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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
944/2953

944. ユータフ再会・魔物が出たらこうしましょう講座2

 

 あの後。買い取り屋に頼まれて、もう一度出かけたミレイオとタンクラッドは、ユータフの口添えによって、思いがけず収入が増えた。



 ――ユータフは馬で動いていて、親の店の配達で、炉場のある地区に出かけていた朝。


 一軒目の営業先から出た時。馬に荷を積みなおした際、通りの向こう、派手な服に目が向いた(※ミレイオ)。

 一瞬、()とも思わなかったが、あまりに派手なので、どんな布なんだろうと見つめたら。横にいる背の高い男を見てハッとした。


「派手なのは、ミレイオだ。あのおっかない職人と。何してるんだろう、こんなところで」


 さっと見渡し、馬車がないので、どこからか歩きで来たのかと見当をつける。


 話しかけたい衝動が、不思議なことに湧き上がる。

 自分は、彼らに嫌な思い出しか残さなかった、短い日数。それでもユータフは、何でもいいからもう一度、彼らと繋がりたい気持ちに駆られた。


 と、思ったところで。実際にどう話せば良いのかも分からないし、顔を見せたら追い払われる確率の方がずっと高いことくらい、一秒間の躊躇いで本能的に理解していたユータフ。

 ただ、目を離すことも出来ないし、このまま話すことが出来ないかもしれないと分かっていても、それでも目で追いかけた。


 すると、並びの店屋から男の人が慌てたように出てきて、二人に何かを話しかけた。彼らはちょっと立ち話をした後、すぐに扉の開いたままの店に入った。


 ここまでが、ユータフが見ていた場面。


 ぼーっと向こう側の通りを見ていた若者に、馬をどかすように大人が命じ、ユータフは急いで馬を引っ張って動かす。

 次の配達先に行かなければいけないので、已む無く気持ちを切り替え『ここで会ったのも何かあるんだと思うけれど』そう呟いて、白い鱗の首飾りを握り締め、馬に乗った。


 のろのろと馬を動かしたすぐ、さっきの店の扉が開いて、二人が出て行った。ユータフはそれを目の端に捉えて、彼らが去った後の店に向かい『あの人たちの知り合いで』嘘ではないから、そう、店員に話しかけた。


 そして、まだ片付けられていなかったカウンターの上の武器を見て『魔物製だ』と呟いたことで、店員が質問し、ユータフが営業に掛かるような時間が訪れた次第――



「ユータフ。お前の親はここにいたんだな」


「そう。工房は反対側だけど。その、良かったね。ちゃんと高く売れて」


 タンクラッドに話しかけられて、萎縮するユータフは、短く答える。怖いけど、でも。役に立った嬉しさで、つい顔が笑う。ミレイオはユータフを見つめ『何だっけ。あんたの親の店って』内容を訊ねた。


「羅紗屋だよ。うちの工房で羅紗を作るんだ。簡単な上着なんかは母親が作ってる」


「布ってさ。そこだけで売ってるの?どこかに卸してるの?」


「え?あの、うーん。卸して販売してないみたいだけど。うちで買った布で衣服にしたのは、販売してる店が何店舗かあるよ」


「じゃなくて。布そのもの。羅紗、そのものよ。売ってる店はないの?」


 それはないと思う、とユータフは思い出しながら答える。あったら、きっとそこにも自分は行かされている。それがないから、多分、布自体を販売する場所は、首都に契約がないかも、と教えた。


「テイワグナの中なら、あるかも知れないけど。首都にはないような」


「今、持ってるの?どんな布?」


 ユータフはちょっと驚く。馬に積んだ、配達先に届ける布を少し見せてやる。『これから配達する布だから、出せないけど』見るだけなら、とミレイオに荷物の蓋を開けて紹介すると、ミレイオは覗き込んで目を丸くした。


