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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
986/2953

986. 名も無き村に続く道 ~最初の想い

 

「二つの時代が重なっていた、神殿だったんだな」


「はい。多分」


 龍を降りて空に帰した、親方とシャンガマック。神殿のことを話しながら、焚き火の側へ来る。



『遅かったか?』親方はシャンガマックの背を押して、鍋の近くに座らせると、フォラヴとザッカリアが既に馬車へ戻った様子を見て、ミレイオに訊ねた。


「ううん。大丈夫よ。ほら、食べちゃって」


「昨日の場所を見に行かれましたか」


 返事をするミレイオがお皿に料理をよそった後、イーアンが平焼き生地を炙って渡しながら、森の方を見た。


「そうだ。後で、昨日からのことも含めて話そうと思うが。龍と関わりが」


 受け取りながら親方が言い掛け、ふと、皆の雰囲気に違うものを感じて黙る。受け取った料理をシャンガマックに渡してから、自分の分を手に座ると、ドルドレンと目が合う。


「何かあったか」


「何かと言うことでもないのだが、さっきまでナイーアのことを」


「そうか、話してくれ。遺跡の話はいつでも出来る」


 うん、と頷いて、ドルドレンは遅れてきた二人にも先ほどの話をする。

 食べ終わった皿を、横で片付けるミレイオとイーアンは、黙ってドルドレンの話を聞き、親方とシャンガマックも食べながら、総長の気持ちに、静かに耳を傾けていた。



 話し終わった総長を見つめるシャンガマック。

 この人らしいな、と思う。いつもそうして、動き続けた。遠くへ何日も出て、やっと支部に帰ってくると、保護した人を連れていたり。褐色の騎士は、フフッと笑って『総長は』と呟く。


 タンクラッドも、反応をじっと見ている灰色の瞳を見つめ返し、少し考えた後『なるほど』小さな頷きを見せる。


「ミレイオに言われた後でも。俺たちに気持ちを打ち明けるのか。それは、気に掛けてほしいんだな?」


「そんなつもりじゃないのだ。でも。何て言えば良いのか」


 ちょっと笑った親方は、食べ終わった食器を、手を伸ばしたミレイオに渡し、立ち上がってドルドレンの横に座ると、その頭を撫でてやる(※愛情表現)。


「おい、()()。お前だからこその、仕事がある。それがお前の心から湧き上がるなら、それはお前の務めだ」


 顔を寄せて微笑む、優しいイケメンスマイルに、ドルドレンちょびっと照れる。うん、と頷く。

 タンクラッドはどうして、こんなカッコ良いんだろう・・・少し寂しくなっちゃうけど、嬉しいからそれはそれ(?)。


「ミレイオの言うことも尤もだが。お前がお前として、()()()()()意味は閉ざさなくて良いんじゃないか。俺はそう思う。

 ミレイオの言葉を歯止めにして、()()()()()()()を、正しく見つけろ。そして動け。出来る時は手伝ってやろう。俺の勇者よ」


 ドルドレンは胸を打ち抜かれた(※ズキュンって)。カ、カッコイイ・・・っ。こんな中年になりたい・・・・・(※惚)



 朝から、ショショウィ指輪(←命名)も手に入れ、遺跡の謎も面白くて、ご機嫌の親方は超優しい。

 赤く頬を染め、ぐらっとして片腕を突いたドルドレンに笑い、頭をナデナデすると、ミレイオを振り向いて『それでいいだろ』と確認。ミレイオも苦笑い。


「私は、あんたほど甘くはないのよ。でもあんたがそうするなら、放っておくわ」


「そうしてやれ。お前はどうせ、放っておけない」


 フフンと笑って、タンクラッドは立ち上がり、『昨日の壷を見てくる』と馬車に入った。

 シャンガマックも食事を終えてから、うんうん唸ってる総長(※顔赤い)の側へ行き『総長はいつもそうです』と微笑む。


「一人で無理はしないで下さい。旅は皆と一緒だから、動き難いかもしれないけど。でも、俺は総長の部下ですから。

 俺に出来ることがある時は、俺を連れて下さい」


「うう。お前もイイ男だ。俺は幸せだな」


「ハハハ。総長がイイ男なんですよ」


 褐色の騎士はそう言ってから『資料、置いてきます』脇に抱えたカバンを持って、寝台馬車へ戻って行った。イーアンとミレイオ。お片づけと焚き火消しをしながら、顔を見合わせてちょっと笑う。


