表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅は道連れ
900/2958

900. 道案内は二人分で

 

 突然、昼過ぎに訪れた警護団員の行動に、旅の一行は驚いたものの。

 彼の態度に悪く思うところはなく、挨拶を一通り聞いて、早々と戻って行った男の背中を見送る。



「(ド)彼は。午後に見回りでこの宿の通りへ来る、と話していたのだ。今は休憩時間だから、宿の確認と俺たちの()()のために来たんだな」


「(ミ)仕事。出来る人いるんじゃない。仕事だけじゃなさそうだけど」


「(タ)あれは大丈夫だろうな。あんな男だったら、大体のところで信用される」


「(ザ)バイラは約束してくれたんだよ。俺がユータフに困らないようにしてくれるって」


「(フォ)あの方は、何も躊躇いませんね。悩んだり、考えるなどの時間が全くありませんでした」


「(シャ)何でも即決のような。すぐに状況の判断が出来る・・・そんな経験値がある」


「(イ)突然でびっくりしましたが。彼が来た理由は、確認と予約。何のでしょう?彼は午後も来ると」


 皆がバイラに酔っている(※ふうに思える)ので、イーアンは彼の来訪の理由を先に確認する。ドルドレンは、ハッとして(※我に返る)そうだったと言いながら、その話をした。


 一部始終を話すドルドレン。合間合間に、シャンガマックやザッカリアの補足が入り、フォラヴの肯定的な頷きを合いの手に、職人とイーアンは『バイラ』の印象が、どれほど良かったかを理解した。


「信用出来そう?」


 イーアンはドルドレンに聞く。彼はゆっくりと首を縦に振り『勿論』と答える。『イーアンは信用出来ないのか』少し心配したような顔で聞き返され、イーアンは『違う』と答えた。


「私も信用して良いと思いました。あの方は真っ直ぐです。恐らく裏表のない、はっきりした生き方をされてきたのでしょう。それは伝わります」


「じゃ、何で聞いたの」


「ほら。精神論、関係なさそうですので。どうも大変分かりやすい、業務と目的の意識がありますね。

 ドルドレンたちは民間業に就いたことが、お在りになりませんから。信用するのも、心の感動などに比重が動きますでしょう」


 ああ~。そういう意味。


 愛妻(※未婚)のご指摘は分かる。ドルドレンは、イーアンと職人二人を見て『()()()ということね』と確認した。3人は頷く。バイラも彼らも()()()系。ドルドレンは『意味が分かった。うん、大丈夫だよ。信用している』と答える。


 タンクラッドは、シャンガマックを少し見た。この前の話を思い出せるかなと、彼の漆黒の瞳を見つめる(※清貧のタダ働き)。

 褐色の騎士は、剣職人の話をすぐ思い出したようで、彼の自分を見つめる様子に苦笑いした。『俺も大丈夫です。理解しています』と言うと、剣職人は微笑んだ。


「先に、彼の話を知らなくて良かったかもね」


 ミレイオはちょっと笑う。いきなり彼が現れて、ああしたことを言われた後だから、かえって信頼出来る気がする。それを話すと、タンクラッドも『それはある』と同意した。



 そんなこんなで、バイラは旅の仲間に()()()を受ける。


 ユータフなのか。バイラなのか。道案内はどっちだろう、その話で盛り上がる午後。これも意見が飛び交った後『二人が一緒だから』二人なのかも・・・で、落ち着く。


 外の通りは既に賑やかで、音楽が始まって、祝い行列を迎える群衆の声が大きくなる。


 ザッカリアは、ユータフが来そうだなと思ったが、バイラを信じて良いと分かって、もう無駄に怖がらなくなっていた。来たとしたって、長い時間じゃない。バイラはもうすぐ来るんだから、と思えば。



 その、思ったとおり。皆が馬車の後ろで話していると、宿の玄関を通った何人かが、裏庭の馬車の並ぶところへ入ってきた。

 皆が会話を止めると、数人の若い男性が寄ってきて、一人がユータフだった。


「俺はこの人たちと話しがあるから。後でね」


 ユータフに挨拶を受けた他の若者は、馬車の中にいる人々をさっと見ると、了解して戻って行った。この登場の仕方も、ユータフの足を引っ張る・・・と、誰もが感じる。


 ザッカリアは一番奥。イーアンの後ろに隠れていた。ユータフはザッカリアを探すように目を泳がせるが、口にする言葉は『昨日の話しなんだけど。一応、俺なりに考えて』とそれらしく繋ぐ。


