928. 旅の二十九日目 ~お空の保育・本部で販売
次の朝。いつもより早い朝食後、仲間は用別で組になる。
タンクラッドとミレイオは、バイラと共に、首都の奥にある炉場へ向かう。
貴族の手配により、無理やりだろうと思うものの、午前から使用許可をしてくれた一箇所へ。荷物付きなので、荷馬車を出し、バイラと出発した。
オーリンも行くかと言われたものの、オーリンはイーアンと一緒。気持ち的に、一緒にいたいのもあるけれど『俺とイーアンは、炉の作業。ほぼないぞ』これは真実なので、お見送り側だった。
「鏃はさ、俺が作るわけじゃないからね。自分の分くらいは作ってたけれど。そんな温度、高くなくても作れるし」
「そうですねぇ。火入れも、炉じゃありませんものね。私も熱を使う作業、あそこまでではないのです」
「だろうな。イーアンは何でも屋だけど、金属は一部だもんな。俺と一緒」
イーアンは、少し前に『肋骨さん活用案』をザッカリアと話し、その後にミレイオたちとも話した。今回、ミレイオとタンクラッドが『肋骨さん』で試作もするというので、是非お願いしたのだ。
「私が試すよりも。金属慣れしている彼らの方が、断然良い結果を早く生みます」
遠ざかる馬車を見送った二人は、得意分野があるねと頷き合って、もう起きてしまった序で、このまま空へ向かう。
「次はオーリンとイーアンか。早いのだ」
「することありません。行く道すがら、魔物を見つけたら倒しておきます」
「そうしてもらうと助かる。気をつけるんだよ」
午後は、イーアン遠征講義・・・改めて伝え、イーアンが了解したので、ドルドレンは愛妻(※未婚)の頭にちゅーっとしてから『ビルガメスとタムズとシムとルガルバンダとニヌルタとファドゥに宜しく』と。男龍全員の名前を連ねた伝言をし、イーアンに笑われた(※ちょっと恥ずかしい)。
パヴェルの家の庭にガルホブラフを呼び、オーリンは龍の背中。イーアンは自分で翼を出して浮上する。
パヴェルもリヒャルドさんも、召使さんたちも、自分たちの前で飛び立つ客人に、大喜びで送り出してくれた。
イーアンは、パヴェルたちの騒ぎ方を見て『携帯電話やSNSがあったら、自分たちは絶対画像を載せられている』と思う。そんなもののない、この世界に心から感謝するばかり。
その呟きを拾う龍の民は、『また俺に分からない言葉だ』と、ぼやく(※『でんわって何&エスエヌエスって何処』)。いつものように、何やかんや言い合いしながら、二人はお空の光となって消えた。
屋敷に残ったドルドレンたちは、ゆっくり支度に入る。
荷馬車から移動した魔物製品の箱と、職人たちに聞いた価格表を確認し、シャンガマック用に馬を借りる。『鎧。フォラヴとザッカリアだけでも着用するか』ドルドレンは部下に相談。
「総長は?」
「俺は御者だから、鎧付きは奇妙である」
「何で俺たちだけ着けるの」
「ハイザンジェルの鎧なのだ。テイワグナは鎖帷子だから、買わないと言うかも知れない。着用しているのを見ると、欲しくなる気がする(※購買意欲を上げるため⇒部下に装着)」
空を見ると曇り空。暑くはなさそうだぞ、と総長は部下に言う。『フォラヴの鎧は、オークロイ親子の作品だ。ザッカリアはイーアン製。自慢なのだ』どう?と、躊躇う部下に勧める総長。
「総長は鎧あるの」
「一応、こっちに移した。着けろと言われれば、まぁ。本部内で着けても構わん。マスクもあるし」
ザッカリアは子供らしく、自分がやるなら総長もやれ、と思う。総長の返事に、じーっと見つめて『いいよ』の返事をしてあげる。苦笑いするフォラヴも『販売のためですから』と了解してくれた。
側で話を聞いていたシャンガマックが笑いながら、自分の荷物をカバンに詰めて、小包の箱を馬に乗せる。
「俺も、もう行きます。通りがけ、郵送施設で荷物を出しておきます」
昨日、皆で書いたお返事と、小さい贈り物を入れた箱。ドルドレンはお金を渡し『機構付けで、北西支部に宛てる様に』と送付状を一枚添えた。
「一応、魔物材料も入っている。これを使うと良い。現金を求められたら、これで支払うのだ」
「はい。了解しました。俺の名前じゃなくて、総長の名前で出しますよ」
シャンガマックに小包発送を頼み、ドルドレンたちは褐色の騎士を送り出す。『シャンガマックは調べ物だ。一日、資料館だろうな』総長の呟きにフォラヴたちも頷く。
「彼は。旅に出てから生き生きしています。支部にいると、遺跡などには出会いませんものね」
