表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
910/2956

910. 午後の道で~ 報告の報告

 

 馬車の一行は昼も過ぎた時間、まだ街道に出ることなく、ポクポクゴトゴト私道を進む。


 ドルドレンはどの辺で休憩しようかと考え中。街道に近くなると、林はなくなるので、涼しい場所が良い。



「街道手前で食事かな。バイラに、火を熾せる場所を確認するか」


 以前。街道沿いで焚き火をしていた昼食時間に、通りがかった警護団に『ダメ』と言われたことを思い出す。

『バイラの前で、非常識に思われたくないのだ』そこ大事・・・ちょっと愛妻の口調を真似て、くすっと笑うドルドレン(※カワイイ旦那)。


「イーアンもそろそろ戻る。オーリン付きかも知れないし、もう昼にしないと」


 ドルドレンは前を進むバイラに声をかけ、近くに馬を寄せた彼に、昼食の火を熾したいが、林の木陰が良いと思うことを伝える。


「そうですね。暑くなってきていますから。もう少し行くと、木々が少し疎らになります。下草のない場所もあるので、そこで昼にしても良いでしょう」


 バイラはそう言うと、また前に出て馬車を誘導する。

 付いていくドルドレンは、バイラが近づいた時、ユータフが一切こちらを見ようとしなかったことに気が付いたが、朝の一件でバイラに何か注意されたのだろうと思った。


 朝。タンクラッドとイーアンが怒っていた。イーアンはそこまで露じゃなかったが、タンクラッドの怒り方は近づくのも怖くなるほどだった。理由は、コルステインを魔物扱いした、覗き見ユータフの言葉と聞き、頭が痛かった。



 初めて見たら。確かにコルステインは大きいし、人間と同じ形ではないから、驚きはする。その力強さ滲む姿に、畏怖と恐怖も混じるかもとは思う。


 だが。ドルドレンもよく感じることなのだが。『彼らは顔が整っているのだ。あれ、何でだろう』不思議~・・・・・ ドルドレンは天地の存在に会う機会が増えてから、それはしょっちゅう気になる部分。

 これは自分だけではなく、部下も親方も同じように口にするので、恐らく誰が見てもそう思うのだ。


「男龍にしたって。まー・・・彼らは最高だが(※私見)。何あれ?ってくらい、カッチョイイ。

 ルガルバンダと初めて出会った時、最悪だコイツと思ったが、彼の顔や姿は至高の存在と認めてしまった。

 そしたら。何あれ、何なの・・・何なの、ビルガメスは。素敵過ぎるのだ。タムズなんて超好み(※うっかり独り言)。

 でも、シムもニヌルタもカッチョ良かったし、ファドゥは男龍になった姿で出会ったが、ありゃ反則なのだ。力強さと優しさと温もりの男龍なんて、性格までスバラシイなんて、もう何でも有りである。


 イーアンに頼った『ヒョルド(※声小さめで)』も、きつそうな顔だったがイケてたし(※認)ミレイオも刺青だらけとはいえ、それさえ格好良い。元の顔が整っているからか。

 コルステインも同じく。あれ、女の顔としては、かなりカワイイ顔している。男でもカワイイのだ。地下の者は親に創られると聞くけれど、誰を真似たのかと思うほど、皆がイケメンである。不思議~」



 聞こえないように呟く独り言。


 ドルドレンは、コルステインを『魔物』と思える方が信じられない。コルステインは目つきも優しい。ネコ目で大きな青い瞳。心が綺麗だからか、目つきも子供のようなのだ。


「体の色や、手足の形。翼などの体に付いた機能。それらだけで、恐れる気になれないような。驚くのは分かるけれど」


 俺も随分慣れたね・・・と頷く総長。相手を見る目はあるよ、と自分に思う。イーアンなんて、角までカワイイのだ~(※惚気)そんなことを思いつつニヤニヤしていると、前のバイラが『総長』と呼ぶ。


 何度か呼ばれていたらしく、慌てて返事をすると、バイラは木陰のある広い道端を示して『ここなら』と教え、そこに馬車を寄せた一行は、ようやくお昼の支度に入る。バイラたちは、10mほど先の道の窪みに移動した。



