表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
904/2953

904. 出会いの意味

 

 お空の子供部屋で、イーアンはビルガメスを待つ。呼んでから、ちょい待ち。



 やってきたビルガメスは、何だか不服そうな顔つき。

 どうしたのかと思いつつ、挨拶をして彼が横に座るまで黙っていたイーアン。座るなり、ビルガメスはイーアンを掴んで、胡坐の上に乗せる。


 両手に抱えていた赤ちゃんごと胡坐に乗せられたイーアンは、ビルガメスが鬱憤が溜まっていると理解する。

 それは当たっていて、ちらっと見上げると金色の瞳は、物言いたげに見下ろしている。



「どうされましたか」


「お前を・・・俺が独り占めしていると。抗議を受けた」


「それで。ビルガメスと最近会わないと思ったら」


「仕方ないだろう。俺以外がそう思ってるんだから」


 そりゃ、抗議だから・・・と、イーアンは突っ込みたくなるが、笑う所じゃないと一応頷く。


「お前が来ることを知った俺が動くと。しつこいくらいに阻まれた」


「だからですか。私と赤ちゃんを抱え込むこの状態」


「こうなるだろう。()()()()()()()なんだ。それを何日阻まれたと思う」


「ええっ!知りませんよ。一緒ってのも今知りましたよ(※何だそれ、とビビる)」


「お前はなぁ。何でそう鈍いんだ。俺はお前に愛されている(※決定)。俺もお前を愛している(※これも決定)。俺たちは一緒だろうが(※ここは詰め)」


 はーい???何言ってんですかと、イーアンは眉を寄せる。おじいちゃんも眉を寄せる。そして赤ちゃんはケタケタ笑う(※笑い飛ばす赤ちゃんs)。


「それ。ちょっと違うじゃありませんか。愛され」


「こら(※叱る)。イーアン。お前の良くない所だ。ちゃんと愛情を受け取っているんだ。認めろ」


「そりゃね。()()()()には愛してはいます(※それなり強調)けれど」


 ビルガメスは顔を寄せて、じっと見る。おじいちゃんのプライドが許さないのか。それは考慮してあげようと思うイーアン。ちょびっと頷いてあげる。ビルガメスは溜め息。


「お前はどうしてそうなのか。ドルドレンを愛しているのは、俺はちゃんと理解しているぞ。

 それとはまた別に、こうして子供たちを愛し、イヌァエル・テレンを愛し。俺も愛している(※自由に本決まり)」


 んまー・・・・・ そうですけどー・・・・・ どうなのよ、それ~・・・・・(※イーアンに偉大な愛は分からない)


 男龍の愛は。実のところ、いまいち分かり難いのだ。それはずーっと変わらない。分かるようで分からない。正直な所、人間では理解し難いでしょうと毎度思うイーアンである。


 そして。こういう流れが、どーにも。イーアンはな~んか・・・一癖も二癖もありそうで、『いやん、嬉しい』『やだん、中年だけどモテてる~』とはならない(※女の勘は働く)。


 絶対何か隠してるだろう、これ(※大当)。と、男龍の誰と喋っても思う。

 愛情だ何だかんだは、彼らの愛情はひたすら広いので、まー本当にそういうものかもとしても、肝心なのはその裏っ方である。四六時中、腑に落ちない引っかかりを感じるのだ。


 そしてビルガメスのこの、『俺と相思相愛って認めとけ』的な命令(※『いいな分かったなそう思え』みたいな、洗脳より強烈)。


 命令するもんじゃないでしょう、と言ってやりたい。これが一番不自然なのに、おじいちゃんは分かってない。


 ということで。イーアンは咳払いし、目が据わった状態で、とにかくこの話は切り上げる(※先の見えない話しを続けるのはムリ)。


 じゃー、それはそうってことにしておいて、と丸めて放り、自分の質問をする。『伺いたいことがあるのです』バイラのことを訊こうと思ったら。


「イーアン。お前が呼んだから。俺はここにいるんだ。分かるか。明日も呼べ」


 と、来た。要は『阻止されなくて済むように、お前もちゃんとしろ』・・・と。メンドーなので、うんうん頷き、『覚えてたら呼ぶ(※テキトー)』と答えて往なした。おじいちゃん仏頂面。



