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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
952/2956

952. 館長の約束・イーアン留守の空

 

 イーアンはドルドレンと一緒。ミレイオが手綱を取ってくれる間、荷台でお話の時間。



「どうしたの。おいで」


 ドルドレンはイーアンをよっこらせと抱えて、胡坐の上に座らせる。顔を覗きこんで、元気のない理由を訊ねた。『朝は元気だったのだ』何かあったの、と促すと、しょんぼりした愛妻はぼそっと一言。


「私の顔。変だから」


「また、そういうことを言う。俺が一度でもそんなことを言ったか?最初っから、可愛いとか綺麗だとしか言ってないぞ」


「だって。オーリンが」


「何?オーリン?何て言われた(※だからか!と気付く)」


 イーアンは、パヴェルの家を出た後で、オーリンとタンクラッドが言ったことを伝える。

 ミレイオが怒って二人を追い出してから、慰めてくれたが。『度々、話に上るとツライ』凹む小声に、ドルドレンは可哀相になる。ずっと気にしていることだから、過敏なのは分かるけれど。


 イーアンの顔を覗きこみ、頬を撫でてこっちを見させ『俺はそんなふうに思ったことないぞ』とちゃんと言う。


「オーリンも、そんなつもりはなかったと思う。あれは、言葉が軽い時がある(※龍の民は皆そう)。タンクラッドも逆の意味で使った言葉だろう。しかし伝わり方まで考えていないのだ、あの男は(※天然)。

 イーアンは持ち前の顔に悲しむが、顔で誉められてもいる。それはさておき、悪い方ばかりを気にしてしまう。ちゃんと、良い評価も対等に心に入れておくようにしなさい」


 男龍なんて、皆イーアンが大好きだろう、と。あまり言いたくはないけど、ドルドレンが(かね)てから思うことも伝えると、なぜかイーアンはまた凹んだ。

 薮蛇だったか?慌ててどうしたかと訊くと、『ちょっと違う』と言う。


「何が違うの。ビルガメスはイーアン大好きだ。タムズもそうだし、ファドゥは・・・あれは母愛なのか。しかし、シムもニヌルタも、これはどうか分からんがルガルバンダも。ルガルバンダは思い出もあるだろうけれど」


「男龍の誉める、私の顔や姿は。男性的な条件を良しとした状態なのです。あの方たちは美的感覚が、人間と違うの」


 ぬぅ。ドルドレン、自分がちょっと薮蛇を出したと気付く。でもね、と励ましながら、俯く愛妻を撫でる。


「イーアンは愛されている。顔も可愛いのは確かである。動物とか何とか、言葉を考えずに言うヤツはいるが(※某龍の民)それは可愛い動物のことを言っている。

 この角は小さくて可愛いのだ。ビルガメスが好む理由は分かる(※角くり好き)。イーアンの髪の毛もくるくるしている。目もほら、タレッとして可愛い。

 撫でたくなるのは、可愛いと思うからだ。中年とか気にしているけれど、中年だろうが何だろうが、見た目が可愛いのは良いことである」


「有難う」


 ドルドレンは頑張って、あの手この手でイーアンを誉めて励まし、今日はずっと一緒にいようと約束した。

 昼食は、自分が馬車の料理を作ってあげたら、きっと喜ぶ。それも伝えると、イーアンはちょっと表情に明るさが戻った(※馬車の料理⇒肉)。



 そうこうしている内に、馬車は止まり、着いた所は素っ気無い施設。


「着きました。行って来ます、少し待っていて下さい」


 シャンガマックが荷馬車に言いに来て、それからすぐに建物に走って行った。

 ミレイオや騎士たちも馬車を下り、敷地の中を少し歩く。『イーアン、ドルドレン。見て』ミレイオに呼ばれて、二人も外へ出た。


「ここ。資料館?」


 ミレイオは眉を寄せて、そうは見えないとドルドレンに言う。ザッカリアもキョロキョロしながら『この前の資料館と全然違うね』と素朴さに驚いていた。


「館内も違いそうです」


 フォラヴは、午前中なのに真っ暗に見える窓を見て、不思議そう。ドルドレンは彼らの言葉に頷きながら、でもどこかシャンガマックらしいような気がしていた。


「彼に()()場所だな」


「そんな感じですね」


 ドルドレンの呟きに、横に立つイーアンもちょっと笑って、同意見を述べる。目を見合わせて『シャンガマックは()()()左右されるから』思うことを頷き合った。



 その噂の騎士が館の横から姿を現し、後ろにもう一人連れて来た。馬車の前まで来ると、シャンガマックは彼を皆に紹介する。


「この人が史実資料館の館長です」


「はじめまして!でも、もう行っちゃうんですよね。面白そうな人たちに出会ったのに、勿体無いなぁ」


 ハハハと笑うシャンガマックは、館長の背中を押して『ほら、彼女です』とイーアンに紹介。イーアンは褐色の騎士を見て、何やら微妙な気持ち。館長は、イーアンの顔を見て『本当だ』と驚いた。


