967. 宝探し相談・神殿の誰かについて
旅の馬車は、順調に進む。
特に魔物が出ることもなく、イーアンとオーリンが早めに戻ってきたのもあり、お昼も前倒し。正午前に馬車を停めて昼食にし、やっぱり朝の続きで『お宝』の話で盛り上がる(※中年が)。
「金の塊でさ。こんな棒があって。それはヨライデだったんだけど」
ミレイオがタンクラッドに広げた指を見せ、昔、ヨライデの遺跡で見つけた宝の壷の話をする。
親方、金の塊棒に目が見開く。『そんな塊か。それ、どうした』ミレイオの自慢そうな顔に、それはどのくらいあったのか、どうなったのか、幾らだったのか・・・大切な事柄を訊く。
「ええ?どうしたって。売ったわよ。塊だもん。でもね、50本くらいはあって、10本はとってあるかな」
「幾らだ、当時のヨライデは物価が高かっただろ」
ええっとねぇ~、と嬉しそうに会話が弾むミレイオとタンクラッド。オーリンも『棒って感じじゃないだろ、それ。かなりでかいぞ』興奮して、現物を見たいとミレイオに頼んでいる。
思い出お宝話でミレイオの手が止まっているので、イーアンはお宝話を聞き『金の棒か~・・・』呟きながらニコニコして、ミレイオの手からナイフをそっと受け取り、一人で昼食作り。
塩漬け肉と、水戻しした干しキノコと野菜を刻んで炒めて、皿に広げて冷まして、平焼き生地に載せて巻いて。
鍋に油を多く熱したら、丁寧に並べて揚げ焼き・・・横で見ているオーリンに『何だか、金の棒って感じだな』ハハハと笑われ、その言葉に振り返るミレイオにも『あらやだ。あんたったら』と笑われた。
ニコニコしながら、イーアンが作ったのは、春巻き(※金の延べ棒=春巻き連想)。
親方は、以前作ってもらっていた春巻き系を覚えていて、パッと顔が明るくなる。『あ、それ。俺が好きなやつだな(※嫌いなものないはず)』あれの外側の歯応えがたまらん、と知ったかぶりするタンクラッド。
お宝に喜ぶ職人たちに、イーアンはお味見春巻きをあげる。宝探し、行きたいなぁ~と、ホワホワしながら、せっせと春巻きを作る女龍。
沢山作った春巻きと、横で煮込んだ穀物と豆の汁物で、お昼は完成。皆を呼んで、お昼にする。
職人たちの喜び『宝探し』の話題は盛り上がる一方。
宝探しに行ったら、お弁当持って行こうよとか、遺跡の中こまめにも探そうか、とか。気分は明日にでも出かける勢い。
怪しげな会話を、真面目な若者に聞かせないよう、ドルドレンは出来るだけ声を大きめに、部下とバイラに話題を振って、昼食が終わる頃には少し声が枯れていた(※頑張った)。
出発する頃、ドルドレンはイーアンを呼んで、御者台に座った奥さんに『さっきのことについて、部下やバイラに聞かれないように』と遠回しに注意。イーアンは、何のことかな、と思って聞き返す。
「あのね。ザッカリアは子供なのだ。バイラは護衛時代に盗賊と剣を打ち合った人である。そして俺の部下は、俺と同様、騎士修道会で盗賊退治もあった」
「はい。知っています」
「イーアン。イーアンたちの働きにより、俺たちの旅は非常に助かっている。だけど、楽しげに遺跡荒らしの話を、フツーにしない方が良いのだ」
「む」
ハッとするドルドレン。一言唸ったイーアンの顔が、ちょっと強張る。急いで『遺跡荒らしは言い過ぎた』と謝ったが、イーアンは笑わなかった。
「違うのだ。そんなつもりではないのだが、ほら」
「分かりました。ひっそり遺跡荒らしの話をすることにします。ミレイオたちにも伝えます。気が回らなくてごめんなさい」
イーアンはずらーっと棒読みで告げると、ぴょっと翼を出して、後ろの荷台へ飛んでしまった(※前回受け入れてもらえたのに、ちょっと傷ついた)。
慌てるドルドレンは、イーアンを呼び戻そうと何度も名前を呼んだが、来たのはイーアンではなく、タンクラッドだった(※嫌)。心なし、顔が怖い剣職人は、何も言わずに御者台に乗り込む。
「タ。タンクラッド。なぜ。俺はイーア」
「お前の気持ちは分かる。だが『遺跡荒らし』はないだろう。そんな言われ方されたら、折角、役に立とうとしているのに傷つく」
「だって。俺たちは、バイラも。盗賊と戦う仕事だったから」
頑張って言い訳するドルドレン。俺はそんなに間違えていないと思う、と心の中で言う(※剣職人には言えない)。
