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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
948/2955

948. 〆の日

 

 朝一でイヌァエル・テレンへ向かったイーアンは、ビルガメスの助言によって、子供部屋へ移動してから、ルガルバンダを呼んだ。



 嬉しそうにやって来たルガルバンダ。

 子供部屋の建物近くまで来て、ビルガメスの気配を感じ、機嫌が下降した。何かあるなと勘繰りながら、子供部屋へ入ると、案の定、デカい男龍とイーアンが一緒。


「来たか、よしよし」


「よしよし、じゃない。何でビルガメスがいるんだ」


 自分中心のビルガメスはハハハと笑って、ルガルバンダに側に座るように指示。イーアンはちょっと申し訳ない気持ちで苦笑いして、ルガルバンダに朝の挨拶をした。おじいちゃんは、その辺を指差す。


「小さいことを気にするな。そこに座れ」


「イーアン。俺の子供たちと、俺と一緒に過ごすんじゃないのか」


「それは今日じゃなくても良いだろう。ちょっとな。お前にしか聞けない内容の話だ。だから呼んだ」


「どうしてビルガメスと一緒なんだ。朝も一緒だったのか?話なら、彼には帰ってもらって」


「別に俺が居ても問題ないだろう。お前は神経質だなぁ」


「ビルガメスに言ってないっ!」


 笑いそうになるイーアンは頑張って堪える。ルガルバンダはイーアンに質問しているのに、ビルガメスが横から答えて邪魔をするので、怒っている。

 イーアンは彼にやんわり謝って、朝にビルガメスに相談したら『ルガルバンダに話を聞こう』と言われたことを伝えた。


「俺に直に言えば良いのに。分からない内容だったのか?」


「あのな。朝だけじゃないぞ。夜中も来たんだ。俺のところに真っ直ぐ」


「黙っててくれよ!」


 おじいちゃんの横槍に、ルガルバンダがイヤになって叫ぶ。

 イーアンは笑いながら、ビルガメスに『私が話すから』とお願いして、しばらく静かにしてもらうよう頼んだ。おじいちゃんは不満そうだが、何となく承知してくれた(※形だけ)。


「イーアン。ビルガメスにばかり頼るな。俺にも頼れ。俺に話ってことは、昔の旅に関わるんだろう?」


「そうです。でも最初からそうとは分からなかったのです。それで」


「まぁ良い。何だ?何に困ってる。何を知りたい」


 喋りたくてうずうずしているおじいちゃんを気にするルガルバンダが、大きい男龍に嫌そうな目を向けて『早く』と急かす。イーアンも急いで(?)掻い摘んだ重要な点を伝えた。



