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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
937/2957

937. 午後は一緒に青空へ

 

 午前演習が終わった後。食堂へ移動した中庭の一群は、今日もへとへとで食堂の椅子に倒れこむ。ザッカリアは屋上へ向かい、残ったドルドレンたちは、副団長に用意してもらった昼食を先に食べ始めた。


「今日も見応えがありました。どうしたら、そんなに強くなるんですか?」


 興奮収まらない副団長は、疲れ切っている皆に、『どうして・何で』を笑顔で繰り出す。疲れている騎士たちに、たどたどしい返答をもらうとすぐ、また別の質問をして『強くなる秘訣』を聞きたがった。



「本部で行われるこの時間。あなた方が旅立つくらいには、テイワグナ全土の警護団施設へ報告したいと思います。この特別な時間は、魔物に尻込みする警護団の志気を上げるでしょう。

 バイラも同行しますし、バイラの口からも各地へ伝えてもらおうと思って」


 疲れた頭でドルドレンは、その動きが今後の為になることは理解する。痛む膝を擦りながら、食事を口に運びつつ、イサ副団長の心意気を聞いて『後数日間で、協力できることはする』と答えた。


「明日はオーリンだろ。弓の用意をさせておけ。誰も引けないんじゃ意味がない」


 既にお代わりを貰っているタンクラッドは、ガツガツかき込みながら、ドルドレンに明日の準備を促す。『協力するなら、一通り。直に教えておいた方が良いだろう』そう話す親方に、総長も同意。


 バイラにそれを伝えると、バイラは『弓矢はあるので、経験のある者にも指導を頼む』と返答。副団長も了解し、人数分とまで行かなくても、首都ですぐに購入出来る弓矢は用意しておくと話した(※弓矢、少ない)。



 弓矢の数を話していると、ザッカリアと一緒に、お空組が戻ってきた。今日も頑張ったドルドレンは、イーアンを見るなり『大変だった』と泣きつく。笑うフォラヴに引き離されて、イーアンとオーリンは昼食を受け取ってから席に着く。


「タンクラッドが。俺をいたぶったのだ」


「お前が自分から戦うと言ったんだ」


 歪曲するな、と叱られて、ドルドレンは悲しそう。イーアンは状況が分からないものの、鎧も着けていない伴侶の服に土埃が付いていることから、この状態で相手をしたのだと理解する。


「私が不甲斐なくて。総長が痛む足でも、代わりに出てくれました」


 バイラのサポートで、総長は愛妻に貼り付き『そういうことだ』と慰めてほしい雰囲気をぷんぷんさせる。『よく頑張りました。とても立派』イーアンも伴侶の頑張りを見たかった、と言い、貼り付く伴侶をナデナデ。


「イーアンが午後、講義している間。もしかすると俺は馬車で休むかも」


「そんなに酷く痛めて。それは大変ですから、お食事が終わったら冷やして下さい・・・って。でも」


「言った方が良いんじゃないの?急だと慌てるぞ」


 甘えん坊ドルドレンを撫でる手を止め、イーアンはちょっと黙る。オーリンが食べながら『ほら、早く』何やら促しにかかるので、ドルドレンも皆も、イーアンを見た。『何かあるの?』訊ねる伴侶に、イーアンは頷く。


「急ですね・・・・・ あのですね。午後、もしかしますと講義に出られないかもしれません」


「え。何かあったのか」


「違います。これから()()あるのです。ええっとね」


 言い難そうな態度に、親方が勘を働かせる。さっと同じ食卓の面子を見渡してから『()の都合か』と助け舟を出すと、イーアンは頷いた。オーリンもハハッと笑って『タンクラッドは話が早い』と誉める。


 その場に団員や副団長がいるので、イーアンは耳打ちで伴侶に言うのも気が引ける。やんわりと、説明の方法を考えて、自分を見つめる灰色の瞳に『()()と思います』の一言。目を見開いたドルドレンに、ちょっと頷いて『だから、ここではね。移動した方が』と続けた。


「そうなのか。いつ?もう?」


「分かりません。後で、とは聞いていますが。あの方たちに時間の観念があまりないため」


 イーアンとドルドレンの会話で、副団長は遠慮がちに質問する。『午後。講義が無理そうですか』無理なら早めに伝えないといけないと言うので、それは尤もと頷く総長は『その可能性がある』ことを答える。


