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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
921/2955

921. 雨の夜・雨上がりの朝

 

 その夜。イーアンとドルドレンは、植物だらけで外のような部屋の中、ちょっと子供返りして、きゃっきゃ、きゃっきゃ、遊んでから眠った(※軽く、かくれんぼとか)。


 先に戻った親方は、部屋の鍵をかけた早々、コルステインを呼んで、広々したベッドで一緒に休む。

 やってきたコルステインが『ここ。どう。何?』の質問をするので、経緯をある程度話すと、他に人間がいないなら平気なようで、あっさり受け入れてくれた。


 オーリンは落ち着かない。あまりに広い部屋。あまりに寝心地が違うと、寝付けないと気がついて、毛足の長い絨毯に転がって眠ることにした。(ついで)にヒラヒラ服も脱いだ。


 ミレイオは久々に、枕8個で眠れる快適さに満足(※使うの1個)。ザッカリアも妙に大きくて柔らかいベッドに、何度かゴロゴロ横転して楽しみ、ギアッチに報告して眠った。


 シャンガマックはオーリンと同じで、環境の変化が想像外だと戸惑う。仕方ないので、適度な硬さを求めて、床に布団を敷き、横になった。フォラヴは、綺麗な布や清潔なベッドは好ましい。寝室には悩まずに済む夜。



 長い一日が終わり、皆が眠りについた頃。3階の、パヴェルの寝室横の部屋では、パヴェルとリヒャルドが話していた。


「キンキートの話。聞いてはいたんだけどね。テイワグナは、こういうことが起こりやすいのかな」


「いいえ。警護団は、貴族に触れないよう距離を持ちます。貴族の出資で設立した組織ですから」


「そうだよね。アリジェン家(うち)も、親戚が出資したからねぇ。何で一ヶ月の間に2度も」


 パヴェルの寝巻きを準備して、召使さんリヒャルドは、少し返答に間を持たせた。その間の取り方は、彼が何かを知っている時、と分かっているパヴェルは『良いよ。話してみなさい』と伝える。


 リヒャルドは椅子に掛けた大旦那様に向き直ると、お休み前のお酒を提供してから『確実ではなく』と話し始める。


「龍でしょうか。言ってみますと」


「ふむ。龍。この2回もの、警護団の無礼が?」


「いいえ。直接ではなく。『龍に乗る騎士たち』の入国が、理由ではないかと思いました」


「どうして?リヒャルドは、テイワグナの人だよね。何か思い当たるのかい」


「私はテイワグナの西の出身ですため、ヨライデに近いのですが。テイワグナのこの辺り、ハイザンジェル側の地域は、龍に乗る人々の伝説もあり、龍も関わる人も大変に信仰しています」


「それが理由と言うのは変だよ。問題が起きた時の警護団の態度は逆だ。今回も、龍を手に入れようとした話だったんだよ。龍に乗る人に信仰ではなく、酷い扱いを」


 召使さん。頷く。

 分からない・・・首を振る大旦那様に膝掛けを渡すと、窓に当たっては流れ落ちる雨の雫を見つめる。


「龍に乗る人々に憧れるのもまた、信仰から派生する歪みです。憧れが僻みに変わり、龍と共にいる人を現実に見た時、または知った時。龍を羨むのです」


 静かなリヒャルドの答えに、パヴェルは酒を一口飲んで『そういう・・・そう。そういうこともあるか』なるほどねと呟きを落とす。


「信じようとしない者も、出てまいります。龍が神聖だからこそ、その背中に乗る人々が現実にいるなど、信じたいと思えないのでしょう」


「それがあれかな。インガル地区の警護団の輩かな」


 インガル地区の警護団は、ハイザンジェル騎士修道会と名乗った総長一行を疑い、捕らえて、怒らせてしまった。


 しかし、書類だけ読んだ上では、今回と同じで『不審者拘束』とした名目で行ったことらしいが、背景に龍の言葉はなかった。背景はあくまで、貴族の身分を偽った云々。


 パヴェルがそれを言うと、リヒャルドは『龍を信じないのではなく、龍の出現を信じないのでは』と続けた。


「私が調べましたところ。ドルドレン・ダヴァート総長は、入国時に最初の報告で『騎龍する』旨を伝えています。警護団の国境治安部が本部に出した報告書に、その記載がありました。