「そうだな。よく喋るようになった気がする。あれの先祖も、遥か昔、旅の仲間の一人だったようだが。似たようなことをしていた人かも知れんな」
総長の言葉に、フォラヴは空色の瞳を向けて、そうなのかと訊ねる。ドルドレンは以前、剣に浮かび上がった名前を、シャンガマックに読んでもらった時の話をした(※370話最後参照)。
「彼が言うには、現在と過去の仲間には、名がそのまま同じ者もいて『自分は同じかも知れない』と笑った。先祖の名前をもらう習慣があるとか」
「そうなのですか。コルステインも同一人物だから、名はそのまま。そしてシャンガマックも・・・バニザット。過去の仲間にも、バニザットの名前があったわけですね」
そうみたいだよ、と頷く総長。『俺に読めないのだ。彼は読んだけれど』面白いよね・・・部下と話しながら、ドルドレンたちも支度を終えて馬車に乗る。
「それではな。パヴェル。俺たちも行くのだ。今日は夕方近くまで本部だろう。何かあれば、本部へ知らせてくれ。シャンガマックは恐らく、郷土資料館から動かないと思う」
馬車を動かした前庭で、お見送りに出てきてくれたパヴェルたちに伝え、総長と部下も、のんびりゴトゴト出発した。
旅の馬車を送り出したパヴェルたち。暫くその場に佇むと、リヒャルドの一言『大旦那様も、もうじきお支度をなさいますか』で動き出す。
「今日は忙しくなるね。とりあえず、彼らの居場所には、情報が取れるように手配しておいてくれ」
「はい。そのように手筈は整えてございます」
「あ、そう。リヒャルドは早いねぇ。助かるよ」
アハハハと笑う二人は、楽しそうに屋敷の中へ戻り、自分たちの行動予定を確認後、いそいそとお出かけの準備を始めた。
*****
【到着順~1 イヌァエル・テレン】
「早いじゃないか」
イーアンとオーリンが空に入って、子供部屋に向かう途中。男龍が近づくのを感じた二人は、後ろを向いた。あっという間に、やって来たのはシム。
オーリンは退散。『後でね。昼になったら行くから』ガルホブラフに急がせて、龍の民は逃げた。
「オーリンはどこ行くんだ」
一目散に消える龍と龍の民を見て、シムが笑う。イーアンは苦笑い。『あなたが苦手なのです。男龍は強いから』そう言うと、シムは金色の瞳をイーアンに向けて、可笑しそうに首を傾げた。
「そうか?そうかも知れんが。もう慣れただろ。龍の民なんて。気楽な連中なんだから」
「オーリンは地上育ちです。そうでもありませんよ」
そんなもんか、とシムは笑って、女龍の手を引く。『来い。今日は早いから、うちに来れば良い』反対意見を聞いてくれない強引さで、イーアンはふらら~と連れて行かれた(※『えー』とか『でも~』とかは言った)。
シムのお宅は、赤ちゃんがいっぱい。イーアンが数えると20頭くらい、いる。
「シムは毎日、こんなにたくさんの赤ちゃんと一緒ですか」
「俺だけじゃないぞ。皆そうだろ。ビルガメスなんてお前がいない時間、全員引き取っている(※夜は赤ちゃんだらけ)。
ビルガメスはお前の側で卵を生んだのに、俺より2頭多い。気合が違うんだ」
ああ~・・・イーアンも頷く。ビルガメスだけの技。人様の近くで話しながらでも卵が生める(※ながら出産)。あれは不思議、と言うと、シムもうんうん頷く。
「あんなこと出来ない。ビルガメスは性格的に気にしないから。それもあるだろうな」
皆さん、気にしないような。思っても言わないけれど、イーアン的には、ビルガメスだけではないような気がする(※気にしない性格=男龍の特徴)。
それはさておき。連れて来られたので、イーアンはお仕事をする。赤ちゃんたちの側に座って、ちっこいのから一緒に遊び、大きい子にぶつかられて倒され、馬乗りにされてシムに助けられる。
「悪いな。こいつら、大きくなるのが早いから。イーアンもすぐに追い越す」
「私くらいの大きさだと、あっさり10日もあれば超えるような。皆、元気にすくすく大きくなって何より」
言ってる側から大きい子がイーアンに飛びつく。イーアンは倒れて、石の床に背中と頭を打つが、痛いだけで怪我はしないので、笑いながら大きい子に舐められるがまま。
「お前は優しいな。子供は皆、イーアンが好きだ。毎日来て、毎日遊ぶ。よく笑うから、子供も笑う」
「子供たちは可愛いです。元気一杯で、それぞれのお父さんによく似ていて。この先がとても楽しみです」
「お。そう言えばな。ファドゥの子供が昨日、ちょっとだけ人型になったんだ。知らないか」