「綺麗。こんなふうに作るんだ。これ、何で染めるの?」


「俺は染められないんだ。父親が染めてるから知らないよ」


「この色って、まだあるのかな。あんたの工房へ行けばあると思う?」


「買うの?同じ色にはならないよ。同じ染料だけど、その時の羅紗の出来で色も変わるから」


「そんなの分かってるわよ。同じ系列の色で作ってるかどうか、って話してるの」


 ユータフは買う気なのかな、と思う。もしそうなら、父親に言わないといけないし、在庫がないなら売ることも出来ない。微妙な話になってきて、悩むユータフ。


「一応訊きたいんだけど。これ、どのくらいの大きさで幾らなの?」


「ええっと。幅が大体このくらい。それで長さはそうだな、小さいと2mくらいだけど、大体2つ合わせて一組で売るから、結局4mくらいだね。一巻きが3,000リジェだよ」


 ミレイオは、ふーんと小さく頷いて、さっとタンクラッドを見た。タンクラッド、嫌な予感。『お金貸して。私、買って帰りたい』金出せ、とミレイオが手を差し出す。


「お前。さっきの売った金あるだろ?あれで足りるぞ」


「何言ってるのよ。他にも見たら、欲しくなるかも知れないじゃない。そこらの布じゃないのよ、羅紗だもの。

 もし『買って良い』って、ユータフの親が売ってくれたとしたら、欲しい分は買って帰りたいわ。あの子だって好きだろうし」


「イーアンは龍の皮しか着ないだろ!お前が欲しいだけじゃないかっ」


 良いから、金出せ!と、ミレイオはタンクラッドの荷物に手を突っ込む。

 嫌がるタンクラッドの腕を締め上げて(※強盗)タンクラッドの財布から硬貨を抜き取ると『借りるわよ』と勝手に自分の袋に入れた。


「くそっ。お前は飾りにばっか、金かけて!」


「あんたみたいに、地味に年取る気はさらさらないのよ。ほっといて頂戴」


 ユータフは、二人の仲の良さなのか、付き合いの長さなのか、この状態を理解するのはとても難しかったが、どうもおっかない職人よりも、このオカマの方が強いとは理解した(※金奪ってた)。


 そのオカマが自分を振り向き『馬。あるんでしょ。私もあんたの工房行くから、乗せてくれる?』と今度は自分に無理を振ってきた。

 驚くユータフは『これからまだ、配達しないといけない』と断り、粘るミレイオ(※強引な人生の人)に、工房の場所を地図で描いて渡すことで、どうにか難を逃れた。


 タンクラッドとしては、ユータフが親の店を手伝い始めた様子から、ミレイオ付きで営業先は無理があるどころか、仕事を失う恐れがあることに、やや同情(※刺青パンクなオカマが、仕事ぶち壊す)。

 だから、ユータフが地図を描いたのは・・・少なからず、()()()()()賢い対処が出来る成長をしたと、誉めてやれる部分。


 ミレイオは地図を受け取り、それからユータフに『自分は多分、昼前後に行くだろう』と教えた。


 ミレイオ的には、馬のが目立たないと思っての配慮(※でもあなたは目立つ)だったが、断られたのでお皿ちゃんで。そうすると、きっとあっさり早く着く。


 ユータフは了解して、昼には一度工房に戻ると話し、二人に別れを告げて仕事に戻った。



「首都。広いのにね。また会うなんて」


「そうだな。ちゃんと仕事してるみたいで良かった。あいつも職人になるんだな・・・お前。金、返せよ」


「良い気分に浸ってるのに、そういうの止めなさいよ。パヴェルんちに帰ったら返すわよ」


 いやぁねぇ、とミレイオはぶつくさ言い、炉場へ向かって歩き出す。親方も盗られた金が気になって仕方ないので、気分が悪い。

 出来事自体は良いはずなのに、二人は胸中くさくさした状態で(※ミレイオによる)炉場へ戻って行った。



 *****



 お昼の時間を迎えた本部。バイラは、昼食前に執務室へ移動し、皆は食堂で今日もお昼を貰う。


 空からイーアンが戻ってきて、一緒に食事をし、新たな魅力『フォラヴの弓』話が昼食の話題を攫う。これにはイーアンも勿論驚き、彼を誉めて、今度また機会があったら是非見たいと伝えた。


 少し恥ずかしそうな妖精の騎士だが、オーリンが自分の弟分のように自慢するので、フォラヴもそれは素直に受け入れる(※突然、親近感)。


『弓。俺が作ってやるよ。使える時は使えよ』気の好いオーリンは、射手が増えたことに純粋に喜んでいる。

 自分が弓を作ったら、また一緒に、皆に腕を見せてやろう・・・そう言って笑うオーリンに、総長もイーアンも、ザッカリアも。それにフォラヴ自身も、仲の深まる感覚を楽しんだ。