「お前、パッカルハンの宝に感謝していたじゃないか。手に入れたら他人面か。
じゃあな。一つ聞くが、手持ちの宝、使い切ったらどうするんだ。
職人たちが作ったものを売るのは構わんが、お前たちは自分の貯金も出せるのか。それだけで、いつ終わるか分からない旅を賄えるか?」
「う、ぬ。ううっ あの時の努力は感謝している。貯金は・・・家建てたから使っちゃったのだ」
「だろ?じゃあ、どうする。お前は曲芸師だったそうだが、どこか町で」
「曲芸は子供の頃だ。さすがにこんなおっさんになって、曲芸なんかで金稼ぎは無理がある」
「そうか。なら、どうするんだ。武器や防具を売って金にするのも良いが、俺たちは自分の稼ぎは、売った金から抜くぞ。この大所帯、どうする気だ」
「あんまり言いたくないが。イーアンが養ってくれるって(※奥さん頼み)最初に言ってたから」
親方、じーーーっと総長を見つめる。イーアンと同じ色の瞳が、ドルドレンの目をロックオンして離さない。ドルドレン、ちらちら前を見ながら、言わなきゃ良かったと後悔。
「イーアンが。養う。お前を?お前たちを?
毎朝、空で子育てして、魔物が出れば戦って、俺たちの食事も作って。その上、あいつがお前たち騎士を養うために、どこかで働くってのか」
「だって」
ドルドレンは困る。だって、そう最初に言ってたんだもの。俺も出来ることはするけど・・・(※何して良いかは不明)。でも剣職人の顔がめちゃめちゃ怖いから、これ以上言えない。
「ドルドレン。俺はな、お前が好きだが。ちょっとそういうところ、どうかと思うぞ。
日々どこかで働かせて、その日によりけり・二束三文の稼ぎに頼るくらいなら。いっそ、あいつの才能が向くことで、一攫千金の方がずっと良い気がするが」
「ううう・・・そうだけど」
「そうだろ?」
タンクラッドは、前屈みでドルドレンを睨みつけていた顔を離し、目を閉じて首をゴキゴキ鳴らす。『お前の言葉で遺跡荒らし。俺たちの言葉で宝探し。それでこの話は終わるぞ』どうする・・・親方は、目一杯、困っている総長に振る。
ドルドレンは丁寧に謝って、宝探しを出来る時は気にしないで出かけてほしい、と付け加えた。親方は満足そうに微笑むと、ドルドレンの頭を一撫でしてから荷台へ戻った。
げんなりするドルドレンは、この後すぐ、入れ替わりでやって来たミレイオにも説教されて『宝一つでどんくらい食ってけると思ってんだ』と、現実を見るように叱られた。
この間。
前を進むバイラは、一度も振り返らなかったが、話は丸聞こえだったので、笑わないように頑張っていた。
どうして、朝も昼も総長が大きな声で話をするのか、理由が分かったバイラは、ミレイオがいなくなった後、御者台に馬を寄せて、元気のない総長に『気にして下さったんですね』と話しかけた。
「総長の部下は分かりませんが。私は、平気ですから。私は仕事で盗賊や山賊を相手にしただけで、その素行がどうとか、そこまで思っていません」
そんなに真面目じゃないですよと笑うバイラに、総長は頷いて『有難う』とお礼を伝えた。しょんぼりする部下思いの総長に、バイラは話を少し、前向きにしてあげる。
「宝探し。良いですね。実はテイワグナにも、噂の場所は結構あるんですよ」
「え。噂の場所?宝があると言うのか」
「そうです。ただ、お話ですから。嘘か本当かは知りません。でもまぁ・・・テイワグナ自体、遺跡も、御伽噺に因んだ場所も多いので、行って調べたら何かあるかも知れませんね」
「バイラ。知っているのか?どこか」
ドルドレンは、そんな話になると思っていなかったので、関心を寄せる。
微笑むバイラは、自分が知っているだけで5~6個の情報があると教えた。『その代わり、信憑性は怪しいですよ』噂ですので・・・と、念を押す。
「だけど、ある場所を知っているのは強い。どんな宝か、それは分からないにしても」
少し元気になった総長に、バイラは笑って『近い場所を通ったら教えます』と答え、この後は他愛ない話題に変わった。
荷馬車の後ろ、荷台に座る4人の職人は。その話をきちんと聞いていた(※地獄耳が一人いる)。
「(ミ)何?どこだって?」
「(タ)分からんな。地名は出ていない。夕食の時にでも訊くか(←地獄耳)」
「(イ)御伽噺は、割と真実もありますから。調べるのはムダじゃありませんよ」