 報告に目を通さない団員も多いでしょうけれど、話題にはなるでしょう。警護団内で知らないとは思えません。

 龍に乗るかどうか。『実は龍がいないのに、騎士がそう、触れ回っている』と捉える輩もいると思います。そうなれば、そもそも騎士修道会自体、軽んじてしまうなどの行為も」


「複雑だね。こうした見解だと、結局は、龍がいてこその心理的な行動だね」


「私は、そのように感じております」


 リヒャルドは、今日の情報収集で知ったことの一つに、昼前に生じたリマヤ地区の旧道騒動の話を出す。


「首都に入る街道を北東へ進むと、旧道と交わるのですが。その旧道の先で、龍が朝方出現したそうです」


 驚く大旦那様の顔に、執事は小さく頷いて話を続ける。


「その噂で、旧道がごった返す騒ぎが、何と昼過ぎまで。出現したと言いましても、時間は僅かだそうで、龍を見た人もいるようですが、あっという間の出来事と。その現場へ、民は詰め掛けました」


「まさか・・・その龍は」


「私も同じ気持ちです。今、階下で休まれていらっしゃいます、御客人ではないでしょうか。方角から、皆様が通る道を拾いますと、旧道を近道に抜けた可能性があります」


「龍。どんな龍だったのかな・・・朝?もしかして、明け方かい?雷のような音がした、あれか」


「恐らく、そうではないでしょうか。白い大きな龍とか。咆哮を上げた後、光と共に消えた噂です」


「イーアンだ・・・・・ 」


 パヴェルは気づく。『イーアンは龍になる』と王城で聞いていた。オーリンは龍の民で、龍と共に生きるが、姿は人のまま。でもイーアンは、体を龍に変えると。


 リヒャルドもゆっくりと頷き、『あの方の頭に。白い小さな角がありましたね。伝説の絵と非常に似て』確信したように主人に教える。


「伝説。テイワグナは遺跡が多いけれど。それのことかな?」


 パヴェルとリヒャルドは、この後もテイワグナの龍の話を少し長引かせた。二人とも、自分たちの客人が龍である事実に、少年のような嬉しさを感じていた。




 翌朝。


 イーアン早起き。そっと起きて、伴侶に一応書置きを残す。


 それから、ヒラヒラドレスを丁寧に畳み(※有難うの気持ち)昨日着ていた服に着替えると、そっと部屋を出て馬車へ続く廊下を進み、もう動き始めた召使さんたちに姿を見られる度、おはようございますの挨拶を交わし、馬車に続く通路の扉を開けてもらった。


