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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
906/2953

906. 干し肉と若者とイーアン

 

「で。肉をくれたから、バイラは良い人だと思ったの」


 荷台に座ったドルドレンは、干し肉を満足そうにむちゃむちゃ噛む愛妻(※未婚)に訊ねる。


 愛妻は、大真面目な顔で大きく頷く。『それだけじゃありませんけど』とか何とか、口の中で言っているが、肉に夢中であまり話が続かない。



「イーアンはね。ショーリの時もそうだし。ティグラスも、オーリンの時もそうだったけれど」


「あれだぜ、イオライ戦の後に、支部で肉もらった時もだ」


 笑いながら馬車を降りるオーリンが付け足す。それを知っているドルドレンは愛妻を見つめる。イーアンは硬い肉を噛み千切っては、むちゃむちゃし続ける(※心が落ち着いている動物状態)。


「肉で仲良くなるとか、気を許すのも、ちょっと考えものだぞ」


 もぐもぐ食べる愛妻の頭を撫でながら、ドルドレンは『肉を貰ったからと言って、誰かに付いていったり、信用してはいけない』と教える(※相手44才)。イーアン、頷く(※そんな心配要らないと思ってる)。

 それから、彼もお肉を食べたいのかもと思って、伴侶にも一本あげた。


 ドルドレンは差し出された肉を受け取り、じっと見つめてからお礼を言って自分も齧る。が、齧っても折れない。異様な硬さの肉に驚くが、目の前でそれを、ばりっと噛み千切って食べる愛妻にもっと驚く(※顎頑丈)。


 頑張っても肉は折れないので、『イーアンが食べなさい』と返し(※口付けたけど)頷いて受け取る愛妻に『食べ過ぎてはいけない』と注意だけすると、外で笑っている職人たちの側へ移動した。



 夕方の風景の中。馬車は野営場所に停まり、焚き火を熾している最中。


 オーリンもいるので、夕食は久しぶりの8人分をミレイオが作る。イーアンも手伝おうとして、笑うミレイオに止められた(※『肉食べ終わってからね』)。


 ドルドレンは、焚き火に集まるオーリンや親方の横に座り、首都に着いてからの話を進める。

 職人たちは、持ち込みで買い取る店を探すことと、炉場があれば立ち寄りたいこと。数日間の滞在などを相談。

 料理を作りながら、ミレイオも話に参加して『武器とか防具の店も見たい』と伝えた。


 ドルドレンは話を聞き、情報源として、首都の様子をバイラに聞いてみるかと思う。ふと見ると、部下は馬車に寄りかかって、3人で話している。


 念のため、自分がバイラに話しかけている間、部下に職人たちと一緒にいるように促した。『俺が話している間に、()()()()可能性もある』そう言うと、3人を親方の側へ行かせる。イーアンは荷馬車にいたが、こちらもとりあえず移動させる(※肉食ってるからハイな放心状態)。


 皆が一つ所に集まったので、ドルドレンは、馬車から少し離れた場所にテントを張った、バイラたちの近くへ行った。



「バイラ。ちょっと良いか」


「あ。総長。はい。良いですよ。食事ってほどじゃないですからね」


 バイラは立ち上がり、熾した火の側を離れる。焚き火の側にはユータフがいて、彼はちらっと総長を見ただけで目を逸らした。


 テントの横に繋がれた黒馬の隣に移動し、ドルドレンはユータフを見てから、視線をバイラに戻す。総長の視線の動きを見たバイラは『少しは大人しくなりました』と短く報告する。


「こんな扱いになってすまない。本当なら全員の紹介も必要に思うが」


「いいえ。名前などは。こちらが名乗るのは必要ですが、総長たちは、私たちに名を教えなくても良いのです。()()()(←ザッカリア)の名前も、口にしないで頂いた方が」


 イーアンとミレイオは、名乗ってくれましたが・・・微笑むバイラに、ドルドレンも笑顔で返す。『イーアンが肉を貰って。バイラの食料なのにすまない(※代わりに謝る旦那)』このお礼はしたいと言うと、バイラは首を振る。


「龍の女にお供えですよ」


 ハハハと笑うバイラに、ドルドレンも声を立てて笑った。『大好物だ』お供えには丁度良いと、付け加えると、バイラは『あんなにすぐに食べると思わなかった』と可笑しそうに答える。気の良い男に、ドルドレンは親近感を持つ。


「機会があればお礼をしよう。それで、今の用事は、首都のことで聞きたいのだが」


「はい。首都ですか。私の知っている範囲は限られていますが、何でも話して下さい」


「同行する職人が、魔物製の武器や防具を買い取る場所と、炉場を探している。あるだろうか」


 バイラはそれを聞いて数秒黙ったが、『ありますね』と答える。場所を思い出すから、少々お待ち下さいと言うと、整えられた顎鬚に指を当てて記憶を探った。


「ええ。あります。炉場は首都の向こう側ですね。私たちが入る首都の始まり部分ではなく、もっと先です。首都内ですが、一箇所に集まっているんです。

 それと。買い取る場所ですか。それは恐らく・・・大きな店だと持ち込みを査定して、買取りもしていますから、そちらでしょうね。それも、手前に何軒かありますが。炉場近くの店の方が、扱う物は種類も量も豊富です」


