959. 天地の力で魔物退治 解説~空版
『帰ってくる』と教えたザッカリアの声に、外に顔を向ける全員。コルステインたちの動きは、変わっていない。
「誰が? コルステインがか?!」
「違う。イーアンだ、イーアンと男龍が来る」
「えっ!マズイぞっ」
ドルドレンとタンクラッドは顔を見合わせ、表へ走り出した。扉を開けてすぐ、大声でコルステインたちを呼び戻す。
「戻れ!戻れっ!!ミレイオ、コルステイン!!龍だっ」
『コルステイン!!聞こえるか、そこはダメだ、戻れ!龍が来る、早く』
「総長、来ると分かっていたから、動きに戸惑いがあったんじゃないですか」
シャンガマックも出てきて、大慌ての二人に冷静に告げる。二人はさっと振り向いて『違うかも』と意見を否定(※混乱中)。
シャンガマックに続き、フォラヴも出てきて『私たちよりも感知している』気付いているはずだと言われ、二人はハッとした(※そうだったと思うところ)。
「(フォ)ほら、戻りますよ。こちらへ向きました。恐らく、ギリギリまで龍を待っていたのでしょう」
「(ド)え。あ。本当だ。ミレイオッ、ミレイオ、早く!!」
「(シャ)総長、ミレイオはとりあえず大丈夫です。コルステインは龍はダメですけど」
「(ド)あ。そうか!コルステイン、早く戻りなさいっ」
「(タ)ドルドレン。コルステインには聞こえない。頭で話しかけないと」
わたわたするドルドレンは(※混乱中)シャンガマックがよしよし撫でながら、部屋に引っ張る。タンクラッドは外で待とうとしたが、フォラヴに『夜会えます』と言われ、こっちも部屋に入った。
「来ました。龍ですよ!」
部屋に入るなり、バイラが窓の向こうを指差して教える。『イーアンともう一頭います』興奮するバイラの目が輝くのを見て、ドルドレンも急いで外を見た。
「本当だ、イーアンだ。うううっ デカイ。魔物も巨大なのに、イーアンも・・・もう一頭は、ビルガメスじゃないのか?同じくらいの大きさなんて、ビルガメスくらいだろう」
ドルドレンの見えている範囲で、黒い雲に紫色の放電が走る空。ガラガラと雷鳴の鳴り止まない中で、時々閃光に照らし出される、山の影と巨人。その上に降りてきた大きな白い龍2頭。イーアンじゃない龍には、翼がある。
「(ド)でも。ビルガメスは、翼なかったと思うのだ。翼があるのは、タムズとファドゥだけのような」
「(シャ)あの白い龍。一本角だから、ビルガメスじゃないですか?翼は確かに。前に乗せてもらった時、見なかった気がするけれど」
「(フォ)やけに余裕ですね・・・ゆらゆらしています」
シャンガマックは、その余裕さが怖い、と呟く。ごくっと唾を飲んで、窓に貼り付く全員は、何が起こるのかと緊張して見守る。まだか、まだか、と両手を握り締めながら皆が外を見ていると、
「コルステインとミレイオは戻ったぞっ」
後ろでタンクラッドの大声が聞こえ、二人が戻ったと部屋に響いた瞬間、それは起こった。
ぐわっと異様な空間の歪みが起こり、その一瞬後に、ひっくり返るほど眩しい白い光が空に放たれた。
『うおっ!目がっ』とんでもない眩しさに、ドルドレンは両目を瞑って体を屈め、部下たちも同じように光の波から体を捻って守った。警護団員もわぁわぁ大騒ぎして、床に転がって目を押さえる。
「何が起きた?今の」
「目が・・・見えません。まともに食らった」
答えを急ぐ総長に、シャンガマックは目を瞑ったまま『見えない』と答える。『私はまともに食らっていませんが、光量がすごくて』妖精の騎士も顔を手で覆ったまま、まだ見えないことを伝える。
目を閉じたままで、ザッカリアは息切れしながら『ビルガメスだ。魔物も、魔物の向こうにいる敵も倒した』それだけは見えた、と教えた。
「何だって?魔物の向こうにいる敵って」
「分からない。あの魔物と、ずっと後ろの誰かも叫んで消えた」
ザッカリアがそこまで伝えると、裏口から戻った親方とミレイオが、倒れた仲間に駆け寄った。『大丈夫?怪我した?』『平気か、こっちに座れ』仲間を長椅子へ引き寄せ、転がって騒ぐ団員に『もう大丈夫だ』と教えて落ち着かせる。
