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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
903/2953

903. 旅の二十五日目 ~同行者付き初日

 

 町を離れてすぐ、馬車の一行は食事にする。


 平焼き生地を、町で沢山買い込んだミレイオは『朝。これにさ。燻製の魚も買ったから、挟んで食べよう』イーアンに箱を見せて、火を使う調理じゃないから馬車の中で作ろうよと言う。


 イーアンも朝食を食べてからの勤務(※空)なので、馬車を止めて火を熾して~の朝食作りよりは、手早い軽食作りは助かる。

 そうしよう、そうしようと二人で具材を選んで、大きなお皿にちゃかちゃか乗せる。



 様子を側で見ているタンクラッド。じーっと見ていると、くるくる髪の女と目が合い、視線で気持ちを汲んでもらった。


「これね。半端ですね。ちょっと小さいです。タンクラッド食べますか」


 瓶詰めの燻製魚に、切れっ端を見つけたイーアンは、くるっと丸めてタンクラッドに差し出す。笑顔のタンクラッドは頷いて『有難う』とお礼を言うと、ぱくっと食べさせてもらった。


 こういう時。ミレイオの視線は、無視に限る。痛々しそうに見つめ続けるミレイオの目を避けて、親方はイーアンの親切を、燻製魚の味見と共に満喫する。


「イーアン。私も味見するわよ」


「はい。どうぞ」


 イーアンはハッとして、無表情のミレイオに差し出す(※ミレイオ優先しないと機嫌が斜めになる)。


 嫌そうな親方を横目に、フンと鼻を鳴らしたミレイオも食べさせてもらい、『ふむ』と一言。『ちょっとしょっぱい?』きちんと味見役を果たすミレイオは、塩加減が強いんじゃないかと眉を寄せる。


『それでは』とイーアンは、乾燥木の実を砕いて、魚の切り身の合間に詰め『これでどうか』とミレイオに渡す。試食して『ああ、大丈夫かも』の了解を得たので、木の実をわさわさ刻んで他にも詰めた。


 ミレイオは出来た朝食を皿に取り分け、『フォラヴたちに渡してくる』と立ち上がる。『ドルドレンにも渡すから、出なくていいわよ』イーアンにそう言うと、ひょいと馬車を下りてシャンガマックの所へ行った。


 タンクラッドはイーアンに分けてもらい、皿をもらって微笑む。『お前は優しいな』味見をすぐにくれると言うと、イーアンは笑って『親方はいつもでしょう』普通ですよ・・・と、何てことなさそうに返す。


 親方は今も。コルステインがいるとしても、今も。やっぱりイーアンとの、こうした日常的な時間が好きだった。



 ミレイオは、シャンガマック⇒フォラヴ・ザッカリア⇒ドルドレンの順に朝食を届けると、ドルドレンの横にちょっと座って『彼らは何か食べてる様子ある?』と小声で訊いた。


「いや。見ていない。でも馬上朝食だろうが」


「それって。バイラが用意しているのかな」


「どうだろう・・・彼は『干し肉で一ヶ月は過ごせる体』と話していた。その通りなら、彼は干し肉しか持参しないだろうな。それをユータフにも渡すのか」


 ミレイオは、バイラだけだったら朝食を分けたかったが。ユータフは、甘えそうだから遠慮したかった。

 甘えて軽く思われるのは御免なので、そういう相手は放っておくもの。バイラはそんなことはないと分かっているから・・・・・


「ミレイオ。気になるのか。バイラ」


「え?いえ、別に」


 覗き込んだ灰色の瞳に、少し驚いたミレイオは『そうじゃないけど』と笑った。今思ったことを話すと、ドルドレンは理解出来ると苦笑いする。


「『食料を自分たち以外に分けない』そう厳格な決まりもない。ほんの2~3日と思えば、一緒に食事もして良いと、実際は俺も思う。

 だが、それをするには()()()()()()()()。彼はいろいろと誤解するだろう」


「そうなのよ。別に甘やかされて育ったんじゃないと思うけど。彼は『それで良い』って、思っちゃいそうだもんね。私たちと離れた後に『食べさせてもらった』とか、平気で人に言う感じもするし」


