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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
981/2957

981. ショショウィ道案内 ~古代墳墓到着

 

「疲れたか、ザッカリア」


 親方は歩き続ける密林の枝を、剣で切り払いながら後ろに呼びかける。


 随分歩いて進んだ時間。3人の会話は減り、殆ど息切れしか聞こえない。子供を心配して、タンクラッドが名を呼ぶと、『うん』と力ない答えが聞こえた。



 立ち止まって振り返り、フォラヴとザッカリアを見ると、少し離れた後から彼らは付いて来ていた。


「休むか」


「いいえ。休んでは、到着が遅れます」


「俺。ちょっと」


 タンクラッドはこんな時に、龍が使えたらと思う。フォラヴはまだ体力があるが、ザッカリアには厳しい。立ち止まると、膝に両手を当てて体を折り、ザッカリアは大きく息を吐いた。


「ショショウィを止める。まだかかるなら、少し考えよう」


 そう言うと、タンクラッドは頭の中で地霊を呼び、すぐに聞こえた声に『悪いが。ちょっと待ってくれ』と伝える。白い地霊は前を進んでいたのを戻り、タンクラッドの横に下りた。


『大変?』


 一緒にいる3人の疲れた顔を見て、ショショウィはタンクラッドに訊く。親方は微笑んで白い毛を撫でると『少しな』と答え、『ザッカリアは苦しいと思う』ことを話した。


 ショショウィはザッカリアの近くへ行き、疲れた笑顔を向ける子供を見上げる。『大変?』子供にもう一度訊く地霊に、ザッカリアは少しだけ首を傾げて『うーん。疲れちゃった』と頭の中で答えて笑った。


 白い地霊は、ザッカリアをしげしげ見つめると、背中を向ける。それから振り向いて『乗って』と言う。


 驚いたザッカリアは、大きいネコとはいえ、自分が乗っては危ない大きさなので『ダメだよ』と断った。

 親方もフォラヴもびっくりして、ショショウィに『ザッカリアを乗せることは難しい』と教えるが、地霊は彼らを見上げて『大丈夫』しか言わない。


『ダメだよ、ショショウィ。俺が跨っても、足は付いちゃうし、ショショウィは重くて動けないよ』


『大丈夫』


 皆に聞こえるように話している地霊の言葉に、親方は屈んで『無理するな。ザッカリアなら、俺がおぶるから』と頭を撫でながら、止めさせる。緑色の大きな目を向けたショショウィは『大丈夫』またそう言った。


 これを5分、繰り返した。だがショショウィは一向に譲らないので、仕方なし、一度好意に甘えて乗ってみることになった。


「ショショウィが重そうだったら、すぐにどくんだぞ」


「分かってるよ。怖いな」


「大丈夫でしょうか。ショショウィは背中の高さが、70cmちょっとくらいですよ」


 ヒヤヒヤしながら、白い背中に跨るザッカリアは、そっと腰を下ろして『重い?』心配で、すぐに地霊に聞くと、ショショウィは体の毛を一度だけ逆立てた。


「うわっ」


 突然、毛を逆立てた地霊に、3人が驚いて声をあげた時、ショショウィの足がぐっと伸びた。手足が一回り近く太くなり、地面からの高さも数十cmほど上がっている。目を丸くする騎士二人と親方。


『大丈夫。重くない』


『どうしたの?何で?ショショウィ、大きくなったの?』


 ショショウィは少し笑うような顔を子供に向けて、すたすた歩き始める。特に説明することでもなさそうな、突然の体型変化(※説明ほしい人たち)。


 あまり大きな変化は出来ないにしても、元々が肉体らしい体ではない地霊は、幾らかの状況に合わせて体を調整出来る。それを(おこな)っただけだが、タンクラッドたちには充分、強烈な変わりようだった。



 ともかく、これで再び進める遺跡への道。


 白い地霊の後ろを付いて行く、タンクラッドとフォラヴは、時々振り返って笑顔を向けるザッカリアに、笑顔を返すが。


「凄い技、持ってるな」


「ショショウィは地霊と聞きましたが、その能力の限度があるにしても、私たちからすれば相当に思えます」


「そうだな・・・あんなこと出来るんだな。ザッカリアだって、まだ細いとは言え、54~5kgはあるだろうに」


「全く重くなさそうです。私は旅に出てから、何度驚いたか知れません」


 足の長い、大きなネコになったショショウィを眺め、悠々と前を進む姿にぼうっとした二人は、感想を述べ合うだけだったが、ふと親方が『あ。草。草が』他の変化にも気が付く。