「ビルガメス。訊きたいことがあるのです。ご存知かどうか分からないけれど」


「俺が知らないことなんて、まずないだろう。言え」


 一杯あると思うが、そんな脱線でご機嫌を損ねる気はない。おじいちゃんに有難~くお礼を言ってから、ルガルバンダのしてくれた話と、先日会ったバイラのことを話す。


「ふむ。で?」


「私が思うになんですけれど。そのバイラという方。誰か私たちに、意味ある働きかけがありますか」


「ルガルバンダの言ったことを、お前はちゃんと理解したか?」


 何?イーアンは見上げながら、ぴたっと止まる。おじいちゃんは、イーアンの鳶色の瞳をじーっと見て『分かってないな』と呟く。


「あるから、出会ってるんだろう」


「いえ。それはそうです。そこじゃなくて、その」


「誰か、じゃないぞ。お前たち、だ。そんなの、『後々、旅を救うきっかけ』とルガルバンダが言ったんだから、そうだろう。何かの働きかけでもあるのかと言うなら、お前たち、旅の仲間全体に渡る話だ」


「それ以外、って意味ですよ。もう少し細かい部分で」


「イーアン。お前がそれを知ってどうなる」


 ぬふぅ。そう来たか。ビルガメスは大体そうなのだ。ちょっと笑っているし(※知ってもどうにもならんだろ、的な笑い)。目の据わるイーアンは、言い返せないので黙る。


「何でも知ろうとするお前は、面白いと思うが。お前がその運命の働きを、先に理解したところで、特に何も変わらない。出会いは起きた。目的があるからだ。それが終わるまでは、その者は近くにいるだろう」


 一々・・・尤もです・・・イーアンは頷く。ビルガメスは笑って、イーアンの頭を撫でた。


「細かいことを知りたがるのは、癖か。それも性分」


「そうですね。知っておきたい気持ちですね」


 悪いことじゃないがな、とビルガメスは微笑む。

 赤ちゃんとイーアンを、胡坐にわさわさと乗せると『明確なものは、常に目の前にある。見えるかどうかは、常にお前次第』そう教えた。



「それは。いつでも目の前にあるけれど、見えていないこともあると」


「そうだ。目を開き、耳を澄ませても。思考が違うことを選んでいれば、幾通りの形に変わる。たった一つの、決して動かせない現実でさえ、受け取り方は自由だ」


 イーアンは考える。今。答えを貰っているのではと。

 その目の動きに気がついた大きな男龍は、少し笑みを浮かべて『見えてきたか』と訊ねた。イーアンもニコッと笑う。


「見るんだ。そして、聞け。探り出して得られるものは、()()()()()()()()だ」


 おじいちゃんの言葉に、はい、と答えるイーアン。

『目前にあるものに答えを()()()()は、全てを知ることはない』大きな男龍はそう言うと、話を変えて、外にオーリンがうろついていたことを教えてくれた。


 イーアンはこの後。お昼に戻るまでの間、おじいちゃんと喋り、赤ちゃんたちと遊んだ。帰りはオーリンも呼んで一緒に戻った。明日また、ビルガメスを呼ぶ命令を受け取って。



 *****



 警護団施設・リマヤ地区の地方行動部を後にした、バイラとユータフ。思ったよりも時間を取ったので、馬を駆けさせながら街道を急ぐ。


「落ちないように気をつけろ」


「滑るよ。俺は(あぶみ)もないし」


「だから()()()()()()()、と言った」


 必要なことは先に言う、バイラ。会話に殆どならないことに、ユータフは息切れしそうだった。こんな窮屈なおじさんと一緒に動くなんて、3日でさえ、心が持つんだろうかと不安になる。


 太陽はもう高い位置に入る。まさか、警護団施設でバイラに待たされて、4時間近くもいることになると思わなかった。馬車に追いつこうとするバイラは馬を走らせるが、どれだけ距離を縮められるのか。

 このままでは、もしかすると今日は、バイラと二人で夜明かしになるかもしれない。それを想像すると、馬車がどこかで休んでいてほしいと心から願う。



 時間を食ったことが予想外だったのは、バイラも同じだった。昨日に出した届けは、なんと『今日、さっき見た』と上司に言われ、大急ぎで事情を説明し、改めて届けを出した。


 だが、急過ぎて許可出来ないと撥ね付けられ、急だとなぜ許可が出来ないのか・・・その理由を確認した。

 上司が言うには、理由が外部的なものであること、有益かどうかの判断が難しいことや、仮に許可するにしても手続きや、バイラと同じ立場の団員を駐在に回す手配などがあるから、との説明をされたのだが。


 バイラはそれに対し、決して無益ではないことと、多くの時間を必要としないであろう、現実的な状況を伝えて説得し、自分が本部にも向かうから、自分で処理するような話も出した。

 しかし、そうなるとそれは上司としては嫌らしく、この部分でも時間を使った。結局のところ、どうにかこうにか『許可は考慮』の状態を得て、本部に向かうこと事態は了承を得た。