 ドルドレンも同じことを思う。勘違いや、簡単な思い込みを触れ回られては困るのだ。

 彼には彼の印象があるだろうから、自分たちとの時間を、どのように他人に言うか。彼の性格を見ていると、下手に親切も出来ないのは本当だった。



 二人は暫く黙る。ドルドレンは、受け取った朝食を齧ると『美味しい』と微笑む。ミレイオも微笑み返し『ありがと』と答えた。


 立ち上がるミレイオに、ドルドレンはちょっと手を触って、振り向かせると『もし。バイラだけが、今後も俺たちと動くのであれば、その時は』そこまで言うと、ミレイオはニコッと笑った。


「そうね。誤解しない人には、ね」


「うん。それで良いと思う」


 ミレイオは、答えたドルドレンの黒髪をサラッと撫でて『私も食事にする』と言って、後ろへ戻った。



 寝台馬車では、フォラヴとザッカリアが朝食を食べながら、地図を見ていた。『今、この道なの』ザッカリアが示す街道に、フォラヴは頷く。『本部はここ?』続く質問にも頷くフォラヴ。


「これ、ここさぁ」


「ザッカリア。食べ物が口に入っている時は、喋ってはいけません」


 3度目はないので、きちっとお行儀を注意し、フォラヴは子供が飲み込むのを待つ。

 もぐもぐして、ごくっと飲んでからザッカリアはもう一度。『ここさ、何で()って言うの』東はこっちだよと、地図の右を指す。


「テイワグナの形なのです。海沿いの地域は沿岸沿いの東西を呼びます。でも、山脈とヨライデに挟まれた地域は、その地域間での東西を示します」


「俺たちが通っている道は山の方だから、()()()()()東と西ってこと?」


「そうですね。ハイザンジェルは形が複雑ではありませんから、東西は覚えやすいのですが。

 ハイザンジェルを囲む国々は、地形がとても変わっています。テイワグナもそうです」


 テイワグナは親指と人差し指を、ぱっと開いた形。

 フォラヴは左手の指をすっと開き、親指の平行の部分を『こちらが沿岸』と教え、垂直にした人差し指を『こちらは山脈とヨライデの間』と教える。


「大きく見れば、東とは親指側ですね。ですけれど、テイワグナは大変広いですので、こちらだけを東とは呼ばず、人差し指側の範囲でも東と西の区別があります」


 ザッカリアはフォラヴの教え方が好き。丁寧で、簡単。ふーんと理解して、本部はどこなのと、フォラヴの指を触る。


「本部は。そうですね。ここかな」


 人差し指の付け根辺りを示し、今はこの近くです、と言うと、ザッカリアも頷いた。『シゾヴァ。俺のお兄ちゃんちは?俺覚えてないけど』覚えてる?と訊かれ、フォラヴは親指の第一関節を示す。


「地図で確認していませんけれど。この辺りではありませんか。海が見えましたから」


「すごい遠い気がする」


「はい。あの時はビルガメスが送って下さったので、難なく早く、到着しましたけれど。馬や馬車では、一ヶ月二ヶ月で着く気がしませんね」


 道も直線ではないですねと、笑う妖精の騎士。ザッカリアも笑って『でもね』と続ける。


「テイワグナにいる間に、また会いたいよ。近くまで行ったらだけど」


「そうなさい。龍で行けば問題ありません。近くまで行ったら・・・是非、シゾヴァに会っていらっしゃい」


 優しいフォラブに、ザッカリアも笑顔で頷く。それから、フォラヴにまた、地図の見方を教えてもらって、ギアッチの持たせてくれた地理の教科書で勉強を続けた。



 青毛の馬の背では、ユータフが硬い肉を齧っていた。バイラに分けてもらった肉はカッチカチで、繊維を噛んで引き剥がすと、枝のようだった。


 硬いっ 一言漏らすと、バイラは肩越しに後ろの若者に『噛め』と短く教えた(※教えてる感じじゃない)。無駄話もしないバイラの後ろ。ユータフは黙って、噛み続ける。


 バイラも干し肉を齧って、繊維で引き千切り、それを噛みながら普通に馬を進めている。ユータフはちょっと喋りたくなって呟いた。


「こんな硬い肉。どこで売ってたんだ?」


「それは質問か。独り言か」


「会話してもいいと思うんだけど」


「答えじゃないな。質問なのか」


 黙ったユータフに少し笑うバイラは『売ってるわけないだろ、干しておくだけだ』と答える。それから、会話を求めたユータフに、僅かな会話時間を作る。


「塩漬け肉があるだろう。あれを切って、焼き釜の横に並べておくんだ。肉の水分が煮えない程度で熱を通したら、風の入る部屋に陰干しで吊るす。一週間もすればこうなる」


「いつも作ってあるのか?警護団は給料も出るし、普通の食事だろ」


「そうだ。俺は習慣だ。これがあるとないとで、違う。今回みたいに急に動く時も使える」


 この肉の分の金も貰う、とバイラは付け足す(※しっかり)。ユータフは、お金を払ってまでこの硬い肉を買いたいとは思わなかったが、そんなことを言おうものなら、きっと何も貰えない気がした。