この先、の言葉に思い出したシムは、驚く女龍に『信じられないくらい早い成長』として、自分たちも驚いていると笑った。
「当然、まだ安定していない。僅かな間だが、ファドゥが見ていた。最初の男龍だな」
「んまー!もう、男龍。あの子ですね、私が祝福しまくった子。初めて、卵ちゃんから孵ったのを見て、感動したから」
そう、それだよと笑うシム。『お前の祝福があるから。男龍決定だ』ファドゥに後で会いに行けと言う。
イーアンに教えたがっていた・・・そうやって話すシムを見ていると、イーアンはつくづく、彼らは常に対等なんだなと思う。誰の子供が最初に大きくなっても、男龍である以上は皆で喜ぶ。これが人間だったら、変な隠し方をしたりもあるだろうが、彼らにそんな小さいことはないのだ。
この後も暫く、イーアンはシムの家で、赤ちゃんたちと遊び、全力でゴロゴロ転がされては、シムに助けてもらい、これを繰り返した。子供部屋に行くまでの朝の一時。イーアンはかなりの体力を消耗した(※そして特訓が待つ)。
*****
【到着順~2 本部】
早い時間に到着したので、午前中が余りそうに思うドルドレン。
馬車を停めて、門が開いたばかりの警護団の敷地に入り、近くに立つ団員に用件を伝える。彼は、上から伝達を受けていたらしく、すぐに荷物を一緒に運ぶ手伝いを申し出た。
「こちらで荷物を運びます。少々お待ち下さい」
団員の若い男性は、騎士たちにそう言うと、一度建物の中に入り、数分後に4人ほど連れて戻ってきた。ドルドレンは荷箱を見せ『二人で持った方が安全』と教え、4箱をドルドレンたち含む8人で運んだ。
最初の日に通された大きな部屋へ入って荷箱を置き、団員に礼を言うと、彼らはすぐに上司を呼びに出てくれた。
待っている騎士たちは、荷箱の蓋を開けて、価格表と品物を照らし合わせながら、机に並べる。
「お前の鎧を見ていたな。イーアンの絵が目立つのだ」
「うん。でもフォラヴの鎧もカッコイイでしょ。あの人たち、ずっと見てたよ」
「総長も鎧を着けたらいかがでしょうか」
む。うっかり誉めたら、フォラヴに突っ込まれたドルドレン。ここで着けるの、あんま気が向かないんだけど・・・とは言えない。
部下に着用させているので、自分も鎧じゃなきゃダメかな~と思いつつ。少し話をはぐらかした後、『総長、早く鎧』とザッカリアに指摘され、渋々鎧を着けることになった(※見せびらかすみたいで恥ずかしい)。
警護団員が戻る前に、脛当てまで付け終わった総長は、廊下が賑やかになったところで立ち上がる。部屋に入ってきた団員とイサ副団長に、朝の挨拶をし、製品と価格の話をすぐに出来ることを伝えた。
イサ副団長も団員も、目の前に立つ騎士3人の鎧姿に、目が釘付け(※ガン見)。側へ寄って、上から下まで目を皿にして見入り、指先で突いてみたり、その様子に笑い出す騎士たちに『凄いですね』としか言えなかった。
「人が着ていると、また全然違いますね。こんな鎧、初めて見ましたよ。これは負ける気がしません」
「実際に強いのだ。普通の鎧と比べて、頑丈さが桁外れなのは実証済みだ。俺たちはこの鎧で、後半の魔物退治に臨んだ」
この前、首都に入る前にもこの鎧で戦っていると教えると、報告書を読んだ団員たちは驚愕していた。
『何百の魔物と戦った、あれですよね!』そうでしょ、そうだよねぇ!と、近所のおじさんみたいな反応で(素)まじまじ、鎧と騎士たちを見ては、首を振り振り『いや~強いや』と皆で笑顔。
「テイワグナは鎖帷子とバイラに聞いた。鎧でも良いと思うが、熱がこもるのも懸念である。
参考品の鎧を購入し、試しに使ってみても良いだろうし、鎖帷子を俺たちと一緒に動く職人に、相談する手もあると思う」
ドルドレンがそう言うと、イサ副団長は『ここにある製品を全て買い取るつもりでいる』と言い、鎖帷子など、テイワグナの気候に合った古来からの防具は、職人と相談したいと話した。
騎士たちは、彼らの質問を受けては答え、職人に相談したい内容も紙に書き取ってもらい、送料含むお代を決定し、機構宛に送金してもらう話までまとめた。
やっぱり鎧着けて良かったですね、と妖精の騎士に囁かれ、総長は部下2名にお礼を言った(※言われなきゃ自分着ないつもりだった)。
お読み頂き有難うございます。
先日頂戴したメッセージによる、ご感想『バイラ・ユータフ』のことを、活動報告に抜粋してご紹介しました。読んで下さる皆様に感謝して。メッセージ、乾燥を有難うございます!




