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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
946/2954

946. 旅の三十三日目 ~夜中の相談・朝方の相談

 

 真夜中に起きたイーアンは、伴侶の足元でそっと目を開ける。


 暗い部屋の中、ゆっくり体を動かして、伴侶とシャンガマックを見てみると、伴侶は彼のベッドに上半身を凭れかけて眠っている様子。シャンガマックも、見た感じは何も変わっていなかった。


 少し考えてから、部屋にある窓をイーアンはそーっと開けた。それから星空を見つめて、やっぱり行こうと決めると、伴侶が起きないように気にしつつ、窓から出て、静かに窓を閉める。


 裏庭に面した部屋なので、特に誰も見ていない暗がり。イーアンは翼を出し、一気に空へ飛んだ。



 イーアンの龍気が増え、あっという間に空へ向かったのを、親方の部屋にいるコルステインだけが気が付いていた。コルステインは、イーアンがシャンガマックのことを、自分の仲間(龍たち)に聞きに行ったのかと察した。


『龍。助ける。する。コルステイン。ダメ。龍。頑張る』


 自分には出来ないこと・・・コルステインはそんな気がしている、今回のシャンガマックのこと。


 龍も精霊と違うけれど、まだ、龍の方が精霊に近づける。イーアンは精霊も、妖精も、サブパメントゥにも近づく。きっとイーアンなら、何か分かると思った。


 コルステインの声なき独り言。腕の中に眠るタンクラッドが、もぞもぞ動いたので、コルステインはすぐに思考を止めて、彼を抱え直すと、ナデナデしながら(※親方もナデナデで落ち着く)自分も目を閉じた。


 コルステインは誰にも言わなかったけれど。はっきりしないから、言わないこと。それに、何か理由が分からないから言わないだけのことがあった。


 多分、ホーミットが側にいたのだ。


 シャンガマックの倒れていた場所の周辺に、ホーミットの気配が残っていた。

 でも。ホーミットにシャンガマックが何かされたとは思い難く、精霊の力の方が強く感じたのもあって、何かあるようなと・・・それ以上は想像がつかない(※コルステインには難しい)ので黙っていた。


 夜空色の体のコルステインは、考えるのを止める。一度、翼をぐーっと伸ばすと畳み直して、片翼で腕の中のタンクラッドを覆い、そのまま静かに眠りについた(※寝ないけど)。



 *****



「ビルガメス」


 お空に着いたイーアンは、静かにビルガメスの家の中に入る。赤ちゃんがいるので、起こすと後が大変(※一気に遊び始めるから)。そーっとそーっと中へ入って、ビルガメスの名前を小声で呼ぶと、奥のベッドに、柔らかく光る大きな体がゆっくりと動いた。


「こっちへ来い。イーアン」


 低い落ち着いた声で、片腕を伸ばし、ベッドに寝そべったままのビルガメスがイーアンを呼ぶ。

 月明かりの差し込む部屋を歩いて、そこかしこで、ぼんやり光る赤ちゃんを避けながら、イーアンはベッドの側へ進んだ(※赤ちゃんはその辺で丸まって寝てる)。


「すみません。夜中に」


「何だ。一緒に眠るか」


 おじいちゃんはご機嫌。夜中の来客はイーアンと気が付いていても、やって来てくれれば、それは優越感。ベッドに女龍を座らせてから、横に寝るように示す。


「いいえ。眠るつもりではないのです。聞きたいことがありました」


「言ってみろ。何かあったのか」


 イーアンは腰掛けて、丸くなっている赤ちゃんたちに気を遣いながら、ひそひそと囁くようにビルガメスに相談する。



「シャンガマックが。意識がないのです。今日、出かけた時は何ともなかったのに。夕方に倒れていたのをコルステインが見つけました。引き取ったけれど、意識が戻りません」


「ふむ。シャンガマック。精霊の加護を受けた男か。今日一日、一人だったのか」


「最近の彼は、遺跡の話を教えて下さる方に、会いに出かけています。でも今日、コルステインが見つけた時は、彼は一人で倒れていたようですから、それまでのことは」


「コルステインは何か言っていたか?」


 イーアンは直に聞いていないが、親方がコルステインから聞いた話を教えると、ビルガメスは少し黙って女龍を見つめる。その金色の目は、話に何か物足りなさそうに見えた。


「変ですか?」


「いや・・・ちょっと()()()な。コルステインは、伝えていないことがありそうだ」


 何だろうと思って、おじいちゃんの話の続きを待っていると、ビルガメスはイーアンの腕を引っ張って、横に寝かせる。『まずは寝ろ』微笑む男龍の自由さに、ぬぅ・・・と唸って、起き上がるイーアン。