 こんな昼食の時間を終えて、午後の講義が始まる。


 副団長が来て、イーアンに言われた『カラナ粉と目灰です』この量で足りるかと、箱を見せた。イーアンはお礼を伝え、確認してから水も貰う。

『喉が渇いていますか』との質問に、そうではなくて使う・・・と笑うと、今日の講義『魔物が出たらこうしましょう~2』を開始した。


「昨日は用で出来ませんでしたが、でも一日開いたので、本日の講義内容は楽しめるものに変わりました。これもまた何かのお導き。

 今日は目で楽しめて、知識にもなります。活用幅は広いですから、向いている人には、どんどん積極的に取り組めることかも知れません」


 イーアンはそう言うと、両手をパンと打ち合わせて『楽しいですよ』もう一度笑顔で伝える。皆さんも、イーアンの笑顔に笑顔で返す(※笑顔は馴染めるイーアン)。


「ではね。早速、ご用意して頂いたものから始めましょう。今日の講義はこの()()を見てから、お話します」



 現象。ドルドレンは、イーアンの斜め後ろに椅子を置いて座り、ボーッとしていたが。ふと、記憶に蘇ってきた一場面に、徐々に顔色が変わる。


 あの粉・・・目灰と、カラナ・・・カラナって。確か。オークロイ親子の家でもらった・・・・・ あれ、確か。洞窟の魔物の時――



「はい。では、行きますよ~」


 嬉しそうなイーアンは、一緒に用意してもらったお鍋に『この粉と、この粉を混ぜましてね』ニコニコしながら、皆さんにお鍋を傾けて見せ、ざばざばと入れた粉を揺する。


「これね。お水です。ここにお水を入れると」


 イーアンは容器に入った水を皆さんに紹介し、興味津々の皆さんに向けた鍋に、水を入れた。入れたすぐ後、イーアンは容器を床に置いて、さささっと後ずさる。


「はい、前列の方も下がって!避難ですよ、避難しますよ」


「えっ、避難!」


 言われた言葉に、驚きの状態に陥る室内。

 前列どころか、殆どの席で、わぁわぁ言いながら椅子を立ち、団員は後ろに急ぐ。ドルドレンたちも、本能的に(※イーアン何かする=危険認識)ざざっと壁に寄る。

 そしてドルドレンの記憶に、この続きがはっきり現われた。この続き―― まさか。


 鍋からは、もくもくと白煙(←湯気)が上がり、ボコボコ音が立っている。皆が『煙が』『燃える』『火事になる』と、ぎゃーぎゃー騒いでいる室内で、イーアンは大きい声を出して説明に移る。



「落ち着いて下さいね!大丈夫ですよ、これ今。とっても熱いです(※大丈夫じゃなく聞こえる)。大変熱い状態ですね、それでですね、ここからが結構凄い」


「ダメだ、イーアン!!」


 ちゃっ!と火を出したイーアンは(※蝋燭に火)ドルドレンが叫んだと同時くらいで、鍋の上に火をかざしていた。『え?』振り向いたイーアンの顔の真横に、ゴウッと炎が上がる。


「わぁぁぁ!!!」


 場内混乱。扉を開けて逃げる人が折り重なるように、我先にと走り出す。イーアンは大急ぎで『大丈夫、大丈夫ですよ』と一生懸命、皆さんに叫んで止める。


 オーリンも目を丸くして壁に背を貼り付かせ、フォラヴも燃え盛る炎に放心状態。ザッカリアは怖がってオーリンに隠れる。ドルドレンは奥さんが燃えそうで大慌て(※見た感じ燃えてる)。