「私は少々出かけますが、朝食の時間に戻ります。お手数ですけれども、それをパヴェルさんにお伝え頂けますか」


「はい。馬車で・・・いえ、申し訳ありません。何でもないです。承りました、大旦那様にお伝えします」


 若い女性は笑顔で、馬車に一人で乗るのかと聞きたそうなところを引っ込め、頷いてくれた。イーアンは彼女に笑いかけて『有難うございます』とお礼を言った。


「馬車ではないのです。私は手綱が取れませんため。それに字も苦手です。そのため、少々ね。お手数をかけてしまいます」


「いいえ。とんでもございません。どうぞお気をつけてお出かけくださいませ」


 感じの良い20そこそこの女性に、イーアンは頭を下げてお礼を言い、朝の忙しい時間に捉まえたことを詫びると、馬車小屋に続く廊下を進んだ。


 召使さんは。なぜか背中を見てくれていて・・・どうもお見送りをしてくれると分かった(※教育行き届くとこうなる)。


 馬車小屋から飛ぶんだけどな~と、思いつつ。馬車小屋の出口で振り向き、一度だけ彼女に手を振った(※召使さんも手を振ってくれる)。

 イーアンはそこで翼を6枚出し、びゅっと飛び立った。雨の上がった夜明けの薄青い空に白い光が飛んで消えた。お見送りした召使さんは、振った手を止め、暫く立ち尽くした。



 イーアンが向かう先は本部。


 約束の意味を問うため、そして約束の重さを伝えるため。今後のテイワグナにどれくらい、今回のようなことが起こるかを、自分が確認しなければいけない。


 ブンッと唸りを上げて風を切り、本部の真上まで数十秒で到着し、本部の建物の馬車が並ぶ場所に直下した。


 降りたと同時、『うわっ』と叫ばれ、急いでイーアンは『ハイザンジェル騎士修道会です』と答えた。逃げ出しかけた見張りの男性は、その声で止まって振り向く。


「あなたは。昨日の」


「はい。覚えていて下さって有難うございます。私一人で来ました。警護団の宿直で、責任者はいらっしゃいますか」


「あの、ご用件は。その、大変だったとは聞いていますが」


 この反応はフツー。イーアンは、自分が以前、インガル地区警護団施設を壊した龍だと教える。事実だけど言いたくはない。でもこれ大事。そう言うと、向かい合った男性はイーアンの頭を見て『つ。角が』と呟き、大きく頷いた。


「あなたの怒りを買ったのですか。龍の女に制裁を受けたと。申し訳ないです」


「いいえ。あなたに謝って頂くために伝えたのではないのです。私の約束を誰が知っているか。それを確かめに来ました」


 龍の女の一言は重い。見張り番の男性は深呼吸して『警護団をどうするんですか』と勇気を出して訊ねた。


 イーアンは微笑む。『それを。確認しに来たのです』その笑顔と答えの大きな隔たりの理由は、会ったばかりの男性には分からない。でも、とても大きな理由が介在するのかも、と彼は判断し、一緒に建物へ入るように促してくれた。


「あなたの約束を反故にした警護団の姿勢に、僕が謝って済むことではないですが。でもどうか、龍の赦しを受けられますことを祈らせて下さい」


「あなたは無事ですよ。あなたが無事を願う人たちも。私は()()()()()の意味を、確認するべき立場にいるのです。でもそれは、あなた方を守るためでもあります。私は守りたいのです」


 男性は頷き『有難うございます』とだけ答えた。そして宿直室の扉を開け『彼が、本部所属ではないけれど、当直では役職に就いているので、この人に先にお話を通して頂いて良いですか』そう教えられた相手は。



 ベッドに毛布と一緒に包まるバイラ。


 驚いたイーアンは側へ寄って、ぐっすり眠るバイラを起こして良いか、少し考えたが、時間もないので、そっと肩を触った。


 すぐに目を開けたバイラは、自分の横にイーアンを見て、暫し停止した後、飛び起きた。


「イーアン!なぜこんな所に」


「おはようございます。起こしてごめんなさい。案内頂いたら、バイラがいました」


 バイラは慌てて立ち上がろうとして、それからすぐにベッドにまた座り、毛布を腰にかき集める。その一連の動作に、イーアンは理解を示し、一切気にしないことにした(※伴侶の朝で慣れた)。


「お休みのところ、申し訳ありません。ここへ来たのは私だけです」


「どうやって。あ、飛んで?」


 そうです、と答えるイーアンに、バイラはちょっと笑う。『飛ぶなんて、普通に会話に出る言葉じゃなかったのに』笑ったバイラに、イーアンも笑顔で頷く。それからバイラは、用事を尋ねた。


「イーアン。昨日は大変な目に・・・あなたと弓職人の彼を。警護団は、謝って済むことではない仕打ちをしてしまいました!

あなたが一人でこの早い時間に動いた理由は。警護団に知らしめる内容ですか」


 勘の良いというか。頭の回転の速いバイラに、イーアンは有難く思いながら、自分が来た用件を話した。そして、相手がバイラだったので、この際だからと『龍の約束』の意味を添えて伝える。



 話を一通り聞いたバイラは、鳶色の瞳をじっと見つめて『私たちはあなたの温情を無駄にした』諦め覚悟を決めたような顔で呟く。イーアンは首を振る。


「バイラ。温情でもなく、無駄でもないです。ただ、私は龍ですため、私の背負う一族の存在もこの背中にあるのです。

 それは人々と接する時にも伝えなければいけません。でもね。私、最近龍になりましたから。どちらかと言うと、人間の気持ちの方がよっぽど理解できます。その上で、確認しないといけないし、それは人々にも理解を願うのです」


