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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
922/2958

922. 旅の二十八日目 ~朝食の話題

 

 朝食の始まる時間。パヴェルの家に客が一人増えた。



 戻ってきたイーアンが馬車小屋から入り、気後れして帰りたがるバイラを掴んだまま(※豪腕)側を通った召使さんに、リヒャルドさんを呼んでもらえるかを頼む。


 待つこと5分。大またで優雅に急いでくれた執事・リヒャルドさんは、イーアンと一緒に来た警護団員を見て、何も言わずにイーアンに説明を促す。イーアンは、自分たちは彼の世話になり、また今後の同行者であることを伝えた。


「昨日は、本当は彼と一緒にここへ来るはずでした。でも彼とはぐれたので、今連れて来ました」


「左様でございましたか。分かりました。すぐにもう一名様のお食事をご用意しますので、どうぞ朝食の部屋でお待ち下さい。皆様もいらしております」


「あ、の。イーアン」


「リヒャルドさん。お手数をお掛けします。宜しくお願いします。有難うございます」


 イーアンはきちんとお礼を言って(※これが精一杯)頭を下げると、リヒャルドさんに朝食の部屋まで案内してもらい、片腕を掴んで逃がさない状態のバイラを、引きずるように連れて行った。困るバイラは最後の抵抗をする。


「イーアン、私は本部で待ちます」


「バイラ。同行されると仰いました。もう始まっています」


 自分を見上げた垂れ目に光る、鳶色の瞳。目が合って、ビシッと言われ、バイラは黙る。

 朝食の部屋の開け放たれたガラスの扉の向こう。朝陽差し込む豪華な部屋に、仲間が食事を始めたところが目に入った。



 入り口に、イーアンとバイラが現れてすぐ、親方が『イーアン。バイラも』と声に出す。ドルドレンも振り向いて、笑顔で立ち上がり、戸惑うバイラの側へ寄った。


「よく来てくれた。これから本部へ行こうと思っていたのだ。イーアンも『出かけます』としか書いていないから、一体どうしたかと」


「あれでも頑張りました」


 分かってるよ、と笑う総長は、書置きを残したイーアンの頭を撫でると、イーアンに鷲掴みにされたバイラの腕を見て、また笑った。『無理やりか』総長の言葉に、バイラも苦笑いで頷く。

 ドルドレンはパヴェルに振り返り、自分たちの様子を見て席を立った貴族に『彼は仲間だ』と教えた。


「訳あって、昨日はすれ違ったのだ。彼はジェディ・バイラ。俺たちの旅に同行する、テイワグナの警護団員の一人だ」


「それはそれは。では、昨日私は焦らせてしまいましたね」


 初老の貴族が近寄ってきたので、バイラは緊張する。『朝食中に失礼しました』言えることがそれしかなく、突然来て、初めての人に家で―― それも貴族 ――食事を与ろうなんて、とてもじゃないが、バイラに出来るはずもなかった。


 でもそれは、バイラの都合。


 パヴェルは『彼は仲間の一人』その説明で充分だった。空いている椅子を勧め、バイラに朝食を一緒に食べるように促すと、彼の話を聞きたがった。


「そこに座って下さい。今、食事を用意させますから。何、一人増えたところで、何も遠慮は要りません。気にせず、どうぞ。それで、食べながらかな。警護団の情報を教えてもらえるかな」


 腰の低い貴族に、謝りつつお礼を言いつつ、バイラは椅子に掛ける。

 連れて来た手前、イーアンも横に座った。『私も得意ではないです。緊張の方が大きいですが、パヴェルさんはとても親切です』だから大丈夫、とバイラに教えた。



「バイラ。おはよう。どこで寝たの」


 ザッカリアが食べながら、ちょっと背中を反らして挨拶する。嬉しそうな子供の顔に、バイラは微笑んだ。


「おはよう。昨日は夜が遅かったから、本部の当直室だよ」


「今日は?俺たちと一緒に泊まる?また本部じゃないとダメなの?」


 ザッカリアは『バイラも一緒が良い』と横のタンクラッドに言う。タンクラッドも笑って『そうだな』と答えた。


「おはよう。昨日はどこ探していたの?バイラが戻らないから、こっち来ちゃったけど。心配したわよ」


 ミレイオも斜向かいで、質問する。バイラはすぐに挨拶して、別の分館へ連絡した後の話を、掻い摘んで説明。『すれ違いでした。数分早く戻れば合流したのですが』警護団員の話で、皆は昨日の彼の状況を知る。