「イーアン、イーアン!火がっ、火がっ」


「ドルドレン、大丈夫ですよ。落ち着いて」


 取り乱す伴侶に、イーアンは駆け寄って『私は怪我しませんから』と改めて伝え、それに、と鍋を指す。

『気体が燃えているだけですから、可燃性のものがなければ』言いかけて、灰色の瞳がまん丸になっている顔に、こっちが先か(←安心させるの)と気がつく。


「大丈夫、大丈夫よ、ドルドレン。大丈夫ですよ、平気なの。平気なことしかしません」


 よしよし、せっせと撫でて、はーはー言う伴侶を落ち着かせる。


 平気よ、平気・・・大丈夫、と何度も繰り返し言い聞かせて、目が泳いでいる伴侶の顔を両手で挟んで『言ってみて。大丈夫。大丈夫』ゆっくり教え、ドルドレンも『大丈夫・・・』を口にする(※洗脳)。


「俺は、俺は。南で洞窟に火柱を。あの時を思い出して」


「そうです。でもほら、思い出して下さい。あの時は、()()()()()()を投げたでしょう?今は、石はないのです」


 ・・・・・あ、そうか。ハッとした伴侶の顔に、イーアンは何度も頷く。『ね。だから、あんな火柱はありません』そう言うと、ドルドレンもようやく理解した。


「ドルドレン。私は扱い方を知っています。危険が生じることはしません。ギアッチはね、ちょっと分量があれだったみたいですけれど(※支部燃やした)。でも、私は知っていますから」


 ドルドレンは、自分を見上げる鳶色の瞳を見つめ、飛び散らかった意識をまとめながら、一言『ひ。久しぶりだったから』どうにか、それだけは伝えた。イーアンも苦笑いで頷いた。



 こうしたことで実験は終わり、ドルドレンとイーアンは、廊下に逃げた団員を集め(※副団長もいた)部屋に戻す。


 イーアンは最初に、皆さんに驚かせたことを謝り、改めて、なぜこんなものを紹介したかを話した。それは、魔物退治に有効に使える、身近な道具や材料の存在を、いつでも気にしていることが大事と。


 実際に使った時の話を出し、これについてはドルドレンが解説(※きりっ、て直って)してくれたので、実戦ではもっと『激しかった』ことも伝えられた。


「この実験を知っている者。旅の仲間だと、シャンガマックだったのだ。あの時、シャンガマックもいた」


「そうでしたね。彼なら気がついたかも」


 俺も気が付いたけど、と寂しそうに言うドルドレンに、笑うイーアンは『全部を覚えてくれて嬉しい』と誉めた。


 それから、皆さんに仕組みを丁寧に教えて、小さい容器で同じことを実験してもらい、魔物を相手に使える方法の一つとして覚えてもらった。


「頑張れば倒せます。武器が使えなくても。龍がいなくても。地形に明るくなくても。

 魔物を誘き出すとか、驚かせて混乱させるとか。いろんな方法で、倒す機会を作ることが出来ます。一昨日は、魔物そのものを観察して、何を試せるか考える話でした。

 今日は、『身近な物でも、魔物を倒すきっかけや、倒すそのものに変わる』ことを知っておく、そうした話でした」



 知らないと恐れる一方でも、知って恐れが減ることは、とても多い。イーアンは、ちゃんと最後まで、いかなる状況でも全体を見るようにと、皆さんに頼んだ。


 皆さんは、とっても警戒しながら、でも言われていることは理解出来るので、今後に活かすと約束した。


 副団長も、この数日間で理解を深めたことがある。講義が済んで、拍手で終わった午後の3時半。もう一度謝ったイーアンに、笑顔で首を振った。


「龍がいなくても倒せると、総長が最初に話しました。あなたの話をこうして聞いていると、本当だなと思います。

 あなたは龍だし、翼で飛んだりもするけれど。例えそれがなくても、魔物に果敢に立ち向かって倒せる、知恵と勇気があるんですね」


 副団長の感想に、イーアンは嬉しい。にこーっと笑って、伴侶を見上げると、伴侶も微笑んで頷いた。


「イサ副団長は、その立場に立つにふさわしい方だ。

 イーアンを恐れる者は少なくないが、彼女が何を目的にして、常に勇敢に状況を有利に導いたかを知れば、自ずと受け入れるようになる。そのことに、誰より早く気が付いてくれて嬉しい」



 総長の返事に、副団長は『驚かされてばかり』と笑った。

 今後、警護団が学ぶことが沢山あると感じていることも騎士たちに伝え、彼らの出発までの残り2日を惜しんだ。

お読み頂き有難うございます。

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