「あなたが。ゼーデアータ龍の。本当に特徴がそっくりだ。といっても、遺跡ですけれど」


「彼女はイーアン。伝説の龍として運命の導きにより、俺たちと一緒に動いてくれる、龍です」


「あなたとも話せたら良かったなぁ。きっとあなた、まだ知らないこと沢山あるでしょ?私の調査が役立つかもしれないから」


 館長はイーアンに握手を求め、イーアンも握手をしながら『どうして自分が知らないと、この人は気が付いたのか』と、不思議に思った。その顔を見たシャンガマックは、イーアンに微笑む。


「館長は。少し変わった能力がある。俺の加護を見抜いた。『勘が良い』程度の範囲じゃないと思う」


「そうなのですか。それでは考古学も普通の学者より、多くを見つけられますね」


 イーアンは、ブガドゥムの織り手が話していた館長がこの人か、と思い出して、その視点の付け方に感心したことを話した。

 館長は満足そうに、笑みを湛えて頷き『でも、ほら。真実しか記録に残せませんから』と、能力の効果が研究には及ばないことを言う。


「でもですよ。私のような学者も、それなりに役立つと思うんですよね。イーアンにまたお会いしたら、その時、調査から分かったことを伝える時間があることを願います。きっと役立てるはずです」


「その時はどうぞ教えて下さい。今、お会い出来たことも何かの意味があります。楽しみにしています」



 イーアンは館長の話で、情報が得られると理解した。だがそれは今日じゃない。そのうち、いつか。また彼と会う時だと思った。


 シャンガマックは荷物を受け取って『館長が、ここに落ちていたのを拾っておいてくれた』と嬉しそうに総長に伝えた。館長は、シャンガマックが来なかった日に、何かあったと思ったそうで、敷地に落ちていた荷物を保管したことを話す。