「その前に。なぜ一人で来なかった」


「え。別にそんな約束してないよ」


「お前は気遣いが。俺たちの話を昨日聞いていたなら、馬車を覗き込まれたり、余計な接触を望んでいないことくらい理解出来るはずだ」


「友達だよ。皆、悪いやつじゃないし。子供の頃からの友達と、祭りだからさ。一緒に」


「ユータフ」


 ドルドレンが静かに彼を制する。彼の性格でもあると分かるが、自分たちが付き合うには、難しい性質に感じる部分。

 ユータフはちょっと黙ってから、自分に怒っているような騎士をちらっと見て『悪かったよ』と謝る。



「俺はやっぱり。一緒に行きたいと思うんだ。馬は貸してもらえる。今の友達の中に、馬を貸してくれるやつがいて。馬は大丈夫だよ。魔物と戦うことは無理だけど」


 ユータフなりに考えた結論。同行の意思を伝える。

 馬車の皆は何も言わない。頭の中には『彼は難しいのでは』とそれが浮かぶばかり。


 親を探しに出たい彼。3日程度、一緒に連れて行ってやればいいのに・・・どこかで誰かがそう言うとしても、『そうですね』とはならない。


 最初の一日で魔物が出るかも知れず、必ず倒して安全な夜を過ごす保証がない。


 ついこの前の村も、到着した早々、魔物退治が始まって、倒しはしたものの、一時的にそれぞれの行方が知れなくなった。

 そんなことが、次に起こらないとも言えないのに。だが、ここにバイラが来るとなれば、少し事情は違う。


「俺は迷惑をかける気はないよ。テントも借りれると思うし。馬車には乗せてもらえないって分かったけど、危なくない場所で寝かせてもらえば、我慢できる」


「そうだな。首都まで普通に行けば、3日掛かるかどうか。聞いてみればここから近い。その程度なら、旅にもならない。お前は首都で親を探すわけで、数日間、野宿で過ごすだけ」


 ドルドレンの言葉に、ユータフは言いにくそうに、もう一つの自分の思いを話し始める。


「最初・・・言っただろ?テイワグナなら子供の時から動いているから、あちこち知ってるんだ。親を首都で探した後、テイワグナの他の町にも行きたい」


「何だって?」


 眉を寄せたドルドレンに、ユータフは目を逸らした。『だからさ。俺が、自分でここに住もうって思える町を見つけるまで、一緒に』そこまで言うと、ユータフは物音にハッとして馬車の向こうを見た。


 全員が眉を寄せる中。ハハハと笑う声が聞こえ、その後。警護団員が現れた。


「ユータフ・トゥーレ。随分と人任せだな」


「あんた。あんた、警護団の人」


「お前よりも年が上だぞ。俺はバイラだ。あんた呼ばわりは次は許さない」


「何で、あん・・・警護団がそんなこと言うんだよ」


 ユータフは驚いて目を丸くする。バイラは若者に軽く笑って、首を傾げると『お前の発言に、誰かは言う』とあっさり往なした。


「そうですね。総長」


 余裕そうな笑顔に、ドルドレンも微笑む。頼もしいなぁ~~~(※ドルはバイラに一票)それもサラッと言っちゃうんだもんなぁ~~~ 心の中で拍手を送る総長。

 ちょっと仲間を振り返れば、皆が同じように微笑んでいる(※バイラ7票獲得)。



「さてね。口の利き方も曖昧なお前を相手にするなら、年長者として接するのが義務だな。俺はお前を、()()()()


 彼ら、騎士修道会ドルドレン・ダヴァート総長率いる、ハイザンジェル王国魔物資源活用機構の命による、魔物退治の旅の一行に、()()()()()()()()()。彼らは民間人の同行を許可出来ない立場だ。


 だが『親探し』との理由を聞いた俺は、それは叶えてやれそうだから、お前が便乗出来る相手を作ってやった。

 それが俺だ。警護団の実戦学習による出張業務で、お前を首都まで連れて行ってやれる。食費は出せよ」


 ぽかんとするユータフ。壁の外は大賑わいで、音楽が鳴り響く。あちこちで歓声や大道芸の声が上がる、騒がしく元気な町の一角で、若者は一人、何の音も聞こえない心境にいた。


「な。なに。何言ってんの」


「うん?聞こえてなかったのか。こんなに近くにいるのに」


「違う!何で、あん(+た)・・・ええと、バイラが俺を管理?!首都までって。食費なんて」


「聞こえているじゃないか。お前は彼らに今後話しかけるな。彼らの業務の話を側で聞くことも許さん。俺はテイワグナ警護団の任務一環として、特定指定活動の団体に協力する立場だ。

 彼らは、ハイザンジェルから特定指定活動のために入国した。彼らの旅路を滞りなく動かす義務がある。


 つまりな。お前は民間人。で、彼らは民間相手に出来ないんだ。そうなるとお前は、彼らに甘えて、2日・3日の道さえ同行できないわけだから、首都に親も探しにいけないだろ?

