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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
931/2953

931. 事情それぞれ

 

 講義の後。ドルドレンたちは、講義の時間にバイラがいないことが気になっていたので、副団長を捉まえ、彼のことを訊ねた。答えは『手続きで、部屋から動けない』だった。



「バイラは役職持ちですから、することが多くて。

 彼は一度『辞める』とも言いましたし、彼の意見や希望を聞くと、確かに辞職した方が動きやすいと思う内容ですから、それらを考慮した上で、警護団に残ってもらうために新しい立ち場を準備しました。

 そうすると、急に作った職務内容でもあり、移行に伴う手続きがどうしても増えます」


 副団長の話では、彼はまだ『辞職したい』と(こだわ)っているようで、団長たちからすれば、手続きを通して『新しい職務に納得してもらいたい』らしかった。


「悪い話じゃないようにしたつもりですが。彼は頑ななので、なかなか一度決意したことを諦めません」


「ちなみに、待遇を聞いても良いか?給与などは、さすがに下がると思うが」


「いえ。給与はそのままです。上げることは難しいですが、下げる内容ではなかったので。

 あなた方に協力する、特定支援活動補助の責任者ですし、国内であればどこへ行っても、彼は警護団関係の施設を使えます。医療施設などもですね。バイラ含め、あなた方に病気や怪我があった場合、警護団の範囲で施設を利用できます。

 バイラが懸念しているのは、書類に関わる拘束時間や、警護団への責任ですね」


 副団長は、バイラだけが机に齧りついて、手続きに奮闘しているわけではないことも教えてくれた。

『こちらも対処が。突然に用意した()だけに、内容もこれまでと異なるため、抜けがないように確認しながら』とのことだった。


 総長は副団長に、詫びと礼を同時にして、協力に感謝することを伝えると『バイラに、先に戻ると伝えて』と頼んで、仲間と一緒に外へ出た。



 鎧を馬車で脱ぎ、ようやく身軽になったのは午後の4時。『帰るか。パヴェルの家だけど』ハハハと笑う総長に、皆も笑って了解する。

 ザッカリアは久しぶりに総長の横に座って『音楽聴く?』そう言って、帰り道はずっと楽器を奏でてくれた。


 寝台馬車の後ろは狭め。イーアンとオーリンとフォラヴが座ると、あまりない組み合わせで親密状態。


『これも新鮮』微笑むフォラヴに、オーリンも『ホントだな。普段は乗らないけど、こっちは狭い感じだな』と、改めて見渡す。


 本部で乾燥腸詰をもらったイーアンは、それを齧りながら落ち着いている状態(※半ベソ脱出)。

 目が合ったオーリンに『オーリン・サラミーの方が美味しいですが、これもこれで』と誉めた(※オーリン満足)。


「君は龍になっても、まだ食欲があるよな。男龍たちは全然だけど」


「男龍は食べないのですか?」


 腸詰をちびちび齧る女に、オーリンが思うことを言うと、フォラヴはその話を初めて聞いたように驚く。イーアンは彼を見て頷き『彼らは何も飲まないし、何も食べない』と教えた。


「イーアンは女龍ですから、そのうちそうなる・・・ということでしょうか」


「実のところ、空で過ごす時間が増えた最近は、少しずつ体も変化しています。

 でもやはり、目の前に食事があれば食べたいと思うし、食べれば美味しいので。私は変わらないかもしれませんね」


「俺もだよ。龍の民は、空でも食べるけどね。食材が地上と違うから、食べても食べなくても、本当は平気なのかなと思うことは、よくあるよ。でも俺は地上の生活、好きだから。食事は続けたいね」


 素朴な質問に、イーアンとオーリンが答えてくれたので、フォラヴは不思議そうに聞くものの、その意味は理解する。


「フォラヴは?妖精の血が入っているとしか知らないけれど。食事に好き嫌いもないし、腹も減るだろ?」


 オーリンは、彼の事情を思い出して訊ねる。白金の髪をちょっとかき上げ、意外そうな目を向ける妖精の騎士。イーアンもそうした質問を考えたことがないので、この際、フォラヴ事情を聞いてみたいと思った。