「ちょっと、話を変えるんですが。バイラは今日、どう動くんですか?昨日の今日だから、身動き取れませんか」


 シャンガマックが話しかけ、バイラが理由を訊ねると『総長たちが話し合いに行く間、ザッカリアと資料館へ行こうと思う』と答えが戻る。


「それだったら。資料館に案内する時間を取ります。そう離れていませんから、本部から馬でも。私も本部で手続きをしますから、その前に一緒に行きましょう。馬は貸します」


 シャンガマックはザッカリアを見て『良かったな。面白いぞ』と笑顔を向ける。ザッカリアの教育を兼ねた動きなので、シャンガマックも都合が良かった。



 パヴェルは、新しい仲間の前に食事が運ばれるまでの間、彼らを観察していた。


 どこから同行したのか、分からないけれど。バイラという男は、彼らの信用を得ているのが伝わる。受け答えも丁寧で、態度も真面目。


 彼の見た目は、警護団員の中でも強そうな印象だが、性格はこの仲間内に馴染めるとすぐに分かる、正直さと謙虚さがある。実際に腕前は強いのだろう。強さと謙虚さ。なるほど。この男は気に入られそうだなと、パヴェルも思った。



 バイラの前に食事が運ばれてきたところで、バイラは奥の席から身を少し屈めると、パヴェルを見て『有難うございます。突然にお邪魔して申し訳ない。朝食を頂くことに感謝します』言葉少ないお礼を伝えて頭を少し下げた。


「気にしないで良いですよ。一緒に食べることが出来て、私も嬉しいです。どうぞ召し上がって。

 それで、私にも聞かせてほしいんですが、あなたが警護団員ということは、もしかして昨日の内部のことなど、言える範囲でご存じないかな」


 パヴェルとしては。昨日の留置所の一件は、殆ど詳細を知らないので、それを情報として聞かせてほしい部分。

 バイラはちょっと考えて『自分が知っていることで、お話出来ることは』昨日の晩を思い出しながら、少しずつ順番に話し始めた。



 朝食の席で、昨日の警護団側の話を思いがけず聞くことが出来た皆は、バイラが話し終えたところで沈黙。


 胸中はそれぞれ違い、パヴェルは自分が今日、何をすべきかをある程度決めた。ドルドレンも本部で話し合う内容を定め、イーアンもオーリンと目を合わせて、小さく首を振ってお互い思うことを理解する。


 ミレイオとタンクラッドは、この場合において、気がかりはバイラ。若い騎士たちも警護団側の話し合いは、上司とイーアンに任せるので、(もっぱ)らバイラの状態が気になった。



「イーアン。俺とパヴェルは今日、本部で昨日のことを話し合う。イーアンはどうするんだろう」


 ドルドレンが沈黙を破ったので、イーアンは伴侶に顔を向けてから、オーリンを見た。オーリンは頷く。


「私は。インガル地区で、私たちへの対応を約束させているのです。

 とはいえ、あの日の約束が警護団全体に伝わったとしても、大きく捉えていない人もいるでしょう。それは理解しますが。でもね・・・昨日の騒動、理由が理由ですよ。ねぇ、オーリン」


「そうだな。人間同士の約束じゃないからな。インガルでは()()姿()をあいつらは見ているんだし。俺たちの龍も見たわけで。

 で、今回これだろ?ガルホブラフは逃がしたけど『捕まえて乗り回そうとしてた』なんて聞いたら。約束の重さなんて、理解してないぞ」


 バイラは項垂れる。自分のことではないが、同じ警護団、同じ国民で、そんな理由を元に見知らぬ人間を留置所にまで入れるなど、言語道断だし、裁かれる対象だと思う。今日、実際に裁かれるのだが。だが、それで済むことではない。


「正確には、捕まえて乗り回すのではなく。『龍を呼んで、警護団も龍と共にあろう』とかね。そんな話ですよ。

 簡単に言えば、『捕まえて乗り回す』気だったのでしょうけれど。記憶に残す方は、あまり刺激のない言い方にしましょう」


 見るからに恥じているバイラに気を遣い、イーアンはやんわり、オーリンに訂正した。オーリンもバイラがちょっと気の毒で『まぁそうだけど』と受け入れた。


「ですので。私は、ドルドレンと一緒に行きます。私の立場・・・って、あんまりこういうの、好きじゃありませんけれど。一応、背中に背負ってますため、これ仕事。するべきことはしませんと」