 馬に乗る肉を齧る二人が、馬車の横を進んでいると、(おもむろ)に馬車の中から変わった音が響き、すぐに『行ってきます』『行ってらっしゃい』の挨拶が聞こえた。


 その声にユータフが振り向き、バイラも後ろを見ると。


 総長が手綱を取る荷馬車の後ろから、長い白い翼がびゅっと出た。『何?』バイラは思わず声が出る。次の瞬間、白い翼は6枚であることと、それは龍の女のものと知る。


「おお・・・・・ 何と」


 空は白く柔らかく光る。宙に浮かび上がる龍の女に、感動するバイラ。


 そしてすぐ、ユータフが何かを口走ろうと息を吸ったことに気が付いて、彼の口に大きな手を当てた(※阻止)。驚くユータフを睨み『何も言うな』と凄む。


 その様子を見たイーアンは、バイラの動きにちょっと笑った。

 バイラはハッとして、自分を見て笑った龍の女に笑顔を向ける。『素晴らしい』少し大きめの声で伝えると、龍の女は翼をぱたぱた動かして近くに来た。


「私はイーアンです。バイラ。気を遣って下さって有難うございます(←明け透け若造を止めた)。

 私は毎日、お昼まで空にいますから、もしも魔物などの戦闘がある際には、呼んで下さい。出来るだけ早く戻りますのでね」


「イーアン・・・空へ。あなたは空に」


「そうなのです。赤ちゃんが沢山いるのです。赤ちゃんのお世話で」


 伝説の話が、自分の人生に現実に起こっている。そのことにバイラは感謝する。その畏敬の眼差しは、イーアンの笑顔に繋がり、ニコッと笑うイーアンは『また午後に会いましょう』と挨拶して、ぱたぱたと一度離れた。


 それからバイラを振り向き『そのお肉、とても美味しそうです』と肉を見つめ(※食べたい)光の向こうから来た青い龍と一緒に、空へ飛んで消えた。


 白い翼の龍の女も、初めて見た、青い大きな龍も。非常に感動的だったが。


 バイラは、最後に言われた『その肉は美味しそう』の言葉に可笑しくて笑った。バイラの笑い声に、御者台の黒髪の騎士が『彼女は肉が好物である』と笑顔で教えてくれた。


「私の干し肉は、とても硬いですけれどね」


「バイラ。彼女は魚も骨ごと。丸々、頭ごと尾までそのまま食べてしまう。屈強な顎の持ち主だ」


 アハハハと笑う総長に、一緒になってバイラも笑う。『分けて差し上げたい』とバイラが言うと、総長は『きっと喜ぶ』と頷いた。


 ドルドレンも。この間、ずっと手を当てられたままのユータフを見ていた。

 バイラの気遣いで、ユータフは面倒も問題も起こさずに済んだ。そう思ってほしい、と心から願った。若者の目は、反抗的に警護団員を睨んでいた。



 朝食の時間も終わり、街道を度々すれ違う馬車に挨拶をしながら、午前の道を進み続ける。


 首都までは、街道沿いに村も町もないので、道を逸れたそちらへ向かうよりも、野営を選んでいる一行は、ただひたすら街道を動く。


 最近はザッカリアが楽器を弾いてくれるのが、楽しかったが。少しの間は無理そうだなと思うドルドレン。それはそれで仕方ない。楽器の音色を楽しみに、早くに辿り着く首都を目指すだけ。