 自分も何度か購入したことがある、と話すバイラは、ドルドレンに『魔物製の武器。報告書では読んでいますが、どのようなものですか』関心があったことを話す。


「ふむ。是非紹介したいが、そうするとこの場で、バイラだけを特別扱いしてしまうな。かと言って、ユータフに同時に見せるのも気がかりである」


「そうですね。彼は口が軽いので。悪気がないとしても、考えなしに喋り出すのと、事実と異なる情報を流しそうで、心配はあります」


 的確・・・ドルドレンは、バイラの言葉に同意を示す。でもバイラには、魔物製の武器を見せたいとも思うところ。警護団に紹介しようとしているのだから、ここで紹介しても特に問題はない。それを話すと、バイラは『とても楽しみだ』と感動する。


「今、持っていたら見せたが。剣を馬車に置いている。俺たちが戦う前に、あっさり倒してしまう仲間がいてくれると、普段は帯びない」


 苦笑いする総長に、バイラも微笑んで頷く。『強い仲間がいますね』そうなると思う、と答える。


「でも。近いうちに見てみたいものです。本部へは付き添うつもりですから、その時にでも」


 ドルドレンはそれを了解し、バイラに情報をくれた礼を言うと、仲間の元へ戻った。そしてすぐ、気が付く。バイラも振り返る。ユータフがいない。



「ユータフッ」


 バイラは急いで、馬車の側へ駆け込む。案の定、ユータフは馬車の近くにいて、状態としては覗き。ドルドレンもそれを見て、困ったように眉を寄せた。


「だってさ。食事もないような状態で、水だって少しだよ。幾らなんでも酷いよ」


 腕を掴まれた若者は、馬車の中を覗き込んでいるところで、バイラの怒っている顔に物申す。バイラは睨みつけて『それは彼らに関係ない話だ』と切り捨てた。


「何をする気だった。彼らに話しかけたかったのか。それとも盗みでも」


「盗む?何てこと言うんだ。食料積んでいるだろうから、もし多くあるなら、少し譲ってもらえないかって話そうと」


「お前は・・・自分が何を言っているのか分かってるのか?何才なんだ。20も越えたと聞いているぞ」


「そうだよ。20になったけど。交渉しようとするの、おかしくないだろ。大体、あんな肉でどうにかなるほど、強い体じゃないよ。水もすぐ飲み終わる量しか、くれないのに」


 バイラは苛立つ。『何て甘ったれた子供だ。たかが数日だぞ。無理を言って人の世話になってる状況で、よくも』そこまで言うと、ドルドレンがバイラの肩に手を置く。『イーアンが来た』静かにそう言うと、バイラも振り返った。


「イーアン。すみません。騒がしくして」


「いえいえ。お肉が大変美味しくて。おなかも空いていたので、誘惑に勝てず、2本も食べてしまいました。でも大切に頂きます」


 アハハと笑うイーアンに、バイラもニコッと笑って『喜んでもらえて嬉しい』と答える。


 その笑顔と、さっきの怒りの顔があまりに違うので、嫌味を言いたくなったユータフは『相手が()()だと、そんなに違うんだね』と嫌味を言った(※結構、無謀な子)。


 振り返ったバイラの形相は恐ろしく、ユータフは掴まれた腕に更に籠もる力の痛みに顔を歪める。


「ユータフ。私と話しますか」


 その状態を見ていたイーアンは、バイラの側へ進んで、ユータフに話しかけた。驚く若者と、驚くバイラ。『ダメですよ。あなたに失礼を』言うかも・・・と止める前に、イーアンはバイラを見た。


「ちょっとですね。ユータフ()の意識に手伝えるかもしれないです」


 戸惑うバイラに、ドルドレンも横から『彼女がそう言うなら、少し話をさせても』と促す。ドルドレンは思い出す。イオライレビドの姉妹の時。心配そうな男に『大丈夫』と教え、彼らの焚き火の側でへ待つことにする。


 イーアンをちらっと見ると、彼女はドルドレンを見て微笑んだ。それからイーアンはユータフを連れて、皆よりも離れた場所へ歩いて行った。


「イーアンに、きっと失礼を言いますよ。彼女は何か思うところがありそうですが」


「バイラ。例えユータフが、彼女にそうした態度を取っても。バイラが思っているようなことにはならない。

 今後・・・バイラが俺たちと一緒に、テイワグナにいる間だけでも、一緒に動いてくれるなら。彼女のことをいろいろと知ると思う。

 それは思うに、神々しい()()()としてではなく・・・泥臭く、人間の痛みを熟知し、這い上がって生きてきた力強さを持つ、一人の人としてだ」


 総長の言葉に、バイラは眉を寄せる。『それは、まるで。彼女が人間だったような』言いかけると、灰色の瞳は優しさを湛えて、形の良い口元が緩んで頷く。


「イーアンは人間だった。見た目に角が生えただけで、それも最近だ。事情あって、最初から龍ではないんだ。運命の目論みは分からない。人一倍、嫌な思いをして生きていた人だ。バイラのように、逞しい」


