900. 道案内は二人分で
突然、昼過ぎに訪れた警護団員の行動に、旅の一行は驚いたものの。
彼の態度に悪く思うところはなく、挨拶を一通り聞いて、早々と戻って行った男の背中を見送る。
「(ド)彼は。午後に見回りでこの宿の通りへ来る、と話していたのだ。今は休憩時間だから、宿の確認と俺たちの予約のために来たんだな」
「(ミ)仕事。出来る人いるんじゃない。仕事だけじゃなさそうだけど」
「(タ)あれは大丈夫だろうな。あんな男だったら、大体のところで信用される」
「(ザ)バイラは約束してくれたんだよ。俺がユータフに困らないようにしてくれるって」
「(フォ)あの方は、何も躊躇いませんね。悩んだり、考えるなどの時間が全くありませんでした」
「(シャ)何でも即決のような。すぐに状況の判断が出来る・・・そんな経験値がある」
「(イ)突然でびっくりしましたが。彼が来た理由は、確認と予約。何のでしょう?彼は午後も来ると」
皆がバイラに酔っている(※ふうに思える)ので、イーアンは彼の来訪の理由を先に確認する。ドルドレンは、ハッとして(※我に返る)そうだったと言いながら、その話をした。
一部始終を話すドルドレン。合間合間に、シャンガマックやザッカリアの補足が入り、フォラヴの肯定的な頷きを合いの手に、職人とイーアンは『バイラ』の印象が、どれほど良かったかを理解した。
「信用出来そう?」
イーアンはドルドレンに聞く。彼はゆっくりと首を縦に振り『勿論』と答える。『イーアンは信用出来ないのか』少し心配したような顔で聞き返され、イーアンは『違う』と答えた。
「私も信用して良いと思いました。あの方は真っ直ぐです。恐らく裏表のない、はっきりした生き方をされてきたのでしょう。それは伝わります」
「じゃ、何で聞いたの」
「ほら。精神論、関係なさそうですので。どうも大変分かりやすい、業務と目的の意識がありますね。
ドルドレンたちは民間業に就いたことが、お在りになりませんから。信用するのも、心の感動などに比重が動きますでしょう」
ああ~。そういう意味。
愛妻(※未婚)のご指摘は分かる。ドルドレンは、イーアンと職人二人を見て『君たちということね』と確認した。3人は頷く。バイラも彼らもそっち系。ドルドレンは『意味が分かった。うん、大丈夫だよ。信用している』と答える。
タンクラッドは、シャンガマックを少し見た。この前の話を思い出せるかなと、彼の漆黒の瞳を見つめる(※清貧のタダ働き)。
褐色の騎士は、剣職人の話をすぐ思い出したようで、彼の自分を見つめる様子に苦笑いした。『俺も大丈夫です。理解しています』と言うと、剣職人は微笑んだ。
「先に、彼の話を知らなくて良かったかもね」
ミレイオはちょっと笑う。いきなり彼が現れて、ああしたことを言われた後だから、かえって信頼出来る気がする。それを話すと、タンクラッドも『それはある』と同意した。
そんなこんなで、バイラは旅の仲間に合格点を受ける。
ユータフなのか。バイラなのか。道案内はどっちだろう、その話で盛り上がる午後。これも意見が飛び交った後『二人が一緒だから』二人なのかも・・・で、落ち着く。
外の通りは既に賑やかで、音楽が始まって、祝い行列を迎える群衆の声が大きくなる。
ザッカリアは、ユータフが来そうだなと思ったが、バイラを信じて良いと分かって、もう無駄に怖がらなくなっていた。来たとしたって、長い時間じゃない。バイラはもうすぐ来るんだから、と思えば。
その、思ったとおり。皆が馬車の後ろで話していると、宿の玄関を通った何人かが、裏庭の馬車の並ぶところへ入ってきた。
皆が会話を止めると、数人の若い男性が寄ってきて、一人がユータフだった。
「俺はこの人たちと話しがあるから。後でね」
ユータフに挨拶を受けた他の若者は、馬車の中にいる人々をさっと見ると、了解して戻って行った。この登場の仕方も、ユータフの足を引っ張る・・・と、誰もが感じる。
ザッカリアは一番奥。イーアンの後ろに隠れていた。ユータフはザッカリアを探すように目を泳がせるが、口にする言葉は『昨日の話しなんだけど。一応、俺なりに考えて』とそれらしく繋ぐ。
「その前に。なぜ一人で来なかった」
「え。別にそんな約束してないよ」
「お前は気遣いが。俺たちの話を昨日聞いていたなら、馬車を覗き込まれたり、余計な接触を望んでいないことくらい理解出来るはずだ」
