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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
980/2953

980. ヨーマイテスの協力

 

 お昼頃。イーアンは仲間の馬車を見つけて、オーリンと一緒に降りてくる。



「もういない?近くにいるとか、そういうのない?」


 オーリンが心配気味に、前に座るイーアンに訊ねる。イーアンは振り向いて『館長は朝、潔く出て行った』だからいないと思うけどと答えると、オーリンは眉を寄せる。


「何か、そういう人ってしつこいだろ?隠れてそうだよ」


「大丈夫でしょう、だって。ほら、見て下さい。馬車はあそこでしょ?朝はもっと向こうでした。ぐるーっと回って、あっちの方」


 イーアンの腕が前方より先を示し、上がる森の向こう側は涸れた谷だったと教える。『さすがに、こんな遠くまで、追いかけて隠れないと思います』平気ですよと言うと。


 それなら良いんだけどさ・・・オーリンは龍の背中二人乗りで、降りる場所を見下ろし『馬車しかない。皆、中かな』何か不安だよ、と疑いで一杯。『昼なのに。焚き火も熾してないぜ』食事どうしたんだろ、と不安要素を見つけるオーリン。


 大丈夫ですよ~・・・イーアンもそう言われれば、ちょっと気になるけれど。迷うオーリンに、ガルホブラフを降ろすように頼んで(※なかなか降りようとしない)龍はくるくる旋回しながら、確認した後、馬車の側に空いた地面に降りた。



「ただいま戻りました」


「皆、どこだろう」


 ガルホブラフで降りたのに、馬車に誰もいないと気がついた二人は、とりあえずガルホブラフを帰して、馬車の中に入ってみたり、周囲を見渡して名前を呼んでみる。


「馬車に誰もいないって・・・そんなことある?」


 オーリンはイーアンに首を振って、不安そうに言う。イーアンもさすがにこれはちょっと、思いがけない事態なので、即答出来ず。ふむ、と唸って眉を寄せたまま、気配を探す。


「いないぜ。本当に。おかしいだろ、何かあったんだよ」


「そうですね。だけど、馬が。馬は普通です。何も怯えてもいないし、センもヴェリミルものんびり」


「馬は分かってないだろ。何があったって」


 イーアンが撫でる鼻面を、オーリンがぺちっと叩くと、センに噛まれた。わぁっと、慌てて離れるオーリンに、イーアンは『それはそうなるだろうな』と思いながら、不愉快そうなセンを撫でてあげる。


「セン。何があったでしょう。私はあなたと話せないけれど、ドルドレンたちは」


 馬はちょっと森の方を見てから、イーアンの手に鼻を擦り付ける。センの反応を見ると、あまり長い時間が経っていないような。


「魔物かな」


「オーリン。大丈夫ですよ、魔物じゃない気がします。魔物の気配はないのです」


「分からないだろ。出て、それで倒して、まだいたから追いかけてるとか」


「そういう感じじゃないのですよ。気配はないです。魔物も・・・皆のも」


 それ、まずいだろ、と騒ぐオーリン。『探しようありませんよ。探したいけれど、馬車を放っていくのも出来ないし』イーアンも気にはなるが、ここで自分たちまで、いなくなるわけにも行かないと判断する。


「イーアン、連絡珠は。使ってみろ、総長でもミレイオでもタンクラッドでも」


「そうしますか」


 うーん、と唸って、イーアンも珠を取ろうと腰袋を開けたが。

 取り出そうとした手は止まる。オーリンもハッと目を見開き、イーアンと同じ方向を振り向いた。『音がした』『声。声です』誰の?二人で顔を見合わせ、そのまま静かに次の()を待つ。


 音はどんどん近づく。それは、数人の話し声と、茂みを分ける動きの音。


「総長たちだ」


「ええ、でも。もう一人・・・あっ、あいつ」


 え?イーアンの声が太くなったので、驚くオーリンはイーアンを見る。顔がケンカモード。


 うへっと一歩退くオーリンに構わず、イーアンはぐっと歯を噛みしめて『あいつ!何しやがった』体を一度ぶるっと震わせると、両腕に爪を出す。


「イーアン!何だ、どうした?」


「オーリン、下がっていて。あいつだ、サブパメントゥのク(※おじいちゃんに叱られるワード)」


 イーアンが白い爪を振り上げた時、それと同時にドルドレンの声が森から『あれ、馬車に』何か気がついたように響く。


「おお、イーアン。お帰りって・・・物騒な!魔物か」


 ドルドレンは、茂みから出てすぐ目に入った、怒りの愛妻(※未婚)戦闘モードに驚いた。イーアンが答える前に、ドルドレンの後ろから出てきたシャンガマックとミレイオも、同じ反応で立ち止まる。