 それは可哀想に思えるから、俺が仕事の(ついで)にお前を首都まで送ってやる、と言っているんだ」


 バイラの最後の説明に、どうやってもこの警護団員とじゃなければ、首都にも行けないと理解したユータフ。そんな若者に、警護団員は続けて移動中の説明する。


「理解したな。じゃ、説明だ。馬は借りなくて良い。俺が乗せてやる。俺はお前を守ってやることが出来る。俺も魔物退治に参加する機会は、勿論参加するが、その際は隠れろ。

 夜は、俺と同じテント。移動は俺の馬。食事は自分で用意しないなら、食費を渡せ。俺と同じものを食べさせる。そして首都へ着いたら、さよならだ。お前も大人だ。親を探して、身の振り方は自分で切り拓け。出発は明日の朝。町の入り口に」


 何時ですか?と総長に訊ねるバイラに、ドルドレンは『5時』と答える。バイラは、不安そうな若者に『町の入り口に5時。食事か食費を持参』以上、と伝えた。



 ミレイオ、感心。素っ敵~ 何このサバサバ感。こんな男いるんだねぇと思うと、ちょっと思い出す、誰かさんのこと。

 それは誰にも言わないけれど、ミレイオはちょっとの期間、バイラがいる時間は楽しめそうに感じた。


 ドルドレンも、バイラはすっかりお気に召した。

 良いんでないの・・・この人。騎士でもイケル。どれだけ強いかは見ないと分からないけど、うちの執務の騎士(※いびられた記憶)より絶対強いんだから、騎士になれば良いのに(※推薦しちゃうからと思う)。そんなことをひしひし。


 部下たちもバイラを見ていると、ブラスケッドを思い出すので、何となーく『隊長』と呼んでしまいそうになる。恐らく年齢も総長と近いような。隊長認定は浸透中。


 タンクラッドは、彼を眺めて、やはり友達(※そんな扱いしていないけど)ブラスケッドを思う。似てるんだよなぁと思いつつ、ブラスケッドのふざけた感じがないから、付き合いやすそうである。


 この中でイーアンだけは、ちょっと違う意識でバイラを見ていた。


 普段は、精神論的感覚ナシの男性らしいけど、大変に厚い信仰心も持ち合わせている。自分にも、ミレイオにも、全く臆することなく、また僅かなネガティブもなく見抜いた。

 サバッとした商売的な感覚の護衛業。国民を守る意識の高さ。信仰心の深さ。そして、相手を見抜く目の持ち主。こんな人はあまり出会わない。


 彼は。ユータフの一件を通して、伴侶たちが出会ったようだが。彼との出会いは、道案内以外の意味がある気がする。

 ()()()()()()()()()()()人なのでは、とそんな気がしていた。


 明日、お空でおじいちゃんに訊いてみよう~と思うイーアン。


 ルガルバンダも教えてくれるけれど、昨日今日と、連日ルガルバンダだったので、何かウラがありそうな雰囲気(※当)を感じ、明日あたりはビルガメスに来てもらおうと考える(※何のかんの言って、ビルガメスが一番付き合いやすいイーアン)。



 バイラとユータフのやり取りを、静聴した後。ルータフを帰したバイラは『自分も業務だから』と皆に挨拶し『明日から宜しくお願いします』さくっと笑顔を向けて去って行った。


 午後。旅の一行は、本部までの道のりの確認をし、バイラが同行する地区内を、どれだけ回ろうかと相談した(※一緒にいたい気持ちが湧く)。


「リマヤ地区。と言ったな。本部まで行くと、別の地区だ。だが本部の手前、首都は広いから・・・リマヤはこの下の方まで続くんだな」


 ドルドレンが、地図に指をずらしながら確認。覗き込むシャンガマックも指先で、トントンと囲みを作り『この辺りまではリマヤです』と教える。


「私たちって、テイワグナ全体回るけどさ・・・リマヤ地区出ちゃうと、彼はもう動けないの?」


 ミレイオも胡坐をかいて、顎に手を添えながら、地図を睨んで訊ねる。ドルドレンは息を吸い込み、首を傾げ『どうなのだろう。役職に就いているらしいから。唐突な展開だし』無理かもね、と答える。


「あの方は、護衛で若い頃からテイワグナを回ったのでしょう?相当ご存知でいらっしゃいますよ。この国の地理に、明るくない私たちに・・・道案内としてお願い出来たら、心強いでしょう」


 妖精の騎士は、テイワグナ出身の誰かがいれば違う、と言う。それは皆も思っていること。


「俺とミレイオは、テイワグナは来たことがあるんだ。だが、もう随分前だし、通った場所は限られている。同じ道筋を動けば、記憶も役に立とうものだが、やはり地元の人間には敵わんだろうな」


 親方も、文字通りの『道案内』の存在は、必要に思うことを伝える。


()()()()じゃありませんね。彼は町の中は仕事上、知っていそうですが。道などは親の馬車に任せていたでしょうから」


 シャンガマックの言葉に、皆が頷いて『そうだよね』と同意する。そして、なぜ二人なのか。その意味も見当を付ける。


「それだ。シャンガマック。

 ユータフは『町の中専用』だ。バイラは『道専門』で、更に戦闘経験もある。

 だが、バイラが町の中も知っているとなれば、ユータフはやっぱり、首都でお別れすることになるだろうな」


 親方がそう言うと、騎士たちも納得。ミレイオは『バイラだけで良いと思うわ』と呟いた。



 皆の午後は、ほんの3日程度の同行で終わるかも知れない、二人の道連れの会話で流れた。


 しかし、一人は3日程度でも、もう一人は3日で帰す気になれない、そんな出会いであることに。

 直接、言葉にはしないものの、誰もが『リマヤ地区を回る用事』を見つけようとしていた。これは夕食の時間にも持ち込まれ、寝る前まで続いた。

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