「良かったですよ。彼が無事で。だけどこれから、こんなことが多発する旅でしょうから、どうぞ皆さん気をつけて」


 そう言って、総長やイーアンたちの無事を祈った後、ずーっと気になっていた一人に、がっつり顔を向ける館長。いきなり振り向かれて、びくっとするミレイオ。


「シャンガマック。この人、ヨライデの」


「そうです。ミレイオです」


「君が彼のことをあまり話さなかったのは、()()()か」


「すみません。でも俺は言わない方が良いと思ったから。本当は、ずっと会わせたくありませんでした(※正直)」


「んー・・・なぜ、別れ際に。これは意地悪だぞ」


 えっ。ミレイオはこの会話に眉をぎゅ―っと寄せ、目を爛々と光らせて自分を見つめるおっさんに怯える。『何。何よ、私に何か用なの』戸惑うミレイオに、館長はにじり寄る。


「すごい刺青だな。秘法そのものじゃないか。あなた、ヨライデの人だって、シャンガマックに聞いたけれど。こんな時代の刺青そのままなんて、絶対、()じゃないでしょ」


「うぇっ。何なのよ、このおっさん。ちょっと、イーアン!こっち来て!」


 ドルドレンから、ささっと離れ、イーアンは急いでミレイオの伸ばした腕の中に入る(※落ち着くための座布団)。

 ミレイオはイーアンをがっちり抱き締めて『この人、怖いんだけど』と困って囁く。イーアンも何て言ったら良いものか困るけど、頑張って言うことは言う。


「ミレイオにあれこれ聞かないで下さい。魅力的な方だけど、詮索をされて喜びません」


「そうか。イーアンとミレイオか。この二人だけでも・・・・・(※聞いてないし、狙いを定める)」


「館長、()()()ここでお別れですから!また会ったら、その時に話しましょう」


 目つきの変わった館長に、シャンガマックが慌てて間に入り、館長を押し戻す。

 何か怪しい館長に、不安になったドルドレンも、イーアンとミレイオをそそくさ馬車に押し込んで『隠れていなさい』と言うと、扉を閉めた(※確保)。


「それじゃ、館長。また!ええっと」


「タサワンだ。この前、君に持たせた資料の巻末に地図がある。タサワンの村へ」


「あ、はい。じゃ、また!」


 シャンガマックは、驚きで固まるフォラヴに馬に乗るよう指示し、目を丸くしているザッカリアを抱えて御者台に乗せると、総長に頷いて出発の合図をして馬車を出した。


 ドルドレンも急いでついて行く(※館長が変でイヤ)。『それではな。部下が世話になった。あなたも気をつけて』お別れの挨拶をして、ドルドレンは敷地を早々抜け出す。

 館長は逃げ出した馬車を見送り、『タサワンでまた会おう』ニヤッと笑って呟いた。



 前を進むシャンガマックの馬車の後を追うドルドレン。

 最後に交わした部下と館長の会話から、やはり次の目的地は、彼が決めたと理解したが。


「あの人。きっとその目的地に来るのだ。イーアンとミレイオが危ない」


 思うに『伝説の龍のイーアン』と『謎めいた刺青のミレイオ』は、彼の食指を動かしてしまったのだ。

『ミレイオが()じゃないって。バイラも見抜いたけれど、テイワグナは変わってる人が多い』困る総長は、どうやってこの二人を守ろうかと悩む。


 それは荷馬車に突っ込まれた二人も同じ。

 動き出した馬車の扉をそっと開けて、外を確認しながら『あのおっさん、もういない』とミレイオは不安そうに呟いた。


「バイラも私を見て、すぐに『違う』って口にしたけどさ。あのおっさんみたいなコワサはなかった」


「そうですね。私の場合はまだ、その。遺跡に似た姿があるから、ああした反応は今後もあるだろうと思っていますが。まさかミレイオに食い付くとは」


「やめて。食い付かれて良い男と、好みじゃない男もいるのよ」


 ですね・・・イーアン、謝る。ミレイオは不安丸出しの顔で、イーアン座布団を抱えて『今日、あんたが居てくれて良かったわ』と怖がっていた(※自分、研究対象と知る)。


 時間は11時前。馬車はシャンガマックの案内で、次なる目的地『タサワン』方面の道へ進んだ。



 *****



「つまらんな」


 ビルガメスは、ふーっと息を吐き出して、ごろんと転がった部屋で赤ちゃんをあやす。少し離れた場所で赤ちゃんたちを抱っこするタムズは、転がったビルガメスに『君が寝ると狭いよ』と注意。


 片肘を突いて頭を乗せるビルガメスは、嫌味なタムズにちらっと目を向けて『お前まで機嫌を損ねて』やれやれ・・・その辺の赤ちゃんを摘んでお腹に乗せる。


「ビルガメス。起きてくれ。子供がつぶれる」


 シムに足をぺちっと叩かれて、ビルガメスは渋々、体を起こした。『シム。叩かない』きちっと叱ると、シムは無言で頷いた(※逆らわない意思表示)。大きな男龍の足の下につぶされかけていた子供を助け出し、『困ってるだろう』と彼に見せるシム。