 イーアンは、心を揺さぶられている伴侶の腕を取り、立ち上がらせると『皆、あなたのことを慕います』彼の赤い顔を見て(←親方効果)笑った。


「さあ、ドルドレン。次の行き先を決めましょう。シャンガマックはどうも、館長と昨日に約束している様子ですが。それを考慮して・・・バイラに連絡してはいかがですか」


 ドルドレン。自分を見上げるイーアンの、こうした、てきぱきしている部分に、いつも助けられていると思う。

 いつでも、全体の目的を見つけるイーアン。ニコッと笑う顔に屈みこんで、ドルドレンは彼女をそっと抱き締めると『そうだな。では、まずはバイラに連絡してみよう』と微笑む。イーアンは抱き返して『きっと、ナイーアのことを教えてくれますよ』と答えた。


「俺は。皆にいつも守られている。いつも。君にも、部下にも、タンクラッドやミレイオ、オーリンやバイラにも。有難う」


 そう言って、白い角にキスをした伴侶に、イーアンもニッコリ笑って『皆が同じように、あなたに助けられていると感じている』それは素晴らしいことだ、と囁いた。



 そして、馬車は出発準備。

 シャンガマックに次の地点を聞くと『一度、街道に戻ってから、南の海側へ向かう』としたことで、とりあえず地図で確認できる、街道に一番近い方向へ進むことになった。


 ドルドレンは御者台で、連絡珠を使ってバイラとやり取りした後、彼も谷へ向かう途中と知り、進んできた道の半ばで待ち合わせる話をつける。


「よし。では、出発だ。シャンガマック、一度バイラと合流する」


 後ろの馬車に声をかけ、手綱を取って、旅の馬車は広い森を背に、岩の道を下り始めた。



 *****



 バイラもその頃、谷へ馬を進めていた。


 警護団施設で一泊し、ナイーアと朝に少し話してから、自分の知人に彼のことを宜しく頼み、次はいつとも知れない『元気で』その挨拶をかけると、青毛の馬を走らせた。


 一度だけ、振り返った時に見えた、痩せた男の手を振る姿は、とても心細そうに儚く見え、バイラは、彼のこれからが実ることだけを祈った。


「元気で、笑顔があなたを包みますように」


 風を切る馬の背で、バイラは蒼天に呟く。今、ナイーアは不安の中にいるかも知れないが、きっと決断は、確実に彼を育ててくれる。村に戻ったら、成長も笑顔も無いだろうと思ったから。


「余計なことではなかっただろう。ナイーアのために」


 谷へ急ぐ道すがら、脇目に見える村のある場所。そこから立ち上る白い煙の筋をちらと目端に映したバイラは、『あの村に限らず』その言葉が脳裏に過ぎる。そして、ナイーアと会ってから、心に燻る気持ちを再び感じる。


「総長に。話してみよう。あの村だけの問題ではない。テイワグナの問題なんだ。総長たちは、ハイザンジェルの悪夢を乗り越えてきた。彼らなら、何か・・・切り拓く兆しを知っているかも」



 ハイザンジェルは二年近く、危険な状況に追い詰められた。

 だが。こんなことを、総長たちに言えるわけはないが、ハイザンジェルはそれでも、テイワグナよりも治安も良く、管理もされていたから、()()()()()()()のだと思う。


「テイワグナは違う。治安は良くないし、管理も警護団の範囲しかない。警護団は、地域の自警団上がりが殆どで、魔物と対峙する気概さえ、持ち合わせない者ばかりだ。

 地方の村なんて、こんな境遇では・・・あっという間に壊滅していくだろう。そして、そこに住まうしか出来ない『弱い立場の人々』は、もっと。もっと危険なんだ」


 総長たちは、龍の鱗を配ってくれる。警護団も来ないような、小さな集落や村に立ち寄ると、必ず人々に渡してくれる。『本当は。それだけでも感謝なのだが』そんな素晴らしいことをしてもらうだけでも。そう、思うが。


 そこまで考えて、バイラは頭を振った。『とにかく急ごう。一人で考えていても仕方ない』青毛の馬は、バイラの掛け声で、更に速度を上げる。


 まだ涼しい朝の林の中。青黒く輝く風が、村の敷地を大きく迂回して走り抜けて行った。



 *****



 荷馬車の中では、タンクラッドがちょっとだけ、人気者時間(※Onlyイーアン&ミレイオ)。


「指輪って。あんただけ?私なんかが持つと、やっぱりダメなの?」


「ホーミットは特に何も言っていないが。普通に考えたら、無理だろうな」


「面白い指輪です。骨でしょうか、角かしら。本体が金属ではないとなると、とても部族的に見えます」


 ちょっと見たい、とイーアンが寄って来て、タンクラッドの横に座る。タンクラッド、これだけでもシメシメの気持ち。『触るなよ。お前は龍気があるんだから』見るなら、俺の手を持って(※魂胆)と左手をイーアンに出す。