「シャンガマック。シャンガマック?俺はそいつを知っているか?」


「バニザット、と」


「うん?バニザットと言ったか。それは過去の男だろう。ズィーリーを導いた僧侶だ」


 イーアンは、彼が僧侶だとは知らない。話を戻して、シャンガマックの名前がバニザットであることをちゃんと教えると、ルガルバンダは目をすっと開いて、ビルガメスを見た。


 大きな美しい男龍は『だろう?』と余裕げに微笑んで返す。ルガルバンダも、なぜ自分にその話が来たのか理解する。

 そして、目の前で分からなさそうに眉を寄せる女龍に、言える事だけ選んで話し始めた。


「あのな。イーアン。そのバニザットという過去の男。俺は、彼と殆ど話したことはない。だが、ズィーリーから何度も彼のことは聞いている。

 彼は賢い男だった。そして恐れ知らずでもあった。お前たちの仲間に、お前を攫った者がいるだろ?あれと仲が良かった男だ」


「何ですって・・・あの、サブパメントゥの」


 そうだ、と頷くルガルバンダ。『そいつだ。その者は、今回の旅の仲間の名前を、知ってるかどうか分からん』だから推測だけ話すぞ、と続ける。


「その者が、お前の仲間と遺跡を探ろうとしている。それは昔からだ。シャンガマックを選んだのは、過去のバニザットと、繋がりがあると知ってか知らずか。

 しかしこの『二人のバニザット』には、共通点がある。同じような立ち位置だから、もしかすると」


「あのクソヤロウ。シャンガマックに」


「イーアン。そんな言葉を使うな。俺の心を(えぐ)るな(←最初に散々言われた人)」


 ルガルバンダが金色の瞳を真摯に向けて、静かに女龍の言葉を制する。イーアンはハッとして頷く(※うっかりさん)。後ろで、おじいちゃんも目が据わっている。


「だから。もしかすると、その者が()()()バニザットに、強く関わる可能性はあるだろう」


「そんな。過去のバニザットは仲が良かったと言っても。現在のバニザットは、例えもしも・・・直系の子孫だとしても別人です。あんなクソ」


「こら。イーアン(※叱る役目)」


 さっと振り向くイーアンに、おじいちゃんがじっと見つめる。イーアン、小さく首を振る(※抵抗する気はない意思表示)。咳払いしたビルガメスはイーアンを呼んで、胡坐の上に座らせると、角を摘む。


「自分の言葉を考えて、使う」


「はい。でも」


「言葉は、考えて使う。分かったか」


 角も摘まれて、うん、と頷くイーアン(※目が据わってる)。おじいちゃんはもうちょっと叱る。


「お前の言葉に、汚れたものを入れるな。それは血肉のある生き物に(まつ)わる汚れだ。魔物を食べないのと同じだぞ」


「食べていません。一回しか(※それにあれはタコだ、と今も思う)」


「こら。そうじゃないだろう。言葉を考えて使うんだ。いいな?」


 角をぴっと持ち上げられて、不服そうな顔のイーアンは、何度かうんうん頷いて(※投げやり)おじいちゃんに逆らっていない態度を示し、ようやく解放された。


 このビルガメスの躾けの間。ルガルバンダはその光景を、昔、自分もやられたなと思いながら、じーっと見ていた(※思い出す幼少期)。



 それから、話を戻したルガルバンダは『その者は仲間だから、危害を加えることはない』と、それを伝えてイーアンに答えとした。

 ビルガメスもそこは同意する部分なので『シャンガマックにその状況を直接的に作ったのは、恐らくその者ではない』ことも加えた。イーアンはそれが知りたいので、もう少し詳しく頼む。


「俺も推測だ。命に関わるようなことは起こらないと判断しているから、推測で話す。

 サブパメントゥの男と一緒に動いているとしても、シャンガマックの体を崩すことは出来ない。それだけ精霊の加護の方が強いからだ。

 だから、彼の目覚めない状態は『サブパメントゥによることではない』と言えるんだ。一緒に動いているとしても・・・まぁ、ここからは言うこともないだろう」



 ――おじいちゃんとしては。

 シャンガマックを捉まえたヨーマイテスは、遺跡を探っていると知っているだけに、その『遺跡の情報』は伏せておくつもりの部分。

 イーアンたちにはまだ早い情報だし、それにモノによっては、知らなくても良いと判断していた。


 これはルガルバンダも同じだった。遺跡については、出来るだけ黙っておきたい話。知りたがりのイーアンだから、余計に、彼女が引っかかる言い方には気を遣う。


 思うに。ヨーマイテスが連れて行った()()()()で、シャンガマックは意識を失った状態に陥ったのだと、それも見当が付いていた。()()()()()()()()無事だったとしても――



 こうしたことで。イーアンは『何か、別の原因が働いたことによる、シャンガマックの状態』と認識し、また『あいつ(←クソヤロウ)はシャンガマックと一緒かもだけど、シャンガマックは常に加護の下で無事』とも理解するに至る。

 さすがに。イーアンにも、想像以上に値する『遺跡の()によって』とした仮定は、微塵も頭に浮かばなかった ――この後、試行錯誤するまでは。


 イーアンは男龍にお礼を言って、解釈を余計に拡大しないように気をつけると話し、午前中は二人の男龍と一緒に子供部屋で過ごした(※どっちも粘って帰らない)。




 *****




 本部で頑張るドルドレンたちは、演習に身が入らないまま、午前を過ごす。


 模範演習はない日なので、朝から昼まで演習の設定だったが、団員に教えながらも、意識はシャンガマックの安否の懸念にちょくちょく飛んだ。


 特にそれが怪我を招いたり、誰かの邪魔になることはなかったにしても、騎士たちの気持ちは落ち着かない状態で、ここ最近の肉体的な疲れとは異なる、不安にとらわれる疲労を溜めた。