 イーアンの困った顔を見て、ドルドレンも頷いた。『そうだね。一緒が良いと思う』側にいれば、自分も何かしら、龍のことで言えるだろうと話した。


「私も同感だね。私は君たちを守る立場なんだ。あくまで、ハイザンジェル国王の下でなんだけれど。

 だが、ハイザンジェル国王が、龍の加護を国民に伝えた現在。言葉から行動全てに至る、龍に関する扱いは、私たちが口を出して良い部分だと思う。

 貴族の親族に手を出したのも、勿論言及するが。旅が長いんだから、押さえる所はこの際、思いつく限り押さえる。今が機会だろうね」


 パヴェルの言葉に、入り口に立つリヒャルドさんが拍手を送る。横に並ぶ召使さんたちも拍手。パヴェルは、召使さんたちにさっと手を上げて、拍手を止めた(※教育の一環)。



「バイラはどうするの?警護団で動くつもりなんだろうけど、こんな状況だと不都合もありそうよ」


 ミレイオが心配を口にすると、イーアンはバイラを見た。警護団員はちょっと溜め息を付き『それなんですが』と呟く。バイラは自分が辞職願を出したことと、昨日の仮決定では、辞職は受け付けられないことを話した。


「辞めるの?辞めてまで、付いてくるって?」


 話を遮って驚くミレイオ、以下同様。わぁわぁ、朝食の席が騒がしくなった数秒後、ドルドレンは手を叩いて『続きがあるよ』と皆を静める。静まるとバイラは、もう少し先まで話す。


「そのつもりでいます。ですが、別の立場を作ることで、辞職ではなく、職務変更の可能性があります。

 団長は、私が辞めることを許可出来ないと言いました。急だから、だけではなくて。いろいろと・・・それで。

 昨日の時点では、私がテイワグナ全国巡回するような話で、総長たち騎士修道会一行の協力・援助する、警護団員として、無期限で活動する仕事と」


「無期限?ホントか」


 ドルドレンが遮ったことで、ミレイオが睨む。ハッとしたドルドレンは黙る。

 バイラはちょっと笑って首を振り『無期限の意味は、国内に皆さんが滞在する期間の意味です』だから、文字通りではないと教えた。


「それ。給料出てるってことでしょ?旅している間・・・警護団所属だから」


「そうです。この詳細を、今日決めるそうなんですが。新しい職務として動き始めるまで、一週間はここにいないとなりません。

 職務内容は粗方、昨日の段階で説明と相談をしましたが、各地で報告書と申請の確認と、魔物退治に参加すること。魔物製品依頼工房との交渉など、警護団の仕事としては、ちょっと動きも変わるので、どうなるか」


 ドルドレンたちは、顔を見合わせて喜ぶ。『それなら、バイラが無職にならない』良かった、と言い合う一行に、バイラも笑顔を浮かべるが『自由が、どこまで利くか』その心配があると話した。



「報告書で足りない場合や、緊急時には、本部や各地の施設へ、一時的に戻らないといけないことも。管理下ですから、私が足を引っ張ることになりかねない事態も考えられます」


 バイラとしては、あれこれ複雑な思考を越えた上で、辞職が一番だろうと思い切ったことなので、なまじ警護団所属状態は、気持ちに難しいものがあった。


「私は。辞める方向で頼み続けようと思います。辞めた方が、何かあっても、警護団に責任も向かないですし」


 そうは言っても、『バイラ無期限同行業務』の報告を聞いた旅の一行は、単純に嬉しい。どんな形であれ、バイラが損をすることなく、自分たち仲間の一人として動ける環境が整うなら、そちらを受け入れたかった。



 こうして、朝食の時間は内容の濃い話を共有し、皆は今日の動きが決まる。


 そして、バイラが最低一週間。首都から動けない可能性を考慮し、その間に首都で出来ることも予定した。それを話すと、バイラはとても恐縮していた。


「良いのだ。首都が当座の目的地で、することは幾つかある。どうせ何日か、滞在するだろうと思っていたし、気にしなくて良いのだ」


「この間に魔物被害があったら、困るでしょう」


「それは龍で向かうのだ。テイワグナは広いが、龍で飛べばそこまで時間はかからない。仕事は仕事である」


 総長が当然のように言うので、バイラはそれ以上言えなかった。そして総長の言葉には誰も異論がなかった。


 この後。本日は二手に分かれて行動する。

 パヴェルと総長、イーアン、オーリン、バイラは本部へ。若い騎士3人とミレイオ、タンクラッドは、一緒に本部まで付いて行き、そこから資料館その他諸々を見て回る。


 皆は朝食のお礼を言うと、早速馬車へ戻って着替え、パヴェルの馬車の用意が整った時点で、本部へ向けて出発した。

お読み頂き有難うございます。

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