「寝ませんよ。帰りますから」


「朝に来るんだから、このまま眠れば良いだろう」


「そうも行きません。ドルドレンもシャンガマックを心配して、付きっ切りです。

 抜け出してきて、ビルガメスなら何か知っているかと訪ねたのですから、お話を聞いたら私は帰ります」


「お前は冷たい。何でそう、いつも」


 度々『冷たい』と言われるイーアン。目が据わる。

 龍気もなくて疲れ切ってるなら眠って帰るけどさー、と思う(※宿泊は自分の龍気事情による)。そうじゃないんだからと、おじいちゃんを見ていると、眉を寄せられ『そんな顔をするな』と叱られた。


「知っていること、お有りでしょう。教えて下さい。すぐにどうなることではないにしても、如何せん情報が少ないから、心配なのです」


「そうだ。情報が少ない。俺もそう思う。それは()()()()()()んだ」


「どういう意味ですか」


 ビルガメスは、女龍の頭の角をくりっと摘むと、くりくりしながら考える。その『どこまで教えてやろうか』と見える感じに、イーアンは角くりされながら、全部教えてくれたら良いのにと思う(※おじいちゃんは出し惜しむ)。


「俺が見たわけじゃないからな。似たようなことが起こった記憶もないし。

 コルステインが、見たままを伝えているのは確かだろう。しかし()()()()()も伝えているとは思えん。コルステインの判断で、不確かなことは黙るかも知れないな。

 さて。それを踏まえてみるとな・・・・・ シャンガマックは()()()()()()()、その状態なんだろう」


「え。仰る意味が」


「急ぐな、イーアン。話を聞け。お前、シャンガマックに龍気を注いだか」


 やってみたけれど、何も反応はなかったと答えるイーアンに、ビルガメスは納得するように頷いた。


「やはりそうか。龍気はな。精霊の力が弱くなっていれば、入るだろう。シャンガマックを守る力が、何らかの理由で抑えられたとすれば、お前の龍気も彼を強めたかも知れん。だがそうは行かなかった。

 あれだけの精霊の力は、通常であれば、お前の龍気を撥ね退ける。答えは『不要』だからだ。つまり、今も撥ね退けたんだから、精霊の力は弱くはなっていない。

 シャンガマックの意識がないのは、何やら別の可能性はあるが、彼自体は精霊に守られている」


 ビルガメスの説明に、イーアンはじーっと金色の瞳を見つめる。


「その。精霊は分かりました。でも意識がないのはどうしましょう。安全な状態らしいのは安心ですが」


「意識がないのは、別の可能性と言っただろう。俺は知らない」


 ええ~・・・それだけ~~~? 

 おじいちゃんに限らず、今知らなくても良さそうな事をあっさり切り捨てる、男龍の『そのうち分かる』系は、未だにイーアンには慣れない会話。相談しに来たのにと思う(※全部知りたい派)。