「友達だよ。皆、悪いやつじゃないし。子供の頃からの友達と、祭りだからさ。一緒に」
「ユータフ」
ドルドレンが静かに彼を制する。彼の性格でもあると分かるが、自分たちが付き合うには、難しい性質に感じる部分。
ユータフはちょっと黙ってから、自分に怒っているような騎士をちらっと見て『悪かったよ』と謝る。
「俺はやっぱり。一緒に行きたいと思うんだ。馬は貸してもらえる。今の友達の中に、馬を貸してくれるやつがいて。馬は大丈夫だよ。魔物と戦うことは無理だけど」
ユータフなりに考えた結論。同行の意思を伝える。
馬車の皆は何も言わない。頭の中には『彼は難しいのでは』とそれが浮かぶばかり。
親を探しに出たい彼。3日程度、一緒に連れて行ってやればいいのに・・・どこかで誰かがそう言うとしても、『そうですね』とはならない。
最初の一日で魔物が出るかも知れず、必ず倒して安全な夜を過ごす保証がない。
ついこの前の村も、到着した早々、魔物退治が始まって、倒しはしたものの、一時的にそれぞれの行方が知れなくなった。
そんなことが、次に起こらないとも言えないのに。だが、ここにバイラが来るとなれば、少し事情は違う。
「俺は迷惑をかける気はないよ。テントも借りれると思うし。馬車には乗せてもらえないって分かったけど、危なくない場所で寝かせてもらえば、我慢できる」
「そうだな。首都まで普通に行けば、3日掛かるかどうか。聞いてみればここから近い。その程度なら、旅にもならない。お前は首都で親を探すわけで、数日間、野宿で過ごすだけ」
ドルドレンの言葉に、ユータフは言いにくそうに、もう一つの自分の思いを話し始める。
「最初・・・言っただろ?テイワグナなら子供の時から動いているから、あちこち知ってるんだ。親を首都で探した後、テイワグナの他の町にも行きたい」
「何だって?」
眉を寄せたドルドレンに、ユータフは目を逸らした。『だからさ。俺が、自分でここに住もうって思える町を見つけるまで、一緒に』そこまで言うと、ユータフは物音にハッとして馬車の向こうを見た。
全員が眉を寄せる中。ハハハと笑う声が聞こえ、その後。警護団員が現れた。
「ユータフ・トゥーレ。随分と人任せだな」
「あんた。あんた、警護団の人」
「お前よりも年が上だぞ。俺はバイラだ。あんた呼ばわりは次は許さない」
「何で、あん・・・警護団がそんなこと言うんだよ」
ユータフは驚いて目を丸くする。バイラは若者に軽く笑って、首を傾げると『お前の発言に、誰かは言う』とあっさり往なした。
「そうですね。総長」
余裕そうな笑顔に、ドルドレンも微笑む。頼もしいなぁ~~~(※ドルはバイラに一票)それもサラッと言っちゃうんだもんなぁ~~~ 心の中で拍手を送る総長。
ちょっと仲間を振り返れば、皆が同じように微笑んでいる(※バイラ7票獲得)。
「さてね。口の利き方も曖昧なお前を相手にするなら、年長者として接するのが義務だな。俺はお前を、管理する。
彼ら、騎士修道会ドルドレン・ダヴァート総長率いる、ハイザンジェル王国魔物資源活用機構の命による、魔物退治の旅の一行に、お前は同行出来ない。彼らは民間人の同行を許可出来ない立場だ。
だが『親探し』との理由を聞いた俺は、それは叶えてやれそうだから、お前が便乗出来る相手を作ってやった。
それが俺だ。警護団の実戦学習による出張業務で、お前を首都まで連れて行ってやれる。食費は出せよ」
ぽかんとするユータフ。壁の外は大賑わいで、音楽が鳴り響く。あちこちで歓声や大道芸の声が上がる、騒がしく元気な町の一角で、若者は一人、何の音も聞こえない心境にいた。
「な。なに。何言ってんの」
「うん?聞こえてなかったのか。こんなに近くにいるのに」
「違う!何で、あん(+た)・・・ええと、バイラが俺を管理?!首都までって。食費なんて」
「聞こえているじゃないか。お前は彼らに今後話しかけるな。彼らの業務の話を側で聞くことも許さん。俺はテイワグナ警護団の任務一環として、特定指定活動の団体に協力する立場だ。
彼らは、ハイザンジェルから特定指定活動のために入国した。彼らの旅路を滞りなく動かす義務がある。
つまりな。お前は民間人。で、彼らは民間相手に出来ないんだ。そうなるとお前は、彼らに甘えて、2日・3日の道さえ同行できないわけだから、首都に親も探しにいけないだろ?