「(オ)ねぇねぇ。今度は俺も一緒に行くよ。良いだろ?場所分かったら、先に見て来てやるよ」
お宝大好きな4人の中年は、ひそひそと話し合っている顔がニヤニヤしている(※素)。
4人で頭を突き合わせて、何やら深刻な相談をし始める様子を、後ろを進む馬車のシャンガマックは、微笑ましく見守る。
本当に仲が良いなぁ・・・(※ちょっと違う)俺も、ホーミットや館長と、あんなふうに夢中になる話が出来るんだなと、近いその日を心待ちにする。共通の喜びを持つ友達の存在は、やっぱり嬉しい。
フォラヴは友達だけど、話題は、服か演習か武器の効率だった(※あんまり話、続かない)。ホーミットや館長は、古代の話が出来るし、遺跡なんてなったら豊富に知っている。
シャンガマックは、昨日の夜のホーミットとの時間も嬉しかったし、これから向かう神殿で、館長を待つのも楽しみ。
荷台に集う職人4人の仲良い光景を、褐色の騎士は我が事のように微笑んで見つめていた(※会話の内容は宝だけ)。
穏やかな午後は過ぎてゆく。バイラが道を覚えているので、ドルドレンは本当に助かる。『地図もないのに進める』実にバイラは重宝、と言うと、バイラは可笑しそうに笑っていた。
「もうすぐですよ。意外と早かったな・・・向こうに見える、背の高い木があるでしょう?あの木が、村へ続く道の入り口です」
「入り口からはどれくらい先なのか。村はまだまだなのか?」
村へ続く一本道。ドルドレンは距離を訊く。バイラは少し黙ってから『えーっと』時間を思い出すように呟き、総長を見た。
「馬でしたら、少し早いんですよ。だけど馬車ですからね。村だけでしたら、手前で野営しても、明日の午前中には通過すると思います。神殿はその奥ですから、お昼くらいかなぁ」
バイラの説明だと。村に続く道だけれど、村の中を通っていないようで、道を進んで、横に流れる脇道で村へ、脇道へ行かずに進み続けると神殿、という話。
「この道付近から、タサワンの地名です。道の先はどんどん、木々が減ります。それで下りに入ると、すぐに谷が見えます。木は少しありますが、涸れた地面なので目立ちません。神殿はそこです。
村は特に名称がなかったため、地図には『タサワンの村』とだけあります」
「そうなのか。ここも不便そうである。周囲には何もないし、向かう先は大きな岩の壁だ。村はあの手前?」
横に長く延びる、切り立った岩壁に向かうように、一本道は延びる。周囲に林があり、村は木々の中らしく、目に映る場所にない。
バイラは右手を伸ばして、道の右側に、くるっと宙に線を書く。『あの辺です。少し下がった場所なので、ここからだと見えないですね』小さい村で、今は年寄りばかりと。
「魔物がいるのに。彼らはよく怖くないな」
「それ・・・私も気になっているんですが。どうしますか?村へ寄って、話を聞きますか?」
バイラは昨日から考えていたようで、神殿に直に行く前に『魔物を支える真実』を、現地で確かめてはと、思っていたことを話した。
「そうだな。村人全員がそう思っているとは限らないだろうし。しかし、村へ道草となると、シャンガマックにどう言うかな」
「隠すのも、変に思われそうです。もうじき事実に向かい合いますから、ここは皆に、同席してもらったらどうでしょうか」
バイラは小細工が苦手。他の人たちにも話をした方が良い内容では、と総長に言う。総長、考える。そしてタンクラッドを呼んだ。
「何だ。どうした」
「もう、村に続く道に入った。今日はこの道の脇で、野営だろう。
昨日の続きだ。村へ寄って、事実を確認してはどうかとバイラが言う。俺もその方が魔物のことを知るに、都合が良い気がするのだ。
となれば。シャンガマックに、村へ寄り道することを言わないといけない」
「ああ・・・それな」
親方、うっかり忘れていた。親方の反応に、ドルドレンは眉を寄せ『タンクラッドも何か考えていたのか』と訊ねる。振り向いたバイラも、馬を近づけた。
「それ。魔物じゃないらしいぞ。昨日、コルステインが見てきてくれた」
「えっ。早く言うのだ」
「魔物じゃないんですか?でも、人間じゃないですよ。それに行動が魔物みたいで」