「(ド)タンクラッド。コルステインは」
「(タ)あの攻撃の前に戻った。彼女は無事だ」
「(ミ)間一髪よ。危なかったわよ~」
ドルドレンたちも背凭れに頭を乗せて、目を閉じたまま、少しずつ瞼を開けて慣らす中、ミレイオは状況の説明を始めた。
ミレイオの話だと、魔物の側へ行った時には既に、龍の気配は近づいていたらしかった。
「コルステインはとっくに気が付いていたのよ。でも、龍が来るまで、自分が守ろうとしたのね。どんどん近くなるから、私も焦ったけど。
コルステインが魔物を攻撃した時は、中に赤い石がいっぱいでさ。気持ち悪いったらなかったわよ」
でも、あれだけの量を消したから、とミレイオは続ける。『多分、この地域の一気に減ったんじゃない?』範囲は知らないけど、減ったのは間違いないと。
「そうだな。どこから来たのか知らないが。あの大きさの魔物で、複合・・・あ。イーアンだぞ」
ミレイオに続けたタンクラッドは、さっと戸口に顔を向ける。
それからすぐに扉の向こうに足音が聞こえ、ノックの後にそーっと扉が開いた。隙間から、ちょこっと顔を出して確認するイーアン。皆がいると分かって笑顔で頷く。
「ただいま戻りました」
「イーアン!お帰り・・・って、見えないのだ」
「あらっ。んまー。眩しかったですか」
「『んまー』じゃないのだ。眩しいなんてものではなかったぞ」
あらあら、とイーアンは、伴侶にそそそっと寄って来て、目を瞑ったままの伴侶に同情する。
「ビルガメスが力を増しましたので、致し方ない。でも倒しました」
「うん。有難う。あんなデカイの、俺は無理である」
勇者ドルドレンは、あっさり拒否する。苦笑いのイーアンは『そんな時のために私たちがいます』と答えた。
それから皆にも挨拶を交わし、コルステインには後でお礼を言うと話した。
今日の魔物退治は、騎士たちは観戦。天と地の力で倒す、魔物退治で終わった。バイラは興奮に浸って、誰よりも熱っぽく喋り続けていた。
「食べよう」
遅くなったけど、とミレイオは皆に冷めた食事を回す。それから『私も着替える』と断りを入れて、雨に濡れた服を馬車で着替えた。
イーアンは、シャンガマックの雰囲気が、ものすごく違うことが気になっていて、じーっと彼を見ていたが、皆は魔物に頭が持って行かれていて、誰もシャンガマックの話題をしなかった(※本人もミレイオも忘れてる)。
遅い昼食を食べながら、小降りになった雨の外を見て『食事が終わったら出発するか』とドルドレンは皆に聞いた。
「総長。タサワン目的地まで、後3日くらいあります。明日ここから出発しても、今日これから進んでも、3日目午前か、午後には着くでしょう。今日は雨がまだ降っているから、施設に馬車を止めて休んでも」
今は小雨だけど、夜に降り始めたら困るのではと、バイラは総長に伝える。『この先は、雨宿り出来る場所が見当たらない』民家も遠いらしい話を聞いて、ドルドレンは了解した。
この後、することもなくなった午後。それぞれ自由時間にして、雨の午後を施設で過ごす。ミレイオは縫いたい物があると馬車に戻り、親方は集めた金属の整理、騎士たちは施設内で、バイラと団員相手に話していた。
思いがけない空き時間に、ドルドレンはイーアンに、ビルガメスとどうだったかを訊くことにした。イーアンはちょっと寒いらしくて、暖炉の側に二人で座る。
『一緒に来たの、あれビルガメス?』翼があったと教えると、イーアンはゆっくーり頷く。何やら意味深なので、愛妻(※未婚)が話し出すのを待った。
「えー・・・どこから話しましょうね」
「話したいところで良いのだ。俺が質問する」
ドルドレンがいつものように、そう言うと、イーアンは顎に手を当てて『むぅ』と唸る。こんな愛妻は大体、誤解されたくない時である・・・見抜くドルドレンは、何かあったな、と覗き込んだ。
「何。俺はもう大丈夫だ。ビルガメスに迫られたか」