 ドルドレンはそう言うと、自分を見つめる茶色い瞳に視線を合わせ『バイラのように逞しいんだ、彼女は』ともう一度繰り返した。




「この辺で良いでしょう」


 イーアンは振り向いて、自分の後ろにいる若者を見た。彼は黙っていたが、それは遠慮しているようにも思えた。


「バイラの扱いに怒っていますね」


「そりゃ。そうだ。誰だって怒ると思うよ。

 俺は確かに旅に出たいと頼んだし、金も持ち合わせがないから、親に会いに出るにも・・・今は魔物も出始めて、とてもじゃないけど一人じゃ動けないのもあった。だから、連れて行ってもらえるのは有難いけど。


 でも、食費は先に出したのに、渡された肉なんか硬過ぎて味もない。聞いたらバイラが自分で作った干し肉で、買ったわけじゃないんだ。

 水だって水筒だ。それが終わったら、我慢しろって言うんだよ。一日外にいるのに、無理があるよ。俺は鍛えているわけじゃないんだから。

 会話もない。そっちに近づくな、話しかけるなって命令するし、俺を乗せる割には俺には鞍も鐙もない」


 文句を言いたいだけ言うと、ユータフは黙った。『分かってもらえるかな。馬車に乗ってる人には分かりにくいかも知れないけど』彼なりの()()()()()()()()()の一言は、イーアンは意味が通じるものの・・・イタイ言葉にしか聞こえない。


「ふむ。少々、訊きたいですが。質問しても良いですか。私のことは()と呼んで下さい」


「いいよ。龍ね、何?」


「ユータフ。お金。幾らお渡ししましたか」


 黙るユータフ。夕闇に白く柔らかな光を放つ2本の角が、何だか苦手。正しい相手、といった感じに、金額を言うのも気後れする(※一応、自覚アリ)。


「言い難そうですね。少ないのですか」


「それは、そう・・・だって。一週間分の食費しか持ってなかったんだ。だから、俺は首都に着いてから、親も探すし、その間食べられないと困るだろ。それで一日分を渡して」


 声が段々小さくなる若者に、イーアンは超同情的な眼差しを送る(※痛々しい浅はかさ満載へ同情)。


「そんな目で見るなよ。馬車だから分からないだろうけど」


「馬車だと何が分からないと思いますか」


「え?だから、俺の気持ちなんか分からないってことだよ。あんたは仲間もいて、食事も金もあって、国の仕事かなんかでしょ」


「龍、って。()()()じゃなくて」


 イーアンの声が低くなったので、ユータフはドキッとする。それから『龍』と言い直した。目が。心なしか、目つきが変わったような。目の前に立つ、龍の女の威圧感がハンパない。


「そうですか。仲間がいて。食事も。お金もある。国の仕事。合っていますね。現状はその通りです」


「そうだろ、だから」


「今ね。現状は、と私は言ったのです。現状。今。あなたの知らない時間はそうじゃなかった、とした可能性は考えもしませんか?」


 話の内容が変わったことで、何となく。彼女の機嫌が若干悪いような気がする。ごくっと唾を飲んで『そんなの、俺知らないから』と若者は呟く。イーアンはゆっくり頷いた。


「良いことを教えてあげます。()()()()()()ことの方が、山のようにあるのです。あなたが見ているままが、全てだと思わないことです。意味分かる?」


「だって、今の話してるんだよ。何言ってるのか」


「ユータフ。あなたは、人を傷つけて楽しむように見えないです。未熟なだけで、性格は良いと思います。

 ・・・・・あなたが、今、私をバカにしたと言ったら、謝って終わりますか?それとも、何をバカにしたのか、知ろうとしますか」


 白い角がぼんやりと暗がりに浮かぶのを見つめながら、ユータフは黙る。

 俺が何を言ったのかと考える時間は長く感じた。何も、バカにしてないはず。もしそうなら、知らなかったんだから。


「知らなかったなら許されると思いますか。場合によっては、それが不可能な事態もあります。

 想像もしないで、人のことを好き放題に言うのは愚かです。相手がどんな人かも知れずに、決め付けて伝えることは、愚かで、クソヤロウですよ」



 いきなり、口調が怖くなった龍に、ユータフは戸惑う。今『クソヤロウ』って言った・・・何を怒らせたのか、全く分からないので『何か、俺は悪いこと言ったの?』と小声で訊いてみた。


 龍は首を静かに振り、真っ直ぐに若者を見つめて『謝るのか。知ろうとするのか。教えて差し上げます。あなたの場合、まずは知ろうとなさい』夕闇の中、さっきよりも重く低い声が響いた。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に、心から感謝します。とても嬉しいです!本当にありがとうございます!

そして、一昨日、昨日とご連絡頂いた読者の方のことで。

探し出してブックマークして下さった方が。メッセージを下さって、ここを非公開したことで読めなくなってしまったことをお伝え下さいまして、改めてブックマークとお気に入り登録をして下さったという・・・応援頂いています事に、本当に嬉しいだけです。有難うございます!

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