「心配だ。どうしただろうか。まだ、あのままなのか」


「連絡珠、パヴェルに渡したら良かったのか。気になる」


「シャンガマックに何かあっても、ここからじゃすぐに行けない。龍を呼ばなければ」


「悪くなっていないと良いが。精霊が守っていると言うけれど、食べていないし、水も飲まない」


 ずっと気にしている総長に、バイラも部下も、相手にしては宥め『大丈夫だと思う』『自分たちも心配』と答え続け、皆も心配が拭えないまま時間を過ごした。


 こうして昼を迎える。

 バイラは食堂へ着くなり、食事を執務室へ運ぶと言い、追い込みの手続きをやっつけに行った。副団長は今日も付き添ってくれたので、彼を交えて騎士たちも昼食。そわそわしている総長の様子に、副団長は理由を聞いた。


「仲間が。俺の仲間の一人が、部下なのだが。具合が悪くて」


「え?それは気の毒に。大変なのですか」


 深くは話さないものの、起きないことなどを話す総長の顔が本当に悲しそうで、副団長は『馬を貸すから、昼休みに容態を見に行っては』と提案した。


 ドルドレンもハッとして、それが出来ればそうしたいと答え、昼を食べてすぐに、馬を走らせようと決める。その時、屋上へイーアンを迎えに行ったザッカリアが戻り、イーアンとオーリンも昼食の席に加わった。


「イーアン。シャンガマックが心配だ。見に行ってくる」


「ドルドレン、ちょっとお話したいことがあります」


 開口一番、『お帰り』よりも前に伝えられた言葉に、イーアンは伴侶の胸中を察するものの、ちょっと待つように言う。ドルドレンは首を振って『何かあったら大変だから』と、行かせてくれるよう頼む。

 気持ちの急ぐ伴侶にイーアンは頷きながら、小さい声ではっきり、ドルドレンに大切なことを伝えた。


「あの状態について、()()幾らか、可能性を聞きました」


「可能性?男りゅ・・・あの、()()


「そうです。その可能性が強いとしたらですけれど、シャンガマックのあの状態は一時的です」


「教えてくれ。何を聞いたのだ」


 イーアンは、自分の昼食をそのままにしてもらい、ドルドレンと一緒に廊下へ出ると『男龍に聞いた話です』と前置きして伝えた。


 話を聞くだけ聞いたドルドレンは、少し考えてから『可能性?』そこを強調して聞き返す。イーアンもそれはそうだろうなと思うので頷いた。


「そうです。でも私たちが考える可能性より、遥かに事実に近い可能性に思います。

 実感したのは、朝もあなたに話したことですけれど、『流した龍気が受け付けられなかった』ことです。精霊が守っているから、彼の無事な状態を保っていると解釈すると、原因は何であれ、彼は無事なのです」


「本当に・・・そうだと思いたい、が」


「信じるのは難しいと思います。でもシャンガマックは、何度もあの大きさの結界を、精霊の力を借りて作れるような人です。精霊に意識を持って行かれても、彼はこなしています。

 そこまで強い力を使いこなせるシャンガマックが、今は精霊の加護まであると言うのに、サブパメントゥの男がどうにか出来る気がしません」


 これは、ビルガメスに言われてそう思った、とイーアンは話す。ドルドレンも、そこまで説明されると、信じられるようになる。


 イーアンは、廊下の壁に掛けられた時計を見て『容態を見に行くなら』と、伴侶に確認する。ドルドレンはちょっと黙ってから、『いや。俺も男龍の教えてくれたことを信じよう』小さな声でそういった。



 食堂を抜けたのは、ほんの5分程度。中に戻って、イーアンは食事を急ぐ。副団長に、馬で出かけるかどうかを訊ねられた総長は、新しい情報が入ったことで、今は行かないと答えた。