「迫るとかではないのですが。男龍は素っ裸ですけど、人間と構造が違うので」
「いやらしいのだ。一体何が」
「ですからね。そっちの話ではない、と言っています。あなたが前置きに『迫る』とか言うから」
「分かった。何なの」
「勘違いしてはいけませんよ。あの翼の理由は、彼が私と同じような愛を心に持ったからです」
「えっ・・・・・ 」
だから勘違いしないで!と、イーアンは笑う。真顔で引き攣るドルドレンは、イーアンをじーっと見て『どうしてビルガメスとイーアンに愛が生まれたの』と震える唇で質問。
「生まれていませんよ。よく聞いていて下さい。あの翼は齎されたもので、彼が望んでああなったわけではないのです。彼の心に生まれた愛の形を判断したのは、とても大きな存在らしいのです」
胸中穏やかじゃないドルドレン。
俺は奥さんを信じるって決め、ちゃんとそうした意識ではあるのだが。
俺の愛なんて入り口みたいなもので、男龍たちは愛の難関なんて、ずっと先を行っている。
イーアンの話を聞いていると、愛って大きいね・・・と思わざるを得ない。俺の愛ってどうなんだろうと、ビルガメス翼談より、そっちが気になってきた。
「ドルドレン。聞いていますか」
「聞いてるよ。聞いています(※ちょっと敬語)。でもね。愛が大き過ぎちゃうんだよ。俺の愛って」
「ドルドレンはそのままで良いのです。彼らの『愛』は、空全体に関わることですから。下手しますと地上にも関係するくらいの内容ですため、個人同士の愛の質と、一緒にしてはいけません」
そうなの~? 訝しそうな伴侶の顔に、イーアンは笑って撫でてあげる。
「私もそのつもりで、彼と話したのです。別に、個人で愛されるとかどうとか・・・そんなの最初から意識していません。
ビルガメスは私への愛情によって、考え事を進めていました。でもそれは、彼の向かう先に値するものではない、と思ったのです。
彼は、ビルガメスは。生まれて初めて。あの長い生涯の中で、誰か一人を愛することを知ったので、自分が望んでいる状況に、その愛を繋げること自体、解釈が難しかったのかも」
「誰かを初めて愛した。って。相手がイーアンなの」
「のようですけど。でもそれはそれ」
「イーアンはざっくりしているのだ。微動だにしない。山の如し」
「だって。私はドルドレンを愛していますから。一人分ですよ、個人用の愛の在庫なんて」
「分量計算なのだ。感動が薄い」
アハハハと声を立てて笑うイーアンに、ドルドレンは苦笑い。
とりあえず、俺は愛してもらっているし、他の誰も愛さないとは言ってくれるので、それで嬉しいのだけど(※愛の在庫なんて初めて聞いた)。
「人並みに、愛されていると聞けば、私もそれは嬉しいです(※嬉しいだけ)。でもね、そういう話じゃないのですよ。男龍たちの話の内容は。
あまり詳しくは説明出来ない事情があるため、少々分かり難いかも知れませんが。あの方たちの愛の範囲って、それこそ・・・ねぇ。生死・存在に関わることもそうですから」
「そうだね。複雑にも思う。彼らにしたら、その立場から自然なのだろうが。
それで、ビルガメスは何。愛情の種類が、大いなる存在に認可されて、新しく翼を貰ったわけ」
「ドルドレンは本当に話が早いです。そういうことです。彼が持っていた愛情の種類。どっさりあるでしょうけれど、彼の試練と言うか。そんな状況への正解として、翼で証明されたのですね」
ドルドレンはその話から考える。『それって、もう。ビルガメスが頂点なの』そうなのかと訊ねると、愛妻は『違う』と言う。
「まだまだでしょう。ビルガメスが言うに、最初の答えらしいです。でも翼、6枚ですよ。私と一緒。龍の時は2枚でしたが」
「凄い強かったのだ。前もあんな感じで倒したと思うが、今回も」
「ビルガメスは力試しで一緒に来たのです。自分の中に変化が起こったことを知り、魔物退治に参加しました。私は今回、龍気を支えただけ。
能力は前よりも、ずっと強力です。私が来る前まで、彼がイヌァエル・テレン最強だったのです。そこに、私の力も自分の力に取り込んでゆくようなので、今回の威力は」