 ベッドに向かい合う椅子に腰掛けたイーアン。ベッドに座ったバイラ。


 バイラはイーアンの両手を取って握り、その手を見つめてから『私が伝えましょう。最後の仕事です』と答えた。その意味に引っかかったイーアンは、両手を握って誓ったような男に、目で続きを促す。


「はい。私は昨日。辞職を願いました。あなた方と一緒にテイワグナを回りたいからです」


「バイラ!そんな」


「イーアン、良いのです。養う家族もないし、私は独り身です。これも大きな運命に導かれた祝福と、私は思うのです。だから、テイワグナにいる間だけでも、私はあなた方の大いなる旅の側にいたいのです」


 イーアン絶句。仕事辞めちゃうよ、この人・・・そこまでさせて、どうしましょ~と思う。その顔が可笑しかったのか、バイラは手を握ったまま笑った。


「私の動きに必要な路銀なんて、気にしないで下さい。総長はとても一生懸命考えて下さったけれど、そんなこと望みません。私はこれでも、自分で自分の世話をするつもりで貯蓄もあります。足りないなら稼ぎますから」


「ああ、バイラ。あなたは何て控え目。何て、良い人なのでしょうか。でも、そうは行きませんよ。私、あなたが仕事を辞めてまで来るなら、私が食べさせます!ご心配要りません!」


 イーアンは情にほだされる。平たい胸筋をどんっと拳で叩くと『大丈夫。私が養うので』とがっつり頷く。


 力強く『養う発言』をした小柄な女性に、バイラは笑い出して『あなたを養います。私は男ですから』と返したが、イーアンは首をぶんぶん振って『いけません。そんな情熱を聞いて、放って置けませんよ』真顔で切り返す。


 困って笑うバイラに、イーアンは『自分は44だ』と突然自己紹介し、バイラがつられて『俺は37です』と答えると、イーアンは、うん、と頷いて『私が養いますよ』ともう一度言う(※ほら年下だろ、の意味)。


 それから、バイラに握られたままの手をちょっと動かし、離してもらうと、イーアンはバイラの顔に右手を添えた。驚くバイラに、イーアンは笑顔で『言い張る理由を見せます』と呟いた。


 バイラの頬に温かなイーアンの体温が伝わる。思わず、その手に自分の手を重ねた。微笑むイーアンがするっと手を引く。


「あ、失礼を」


 重ねられて嫌だったか、と慌てたバイラ。急いで謝ると、イーアンはハハハと笑った。すり抜けた手のある場所。バイラが自分の頬に当てた片手に何か重さを感じて、さっと手を見ると、その手に硬貨が一枚乗っていた。


「これは。いつの間に」


 手の平の硬貨を見て、イーアンを見て。バイラは気がつく。『手品ですか』もしやと呟くと、イーアンは一層笑って『芸が出来ますゆえ』と答えた。それから茶色い瞳を覗き込んで、子供のような笑顔で言う。


「私はね。龍ですけれど。それ以前に、自力であがいた貧民でした。()()()()術ならいくらか知っています」


 カラカラ笑う女に、バイラは驚くやら、肝を抜かれるやら。一緒になって笑い出して、総長が教えてくれた『一人の人間として』のイーアンを見た喜びに浸った。それから、イーアンの手をぎゅっと握る。


「私は。総長に惚れました。そして、あなたの仲間にも。今、あなたにも惚れたんです。

 私の役目はこの国を案内することでしょう、どうぞ連れて行って下さい」


 イーアンは満面の笑みで『勿論ですよ』と答えた。



 それから、朝食の時間になるまで、バイラと話し合い、朝食時間の2分前にバイラを連れて、イーアンは彼を抱えて一緒にパヴェルの家に飛んだ。バイラは『貴族の家なんて無理です!』と抵抗したが、イーアンは笑って相手にしなかった(※ビルガメスに似る最近)。

お読み頂き有難うございます。

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