 ドルドレンは火を熾し、ミレイオは調理を始める。『イーアンたち、まだよね』材料片手に、ミレイオは野菜をどれくらい使おうかと考えているらしい。


「いっぱい作っておくのだ。余っても、戻れば食べる。皿に入れておけば」


「そうね。でも昨日は(それ)で失敗した。あの時、鍋のままだったら濡れなかったのに」


 でも鍋は洗いたいのよと、ぶつぶつ言いながら、何か保存方法考えなきゃと一人の世界に入るミレイオ。タンクラッドが横で調理を見ながら『これから暑いからな。保冷だな』と呟く。


「保冷・・・ってさ。家ならまだ、出来るけど。どうすれば良いのかしら」


 ドルドレンはミレイオのお手伝い。料理経験の少ない部下は、自由時間。タンクラッドとミレイオは『保冷』について、方法と原理を話し合う。



 そんなこんなで炒め物と、蒸した穀物が出来上がり、皿によそって配給しているところで、空が白く光る。『帰ってきたぞ』あいつは丁度良い時に戻るな、と笑うタンクラッドに、ミレイオも笑う。


 白い光はどんどん近づいてきて、すぐにイーアンとオーリンと龍が降り立った。


「こんな所にいるのかよ。見えにくいじゃないか」


 オーリンは『林の中は探せないぞ』と苦笑いして、ガルホブラフから降り、龍を帰した。『俺の分、ある?』ミレイオに聞いてすぐ、笑った顔のままのミレイオに食事を渡されるオーリン。


「有難う。やっぱり()で食べる方が、俺合ってるよ。こっちのが美味いもの」


「ミレイオの料理が美味しいのです。ミレイオは素材を上手に引き出すから」


 イーアンも料理のお皿を受け取り、お礼を言って、オーリンと一緒にがつがつ食べ始める。なぜか二人の食べっぷりが空腹そのもので、空で何かしたのかとタンクラッドとドルドレンが訊ねた。


「朝。戦っただろ。龍気も結構使ったし、俺は久しぶりだ。イーアンは何だっけ?」


「え。私。ビルガメスと練習」


 練習?横に座ったドルドレンに聞き返されて、イーアンは口一杯に詰め込んだ状態で頷く。『ちょっと待って』もぐもぐしながら断り、ごくんと飲み込んでから伴侶に教える。


「私の地上での戦い方が、彼の気に食わないのです。『何をあんなに時間をかけて』と説教されました」


 ハハハと笑う、ミレイオとタンクラッド。オーリンも笑いながら料理を食べて『いろいろ、あんだよね』と頷く。ドルドレンは、ビルガメスのケチの付け方が面白くて、どうしてなの?と詳しく訊く。


「はい。私、女龍。なのに、魔物相手に長引くような戦い方はみっともないって。

 龍気をどこまで使って良いか、私は分からないのです。皆には見えているみたいですが。そう理由を言ったら『仕方ないから、体で覚えろ』と」


「で、練習か」


 うん、と頷く、目の据わったイーアン。おじいちゃんの『龍のプライド』のせいで、赤ちゃんsと遊びながらも、練習をするというハードな午前(※その前に戦ってる)。


 明日もですよ~・・・ぼやく愛妻(※未婚)に少し笑って、ドルドレンは彼女の頭を撫でて労った(※赤ちゃんと遊んで+特訓する愛妻)。

 ミレイオも笑いながら『それじゃお腹減るわよ』と、自分の分を少し分けてあげる(※ホントは腹減らないはずの空だけど習慣と理解する)。


 騎士たちもお空を想像し、イーアンとオーリンがどんな風に過ごしているのか、気になる(※楽しそう)。シャンガマックとザッカリアは、一度行ったので、また行ってみたいと話し合う。


 フォラヴ。一人だけ、空を知らないと気が付く。


『私は・・・私だけ、空を知らないのですね。私の乗る龍の名も』ハッとした寂しそうな声で、友の会話に入れないことを伝える。シャンガマックもザッカリアも、少し止まった(※『ごめんねフォラヴ』の気持ち)。