「フォラヴ。ショショウィの歩いた後ろに、草がない」


「え?あ。本当だ。草が小さくなっています。何で?」


 親方は草を切り払いながら進んでいたのに、地霊が前を歩いていると、それをしていないことに気が付き、再び思考が止まる。


「一度・・・一度、枯れていますか?それで、すぐに再生しているような」


 目を凝らすフォラヴは、地霊の足元に触れる前に一瞬、色が変わって消えたように見える草が、通り過ぎたすぐに、若草色の小さな草に変わるのを見つめて、震える唇で『信じられない』と呟く。


 タンクラッドも驚愕。さっき、枝の上を進んでいた時は、何もなかった気がするが。ここで、コルステインが話していたことを思い出した。


「ショショウィは。この山の精霊だと、コルステインが・・・ショショウィの力は、この山を守ると言っていたんだ。だから連れて行けないという話なのだが」


「そうなのですか。でも納得します。あの仔は、この山の命を預かっているのでは。それと知らず」


 二人は、無邪気に喜ぶザッカリアと、白い地霊の後姿をまじまじ見つめて、『不思議だらけ』と笑った。


 こうやって守られている場所もあるんだなと、フォラヴは目の当たりにして微笑む。

 弱い力しか持たない地霊。精霊の中でもひっそりとして、完全な精霊よりも、低い存在のように扱われがちだとしても。その存在は、何と比べる必要なく重要で、意味がある。


 自分もそうだったら―― 白い地霊の驚く力に、自分を重ねながら、妖精の騎士は改めて()()の意味を考えた。



『タンクラッド。あれ。あっち』


「タンクラッドおじさん、見えたよ!フォラヴ、もうすぐだ!」


 フォラヴと親方が、ぼけっとして歩いていたら、ショショウィとザッカリアが声をかけた。前の雰囲気が変わったのを見て、タンクラッドは走り出す。フォラヴも後に続く。


「あれか」


 開けた視界に、突如、盆地のような森林の傾斜が現われ、その中央に巨大な石の屋根を携えた、苔生す遺跡が見える。ぐるっと見渡したタンクラッドは、少しして笑い出した。


「何てデカさだ。こんな場所にあるとは、誰が思うだろう」


「真上から見た時よりも、深さがあるように見えます。不思議です。川の流れる道は、この盆地の上なのに」


 フォラヴの言葉に、親方も彼を見て『そう言えば』と、遺跡の周囲に見える木々の間隔から、川があるのを理解するが。どうして川が放射状に、すり鉢の外へ向かって流れているのか。奇妙な状態に気付き、非常に気になる。


「行くよ。こっちだって」


 ザッカリアの声にハッとした親方は、地霊が向きを変えて下りて行くのを見て、慌てて側へ走った。フォラヴも盆地に気を取られながらも、急いで進む。



 道もない斜面を覆うように草木が生えているが、ショショウィが前なので、低木も垂れる枝も、長い下草も、どういうわけかすぐに消えて小さくなる。


『ショショウィ。お前は草を消すのか』


 タンクラッドは、頭の中で話しかけて疑問を伝える。白い地霊は。振り向いて首を振る。


『今。一緒だから。草、小さいする。すぐ大きいなるの』


 いつもじゃないのか、と分かった親方。そしてショショウィは、再生だとか復活だとか、そんな範囲は、フォラヴの話していたように、意識もしていないと知る。


 タンクラッド()たちと一緒に歩くから、草を小さくしているだけで、通り過ぎれば大きくなる・・と。


 たったそれだけのことでしか、認識していない様子。それは、実のところ。植物が新しい力を得ているのだろうが、地霊には普通のことで、考えることでもないのかも知れなかった。

 コルステインが地霊を『山から動かしてはいけない』と教えた言葉が、タンクラッドの頭の中に浮んで消えなかった。



 傾斜は続き、背中にザッカリアを乗せた白い地霊が前を進みながら、遺跡に向かってどんどん下りて行く。フォラヴも親方も、近づいてくる大きな遺跡の屋根に隠されて、上からは見えなかった側面の様子に釘付けになる。