 そんなことを思っていると、ドルドレンの腰袋からやんわり光が漏れていることに気が付く。『イーアンだ』何だろうと思い、応答すると。


『ドルドレン。あなた方の龍たちも、もう動けますよ』


『あれ。そうなのか。ミンティンは来ていたから、と思ったが』


『あの仔は他の龍と違いますもの。でもショレイヤたちも、もう大丈夫』


 さっきオーリンが来て、ガルホブラフと一緒だったと言う愛妻。だから、戦闘の時は呼んで平気ですよ・・・ということだった。それから、ちょっと待ってと言われて待つと。


『ドルドレン』


『む。ビルガメスか?』


『そうだ。お前が成長したらしいことを聞いているぞ。その姿を見せに来い』


 嬉しいドルドレン。うわ~ビルガメス~ おいでって言ってくれるのだ~ そこで喜んでいると、ちょっと笑ったようなビルガメスが、更に素敵なことを伝える。


『子供も沢山いる。遊んでやれ。俺の子供たちはすぐに大きくなるんだ』


『ビルガメスの子供たち。父親に似て美しいだろう。行きたいのだ。赤ん坊は皆可愛い。一緒に遊んであげたい』


『今度、イーアンと来ると良い。お前の留守はタムズでも行かせれば(※嘱託タムズ)』


 早く来るんだぞ、と(※一方的に決定するおじいちゃん)ドルドレンに伝え、ビルガメスはイーアンと代わる。


『良かったですね。ビルガメスはあなたに会いたいようです』


『行くのだ。俺も赤ちゃんを見たい』


 嬉しいドルドレンは、ビルガメスに宜しく伝えてと頼み、イーアンにも『頑張って』と応援を伝えると、通信を切った。


「ショレイヤたちも動ける。心強い・・・が」


 連絡珠を腰袋に戻しながら、()ぎる『同行者』の存在。ショレイヤたちには特に何を言うでもないだろうが・・・・・ 仮に自分の留守中にタムズが来てくれて、タムズに失礼を働いたらと思うと、不安で仕方ない。


「それは避けねば。タムズに嫌な思いをさせられないのだ。そして、させたら最後。ユータフ()は消える(←愛で)」


 ダメだ、ダメダメ、と頭を振り、早く赤ちゃんたちを見に行きたい気持ちを抑え、今はユータフを、首都へ送り届けることに急ごうと決めた。



 ドルドレンが悩んでいると、バイラの馬が近づき、バイラは挨拶をする。


「もう少ししたら、右に向かう道があります。その先は警護団施設ですので、私は一旦そこで」


「お。そうなのか。俺たちはこのまま直進で良いのか?」


「はい。街道は直進です。特に分かれ道もありません。私は報告と届出を済ませたら、追いかけます。先に進んで下さい」


 そう言うとバイラは馬を駆けさせ、『急ぎます』と馬車の相手に大声で伝えて、リマヤ地区の警護団地方行動部へ向かって走り去った。

 あっという間に見えなくなった黒い馬の向かう道を見つめ、ドルドレンは考える。


「彼は。ああして動いている方が、彼に向いている気がする。生き生きしているように見える」


 警護団に入ったバイラは、地元で経験を役立てるつもりだったようだが。彼は護衛業が合っていたのじゃないかなと、そんなことを思う。


 彼が望めばだけれど、この国を旅している間は、同行してもらっても良い気がした。

 その方が、バイラにとっても良さそうな気がしたし、自分たちも頼りに出来る人材を得られる。


 ドルドレンは総長職に就くまでは隊長の期間が長かったが、その間に人を採用するための職務もあった。

 自分の人を見る目は、そんなに悪くないと思う。

 時々、見越しが甘かったと感じる相手もいないわけではなかったが、大体は最初に感じた印象どおりだった。


 太陽が高くなる時間。バイラのことを考えながら、ドルドレンは手綱を取る。


「テイワグナだけでも。一緒に動けたら。彼は俺が思う以上に、優秀のような気がする」


 ユータフを送り届けた後、バイラに時間があれば、話を出してみようかなと思うドルドレン。


 もしそうなると、警護団に休暇届以上の長い休暇を申し出ることになる。となれば、彼を雇うくらいの感覚で話をするべきだ。

 賃金はそれなりに必要だろうから、その辺りは『イーアンに相談だ(※教えてイーアンの時間)』彼女なら、きっと何か考えてくれる・・・と思う(※奥さんに丸投げ)。


 イーアンが戻ったら、お金のやりくりを相談することにして。ドルドレンは、バイラのカッチョ良い鎖帷子を、自分も着せてもらいたいとか、そんなことも思う午前を過ごした。

お読み頂き有難うございます。


先日、誤字報告を頂きました!教えて頂いて訂正した後、まだまだ沢山あることを、もう一度教えていただきまして、大変お手数をお掛けしました!有難うございました!!

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