「私ですか。お腹は空きます。あまり意識したことがありませんね。

 うーん・・・でも、()へ帰れば、確かに食べるものの種類は異なりますから、そうした意味では人間そのものの食生活は、皆と一緒にいるからか」


「え。国」


 イーアンがそこに引っかかる。そう言えば。伴侶も話していたのだ。『フォラヴは年末に家族の元に帰るが、どこかは誰も知らない』と。国があるのかと驚くイーアンに、フォラヴは笑う。


「地図上にはありません。言ってみれば、空と地下のような場所ですが、どちらでもない」


 ふぅん・・・・・ 龍族の二人は、妖精の騎士の答えそこまでで、頷く。多分、訊いても教えてもらえない感じの内容、と判断。

 でもオーリンは、ちょっとだけ違う方向で、質問をもう一つする。


「でもさ。その、あれだろ?一応、食べたり飲んだりはあるだろ?寿命とかも長そうだし、体に合う食べ物って言うか」


「はい。私は混血ですため、寿命のほどは分かりませんけれど、純粋な妖精は皆、長寿です。

 妖精は、飲食を楽しい時間としていますが、それは草の露であり、花や木々の蜜であり。植物の恵みを楽しむのです。私もそうしたものは、とても好きです」


 フォラヴの答えに、イーアンは()()()()()()なんだと理解した。

 清いイメージの妖精。怖い妖精もいるけれど、フォラヴは清いイメージ方面(※だろうと思った)。それだけで生きていけるのは、妖精そのものなんだろうが、フォラヴは混血だから何でも食べるわけで。


 肉を齧る速度が落ちたことに、気がついたイーアン。私って・・・ちょっと自分を振り返る。

 言葉にしにくい『何でもガツガツ』状態を気にしたのは、オーリンもだったらしく。


「イーアンは。肉どころか、魚の頭でも骨でも食べるのにな」


「それは昨日、あなたがくれたから」


「食べなくて大丈夫な体になっても、肉とか求める。生々しいような」


「だって好きなんだから仕方ないでしょう。男龍みたいなこと言いますね」


 言い合いが始まった中年二人に、笑うフォラヴ。『好き好きはありますよ』やんわりイーアンに味方したが、この後、パヴェルの家に着くまで二人はわぁわぁやり返していた。



 パヴェルの家の敷地に入り、馬車小屋が見えた時、小屋に入ったすぐ前の馬車にドルドレンは気がつく。ザッカリアも気づいたようで『あれ、タンクラッドおじさんだ』と喜ぶ。


「今、戻ってきたのか。結構掛かったんだな」


 同じ頃だったねと、総長と子供は頷く。『シャンガマックは?もう帰って来たかな』子供はふと、単独行動の騎士を思い出す。ドルドレンは首を捻って『いや~・・・まだだろう』あれ、閉館時間までいるぞ、と笑う。


「シャンガマックは、勉強が好きなんだね」


 小屋に続いて入る馬車の御者台から、ぴょんと下りたザッカリアは総長に訊く。『毎日、本見てるよ』そう言うと、総長も『本と言うか』ちょっと訂正する。


「彼の資料なのだ。本もあるだろうが、俺が見た印象では、彼の見ている書はほぼ、彼自身が作っている」


「そうなの?だって、凄い何冊もあるんだよ。分厚いしね、難しいこと沢山書いてあって」


「うん。だから。あれはシャンガマックが長年かけて、自分で作っている本である。記録というかな」


 あいつの部屋を見たことがあるか?とザッカリアに訊ねると、子供は首を振る。『支部の部屋は知らない』と言うので、ドルドレンはシャンガマックの部屋の様子を話してやる。


 先にお屋敷に入ったタンクラッドたちの後、続いて戻った馬車の世話に、駆けつけてくれた召使さんたちにお礼を言い、ドルドレンは荷物を下ろしながら話す。


 後ろに乗っていたイーアンたちも『シャンガマックの部屋』の話にぴくっと耳を向けて、総長を手伝いつつ、レアな内容に驚いた。



 ――シャンガマック・ルーム。それは、異世界のようなお部屋。


 床には、魔方の円陣。乾燥植物が壁を埋め尽くすように垂れ下がり、増やした棚には、彼が各地で集めた様々な材料が、瓶や箱にきちっと収まって並ぶ。

 何十冊もある厚い本がそこかしこにあり、並べた机で薬を調合したり、記録を作ったり。ベッドや、飲食用の小さな机や椅子は存在感が薄く、天井には星図が描かれている。



「と、いうことでな。彼は採集した植物や、占術の方法など、星関係(?)もそうだ。星の地図みたいの、みたことあるだろう。ああしたものを、自分で書にするのだ。彼の部屋は、その材料と世界で満たされていた」