「え・・・イーアン」


「イーアン、どうしたの!」


「すぐ近くに、あいつがいます!サブパメントゥのっ」


 イーアンは、3人が茂みから出たら、すぐに攻撃するつもりで背中を丸めたが。彼らの後ろにいる男に、ぐわっと目を開いた。『貴様』イーアンの声が相手を捉えた瞬間、それに気付いたミレイオが急いでイーアンに叫ぶ。


「あっ、ダメよ!大丈夫、イーアン!ダメ、攻撃しないで」


「え?彼を攻撃するつもりで?イーアン、いけない!止めるんだ」


 後ろの大男の前にミレイオがさっと動き、シャンガマックもイーアンと彼を見てから慌てて、イーアンの前に出た。ドルドレン、ちょっと遅く反応して、やっと事情を理解する。


「危ないです、ミレイオ!」


「違う、違うのだ。イーアン、待て待て、落ち着いてくれ」


 イーアンが片腕を振り被ったので、ドルドレンも大急ぎで愛妻の側へ走って、白い爪の腕を掴んだ。

 止められた腕に、イーアンは理解出来ず驚き『ドルドレン、あいつは』危険を伝えようとする。ドルドレンはとにかく『大丈夫だ、イーアン。落ち着いて爪をしまいなさいっ』何もしない、と言って聞かせる。


 伴侶の言葉に、一度腕を下ろしたイーアンが茂みの奥を見ると、光る碧の目で自分を見ている、焦げ茶色の男は鼻で笑った。『粗暴で頭の単純な女だ』その言い方に、イーアンかちーん。


「てめぇ!ヤロウ、今すぐ死なせんぞ!!」


「ダメだ、イーアン!ダメだって」


 ドルドレンは、『愛妻猛獣版』を頑張って胴体ごと抱きかかえ、白い龍気漲るその体を止める。『凄い力だ、オーリン!手伝え』見てないで止めろ!と怒鳴り、オーリン急いで加勢。


 二人の男で頑張りながら、怒りに(たぎ)るちっこい女龍の憤怒を止める。電流のような龍気が、手にも腕にも伝ってグラグラしてくる(※イーアン電気ウナギ)。『ミ、ミレイオ、おい。止めてくれ』もしくは彼を逃がせっ!ドルドレンは、痺れにやられながら叫ぶ。


 ミレイオも、こんなに相性が悪いのかと驚きながら、ヨーマイテスを押し戻し『逃げて!怒らせるなんて』親父の胸を両手で押して、早く戻れと追いやる。


「おい。俺が何した。あの単純な女龍が勝手に怒ってるだけだろ」


「そういう言い方しないでよっ」


「今何つった!!首ふっ飛ばすぞ!」


「イーアン、落ち着くのだっ」


 痺れるよ~・・・くらくらする頭で、ドルドレンはどうにか、抱えた隙間から突き出す愛妻の腕(※爪とも言う)を押さえ、ぜーはーぜーはー息切れしながら頼む。

 ハッとしたイーアン。伴侶の目が血走っているのを見て、びっくりし(※電気流され続けたから)慌てて意識を戻した。


 ここからは、イーアンは謝る。ひたすら伴侶とオーリンに謝り、ヨーマイテスの嫌味が聞こえては、振り返って唸った(※怒りのワンちゃん)。



「イーアン。俺は今夜で力尽きるかも」


 ドルドレンがぐったりしながら、息も荒く呟く横で、イーアンは一生懸命謝って『あいつは本当に危険だから』と、恐れがあることも伝える。

 それを聞いているシャンガマックは、オーリンの世話をしている側で(※龍の民も痺れて痛かった)悲しそうに眉を寄せる。


「そんなふうに言わないでくれ。彼はイーアンが思うほど、悪い相手じゃない。今も、俺たちに良かれと」


「シャンガマック、あいつは名乗りもしないです。あなた方を利用して」


「おいこら、女龍。利用するなんて言ってないだろ、歪曲するな」


「黙ってろ!ライオン野郎っ」


『ライオン』って何・・・皆が同じことを思うが(※ヨーマイテスも)。イーアンは、唸って分かってない(※理性飛んでる)。


「ちょっとは話を聞け。女龍、お前。本当に気が短い」


「うるせぇっ!お前なんかに言われたかねぇよ」


 ガラ悪いイーアンに、皆も困る(※ギャップが凄い)。イーアンは昔、めちゃくちゃ怖くて悪い人だったと、ドルドレンは何となく分かっているが。筋金入りである・・・今もしみじみ思う(※愛妻=恐妻)


 ミレイオはイーアンのことを理解しているから、困った顔でイーアンを見るものの何も言えず、口の減らない親父を(※親父も距離さえあれば強気)中止しつつ、二人をハラハラしながら相手する。