「俺の重さ程度。子供たちは痛くも痒くもない」


「そうじゃない。苦しいかどうかだ」


 シムは助けた子供にマムッとされて笑うと、その子を床に放す。5~6頭の子供たちを抱えたタムズは、首を振り振り溜め息。


「どうして。子供部屋に君たちが居るのかね。家に戻れば良いのに」


「お前に返そう。なぜお前がここに居るんだ。俺は毎日だぞ」


「俺も最近はよく来る。不自然じゃない」


 タムズの一言に、ビルガメスとシムがやり返すが、扉が開く音に3人は苦笑い。開いた扉の向こうに、うんざりしたような顔のルガルバンダ。


「何で居るんだ。ここで何してる」


「お前こそ、何で来たんだ。俺たちが居るくらい分かるだろうが」


「ビルガメスに聞いてない。なぜ溜まってるのかと思ったから、来たんだろ」


「もうちょっと静かにしてくれ。子供が集中できないよ」


 言い返したルガルバンダの声に、2階からファドゥが下りてきて注意する。『ジェーナイが頑張ってるのに』龍気を乱さないで、と頼みに来た。


 シムはファドゥを据わった目で見つめ、『あと一人だな』と呟いた。その言葉通り、すぐに扉が開いて『なぜ集まってるんだ』とニヌルタの声が響く。

 可笑しくなったシムが笑い出すと、タムズも笑う。つられて全員で笑って(※来たばかりのニヌルタも)子供たちも一緒になって笑った(※赤ちゃんは連鎖反応)。


「(ニ)イーアン。今日はいないだろ?どうしてここに男龍が集まってるんだ」


「(ビ)偶々(たまたま)だ。俺が先に来ていた」


「(ファ)私が一番最初だよ。ジェーナイと毎朝一緒だから」


「(タ)私は伝えに来たんだ。私が今日、中間の地に出かけることを」


「(ル)それは俺がお前に、イーアンが来ないことを話したからだろ?オーリンが俺に言いに来た」


「(シ)俺は子供を迎えに来ただけ。タムズは中間の地で、時間稼ぎする気だな」


「(タ)それの何がいけないんだね。私の能力だろ」


「(ビ)本当に来ないなら、俺が行こう」


「いつもビルガメスはそうやって!!」


 ビルガメスの一言に、全員が同じ反応をし、うっかり叫んだファドゥは口を押さえる。『ジェーナイの気が散ってしまう』ダメダメ・・・ファドゥはそそくさ2階に戻った。



 むすっとするおじいちゃん。『お前たちは』何て心が狭いんだとぼやく。タムズが睨みつけるが、ビルガメスはそっぽを向いて子供をあやす。


「あいつに愛されている。俺も愛しているんだから、会いに行くのは変じゃない」


()()()()()()愛しているんだよ、イーアンは。思い込みって言うんだよ、そういうの」


「お前に言われたくない。お前だって思い込みだ。ドルドレンを愛してるとか何とか」


「私はちゃんと、彼に確認を取っているよ!彼も私を愛してるんだから、ビルガメスと違うんだ」


 ちょっとキレかかるタムズに、おじいちゃんは面倒臭そう。他の男龍も、この二人の言い合いに干渉しないようにしているが(※どうでも良いから)一日くらい、イーアンを放っておいてもと思う。


「もう良い。私は行く。ビルガメス、来ないでくれよ」


「タムズ・・・お前は、本当に」


「聞きたくない。放っておいてくれ。じゃ、行くからっ」


 抱っこした子供たちを、腕の空いているニヌルタに渡すと、タムズはイライラしながら出て行った。

 出て行ったタムズを見送った男龍4人。ファドゥの声が聞こえる2階を見て、ルガルバンダが立ち上がる。


「俺はまぁ。()に降りるほどでもないからな。ジェーナイの様子を見てくる」


 ルガルバンダは、子供部屋に来た(ついで)・・・呟きながら2階へ上がった(※孫気分)。

 ニヌルタとシムは、お互いの目を見て『子供引き取って帰る』と無難な提案。それぞれの子供を、適当に捕まえて抱え込み(※赤ちゃんはイヤイヤしてる)ビルガメスに軽く挨拶すると、戻って行った。



 残されたビルガメス。寝転がって(※男龍基本形)近くの赤ちゃんの角を摘んでくりくり。小さい体なので、くりくりされると体ごとクルクル回る。それが面白くて、ビルガメスが何度かくりくりしてると、赤ちゃんが倒れた(※目が回る)。


「何だ。こんなことで倒れて(※おじいちゃんは人のせい)」


 男龍ならしっかりしろ、と無理を言いながら、フラフラしている倒れた赤ちゃんを、抱っこしてやるビルガメス。


「イーアンがいないからだ。イーアンなら目を回すこともない(※角くりで体が回らないから)」


 ビルガメスは片手に抱っこした赤ちゃんをそのままに、別の赤ちゃんの角もくりくりしたが、結果は同じだった(※腕に抱える子供が増える)。


「ふーむ。つまらん。何で来ないんだ。俺が行く前にタムズが行ってしまったし。俺の用はどうしたもんかな」


 イーアンが来たら、ミレイオのことを聞こうと思っていたのもある。

 おじいちゃんはタムズに怒られたので、中間の地に行くことも控えなければいけない(※自覚はある)。どうしようかなと思いつつ、方法はもう決めてあるので。



「仕方ないな。タムズがまた嫌味になりそうだが」


 フフンと笑って、ビルガメスは子供たちをあやす手を休めて、目を閉じた。真っ直ぐ伸びた一本角が柔らかく光る。ビルガメスは集中する。心の中で、イーアンを呼びながら。

お読み頂き有難うございます。

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