「急でな。イーアンの都合なのだ。俺たちも恐らく一緒に行動すると思う・・・だよね?」


「はい。あなたもだし、タンクラッドやザッカリアもフォラヴも。私とオーリンは毎度ですけれど」


 うん、と頷くドルドレン。男龍が来るのであれば、本部も首都の街中(まちなか)も宜しくない。せめて郊外に出なければ。どうしようかと思っていると、副団長は了解してくれて『伝えます』とあっさり受け入れてくれた。


「元より、こちらの都合に合わせてもらえる時間に頼んでいることですから、午後は急遽予定変更でも」


 副団長は何とな~く、『イーアンの都合』の意味が、人間相手ではないような気がした(※当)。この前、騒動を起こしたばかりだし、ここは下手に動かずにいようと判断する。

 親方は、そんな副団長の目の動きを見ながら『あなたは理解が早くて楽だな』と少し笑った。



 こうしたことで、旅の仲間は早めに食事を切り上げると、バイラや副団長に急の変更を詫びて挨拶し、『明日は弓矢の準備を』と頼む。

 イーアンも、あっ、と声を上げて振り向いた副団長に『明日の講義に、カラナ粉と目灰を用意して下さい』とお願いした。不思議な注文だが副団長は了解し、一番少ない量で用意すると約束してくれた。


 本部を出て、皆は馬車に乗り込む。手綱はタンクラッドが取り、ドルドレンは荷台へ。オーリンとフォラヴがドルドレンと一緒に荷台で、イーアンとザッカリアは御者台へ移動。


「イーアンと一緒が良い」


 ドルドレンは離れるのを嫌がったが、『仕方ないだろ。イーアンが前じゃないと、男龍が来た時に困る』とオーリンに言われ、ドルドレンはフォラヴとオーリンに見守られることになった。


 ザッカリアも前。楽器を弾きながら、イーアンと親方と一緒に御者台で、朗らかな帰り道を進む。


「こんなのも良いな。御者台で音楽が聴ける。イーアンもいるし」


「ハハハ。私は何も出来ませんけれど。ザッカリアは本当に上手だから」


 誉められて嬉しいザッカリアは、少し楽しげな曲を奏でながら、真ん中に座って空を見上げる。『早く来ないかな。俺、空に行きたいって頼むんだ』そう言って、イーアンに微笑む。イーアンも笑顔で頷くと『そのつもりだと思いますよ』と答えた。


「そうなのか。男龍が来るのは、俺たちを連れて行くからか?」


「誰かしら連れて行くような言い方でした。シャンガマックとミレイオも一緒だと良かったのですが」


 親方は、なぜ急にそんなことをするのか、と訊ねたが、イーアンもそれは分からないようだった。理由が何であれ、空へ行けると知ったザッカリアはとても喜んで、早く早く、とタンクラッドを急かした。


「早く、人のいないところ行こうよ。男龍が来ちゃうよ」


「走らせるわけに行かないだろ。大丈夫だ、焦らなくても」


 喜ぶ子供に笑って、タンクラッドは郊外に近い道を選びながら馬車を丁寧に進める。内心、今来たらどうしようかと、タンクラッドも少し気がかりだったが、その心配は要らなかった。



 首都の大通りを出て、細い道を抜け、木々が増えた景色の道が煉瓦に変わる。そのまま暫く進んで、土の道へ出た時。

 タンクラッドは空を見上げた。イーアンも見ている。ザッカリアは二人の反応を見て『来た?』急いで訊ねた。『来たな。誰だ、あれは』白く輝く空は、派手に眩しい。これだけで大騒ぎだろうなと笑う親方。


「あれは一人ではありませんね。あら?どうしてかしら」


「誰が来る予定だったんだ」


「普通にタムズだったと思うのですけれど。彼にこの話を聞いたので」


 まだ民家のある道ではあるものの、貴族や人の多い家は見当たらない道沿いなので、馬車を木立の近くに寄せて、タンクラッドは男龍を待つ。


「イーアン。来たぞ。誰がいる?」


 やって来たのはニヌルタ。後ろにタムズもいるが、何となく機嫌が斜めっぽい顔つき。イーアンは、宙に浮かぶ二人に急いで『ここは人目がありますから、もう少し上で待っていて』とお願いした。


