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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
978/2953

978. ショショウィ道案内 ~秘境の遺跡

 

 馬車を下りた全員で、ショショウィが教える方向を見て悩む。当たり前といえばそうなのだが。



「道。何にもないわね」


「そりゃ誰もいないんだから、そういうもんだろう」


 タンクラッドに呆れたような一言をもらうミレイオは、服が汚れそうだなぁと思いながら、いきなり茂っている森を見つめ、後ろを振り返り、また森を見た。


「別の地域みたい。差が激しいわよね。草一本ない谷と、生い茂る森が・・・こんな程度の距離で」


 標高で見れば、現在の地点はせいぜい100mくらいしか上がっていない。その差でこれほど違う何があると言うのか、理由も分からないことだが、少々構えるものがあるのは、皆が同じ。ミレイオの言葉に、誰も異論はない。


「何があるにしても。ショショウィも一緒なんだ。馬車の留守を頼めるなら、誰か残ってくれ。一人じゃダメだぞ。2~3人な」


「その言い方。あんた、行く気でしょ」


「当たり前だろう。俺が知ったんだから。ショショウィは俺が好きなんだし(※これ重要」


「ここに魔物は」


 ドルドレンの心配は、シャンガマックと親方に『魔物はいない』とすぐに教えられて終わる。タンクラッドは、シャンガマックを見て『お前は何で。()()()知っているんだ』不思議そうに訊ねた。


「俺は。ショショウィが・・・そう教えてくれたから、だが・・・バニザット、お前。もしかし」


「いいえ。あの、ちょっと。はい。()()()()と交信で知ったんです。それだけで」


 シャンガマックはそう言うと、さっと顔を伏せる。眉を寄せ、瞬きも増えて、困っているのを丸出しの顔を俯かせている・・・非常に分かりやすい、何かを隠している感じに、皆は突っ込むことも出来ず、彼に質問するのをやめる。


「うむ。分かった。そうか。『魔物はいない』。なら、良いのだ。何かがあって、()()()、と。それはそれで良いことだ。

 えー。で、どうするのだ。タンクラッドと誰が行く。3人ずつでも構わんが」


 ドルドレンは、シャンガマックの前にそっと移動して彼を背中に隠し、タンクラッドたちに話を続ける。親方もミレイオも顔を見合わせ、目つきと僅かな表情でやり取り(※仲良い)。


「とりあえず。ショショウィに、問題のない相手が一番ではありませんか。私は問題ありません」


 妖精の騎士が、やんわり割って入る。微笑が嬉しそうなので、これも皆は突っ込まない(※フォラヴご機嫌)。フォラヴの意見は尤もなので、親方は『それなら』と、自分・フォラヴは決定する。


「それと。どうするかな、あと一人」


「ねぇ、フォラヴってどうして、大丈夫って分かったの?」


 親方が腰に手を当てて、あと一人を選ぼうとした矢先、ミレイオがフォラヴに質問。『ショショウィに判断してもらった』と答えをもらい、ミレイオはタンクラッドを見た。


「お前。無理に決まってるだろ」


「やってみなきゃ分かんないじゃないの。私、結構あちこち大丈夫だったし」


 明るい金色の瞳を、切実な訴えを籠めて向けるミレイオに、タンクラッドも面倒臭い(※言い合う時間勿体無い)。

『ショショウィに絶対触るなよ』それだけ約束させると、離れた場所で待つショショウィの側へ行き、相談。



『嫌なら、イヤだって言え。怖いからな』


『うーん。少し。大丈夫。誰、大丈夫なの、分からない。全部じゃない思う』


 そうなのか?親方はショショウィをナデナデしながら、やつら(←仲間)を振り向く。あいつらの中に、まだショショウィに抵抗ないやつがいるとは思えん・・・(※思いたくない)が。


 ショショウィは、さっきみたいに、向かい合って距離を縮めることを伝えた。親方は了解し、ショショウィが危なくないように、横に付きそう(※保護)。


『無理はダメだぞ。嫌だったら、逃げるか、俺に言え。俺が抱っこしてやる(※既に子供)』


 うん、と頷くショショウィ。親方はヒヤヒヤしながら、白い地霊の横に並び、フカフカした毛の背中に手を置いて、仲間に一人ずつ真向かいに立つように言う。


「俺から」


 ドルドレン、ビルガメス付き(※毛)で真向かいに進んだ途端、ショショウィが嫌がる。タンクラッドに怒鳴られて、ドルドレンは敢え無く敗退(※『あっち行ってろ!』って言われた)。