 おじいちゃんは、どんなに聞いてもこれ以上は言わなかった。已む無し、イーアンはお礼を言って戻る。

 ビルガメスはイーアンに『明日の朝はここへ直に来い』とここぞとばかり約束させて、はいはいと()なすイーアン(※『貸しだぞ』と言われたから、早めに返す)を見送った。



「ふむ。シャンガマック。やれ、ミレイオだ、予言だ何だと、動いているが・・・ヨーマイテスめ。次はシャンガマックか。

 シャンガマック(あいつ)・・・は、どうだったかな。俺は分からんな。ルガルバンダにでも訊いてみるか」


 ヨーマイテスの動きが、気になるビルガメス。

 早いところミレイオを呼んで、話を聞き出そうと思っているのだが、なかなか都合が合わない。


 ヨーマイテスは、シャンガマックに何を見たのか。その理由を確認するのも大事かなと、明日にでもルガルバンダに話すつもりで、大きな男龍はベッドに戻る。

 その辺でぐっすり眠る赤ちゃんを起こさないように、ちょいちょい脇に寄せて、ビルガメスは眠りについた。



 *****



 翌朝。シャンガマックの上に、覆い被さって眠っていたドルドレンは、目を覚ましてすぐに褐色の騎士の顔を見た。そっと頬に触れて、冷えていないことを確認する。


「シャンガマック」


 どうしちゃったんだろう、と思うものの、何も答えがない。もしも、前の自分のように、気力を抜かれているのだったら。本人も相当困っているだろう。


「聞こえているのかな。シャンガマック。俺を世話しようとしてくれた恩は忘れん。俺もお前を世話しよう(※下の世話とは言わない)」


 額に掛かる淡い茶の髪を、指でちょっとずらす。死んだように眠る、微動だにしない部下を見つめて、ドルドレンは悲しくなった。


「どうしたのだ。本当に。お前に何が起こったのだ」


 誰も知らない、シャンガマックの、この状態。この原因。

 早ければ明日にでも出発だが、シャンガマックを動かして良いのかも分からない。パヴェルの家にいた方が、何かと安全にも思う。


 ふーっと大きな溜め息をついて、立ち上がったドルドレンは、側にある手桶の水に布を浸して絞り、褐色の肌を拭いてやる。

『お前が俺にしてくれたこと。覚えているのだ。俺も同じようにしよう』少し涙が出そうなドルドレンは、呟きながら、自分の声が届いていると良いなと思った。



 横で目が覚めたイーアンも、ぴょこっと頭を上げる(←絨毯の上で丸まってる)。ドルドレンがシャンガマックの顔を拭いているのを見て、イーアンは朝の挨拶をした。振り向くドルドレンも挨拶を返すが、その顔はとても悲しそうだった。


「まだ起きないのだ。苦しいのかどうなのかも分からない」


「私。夜中にビルガメスに会いに行き、相談しました」


「何?ビルガメスに?わざわざ行ってくれたのか。それで彼は何かを知っていたか」


 イーアンは体を起こし、シャンガマックを覗き込み、瞼をちょっと上げて瞳孔の様子など確認してから、伴侶に『彼は守られているようです』と伝える。触れた騎士は、ビルガメスが話していたように、()()()()()()()()()()()


 続きを促す伴侶に、ビルガメスに相談した内容と、彼が答えられる範囲で教えてくれたことを伝えた。


「では。シャンガマックは、精霊によってこの状態で」


「そうみたいです。守られているから、それは大丈夫という感じです。私は昨晩、龍気を流してみましたが、それを彼が受け付けなかったことを、ビルガメスに言いましたら『精霊の力が守っているから』と」


「そうなのか・・・良かった」


 灰色の瞳が潤んで、ドルドレンは片手で口を覆う。イーアンは伴侶の腕を撫でて『この状態については不明』と改めて言い、その理由を今日探そうと思うことを伝えた。


「これから空です。ビルガメスにまた会いますから、もう少し一緒に考えて頂こうと思います」


「有難う。そうしてもらえると、とても助かるのだ。シャンガマックは今日はパヴェルに預ける。俺たちも本部へ行くが、バイラの今日の状況で、明日の出発の可能性も変わってくる。準備もしなければ」


 イーアンとドルドレンは、皆が起きてきたらこの話をしようと決めて、朝食の時間まで細かい予定を話し合った。



 朝食に集まったオーリン除く7人は、シャンガマックの状態を話し合い、パヴェルのいる席なので、今日預けたいことも伝えた。パヴェルはすぐに了解し『うちで様子を見ておく』と約束してくれた。

 それから。いつものように、職人の二人は荷馬車で出かけ、イーアンは一人空へ向かい、残った者は本部へ出た。



 先に出かけた、荷馬車の中年組。


 ミレイオは、茂る木々の中を進む道の途中で、自分は抜けると伝えた。タンクラッドも、それは昨日の内に了解しているので頷くだけ。


「ユータフに宜しくな」


「うん。またどこかで会うかもしれないし。昨日、シャンガマックのことがあったから、皆に言いそびれちゃったけど、今回は今回って感じね」


 昨日の昼。約束どおり、ユータフのいる工房へ出かけたミレイオは、彼が戻る前に工房に入り、そこでユータフの親に用件を伝えた後、幾つかの在庫を見せてもらえた。


 羽振りが良いふうには見えなかったが、ミレイオが見せてもらった羅紗はとても綺麗で、一つ一つに気配りが行き届いていた。良い作品であることを誉めて、気に入った色の羅紗を買う相談をしていたら、ユータフが戻った。


 彼の親は、最初だけミレイオに少し驚いただけで、後は普通に接していたため、ミレイオと親が問題なく、喋っていた姿を見たユータフの方が、とても驚いていた(※親の順応性にビビる)。