「私。一度だけお邪魔しましたね、ドルドレンと。あの時もたくさんの占いの材料が、部屋中に掛かっていて」


 イーアンが思いだして言うと、ドルドレンは頷いて『あの殆ど、どこかに仕舞ってあるはずだ』と答えた。馬車にはその半分も、持ち込んでいないだろうと思う(※支部の倉庫に、勝手に仕舞ったの知らない)。


「すごいんだ。すごいんだね、シャンガマック!何で騎士になったんだろう」


 ザッカリアが、尊敬を籠めて口にした言葉に、皆が同様に感じること。

 ホント、なんであの人、騎士になったんだろう・・・・・ 別の道もあったよねと話しながら、ある意味勿体無いとか何とか、他人の人生に好き放題言って、皆はぞろぞろと、館の中に入った。



 パヴェル(&リヒャルド)はまだと、他の召使さんに教えてもらい、了解した皆は2階へ上がる。上がった廊下に、親方とミレイオがいて、自分たちを待っていたようだった。


「お疲れ様なのだ。どうだった」


 総長の挨拶に、ミレイオたちは一緒に歩き『成果はあった』ことと、『明日も行く』ことを話す。7人は一度、総長&イーアンの部屋へ集まり、緑の絨毯の上に座って、小報告会。



「シャンガマックとバイラはまだだが。後でまとめて俺が伝えよう。

 まずは俺からだ。午前中に、参考品で取り寄せた魔物製品は購入してもらった。昼食は本部で提供され、そのまま午後は3時半まで講義だった。

 明日の予定は、どうするかな。午前中は、職人が一人欲しいところだ。午後は今日と同じで講義だが」


 ドルドレンがそう言って、ミレイオたちを見る。職人はお互いの顔を見てから『何で?』の質問。どうして職人が行くの、と訊ねる。ドルドレンは『模範演習なのだ』と説明した。


「模範演習で、魔物製品を使って、彼らに使い方を教える。バイラも度々話していたと思うが、警護団は、まともに武器を使える者も少なく、防具も使わないような集まりなのだ。

 演習も何をして良いか、演習の意味でさえ、分かっている人間があまりにも少ない現状。

 フォラヴたちも相手役に連れて行くが、剣には剣で、弓矢は弓矢、もちろん、衝撃的な盾の使い方も」


 それを聞いたミレイオの顔に、笑みが浮かぶ(※フフンって感じ)。ドルドレンも笑って『そういうことだ』と頷いた。


「ミレイオ。お前が先に行け。お前は明日、すぐじゃないだろ」


「そうねぇ。今日の人たち、明日も良いよって言ってたけど・・・組み立てもあるからな。明後日行くことにするか」


 ということで、第一回模範演習は、盾のミレイオ。二回目模範演習に、剣のタンクラッド。三回目で、弓のオーリン、に決まる。


「イーアンは?」


 ミレイオの質問に、イーアンは首を振る。『私、専門ありません』さくっと答えて頷くイーアンに、3人の職人は笑って『イーアンは、何でも屋』と納得していた。


「イーアンは自分でも戦うが、(もっぱ)ら軍師である。龍がいない状況で戦うには、戦法を使うのが一番だ。優れた武器防具、使い手が生まれても、我武者羅に戦って勝てるばかりではない」


 ドルドレンは、イーアンの肩を抱き寄せて『明日の説明に使う、資料を作るように』笑顔で鞭を与えた。え、でも、言い返そうとするイーアンに、一層ニッコリ笑ったドルドレンは『仕事なのだ』と布石。