「く、くや。悔しい。俺は人間なのに」


 拳を握る総長を慰めながら、シャンガマックは『自分は辞退する』と大声で伝えて、褐色の騎士は棄権。

 ミレイオも、ドルドレンを見て『マズイか』ぼそりと呟き、不安を胸にそっと進み出る。


 ショショウィ、無反応。ミレイオは眉を寄せ、可能性を感じながら、少しずつ地霊の近くへ行く。

 ある地点で、ショショウィの顔が曇った。ハッとしたミレイオに気が付く親方は、さっとショショウィを抱き上げて『ミレイオ、ダメだ!』がっつり告げる。


「あと、あとちょっとだったのよっ、どうしてよ~っ!」


 ちきしょう、と吐き捨てるミレイオに、フォラヴが苦笑いで慰めに入る。ザッカリアは一番最後。心配が体を包む中、ダメなら仕方ないかと白いネコの向かいに立つ。


 緑の大きな目で自分を見ている、白い地霊。可愛いのになぁと思うと、触れないことを知るのが辛くて、ザッカリアは動けなくなった。


「ザッカリア。もう少し前に来い。そこじゃ分からん」


「でも。俺、ダメだったら悲しいもの」


 子供だから、こういうカワイイやつは触りたいもんだろうなと理解する親方。ザッカリアの言葉に同情して、ショショウィを見た。

 白い地霊は何を思ったか、自分から一歩前に進む。驚くザッカリアは『ダメだよ、大変かも』と下がった。


 ショショウィはまた少し近づく。躊躇うザッカリアは、自分が後ろに下がると、総長たちがいると思って、足を一歩前に出した。親方も固唾を呑んで見守る。


 ザッカリアの困惑した表情から目を離さないまま、白い地霊は少しずつ近寄り、ザッカリアも後ろを気にして(※後ろ=却下された方々)自分も前に出る、それを繰り返して。


「こんな。近づいて。大丈夫なの?」


 後1mの距離まで、近寄ったザッカリアの呟きに、親方は無言で頷く。ショショウィはゆっくり尻尾を前に出した。尻尾の先がひょこひょこ揺れて、ザッカリアの足に触る。親方は緊張で汗ばむ手を握るが、異変はないと分かった。


「触ってるよ。ショショウィ」


「そうだな。ショショウィが大丈夫なら。お前は問題ない」


『大丈夫』


 ザッカリアの頭の中に響いた声。嬉しさが突き上げるザッカリアは、手を伸ばして白い毛に触れた。ショショウィは問題なさそうに瞬きする。『やった!俺は平気なんだ』喜びで叫んで、ザッカリアはショショウィに顔を近づける。


「俺、ザッカリアだ。宜しくね」


『ザッカリア。ショショウィ』



 ――()くして。異能や、種族半分とされている、ザッカリアとフォラヴのみが合格(?)。


 人間なのにも(かかわ)らず、空の最強の座に居た男龍・ビルガメス毛を付けた、ドルドレンは却下。

 異例が多くを占める、サブパメントゥらしからぬ付き合いを繰り返していたミレイオも、却下。

 この世界を守る精霊の一人に、御手自ら加護を渡されたシャンガマックも、人間だけど却下。という、よく分からない采配で『ショショウィ御一行』と『留守番組』は決定した。


「すごい、納得いかないわ」


 最後まで悔しがるミレイオに、親方とフォラヴ、ザッカリアは手を振って『留守を頼むぞ』と意気揚々、森の中へ出かけて行った。



 歩きで向かう、目的地への距離。全く見当もつかないが、3人はひたすら、下草と垂れ下がる蔓を掻き分けて、白いネコの後に続く。


 ショショウィは枝から枝へ、木の上を進む。その姿を確認しながら、タンクラッドは先頭を歩き、厄介な、行く手を阻む蔓や草の固まりを切り払う。


「これほど生い茂っていると。本当に()()()()()に思えるな」


「いいえ。ここが不自然なのです。谷の続きはタサワン一帯、あんな具合でした。どうしてこの上だけ・・・こんなに」


 言い掛けて、フォラヴは虫を嫌そうに追い払う。『(たか)る虫は苦手ですね』足元が汚れるのも嫌だけど、と呟く騎士に、タンクラッドは、彼はどうして志願したんだろうと思った(※探検不向き)。


「ザッカリアも気をつけろよ。離れるな」


 フォラヴの声は、頼んでいなくても聞こえてくるが(※愚痴)。声が聞こえなくなって心配なのは、子供。

 背丈はそこそこあるにしても、まだ体重もないし、大人のような集中力もない。親方は、ザッカリアを振り向いて気にする。


「うん。大丈夫だよ。まだまだ()だもの。頑張らなきゃ」


「うん?まだ先・・・って。お前、見えたのか」


「違うよ。シャンガマックが地図、見せてくれたの」


 親方。『シャンガマックの地図』にぴくっと反応。子供に話しかけながら進むことにした。


「それ。何か話していたのか?この山の中、地図って言ったって道もなければ」


「そうだよ。道はないけどさ。あのね、シャンガマックが資料を見せてくれて。館長が調べた神殿はね、()()じゃないかって言ってたよ。神殿の続きが、この山の中にあるって思うんだって。