「うん、だが違うんだ。コルステインが直に調べてくれたんだから、間違いない。魔物ではなく、何て言うかな。このくらいの・・・大きくないんだ。本当は違う場所に住んでいたんじゃないか、と言っていたな」
「それ、何なのだ。魔物じゃないなら、精霊とか妖精とか地下の」
「いや、違うんだって。どれでもない。また別の存在だ。もっとか弱い感じだな、コルステインが言うには」
コルステインから見たら、大体、か弱いんじゃないの・・・ドルドレンは呟く。笑うタンクラッドは『そうだろうが』ちょっと頷きながら『でも、本当に弱そうだぞ』と教えた。
「うーむ。じゃあ、どうするか。村へ寄ることもないか。魔物じゃないなら」
「どうしましょうね。申請は出しているから、村へ寄らず直に行けるには、行けるんですが。
村にはもう、私たちが神殿へ進むことは伝わっていると思いますし・・・村人が気にしないようなら、そのまま進みますか?」
止められる可能性もあるから、先に事情を聞きに、村へ立ち寄る方が良い気もしたが。
魔物じゃないと分かった今。村付近の通過中、村人が何もしてこないなら、神殿へ向かうかと、話はそこでまた引っかかる。
「魔物じゃないから、コルステインは手を出す気もない。コルステインがそっとしておく相手を、俺たちがどうこうするのも変な話だ。無害、と分かっている相手に。
それで村人が了承しているとなれば、尚の事・・・騒ぐのもな」
「むう。これはもう。ややこしいのだ。とりあえず、シャンガマックに伝えよう。目的地には魔物じゃないにしても、何かはいるのだ。あいつが気にしないように注意しなければ」
そうだな、と親方。バイラも頷いて、シャンガマックを呼ぶことにする。親方はシャンガマックの手綱を代わってやり、ドルドレンの話を聞くように伝えた。
「はい。何ですか?もう、近くの道には入ったんですよね?」
やって来たシャンガマックは、すぐにドルドレンの横に座る。
総長は部下に、これから行く場所の情報を、丁寧に最初から話して聞かせた。褐色の騎士は、意外にも大人しく、最後まで黙って話を聞いていた。
「ということでな。お前はあちこち調べたいだろうが」
「はい。そのつもりではいるんですけれど。俺も・・・どうしよう。何て言えば良いのか」
シャンガマックの目が少し戸惑うように泳ぐ。ドルドレンはどうしたのかと訊ね、横を進むバイラも、褐色の騎士の言葉を待つ。シャンガマックは少し小さい声で『その。俺も情報を昨日・・・ええっと、聖なる力から受け取っていまして』と話し始めた。
「聖なる力。精霊がお前に?」
「あのう。あの・・・じゃないんですけど。でも聖なる力です。区分はともかく。
それで、神殿に地霊が逃げ込んでいるから、神殿には長居しないようにと言われて」
「うん?タンクラッドの話から、また進展したな。地霊?それは神殿に逃げているのか?で、長居するなと」
「はい。あのう、ほら。俺とかイーアンは、力が。俺は精霊の加護があるし、イーアンは龍そのものです。多分、オーリンとか、ミレイオもダメだと思うんですよ。フォラヴやザッカリアは分からないけど。
地霊は、別の力に弱くて、やられやすいみたいで・・・だから、神殿に行ってもすぐに引き上げるように言われました」
ふーん・・・・・ ドルドレンの灰色の瞳がまん丸になって、部下を見つめる。シャンガマックは、実に様々な能力を持っている。大したもんだなぁと感心しながら『それなら話は早い』と続けた。
「それなら。神殿は適度にな。俺たちには、特に用事がない。近づくのはお前と館長だろうが、お前がそうも行かないなら、館長に注意するだけか」
「そうですね。館長は普通の人なんで、きっと影響はないと思います。でも一応、地霊の棲み処であることは伝えて、早めに切り上げるように頼みます」
シャンガマック。とりあえずホーミットのことは伏せた。
ホーミットが言うには、『神殿は大したことない』ようだし、館長が調べるのを待って、終わったら移動先で、調査内容を一緒に見せてもらえば、と思った。
こうした話で、ドルドレンの懸念は霧散。何かよく分からないうちに、あちこちで情報を集めてくれる頼もしい仲間のお陰もあり、全く心配ない旅路。
シャンガマックは寝台馬車の御者に戻り、タンクラッドは荷台、ドルドレンはバイラに案内された野営地へ馬車を向けた。時間は丁度、夕方に掛かる頃だった。