「はい・・・・・ 」


 今夜と明日、お空でも。シナリオ作りをするのかと、イーアンは覚悟する。

 お空で赤ちゃんと遊び、男龍に特訓を受け、合間に午後用のシナリオ作り(※時間足らない)。頭が持つか、体力が持つか、中年の限界に挑む(※精神的に疲労もある)。


 不安そうなイーアンの表情と、肩を抱き寄せて笑顔を送る総長の会話に、皆はイーアンに同情した。ドルドレンはちょっと・・・こういうところが、足りないと。



 それから、タンクラッドとミレイオの話に変わり、炉場では職人が多くて、協力的であることから、滞在中に幾らか製作が進むと思うことを聞けた。


「ここの職人ね。地方でも工房持ちがいるんだって。家族とか親戚が、地方で同じ仕事してる人、結構いるみたいで。だから、話を回してくれるようなこと、言ってたわよ」


「目の前で魔物材料見せたからな。加工して、金属化する様子も見せたし。最初は怖がっていたが、状態が分かってくると、順応するのが早いのは、仕事に前向きだからだろう。ウケは良い気がする」


 それで毎日通う、と二人は話す。模範演習の講師に入る明日・明後日だけは、一人ずつだが、炉があって場所も広く、職人の協力も得られるから、今のうちに出来るものは作りたいようだった。



「そうか。分かった。炉が使えるようで何よりだ。ではな、もう一つ、俺から伝えておきたい情報を話す。

 昨日、言いかけたことだが、ベデレ神殿の流れの情報だ」


 ドルドレンは、まずは皆が気にしていたベデレ神殿の話をした。まだ捕まっていない僧侶が2名いること、逮捕した僧侶3名はそろそろ裁判を受けること。神殿は公共施設に変わること。


 これだけでも、皆の顔には安堵が浮かび、ザッカリアも少しホッとしたようだった。


「ねぇ。あいつらみたいのって、まだいるんじゃないの?この国、広いからさ。神殿なんてあちこちあるし」


 ミレイオの疑問に、ドルドレンは頷く。『俺もそれを訊いた。そして()()()()()情報だ』明るい金色の目を見つめ『ミレイオは知っているかも』と前置きして話し始める。


「ハディファ・イスカンという場所がある。ヨライデ国境に近いらしい。そこにある神殿が、今回のベデレと同じく『神がかり』の噂を持つのだが。

 しかしここは、警護団が調査をするに難しい、と言う。理由は本物がいるのだ」


「何?本物だと?子供たちのようなか」


「とも、違うのだ。もったいぶらずに話そう。妖精がいると言う。

 この古い神殿は、地区の祭事くらいでしか使われていなかったが、いつしか妖精が棲み付き、怪我や病気を治してくれるというのだ。


 そんな状態だから、信仰は高まる一方。

 妖精だから供物も受け取らない。食べない、金品を使わない、とした理由でだ。巫女や神官、僧侶の類も勿論、いない。その本人しかいないそうだ」



 ドルドレンの話に、ミレイオが目を見開く。横に座るフォラヴも眉を寄せた。皆も、この二人を見つめ、何かを知っているだろうかと反応を待つが。


「ハディファ・イスカン。場所は分かるわよ。でも・・・妖精?あんな岸壁ばっかの場所に?神殿っていうか。遺跡じゃないの?そんなのはあったけど」


「その妖精は。姿は。どなたかがご存知ではないのでしょうか。情報は他には」


 どうやら二人とも、この『妖精の神殿』の話は知らない様子。ドルドレンは彼らを見て、首を小さく振る。


「俺は、ミレイオとフォラヴなら何か知っているかと思ったのだ。俺はこれ以上は。本部の団長に聞いた話がここ止まりである。今後向かうこともあるだろうから、遅かれ早かれ、続きはその時だな」



 この後。『お風呂がご用意出来ました』のお知らせを受けるまで、皆はそのまま、ハディファ・イスカンの神殿について、思うことを話し続けた。何一つ、どれが本当か分からないにしても。


 そうしているうちにシャンガマックも戻り、バイラも少し遅れて戻ってきた。彼らにもこの話をし、情報を集めるのは今後の課題となる。


 用意してもらった風呂に順番で入り、夕食時には、きちんとパヴェルが待ち構えた食事の間で、皆は一日の報告を彼にも話し(※話せることだけ)今日も濃い一日を終えた。

お読み頂き有難うございます。

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