 指輪しか目に入っていないイーアン(※貴重な作品大好き)は、タンクラッドに出された左手を持って、顔を近づけ、しげしげ指輪を見つめる。

『非常に不思議です。これ、文字でしょうか。配列があるような』刻まれた細かい線に目を凝らし、これは何だろうと真剣に考える。


 イーアンが何か呟く度に、手に息がかかる。イーアンが指輪の角度を見たくて動かす度に、手を握られている。温かな体温が伝わるその様子に、タンクラッドは嬉しさがこみ上げるけれど、無表情一徹(※努力)。


 そんな友達と、一心不乱に指輪を観察中のイーアンを、ミレイオはじーっと見て『あんた。それ、分かっててやってるでしょ』タンクラッドに呟く。


 自分を疑う目をちらっと見た親方は、静かに首を振って『違う』のジェスチャー(※意味ない)。ミレイオは『いやらしい』と吐き捨てた(※当)。



「何が、いやらしいんだ(※図星)!見たいと言っているから、見せてるだけだろう。大体、お前たちは触れないんだから、こうするしかないんだぞ」


「それっぽいこと言っちゃってさ。外しゃ良いじゃないのよ。置いといたって見れるのに」


 ふと、親方は固まる。イーアンも止まって、ちょっと顔を上げた。その鳶色の瞳に、疑いの色が浮ぶ。親方は小さく首を振り『気にするな』と囁くが、イーアンは手を離した(※今更気が付く)。


「お前が余計なことを言うからっ!」


「あんたがヤラしいからでしょっ!」


 怒る親方に、言い返すミレイオ。イーアンは咳払いして、ふむ、と一言。二人がわぁわぁ言い合いし出したところで、待ったを掛ける。


「もしかするとですが。もしかしますよ、大丈夫かも。ルガルバンダが教えてくれたこと、忘れていました」



 そうでした、と話し始めたイーアンは、昨日、情報の危なっかしいホーミットに、指輪の使い方を教えたことも含めて、過去、龍が側にいても水霊が出てきていたことを教える。親方とミレイオは、目を丸くする。


「何ですって?大丈夫なの?え、じゃ。私たちが指輪に触っても、平気なんじゃない?」


「それは分からないです。ルガルバンダの記憶だと、当初の指輪の持ち主・魔法使いの方は、ズィーリーと常に一緒で。

 その方は彼女のいるところで、水霊をその指輪で呼び出していたそうです。

 勿論その場に、ルガルバンダもいまして。それで、彼も不思議に思ったという」


 へぇ、と声を漏らすミレイオに続き、タンクラッドも疑問を投げかける。


「お前が教えた?指輪の使い方を?そんなこと、ホーミットは言っていないぞ」


「言うわけありませんでしょう。あいつ、いえ。えー、ホーミット(※まだ抵抗あり)。彼は私が教えたなんて、思いたくもないでしょうから。

 ですけれどね、昨日。私とホーミットが話した時、それ伝えなかったら、親方はショショウィを朝方、呼べませんでした。それは自信があります(※ルガルバンダ情報サマサマ)」


 えへん、と胸を張るイーアン。ホーミットなんかに負けるか!的な雰囲気ぷんぷん漂う女龍に、親方もミレイオも『・・・』の状態(※そんな張り合わなくてもって)。


「何を教えていたの?私たちから一旦、離れた時でしょ?指輪のこと話すとか、あいつが言って。私たちには話した後だけど、離れたのよね」


「はい。あの時、私を前に指輪を見せて『これで呼べる』と言うから。どうするんだ、と質問しました。

 聞いた彼の答えに、順番が抜けている気がして、なぜかと指摘しますと、彼は少し考えて『違うのか?』と」


「え。ホントに知らなかったんだ。そんな状態で、渡そうとしていたってこと?」


「そうです。ですから、あの男は信用ならないって、言っているのです。わざとじゃないでしょうけれど、確認していないものを使おうしたわけです。


 今のミレイオと同じ反応をした私は、ルガルバンダに聞いていたことを話しました。

 するとホーミットは『ああ、そうだったかもな』って。それだけですよ。お礼もナシ。知らなかったの一言もナシ」



 目の据わるイーアン。ね?と、二人に同意を求める。ミレイオも親方も、これにはちょっと眉を寄せて『そうだったの』とか『万が一、聞かなかったらと思うと怖いな』と呟いた。


 ほらー。ほらねー。そうでしょー。ホーミット(あいつ)はテキトーなんだってばー・・・


 イーアンは、フフンと笑って(※勝者イーアン)指輪の安全に貢献出来たことを、今日お空で、ルガルバンダに教えてあげようと思った(※『近くで見れる』といった話は、既に忘れている)。

お読み頂き有難うございます。

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