「あれ。俺要らないのだ。勇者が頑張って旅しなくても」
ハハハと笑うイーアンは、困るドルドレンに凭れかかって咳き込むまで笑う。眉を寄せて『俺、全然要らない気がする』と本気で困っている顔に、イーアンは笑いながら首を振った。
「偶に、です。偶に。始祖の龍は、そういう意味では本当に強かったのでしょう。彼女は地上に一人で降りて、一人で力を使ったのですから。
ビルガメスは、非常に強力な存在ですが、如何せんあの姿・あの力には龍気を使いますため、地上に長居は無理なのです。それは龍状態の私も一緒ですね」
だから、勇者はドルドレンじゃないとダメなのよ・・・と、イーアンは言うが。
ちょくちょく来てもらって、ちょいちょい倒してもらったら、あっという間に、魔物の王まで辿り着く気がしたドルドレンは複雑(※皆が思うこと)。
「それとですね。攻撃の質があります。今日は他に、気にするものがない場所だったから、良かったけれど。
この前の、タムズの手伝いと同じです。あれが首都だったら。ビルガメスが口開けた時点で、相当な人間が消えます(※壊滅必須)」
「ハッ。そうだ!それはマズイ」
でしょ?イーアンは頷く。『私も、町や民家が近いと、嫌ですもの。龍で倒せる場所は限定されます』多分これは、コルステインもそうだと思う、と教えた。ドルドレンはようやく納得した(※配慮必要)。
「そうか~・・・強大な力とは、憧れもするが。しかし大き過ぎると、使うのも難しいのだな」
「気にしないといけません。大津波戦でも、コルステインは躊躇いました。自分の力がどれほど強くても、側に人間がいると、あの方は力を使いません。及んでしまう被害を知っているからです」
実はね。と、イーアンは今回の魔物退治の詳細を話す。
実はそこで魔物を倒したのが、4件目でした・・・イーアンの言葉に、ドルドレンは『?』瞬きして首を傾げると、イーアンは頷いて『あの前に、3件。別地域で出現していた』と答えた。
ビックリする黒髪の騎士に『そっち先に倒した』と普通に言う。
「さ。3件?どこで」
「地名は知りませんが、テイワグナの海の方と、もっと先の山沿いと、反対側のヨライデ国境近く・・・かしら。皆、同じような魔物です。集合していた赤い石が見えました」
目がまん丸になるドルドレンに、イーアンは丁寧に行動を報告した。
① タンクラッドと連絡を取った時は、魔物出現手前。
② ビルガメスが『自分の力を確認したい』と言い始めて(※ワガママ)一緒に降りる。
③ コルステインが動き出したのを感じたので、離れたところから退治。
④ 3箇所終わって、コルステインがまだ倒していないので、移動。
⑤ コルステインの気配が地下に消えたところで、ビルガメス攻撃⇒退治完了。
「こういうことでした」
「そ。そんな。そんなことが。龍サマサマである。コルステインにもサマサマだが」
「はい。いつも、私も気がかりなのですが、私たちの知らない場所でも魔物は出ています。
今回のように、大惨事になりかねない大きさの魔物は、気が付かないと、本当に大変な事態を招くでしょう。
テイワグナは、どうも集まる系統の魔物が多いですから、今後は気配を察知したら、離れた場所は私が行こうと思います。魔物が多い・大きいとなれば、気配も相当ですし、男龍も気付いて下さいます」
うん、と頷く、ちっこい女龍。ドルドレンはじーっと鳶色の瞳を見つめて『小さいのに(※背)。頑張ってくれて』感謝を伝えると、腕に抱き寄せ頭を撫でて『頼もしいね・・・』しみじみ有難さを感じた。
ニッコリ笑うイーアンは、伴侶の腕の中で『戦う時は大きくなります』だからあんまり頑張ってない、と言っていた。
お読み頂き有難うございます。
個人的で申し訳ないのですけれども、精神的に傷を負いまして明日の投稿をお休みします。
明後日か、回復しましたら明日夜の投稿です。情けないですけれど、どうぞ宜しくお願い致します。