 その悲しげな声に、イーアンは『そうだった』と思い出し、頭を上げる。空色の瞳と目が合い、ニコッと笑って教えてあげる、大切なこと。


「フォラヴ。あなたの龍の名を聞きましたよ。あの仔はイーニッド」


「イーニッド。私の龍は、イーニッド・・・素敵な響きです」


 少し元気が出た妖精の騎士。朝の戦闘が終わった後、イーアンに『出来たら知りたい』と頼んでおいて良かった!と、嬉しそうな顔でお礼を言った。


 そんなフォラヴは、二人の龍族に『近いうちに一緒に空へ行こう』と続けて誘ってもらう。

 フォラヴの微笑が、いつもよりも遥かに奥深くなった様子に、イーアンとオーリンは、彼を少し連れ回してあげようと決める(※観光)。ザッカリアとシャンガマックも、フォラヴの後に行こうね、と約束した。



 こんな楽しい昼食時間。離れた場所の黒馬の側にいる二人は、会話の一つもなく、肉を齧って佇む。


 でもバイラは、とても有意義で濃厚な時間に、同行した決定は正解だったと満足している状態。ユータフは無言。肉を受け取っても、無言。

 若者に話しかける気もないバイラは、肉を齧りながら、青い空が光った時や、あの二人が龍と一緒に降りてきた所などを思い返して、自分の現状にひたすら感謝を捧げていた。


 しかし。その状態を遠目で見ているドルドレンたちは。


 バイラたちの休憩状況が何となく気になるので、食事を終えると、誰ともなくそそくさと片付け始め、普段は1時間くらいの休憩を40分ほどで済ませて、出発することにした。


 馬車に乗り込むと、バイラが総長の座った御者台に来て『これから街道に出ます。そこから首都に入るまでの道を、少し短縮しましょう』と提案した。


 バイラの説明では、大きな街道ではなく、旧道が側を通っていると言う。旧道は、この地域の人間が使うだけで、輸送の馬車などが通らない分、少し道が悪いけれど近道らしい。


「その道を通ると、どのくらい短縮するのだろう」


「6時間くらいは。首都の端っこよりも、少し中の方に繋がる道です。本部へも近いので、私がよく通る道でもあります。今日、旧道沿いで野営すると、明日の午前中には首都ですね」


 ドルドレン、感心。本部に近いのも助かるが、もう一つ気になることを質問する。


「郵送施設の本局にも用があるのだ。先にそちらへ寄るのだが、どうだろう」


「本局ですか。ええっと、そうすると。うん、大丈夫です。首都の中で道を少し戻りますが、本部と近いですから」


 バイラの道案内は助かる。それでは旧道を行こうと提案を受け入れ、バイラは了解して馬を出した。



 街道に入り、そのままある程度進んだ後、バイラが振り向いて横に伸びる道を指差す。ドルドレンは頷き、彼の馬が右の道へ入る後ろに続いた。

 彼の説明どおり、街道よりは少し荒れた感じがあるが、行き交う馬車は、民家の小型馬車しか通らないので、充分通れる。街道から離れて暫く進むと、バイラの動きが少し変わった。


 彼は遠くに何かを見つけたようで、少し頭を揺らして確認している。彼が何を見つけたのか、ドルドレンは、目を凝らしてもよく見えない。


「総長。警護団が来ます」


 振り向いたバイラは、大きな声で知らせてから『話を先にしてきます』と言うと、馬を走らせた。

 バイラが先に、話を通してくれるなら安心。そのまま馬車を進めて、見えなくなったバイラの帰りを待つ。


 それから5分もすると、青毛の馬が走って戻ってきて、続いて後ろから黒馬車が来た。


「これから、さっきの村へ巡回で向かう警護団です。報告書のことを伝えました」


「そうなのか。お疲れ様なのだ。彼らは本部の者なのか」


「いいえ。私と同じ地区の担当です。リマヤ一帯を回るので、本部のある首都にも範囲はかかっています」


 あ、そうか。地図で見たな、と思い出す総長。二人が進みながら話していると、黒馬車が横に来た。ドルドレンは馬を止めて、一応挨拶をする。バイラは馬に乗ったままで、黒馬車から警護団員が4人下りてきた。


 比較的若い年齢の男性が4人で、皆30手前に見える。彼らはそれぞれ名乗って挨拶し、ドルドレンも簡単に自己紹介を済ませた。後はバイラが引き取ってくれて、朝一番で戦闘をこなしたことも嬉しそうに話す。


