、自分も気になっている『龍頭人間と空』について、何か分かると良いなと思っていた。


 こうしてオーリンと話しながら、途中でお別れし、イーアンは子供部屋へ向かい、オーリンは龍の民の町へ行った。



 子供部屋に出勤したイーアンは、朝一番で最近ここへ通っているファドゥに挨拶を済ませると、シャンガマックからもらった質問も含め、ノクワボの話を出してみる。


 案の定。ファドゥは知らない。『すまないね。()()()()()の話は殆ど知らない』困ったように微笑む。


 ファドゥは、龍の子としては休眠を繰り返した分、長生きしているが、それでもズィーリーの子だから、自分が生まれる以前のことはお手上げ。


 だから、こんな時はルガルバンダ。

 そして呼び出したルガルバンダは『それは。ビルガメスに聞いてもいい()かも知れない』と言い始め、なぜだろうと、不思議そうにするイーアンに構わず、さっさとビルガメスを呼んだ。


「もう近くまで来ていた。わざわざ、呼ぶような話でもあるのか」


 大きな男龍は、入って来てすぐにそう言うと、イーアンの横に座る。側に寄ってきた子供を抱き上げると、イヤイヤしているのを無視して撫でるビルガメス。『俺に訊いて、意味のある内容か』いきなり意味の有無を言われ、イーアンは目が据わる(※おじいちゃんのこういうとこキライ)。


 ルガルバンダは自分の子供たちを2~3頭捕まえて(※扱いが雑)腕に抱え込み『お前自体は、知らないだろうが』と前置きした。


「昔、アムハールと同じような場所があった。そのことだ」


「ほう。アムハール。ということは、あれか。精霊絡みだな。だが、アムハールは、ナシャウニットが求めたものだが、他は違うだろう。母の時代のものだぞ」


「だから、お前を呼んだんだ」


 ルガルバンダはイーアンを見て、話すように促す。ファドゥは2階でジェーナイに教育と言って、その場を離れる。

 赤ちゃん(※既に皆大きめ)を一頭よっこらしょと抱っこしたイーアンは、片手に子供、片手で角くりし始めたビルガメスを見上げ、今回の、空の孔と交信していたらしいノクワボの話を出した。


「龍の頭、と言うが。それは龍じゃない」


「そうだと思います。シャンガマックの説明だと、イヌァエル・テレンの龍には似ていないものの、他に説明のしようがないと言う。

『彼らについては、精霊だろう』との話ですが、その精霊が、どうして空とやり取りするに至ったのか。それに()()()()()()()()どなたであったのでしょうか」


「イーアン。それを訊いてどうする。この先に、そうした精霊と会うかもしれない、それだけか。それとも、空の様子に気がかりでもあるのか」


 来ると思った!イーアンはおじいちゃんの返しに、ちゃんと答えを用意済み。


「今は遺跡となった祈祷場が出来たのは、始祖の龍の時代らしいです。それも、祈祷場は、空の孔に合わせて作られたような話でした。

 空の孔を用意したのは誰だったのかと。時代が変わっても、ノクワボたちと交信出来たとあれば、その相手をされた方は、()()この空にいるのか」


「だからな、イーアン。それは気になるんだろうが、過去の話だ」


「でもビルガメス。水は未だに効果があるのです。確認しました。なぜでしょう。何か私たちが、見つける意味があるのではないですか」


 ただの知りたがりじゃないのですよ、と言わんばかりのイーアンに、ビルガメスは金色の瞳を向けて、じっと見つめる。イーアンも目を逸らさない(※答え欲しい)。


「ふむ。なるほど。()()()()()言い方だ」


「それらしい、って何ですか。ちゃんと理由が先にあります」


「お前らしいと言っているんだ」


 ハハハと笑ったビルガメスは、イーアンの角をくりくりして、どうしたものかと考え込んでいる。この状態は、大体。何か『知っているけど、トリミングで教えてあげよう』系。イーアンは黙って待つ。


「俺もな。別に何もかも知っているわけじゃないぞ。そんな目で見ているが。

 言えることが幾つか・・・そうだな。あるが。ふむ、お前たちに答えていると、余計なことが多い気がしてならん」


「余計じゃありませんでしょう。その遺跡の水は、もう使ってみたのです。効果を確認した結果、誰かの役に立っているのですから、こうしたことを()()()望まれているのであれば」


「だとしても、だ。さて、ルガルバンダ。お前に質問する」


 いきなりイーアンを放り出して、ビルガメスはルガルバンダに訊く。イーアン拍子抜け。肩透かしを食らった気分で、おじいちゃんをじっと見るだけ(※無視される)。


「この手の話は、()()()()()と同じような類だぞ。話すか?今」


 大きな男龍の質問に、一呼吸置いたルガルバンダは、小さな溜め息をついて答える。


「ズィーリーたちも・・・今回の遺跡と龍の頭の精霊について、話をしたことがある。

 あれは、ズィーリーが『時の剣を持つ男』と一緒に動いた時だ。その後、彼女は、自分の祖国で崇めた相手を見たと、喜んでいた。


 後にも先にも、彼女のあの懐かしそうな、嬉しそうな顔を・・・俺は見ることはなかった。

 表情は違うにしても、イーアンもなぜか、同じような反応をしている。だから、何か教えてやった方が良いと思った。大きな話に繋がるかどうかは、別だが」



 ルガルバンダの意外な話に、少し驚くイーアン。

 何も言わずに頷いたビルガメス。『そういう関連も、理由になるのか』フフッと笑って、ゆっくりと話し出した。

お読み頂き有難うございます。

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