 イーアンは食べながら思う。


 理由。もし、あの男と一緒だとしたら―― 遺跡絡みだろう。もしかすると、遺跡の中で何かがあったのかも知れない。

 魔物が居たとかじゃなくて、何か・・・シャンガマックが意識を失いかねないような、出来事が。

 それを精霊が咄嗟に守ってくれたのではないだろうか。その可能性を想像してみたものの、それ以上は何も思いつかなかった。


 何にせよ。男龍に話した内容は、ドルドレンから部下たちにも伝えられ、皆は午後の講義に出席した。


 イーアンも、これが本部で最終講義になるかもと思って、『環境判断』『状況利用』の話を中心に、黒板ならぬ白い紙に図を描いて教えた。今日の講義が一番、なぜかウケて(※怖くない)皆さんは良く学び、良い講義として終えた。



 講義が終わった後、副団長は数日間のお礼を騎士たちに伝えた。


「もう、バイラが。明日からは出向です。あなた方と共に行動出来る準備は整いました」


「明日から。では、今日もう」


「はい。もう少し掛かるかも知れないですが」


 副団長は時計を見上げて、彼が執務室から出てくればそれで、と伝える。

 ドルドレンたちは、副団長及び団長の理解と協力に、重ね重ね感謝し、外の馬車でバイラを待つ伝言を頼み、団員たちにもお礼を言いながら本部の外へ出た。


 ラシディが追いかけてきて、ザッカリアの名前を呼んだ。


「バイラが動けるようになったら、もう行くんだろ?」


「そうだよ。テイワグナを回るんだ」


「気をつけるんだぞ。人の多い所で走るなよ。慌てないようにして」


 ちょっとだけ仲良くなったお兄さんのラシディに、今後の無事を祈られて、ザッカリアは微笑んでお別れの挨拶をする。


「バイラが羨ましく思うよ。警護団でも新しい仕事を作ったんだ。彼は強いし、勇敢だからきっと皆の力になる。警護団の未来を彼は開くだろう。

 俺は、本部の分館から動けないけれど、応援してるからね。またいつか会おう。元気でな」


「うん。首都に来ることがあったら、またラシディに会いに来るよ。元気でね」


 ラシディはザッカリアの頭を撫でて、総長たちにも笑顔で挨拶し、イーアンとオーリンにも『龍に守られている感謝を』と握手を求めた。旅の一行も、気の好い青年と握手を交わし、彼らの無事を祈る。


 お別れを済ませたラシディが、建物に戻ったのとすれ違いで、裏庭口の向こうから黒い馬が現われた。


「総長!お待たせしました」


「バイラッ」


 皆でバイラを迎える。『一日早く済みました』頑張った甲斐があった、と笑うバイラから、山のような資料を受け取って、ようやく旅の皆は本部を後にした。


「戻るぞ。パヴェルの家に。シャンガマックの状態は心配だが、明日には出発だ」


 バイラの馬と並んだ馬車の手綱を取り、横にザッカリアが楽器を奏でる帰り道を、ドルドレンは気持ちを入れ替えて進む。扉を開けている荷台に座る、オーリンとイーアン、フォラヴも、切り替える気持ちを胸に、離れて行く本部を見つめていた。



 馬車と黒馬は郊外の道に出て、暮れ行く空の下を貴族の館に向かう道。向こうからも馬車が近づいて、さっと手を上げた御者はタンクラッド。


「遅かったんだな。バイラと一緒か」


 大きな声で剣職人が挨拶し、ドルドレンも『明日出発だ』とすぐに答えた。旅の一行が全員揃って、馬車は中間で曲がる道へ。パヴェル邸の敷地へ入った。


 馬車小屋に向かう煉瓦の道をすれ違う、小さな馬車を何気なく見送り、馬車を小屋に入れた後。


「お帰りなさいませ。皆様お揃いで戻られて、丁度良かった。お疲れ様でした」


 いつもは中にいるリヒャルドさんが、待っていたように現われて、少し落ち着かない顔で旅の仲間を見渡す。

 御者台から下りたドルドレンは、彼に帰宅の挨拶とお礼を返すと、リヒャルドさんはニコッと笑った。


「シャンガマックさんが目を覚まされました」

お読み頂き有難うございます。

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