 そんなこんなで、ミレイオは持って来た金を(※親方から奪ったお金)手付金にして渡し『残りは翌日持って来る』とした話でまとめて、その日は炉場へ戻った。それが昨日。



「ここらで行こうかな。羅紗、結構あるから。買ったら炉場に向かうわ。この馬車に積んじゃう」


「そうしろ。パヴェルの家まで運ぶと二度手間だ」


 じゃあね・・・ミレイオはお皿ちゃんを出して乗ると、朝の空を、首都の中に向けて飛んで行った。見送る親方。『金。随分威勢良く使うな』ぼそっと一言呟いた(※昨日お金返してもらったから、落ち着いてる)。



 *****



 朝一番で、シャンガマックの話を出来るだけ多くしたい、イーアン。ビルガメスの家に向かって、浮島の朝陽の中に降り立つ。


 イーアンが翼を畳むと同時に、赤ちゃんたちがわらわら出てきて、イーアンを迎えてくれた。笑いながら皆を抱っこして(※抱っこ出来ない数がいるけど)一緒に家の中に入ると、お父さんビルガメスも出てきて挨拶。


 幻想的な朝。いつも思うけれど、神殿のような家に住む男龍が、朝陽の中を出迎えてくれる姿は、彼らの子供たちの龍もいるために、毎日見ていても信じられないほど素晴らしく、毎日感動するイーアン。


 それを伝えると、ビルガメスは笑って女龍の背中を押し『お前もここに住めば良い』そうすれば見慣れると・・・安直な提案をしてくれた(※ちょくちょく誰かに言われる提案その1)。


「イーアン。お前の顔を見ていると、俺のことよりも別のことで頭が一杯だな」


「そんな言い回しをあなたもされますか。ビルガメスは時々、人間みたいな言い方をしますね(※おじいちゃんで頭が一杯になった記憶が特にない)」


 へぇ~と思うイーアンは、人間っぽい感じに反応。

 ビルガメスはちょっと面白くなさそうに、女龍の顔を覗き込むと『俺が人間みたいなんじゃない。俺のような感覚を、()()()()()持ち出すだけだ』きちっと訂正された。



 了解して大人しく頷き(※おじいちゃんは引っ張ると煩い)イーアンは早速、シャンガマックの相談。


「理由を一緒に考えて下さいませんか」


「シャンガマックだな?それは俺じゃないな。今日、ルガルバンダを呼べ。子供部屋に呼んで、()()の話を聞くんだ」


 イーアンは、突然出てきた『当時の旅』の言葉に、さっと顔を向ける。ビルガメスは薄っすら笑っていて『決定じゃない』とだけ断る。


「でも、お前も分かっていそうなもんだがな。気がつかないのか」


「何をです。私は何かを知っていますか」


「お前。今日は持っていないが、いつも剣を持っていただろう。あの剣に()()が出ていたと思うぞ」


 群がる赤ちゃんを抱っこしながら、イーアンは急いで記憶を巡らす。大きな美しい男龍も、自分の子供たちをひょいひょい手に持つと、まとめてベッドの上で遊ばせる。


 ――何だろう、何のことだ。記憶を辿るイーアンは、剣の示唆=剣に書いてあった名前、くらいしか考え付かない。

 名前・・・シャンガマックの話から、剣の示唆。剣に書かれた仲間の名前。ハッとして男龍を見る。


「バニザット。彼は、確か昔も、同じ名前と。自分は祖先の名を貰ったとか」


「ほう。そうか。俺は『当時』の輩に馴染みはないが、お前の剣に、お前とドルドレン、コルステインなんかだな。その名を見た時に、剣に名前を示されるとは、随分優しい手配だと思ったんだ」


 文字を読んでいるのではなく、ビルガメスには伝わるだけ。文字の種類など気にもしない男龍は、その文字や模様に重なる意味を、感じて読み取る。


 そして、その名前の列は、恐らく以前の旅の仲間にも通じているだろうと、見当を付けていた。



「ビルガメス。もしかして、そのバニザットという名の男性が。その方の何かが、今回シャンガマックに影響していると、そう仰っていますか」


「俺はどうとも。後はルガルバンダに聞いてみろ。面白そうだからな、俺も一緒に行って聞くつもりだ」


 何でも知っていそうなのに、どこからどこまでを隠して、どこを引っ張り出して話しているのか。全く読めないビルガメスにイーアンは笑った。ビルガメスも少し笑って首を振る。


「お前が知りたいことは、恐らくすぐに分かるだろう。しかし俺が知りたいことは、そう、すぐでもなさそうだ」


 不思議なことを呟いたビルガメス。その続きは言わなかった。

お読み頂き有難うございます。

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