 シャンガマックは『川が気になる』って話してた」


「玄関。川・・・神殿は?どうして続きがあるって」


「神殿はね。龍の話なんだけど、その龍が神殿じゃなくて、近くにいたんじゃないかって。俺は空かと思って聞いたら、違うって」


 タンクラッドもフォラヴも、目を見合わせる。それからタンクラッドは、フォラヴが何かを思いついたのを察し『フォラヴ。離れて調べられるか』急いで訊ねる。フォラヴは頷き『ショショウィに待って頂いて』そう答えた。


「どうしたの。まだ先だよ」


「分かっている。ちょっとフォラヴに()()来てもらうんだ」


 親方はショショウィに、一度そこで止まるように伝えると、妖精の騎士はすぐに来た道を戻った。『フォラヴ、どこ行くの?』驚くザッカリアに、親方は肩に手を乗せて『すぐ戻る』と答えた。



 ショショウィから、充分距離を取ったと思えた場所まで戻ったフォラヴは、覆い被さる枝の隙間に、ふっと体を浮かせる。


「歩かなくても、こうして進めるなら。私は汚れずに済むのですが」


 地霊に影響があっては大変・・・微笑んだ騎士は、そのまま浮かび上がって、森の天井を抜ける。木々から離れ過ぎるわけにはいかないので、適度な高さで停止して、森の全体を見渡した。


「川ですか。川、あれかな。それと、向かう先の方向は。何があるようにも・・・あれは」


 離れた場所が、一箇所。大きく影になっている。現在地を見下ろしてから、その影までの距離を想像するフォラヴ。ちょっと困ったように『昼に着くとは思えない』かなりの距離であることを理解した。



 それから場所を覚えて、影のある場所まで飛んで移動し、影の正体を知る。息を吸い込んで目を見開く妖精の騎士。ゆっくり頭を振って、その光景を目に焼き付ける。


「タンクラッドが喜びそうですね。これは、確かに。シャンガマックこそ、見るべきでした」


 ショショウィはこんなに、広大な山の森を動いていたのかと、それにも驚く。『あの仔は小さな体で。いえ、ネコとしては大きいけれど』だけどあの大きさで、こんな遠くまで導こうとしているのかと思うと。


「さすが地霊。疲れも知らないのでしょう。無邪気な可愛い顔で、これほどの移動を繰り返していたとは」


 フォラヴはそれから、川の流れを確認し、影になった窪んだ場所から出ている水の流れ道を辿る。

 その一つは、谷の方向にも道筋が出来ていたが、水の代わりに植物がこんもりと、水路に生えた植物のように、人為的な段差の影を持って続いていた。


 幾つか必要なことを確認した妖精の騎士は、この後、すぐにタンクラッドたちの場所へ戻る。



 覚えていた場所に近づいて、タンクラッドたちの名前を呼ぶと、すぐに声が聞こえたので、近くへ下り、そこから、汚れる衣服に悩みながら進んだ。


「どうだった。何かあったか」


「ありましたね。しかし、相当離れています。私はとにかく、ザッカリアの体力が心配です」


 その答えに、タンクラッドは戻ってきた騎士を労うと、歩きながら話してくれとお願いした。ショショウィに合図し、再び一行は歩き始める。



「お前が見たものは」


「はい。恐らくあの場所へ、ショショウィは案内しようとしてくれていると思いますが。

 ここから数時間先。何もなければ、午後に到着可能かも知れません。そこは広い・・・なんでしょう、あれは。神殿ではないですが、遺跡です。それも屋根だけしか見えませんでした」


「屋根?森に埋もれているのか?」


 タンクラッドは、距離もさながら、その表現に驚く。屋根しか見えない遺跡とは。フォラヴは、分かりやすい言葉を選ぶように、少し考えながら喋る。


「正確に、私が見たものをお伝えしますと。森ではなく、大地に埋もれているのです。すり鉢のような場所に」


「何だと・・・・・ 」


 タンクラッドの目が見開いて、妖精の騎士の空色の瞳を見つめる。騎士はもう一度『すり鉢です。広範囲のそこに遺跡がありました』そう伝えた。



『タンクラッド。大きいの。大きいところ、牛ある。いっぱいあるの、見る出来るから』


 ハッとして振り返った3人の側に、頭の中に話しかけた白い地霊が来て、フォラヴの話を分かっているように、木の枝の上から()()()のことを教える。


『大きい。龍の、石ある。水たくさん持つするの。牛もたくさんある。()()ある』

お読み頂き有難うございます。

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