『そこから先は、私が()()()()()()()ことも伝えろ』


 上司は、自分の範疇を越えている唐突な話を、『自分の責任の取れる限りではない』と言った。

 その意味は、やんわりと警護団を辞めるかどうかを臭わせ、上司としては苛立っていたようだが、バイラには、この消極的で、理由をつけて引け腰になる姿勢に、冷めた目しか向けられなかった。



 こうしてバイラは、ようやく施設を出る。ユータフを施設の外に待たせていたが、この対処には正解だったとバイラは思った。もし、建物の中で待機させたなら、彼のことでも話が長引いたことは想像に難くなかった。


 それから大急ぎで街道へ向かい、街道から本部へ向かう方向へ走っている最中。


 揺すり落とされそうになりながら、ユータフはあまりに遅かったことを、ちょっとは謝ってほしくて話を出す。


「あのさ、バイラは警護団で揉めてたのか?」


「お前に関係ない」


「俺だって、外で待ってたんだぜ」


「お前が待ったことと、俺が話すかどうかは、直結じゃない」


「クビにでもなったのかよ」


 イラッとしたユータフがつい口にすると、バイラは少し振り返り『だとしても、俺の求める動きに沿う』と答えた。


 ユータフは、難しい言い回しの含むことが分からない。『どういう意味だよ』ともう一度訊くと、バイラは前を向いて、少し黙った後に話した。


「俺は必要なことをこなしている。やるべきことは片付ける。俺の求める動きのために。

 必要なことを行った結果、それがクビになろうが続こうが、それはどうでも良い。俺の求めることに近づいている以上」


 もっと、意味が分からない。バイラの話し方が難しくて理解出来ず、会話を止めた。



 自分の出会い。それはうっかり、この警護団のおじさんにすり替わっているけど、この人じゃなくて。


 あの・・・馬車のカワイイ顔の子だと思う。自分が彼に嫌われて、避けられたことは理解しているが、ちゃんと好意を見せれば、この先、仲良くなれそうに感じる。


 男だけど。女でも、あんなに顔の整った人を見たことがないユータフは、どうしても諦められなかったし(※これを恋という)それとは別に、親を確認した後は、親か旅か・・・自分に条件の良い方を選びたいのも、同時にある。


 あの子がいなかったとしても。

 親のいる首都へ連れて行ってもらい、親の状況と、自分の身の振り方を照らし合わせて、もし動いた方が得策なら、旅をして、他の町を探せれば良いなと。


 そう考えていたユータフだったので。ザッカリア(カワイイ顔の子)の存在はサプライズ。これ、出会いだろ?と(※違)思ってしまっている心境であった。



 そんな便乗者に、バイラはもう一度振り向いた。


「俺とも喋り続けようとするくらい。お前はよく喋るみたいだがな。馬車に追いついても、彼らに絶対に話しかけるなよ。彼らから話しかけられた時に、応じるだけだぞ」


 フンと鼻で笑われた若者。見透かされているような感じが憎らしくなってくる。朝だって、あの角のある人が翼まで出したことに、驚きさえ止められた。


「何も言うなって。おかしいだろ、人間なんだから話すの当たり前じゃないか。あの飛んで行った人だって、()()()()人間じゃないんだから、訊きたいことだらけで」


「馬から落ちるか?」


 バイラが凄む。『その口。無駄が多いぞ』低い声で言われて、ユータフは嫌そうに首を大きく振る。


「お前は、誰を見たと思ってるんだ。彼女は龍の女だぞ。人間じゃないのは確かだ。

 だが『あんなの』と平気で言う、お前がどれほど失礼か。考えなしの頭と知ってて、喋らせられるわけがない。お前の訊きたいことなんて、ロクでもないくらい分かる」


「酷い言い方だな!昨日、会ったばかりの俺に。何でも知ってるような」


「実際そうだろう。お前は何でも甘く考えている。相手に許してもらえば済むと。

 お前の渡した食費を見たぞ。本当に()()()()持っていないとしても・・・馬に乗せてもらい、旅の世話を守られると知っていて、一日分の食費を渡す。お前の心境は理解しかねる」


 ごくっと唾を飲むユータフは、顔を背ける。バイラはまた前を向いて、それから喋らなかった。


 一週間分の食費を、宿のおじさんから貰った。それは、首都に着いて、親を探す間に使おうと思ったから、移動の食費は少なめにした。

 事情を少し話せば、誰かが分けてくれると思ったし、このバイラという警護団だって、鬼じゃないだろうと・・・鬼だったのが予想外だったことに、何も言えなかった。



 陽光に輝く青毛の馬は、乾いた街道を駆け抜ける。


 その背に跨る、鎖帷子と盾を背負った男の後ろで、貧弱な青年は苦い表情を隠そうともせず、ただただ情けなく、前の男にしがみつくだけだった。

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