それは可哀想に思えるから、俺が仕事の序にお前を首都まで送ってやる、と言っているんだ」
バイラの最後の説明に、どうやってもこの警護団員とじゃなければ、首都にも行けないと理解したユータフ。そんな若者に、警護団員は続けて移動中の説明する。
「理解したな。じゃ、説明だ。馬は借りなくて良い。俺が乗せてやる。俺はお前を守ってやることが出来る。俺も魔物退治に参加する機会は、勿論参加するが、その際は隠れろ。
夜は、俺と同じテント。移動は俺の馬。食事は自分で用意しないなら、食費を渡せ。俺と同じものを食べさせる。そして首都へ着いたら、さよならだ。お前も大人だ。親を探して、身の振り方は自分で切り拓け。出発は明日の朝。町の入り口に」
何時ですか?と総長に訊ねるバイラに、ドルドレンは『5時』と答える。バイラは、不安そうな若者に『町の入り口に5時。食事か食費を持参』以上、と伝えた。
ミレイオ、感心。素っ敵~ 何このサバサバ感。こんな男いるんだねぇと思うと、ちょっと思い出す、誰かさんのこと。
それは誰にも言わないけれど、ミレイオはちょっとの期間、バイラがいる時間は楽しめそうに感じた。
ドルドレンも、バイラはすっかりお気に召した。
良いんでないの・・・この人。騎士でもイケル。どれだけ強いかは見ないと分からないけど、うちの執務の騎士(※いびられた記憶)より絶対強いんだから、騎士になれば良いのに(※推薦しちゃうからと思う)。そんなことをひしひし。
部下たちもバイラを見ていると、ブラスケッドを思い出すので、何となーく『隊長』と呼んでしまいそうになる。恐らく年齢も総長と近いような。隊長認定は浸透中。
タンクラッドは、彼を眺めて、やはり友達(※そんな扱いしていないけど)ブラスケッドを思う。似てるんだよなぁと思いつつ、ブラスケッドのふざけた感じがないから、付き合いやすそうである。
この中でイーアンだけは、ちょっと違う意識でバイラを見ていた。
普段は、精神論的感覚ナシの男性らしいけど、大変に厚い信仰心も持ち合わせている。自分にも、ミレイオにも、全く臆することなく、また僅かなネガティブもなく見抜いた。
サバッとした商売的な感覚の護衛業。国民を守る意識の高さ。信仰心の深さ。そして、相手を見抜く目の持ち主。こんな人はあまり出会わない。
彼は。ユータフの一件を通して、伴侶たちが出会ったようだが。彼との出会いは、道案内以外の意味がある気がする。
誰かのために用意された人なのでは、とそんな気がしていた。
明日、お空でおじいちゃんに訊いてみよう~と思うイーアン。
ルガルバンダも教えてくれるけれど、昨日今日と、連日ルガルバンダだったので、何かウラがありそうな雰囲気(※当)を感じ、明日あたりはビルガメスに来てもらおうと考える(※何のかんの言って、ビルガメスが一番付き合いやすいイーアン)。
バイラとユータフのやり取りを、静聴した後。ルータフを帰したバイラは『自分も業務だから』と皆に挨拶し『明日から宜しくお願いします』さくっと笑顔を向けて去って行った。
午後。旅の一行は、本部までの道のりの確認をし、バイラが同行する地区内を、どれだけ回ろうかと相談した(※一緒にいたい気持ちが湧く)。
「リマヤ地区。と言ったな。本部まで行くと、別の地区だ。だが本部の手前、首都は広いから・・・リマヤはこの下の方まで続くんだな」
ドルドレンが、地図に指をずらしながら確認。覗き込むシャンガマックも指先で、トントンと囲みを作り『この辺りまではリマヤです』と教える。
「私たちって、テイワグナ全体回るけどさ・・・リマヤ地区出ちゃうと、彼はもう動けないの?」
ミレイオも胡坐をかいて、顎に手を添えながら、地図を睨んで訊ねる。ドルドレンは息を吸い込み、首を傾げ『どうなのだろう。役職に就いているらしいから。唐突な展開だし』無理かもね、と答える。
「あの方は、護衛で若い頃からテイワグナを回ったのでしょう?相当ご存知でいらっしゃいますよ。この国の地理に、明るくない私たちに・・・道案内としてお願い出来たら、心強いでしょう」
妖精の騎士は、テイワグナ出身の誰かがいれば違う、と言う。それは皆も思っていること。
「俺とミレイオは、テイワグナは来たことがあるんだ。だが、もう随分前だし、通った場所は限られている。同じ道筋を動けば、記憶も役に立とうものだが、やはり地元の人間には敵わんだろうな」
親方も、文字通りの『道案内』の存在は、必要に思うことを伝える。
「ユータフじゃありませんね。彼は町の中は仕事上、知っていそうですが。道などは親の馬車に任せていたでしょうから」
シャンガマックの言葉に、皆が頷いて『そうだよね』と同意する。そして、なぜ二人なのか。その意味も見当を付ける。
「それだ。シャンガマック。
ユータフは『町の中専用』だ。バイラは『道専門』で、更に戦闘経験もある。
だが、バイラが町の中も知っているとなれば、ユータフはやっぱり、首都でお別れすることになるだろうな」
親方がそう言うと、騎士たちも納得。ミレイオは『バイラだけで良いと思うわ』と呟いた。
皆の午後は、ほんの3日程度の同行で終わるかも知れない、二人の道連れの会話で流れた。
しかし、一人は3日程度でも、もう一人は3日で帰す気になれない、そんな出会いであることに。
直接、言葉にはしないものの、誰もが『リマヤ地区を回る用事』を見つけようとしていた。これは夕食の時間にも持ち込まれ、寝る前まで続いた。
お読み頂き有難うございます。