「何だ。見られると困るのか。まぁそうだな、アオファは大きいから」


 ハッとするイーアン。結構遠くだけど、そう見えない大きさの多頭龍が、ふよふよ浮いている。ありゃ、マズイ(※パニック前兆)。


「急ぎますから。ちょっと上がっていて下さい。出来れば、人間の視力で見えないところまで」


「私だけなら、こうはならなかったのに」


 タムズがぼそっと呟くが、ニヌルタは首を振って笑いながら『よし、じゃ。待っててやる。早くしろ』そう言って友達(※仏頂面タムズ)の腕を叩き、上空へ飛んだ。


「イーアン。どうする、馬車で来てしまったが。馬車を置いていくならパヴェルの家だったな」


「そうですね。さすがに馬車ごとは無理ですね」


 ちょっと考えたイーアンは、皆に先に龍で空へ上がるように言う。『お前はどうするんだ』タンクラッドが聞き返すと、イーアンは自分がパヴェルに知らせに行くと答えた。


「私が彼の家の誰かに、馬車を迎えに来てもらえるようにお願いします。お手間をかけてしまうけれど、急だから、きっと理解してもらえます」


「そうか。まぁな、龍の都合だからな。こっちにどうにも出来ん(※男龍は自由)」



 ということで。出来るだけ人の家のない場所へ馬車を置いて、イーアンはパヴェルのお屋敷に飛んだ。お屋敷は意外に近く。飛んだから早いだけなのだが、10秒程度で『あら。パヴェルの家』発見する。


 ぴゅーっと飛んで下りると、外に出ていた召使さんが驚き、そしてすぐに姿勢を正して笑顔を向けてくれた(※躾が行き届いているとこうなる)。

 事情を話したイーアンは、方向を示す。『道が分かりません。でもこの方向を真っ直ぐ行った所です』そう伝えると、召使さんは了解してくれて『小道が通っているから、馬車を連れて戻る』と馬車小屋に動いてくれた。


「お仕事を増やして申し訳ありません。私は馬車で待っていますから、どうぞ宜しくお願いします」


 イーアンは気の好い召使さんにお願いすると、また飛んで馬車へ戻り、親方や皆が出ているところで『馬車は大丈夫』と伝えた。


 それから、龍を呼ぶ。笛を吹いて次々に来る龍にそそくさ乗ると、イーアン以外が空に飛び立つ。イーアンは、召使さんが来るまで馬車待機。


 龍がどんどん降りてきて、そしてどんどん上がっていく様子を眺め、周囲で人の声が聞こえるのを『仕方ないね』と頷くイーアン(※絶対に誰かが見ているだろうとは思っていた)。


 そのまま、背後がわぁわぁ騒ぎを大きくする中で、イーアンは馬車に寄り掛かって待つのみ。

 10分もしないうちに、脇の小道から豪華な馬車が現れて、パヴェルの家の召使さんが二人、手を挙げてくれた。


 イーアンはお願いして、旅の馬車を預ける。召使さんを見送った後、自分もそそそっと木立の中へ入り、6枚の翼をすちゃっと出し、思いっ切り高速で飛び上がった。



 ぎゅーん・・・上昇するイーアン。一人じゃ疲れるから、出来ればミンティンを呼びたかった。


 皆はもう先だなぁと思っていると、横から龍気が来て、振り向くとタムズがいた。

 笑顔のタムズはイーアンと並んで飛び、手を伸ばす。お礼を言って手を取り、二人でイヌァエル・テレンへ向かう。


「待っていて下さいましたか」


「本当は私だけだったんだよ。それに『もし時間があれば、君たちの誰かを呼んでも』と言ったわけで。ニヌルタが嗅ぎつけて来てしまったから、全員だ」


 計画が違う、と笑うタムズに、イーアンも笑う。『ニヌルタとアオファは先に行きましたか?』と訊くと、タムズは頷いて『ドルドレンたちと一緒に』もう、イヌァエル・テレンに入ったと教えた。


「私が暫く。中間の地を離れているだろう?子供たちがいるから、そう降りられないけれど。でも会いたくはなるんだよ」


 手を繋いで飛ぶタムズは、本当にそう思っているようで微笑む。イーアンは、彼が皆に優しいので嬉しい。ドルドレンは、タムズにとても会いたがっていたと話すと、嬉しそうに笑みを深めた。


「少し。ゆっくりしていくと良い。夕方には戻るだろうけれど」


「赤ちゃんと遊びたいと話していました。遊ばせてほしいです」


 勿論だよと、ニッコリ笑うタムズは答え、二人はそのままイヌァエル・テレンへ入る。


 イーアンは本当にタムズが、ただ純粋に皆に会いたいことで、行動してくれていると思っていたが、タムズの中では『()()()()()』。

 タムズの頭の中には、昨日の夜の思いがひしめいていた。

お読み頂き有難うございます。

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