 シャンガマックも引く。オーリンも引く。

 あまり関係ないようにしたいが(※タチ悪い)オーリンはともかく、シャンガマックは、友達のホーミットに食いかかるイーアンの誤解を解きたかった。



「イーアン。俺の友達なんだ。彼を悪く言わないでほしい」


「シャンガマック・・・あいつが友達って」


「女龍、あながち嘘でもないぞ。お前が嫌だろうが何だろうが、バニザットは俺を慕う」


 さっと隙間に入る余裕な大男。てめぇ、シャンガマックに何した・・・!と、言い掛けたイーアンだが。


 漆黒の瞳が懸命に、自分に訴える眼差しをまともに食らい、猛獣イーアンは折れる(※仔犬ビームが強烈)。


『そ。そんな目で見ないで下さい』やめて~と目を瞑るイーアン。


 シャンガマックは、何が『やめて』か分からないけど、とにかくイーアンに悪く言ってほしくない、切実な気持ちを、目で訴え続けた(※目が一番もの言う人)。



 そんなシャンガマックを見て、少し嬉しく思う自分を笑った大男。

 いきなり笑った親父に、ミレイオが驚いて『何、笑ってんのよ』イーアンを刺激しないで、と叱る。


「何でもない。ミレイオ、もういいだろ。女龍はあの勢いだ。俺がちゃんと()()()()()()()()と分からせないと、いつまでもこのままだぞ」


 息子を見下ろし、はっきりそう言うと、自分をいつまでも睨み続けるイーアンに目を向けた。


「おい。女龍、聞け。地霊がいるだろ」


「何だと?今度は何を」


「聞けって。聞けよ、話くらい。地霊と俺は知り合いだぞ。お前たちと一緒に動きたいと言っていた」


 イーアンは黙った。()が近づけないのに、どうしてコイツがショショウィに、と思う。だが、何か先に進んでいるのも分かる。伴侶たちには、とっくに話したんだろうことも、分かる。彼らが黙っている・・・・・ 


 睨むのをやめたイーアンは、目は据わっているものの、焦げ茶色の大男を見つめる。ルガルバンダが話していた『過去のバニザット』の()に関わることを、コイツは知っているのだろうか。



「地霊は動きたい。それを叶えてやれるのが俺だ。俺だって、タダでくれてやろうって訳には行かないが、方法はあるんだぞ」


「それを私に言って、どうする」


「女龍。お前次第だ。こいつらにはもう、話して聞かせた」


「私の許可か。そんなものをお前が求めるとは、何の代償が待ってるんだ」


 イーアンの冷たい言い方と低い声の交渉に、ドルドレンたちは黙って見守るのみ。


 イーアンが皆を守ろうとしている。それは厳しいくらいに伝わる。

 それくらい、このサブパメントゥの動きに、見えないものがあると判断しているんだろうと、緊張しながら続く言葉を待った。



「お前は。一度約束を交わせば、決して破れない」


 焦げ茶色の男の一言。立ち上がったイーアンは、茂みの奥の暗がりに佇む、大きな体の男を見つめ『だから何だ』と素っ気無く返した。倒れるドルドレンは、自分がこんなこと言われたら立ち直れない、と思った。


「お前だけだ。俺を倒し、俺を壊せるのは。俺の抵抗も無駄な相手は。この仲間の中で、お前だけ」


「バカ言うな。コルステインがいるだろ」


「コルステインに近づかれても、()()()()()()


 イーアン。理解する。こいつは今。私たちに関わろうとしている。理由がシャンガマックかミレイオか、彼らを通した目的か。それは分からないにしても。


「女龍」


「名乗れ。私は、イーアン。お前に呼ぶことを禁じた理由は言ったぞ」


「俺の名。ホーミット・・・・・ 」


 ちらっと息子を見てから、男は呟いた。息子・ミレイオ。目を伏せる。分かっていたけれど、これが二つ目の名前で、自分の前でそれを口にした親父は、何かをいろいろと覚悟したと分かる。


「ホーミットか。分かった、私はイーアンだ。そう呼べ。お前の知恵を受け取る」


 イーアンは、約束を交わす。無言の約束は、互いに理解出来れば良いだけ。ホーミットはニヤッと笑って『イーアン。お前の愛する男が付けた名前、か。やっと呼べる許可が下りたな』以前の言葉を繰り返した。


 ドルドレンは、ここでちょっと胸が熱くなる。イーアン・・・おっかないけど、そんなこと言ってくれたのか・・・・・ ジーンとしながら、奥さんのクロークを掴んで感動する。


 引っ張られるクロークが重いので、ちょっと気にしながら、イーアンはちらちら伴侶を見て(※具合悪化心配)ホーミットに話を進めた。『言え。そこから動けないにしても、聞こえる』彼の持ち出した話を促す。



「これが見えるか?」


 焦げ茶色の輝く肌は、暗がりの木々の隙間にこぼれる光で、その大きな筋肉を艶めかす。彼のゆっくり突き出した右腕、その指先に、二つの小さな指輪に嵌る石が光った。


「地霊の願いを、()()()()叶えてやれる・・・宝だ」


 静かに微笑んだホーミット。イーアンは彼の微笑を無表情に見つめながら、指先に光る指輪に、男龍の話を思い出して頷いた。

お読み頂き有難うございます。

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