「バニザットに、見せてやりたかったな」


「私もそう思いました。でも彼が来たら、帰れません」


 ハハハと二人で笑って『()()()()が良い』と頷き合う。シャンガマックじゃ、何日もいそうだと笑いながら、最後の斜面を下り切った。



 到着した草むらに佇む、大きな大きな遺跡。それはこれまでに見たことのない形で、側面に柱はなく、大きな石を切り出して積み上げられた壁には、不思議な絵があった。


 形は()()()ない。と言うべきなのか、曲線を描いてゆっくりと、奥へ流れるように壁は続く。


「タンクラッド。これは。こんな形の遺跡もあるのですね」


「初めてだ。不思議だな、奇妙な作りだぞ。これ、窓も何もないんだから」


 屋根は真上から見た時、平たい円錐形だった。中心が高く盛り上がり、縁に下がる傘のように。

 しかしその屋根の下の壁は、自由な曲線で波のように出たり凹んだり。そこにも窓がなく、また入り口らしい穴さえ見えない。


 何に使ったんだろう、と疑問を持ちながら、ショショウィの後を歩いて暫くすると。


『タンクラッド。こっち。ここ、来ると入るするの』


『うん?どこだって?』


 ショショウィに話しかけられ、立ち止まっている白い地霊の側へ行って、地霊の示す場所を探す。壁にしか見えない、大きな石の前で、ショショウィは『ここから入る』と言う。


『どこから入るんだ?これは動かせないぞ』


『入る、するの』


 え・・・困るタンクラッド。妖精の騎士も、ザッカリアも、壁に向かい合う親方を見て『ここから?』と確認。親方も肩をすくめて『どうするんだろう』と答えるだけ。


 分からないので、ザッカリアを背中から下ろしたショショウィに、親方は顔を近寄せて『入れないぞ。お前はいつもどうやっているんだ?』と壁に手を当てて訊ねる。白い地霊はタンクラッドを見て、壁を見て『これ』大きな手を付いた横に、フカフカした毛のある指で示す。


「これ。って。絵・・・絵か」


 タンクラッドは、溝になった絵を線をよく見る。そして、ある()に気が付いた。


「ヤマネコじゃないか。人の横に、ヤマネコが。お前か、ショショウィ」


 口に出して呟く親方は、線で彫られた壁画をなぞり、指差しながらフォラヴとザッカリアにも見せる。『これ、そうだろ。この大きさ。ヤマネコの大きさだ』そう言って、彼らも頷いたのを見てから、ショショウィに目を向けた。


『お前なのか?こんな古い時代に』


『違う。違うけど、それ入るの』


 ショショウィはタンクラッドとザッカリア、フォラヴに一緒にいるように言い、その意味は皆が触れていることと理解した3人は、手をお互いの体に触れる。


 それを確認した後、ショショウィは尻尾をタンクラッドの足に巻きつけ、鼻先で壁のネコの絵に触れた。


 心臓が止まりそうになるほど驚いた、その瞬間。


 目の前の壁がさっと色を変え、鮮やかな赤と青に彩られたかと思うと、あっという間に大きな両開きの扉が現われ、左が赤、右が青の大きな戸は、奥へ向かって開いた。


「な。な、なん。何だ、これ」


「タ。タンクラッド・・・壁が、壁」


「向こうも、生きてるみたいだよ」


 目を丸くして仰天する3人は、言葉がつっかえつっかえで、開いた向こうの光景にも固まる。扉の先、つまり遺跡の中は、とてもじゃないが、古代の遺物には思えなかった。



『入るする。一緒に行くの、龍の石ある。水、たくさん。牛もたくさん』


 ショショウィはそう言うと、尻尾を絡めたタンクラッドの足を、ちょっとだけ引っ張った。


 我に返った親方は、ごくっと唾を飲んで、フォラヴと子供の腕を掴み『離れるなよ』と注意して、地霊と一緒に中へ踏み出した。

お読み頂き有難うございます。


ショショウィの能力は、多くの神話に見られる、土や草木の再生を司るものです。大きい神話よりも、あまり知られていない宗教や、天候の厳しい地域の口承に登場します。

ある一定の生き物を重視する宗教ではなく、生きる皆の命が、同じ重さとされている宗教です。


テイワグナの、モデルになった大陸があるのですが、いずれ活動報告で詳しく書けたらと思います。


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