 4人の若い警護団員は驚き、総長とバイラを交互に見ると『龍ですか』と大真面目な顔で質問した。


 ドルドレンがちょっと笑って頷くと、バイラはすぐに『お前たちも見たら腰を抜かすぞ。負ける気がしない』と笑った。


「すごい。私たちは戦い方も・・・恥ずかしいですが、よく知らないのです。でも、バイラがリマヤ地区の警護団では一番強いので、彼に習うのですが。それでもまだまだ、剣も弓も自信がありません。

 龍がいない私たちに、助言は何かありますか?戦うことに不慣れですが、国民は毎日困っているので」


 一人の男性は、正直に総長に悩みを打ち明ける。ドルドレンは、こんな若い者もいるのかと感心しつつ『そうだな。でも龍がいないのは普通なのだ』と少し教える。彼らは意外そうに目を丸くした。



「これから、巡回に行くのだろう?行けば分かるが、村の者には、魔物から身を守る道具を渡してある。しかし、それも使い切れば終わる。その場しのぎではあるが、警護団が間に合わない時などのために、渡した。

 お前たちが、自らを鍛え、国民を守ろうと思うのは立派である。それを聞いた今、力になりたいものだ。

 とはいえ、動かねばならない俺たちは、指導出来ないな・・・さて。バイラ。

 俺たちは本部へ行くが、少しの間、都合で首都に滞在するのだ。その間に、彼らのような志の者に、俺たちのハイザンジェルでの話を聞かせる時間はないだろうか」


 総長の言葉に、バイラも驚いたように目を見開いて『そんな。あなた方の時間が』と言いかける。ドルドレンは少し笑って『これも仕事だ』と答えた。


「魔物資源活用機構の任務の一つだ。魔物の倒し方を教え、魔物を活用する方法を伝え、魔物製の武器や防具の作り方を伝授するのだ。間に合わないうちは、ハイザンジェルから購入することが出来る。

 俺たちが動く場所で、魔物を退治するのは勿論、大きな仕事だが、俺たちがいなくても、皆が安心出来るようにするのだ。それが一番だ」


 ぽかんとするバイラと4人の若い警護団。ゆっくりとお互いの顔を見て、総長を見た。先ほどと別の団員が、思い出したように口を開く。


「あなた方の。そうだ、そうですよ。フィギも、アゾ・クィも。あなた方は、立ち寄った町や村に、龍の鱗を渡しましたよね?使ったという報告があります。すごく神秘的な現象で、魔物を打ち砕いたとありました。

 私はそれを読んで、町や村の人々が、あなたたちに感謝している声に胸を打たれました。攫われた人を助けてくれたとか・・・先日の報告書は、巨大な魔物を龍と共に、あなた方が粉砕したと」


「俺は読んでいない。昨日今日の話か?」


「そうです。バイラが動いた夕方だったかな。昨日ですよ、テルムゾとティティダックの報告書で。それは村長が書いて出したものです。この、総長ではなく。村長が感謝を伝えてと」



 バイラと警護団の会話に、ドルドレンは胸が熱くなる。嬉しくて、笑顔。良かったと本当に思った。アオファの鱗は役立ったのだ。人々を守ってくれた。


 それに、村長たちが。俺たちに感謝を。報告書まで作ってくれて、感謝を伝えてくれたことに、ドルドレンは少し涙が出そう。我慢するけど(※泣き虫総長36才)。



 振り向いたバイラは、総長を見てちょっと驚き、それからすぐに優しい笑顔で頷いた。若い団員も同じように御者台の総長に気が付き、微笑む。


「ハイザンジェルの騎士修道会。総長は、本当に優しい人ですね。テイワグナに来てくれて感謝します」


 若い団員がニッコリ笑って、改めてお礼を言った。


 ドルドレンはよく見えなかったけれど、頷いて返した。それから鼻をすすり上げて、彼らに『首都で待っている』と伝えた。その声がちょびっと震えていて、警護団の5人は笑わないように微笑みに徹した。



 5人の思うことは一緒で『この総長はとても良い人』だった。涙を白昼にポロポロ落とす、騎士修道会一の猛者との出会いに胸を打たれた。

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