899. 警護団員ジェディ・バイラ
ドルドレンたちは、警護団駐在所で思わぬ出逢い(※この人で決定と思ってる)を与えられ、既のところで、ユータフを忘れそうになった。
そこはドルドレンが思い出し『ユータフ』と、褐色の騎士に振り向いて囁く。シャンガマックもハッとした顔(※忘れてた)で頷き『どういうことだろうか』と顎に手を添えて呟いた。
二人の騎士の様子が変わったので、バイラはすぐにその理由を訊ねる。
ドルドレンはシャンガマックと目を見合わせてから、昨日の出来事の粗筋を話してみた。『道案内の登場』や『占い』等については伏せ、若者ユータフの話をバイラはどう思うか。
バイラは静かに話を聞き、顔を総長へ向け、すぐに答えを伝える。
「ユータフ・トゥーレですか。詳しくは知りませんが、この町の駐在に来るようになってから、彼の話は時々上がります。元気な青年ですね。そんな事情があるとは知らなかったけれど。
でも彼が行き先である首都へ、あなた方を縋って動きたいと言うなら。私が彼を守っても良いでしょう」
「そんな。バイラは戦うために」
驚いた総長に、バイラは小さく首を振って『序ですから』とあっさり済ませる。
さばさばした性格だなぁとも感心するし、瞬時に不要必要の有無を判別しているバイラの答えに、総長は彼は優秀であると理解する。
お荷物でしかない若者を連れて行くのに、バイラは自分の許容範囲とすぐに認めたのだろう。護衛をしていた経験が、一人くらいは問題ないと思ったのか。
「でも。彼の食費くらいは貰いますよ。私と同じものを食べてもらうので」
「寝床は?移動だって、彼は馬車には」
「私が『序に守れる』と言った場合、寝床も移動も私が管理します。彼は若く、健康です。これで護衛の範囲は楽なものです」
『楽な範囲』の意味を聞いてみると、老人や体の動きが難しい人を連れる場合と違う、と彼は説明した。
「年の大きな人や、身体に身動きが制限される人を連れて行くと言うなら、私の目的の行動に懸念も出ます。
でもユータフ・トゥーレは、普通の若者でしょう。健康体です。逃げろと言えば逃げるし、隠れろといえば隠れて動かないものです。
私は彼を管理して守りますが、責任は負いません。彼が私を頼るのならば、首都へ届けるくらい出来ます」
これには騎士たちは驚いた。ヒジョーにざっくりと話す、バイラ。
護衛業を離れて10年近いと話していたが、未だ守る姿勢が生きている。そして騎士とはまた違う『守る業務』の感覚が抜けていない。
お金を受け取れば護衛は請け負うが、他は自己責任として、線引きがはっきりしている。彼曰く『一応、今は警護団ですから。民間の警護も、無理のない状態なら挟める』とのこと。
まだるっこしい取り決めも、範囲外の例外もない。『これ以外はナシ』の徹底した、簡素且つ、明快な業務内容は、騎士たちに民間業の根太さを感じさせた。精神的なもの、一切ゼロ。
「え。では。バイラは、彼を・・・ユータフを連れて行っても良いと。俺たちとは関係ない状態で」
「はい。ユータフには私が話しますが、あなた方の邪魔になるような行動はさせないです。彼は、あくまで『私の目的の動きに便乗して、首都まで同行』です。
もし、ユータフがひょんなことで、直にこの話を私にしたとしても、同じように私は引き受けたと思います。私は警護団ですし、ここから首都まではそんなに離れていないから、護衛的な行動も問題ないはずです。後は、私の範囲であれば」
カッコイイ~・・・・・ ドルドレンは、バイラの男らしいザックリ感に、心の中で拍手。
ちらっと部下たちを見ると、皆同じような目で彼を見ている(※『すっげ~』の眼差し)。
ザッカリアはじーっとバイラを見つめていたが、バイラが子供に視線を動かすと、思い切ったように口を開いた。
「俺。ザッカリア・ハドロウです」
突然、自己紹介(※そして自己紹介だけは敬語)。大人は一様に『?』の状態で子供を見る。ザッカリアは、自分に頷いたバイラに相談をする。
「ユータフはね。俺が好きみたいなんだよ。それが気持ち悪くて嫌なんだ」
子供の打ち明けに、騎士たちは『うへっ』と顔を歪ませた。それ、言わなくても、と思うが、バイラは目を少し開いただけで、静かに頷く(※大人)。
「俺に近づけないでほしいんだ。出来る?おじさんに頼むとお金要る?」
「要らないよ。君たちに近づけるつもりはない、って。私は言ったはずだよ。話しかけるのも嫌なんだね」
「そう。だって、俺のこと女だと思ったんだよ。それで違うって言ったのに、それでも付きまとうんだよ」
「うん。君の戦う意識が削がれるような心配は、私がどうにか出来る範囲だ。私の目的は、君たちの魔物退治に参加させてほしいこと。その邪魔になるような行動は、一切を阻止しよう」
バイラはニコッと笑う。ザッカリアは、意外にはっきりと約束をもらえて、安心したように笑顔を見せた。『有難う』バイラにそう言うと、横のフォラヴを見上げて、微笑むフォラヴに『良かった』と伝えた。
思ってもない、ユータフ同行解決案。そして、ザッカリアの身の安全確保。騎士たちは、これもこれでお導きと思えた。
ドルドレンはバイラに、明日の早朝に立つつもりであることと、今夜はユータフのこともあるだろうからとして、自分たちがいる宿を教えた。
「午後。私は祝い行列の時間に、その宿付近を警護で回ります。その時に、明日の話を決めたいです。
急な展開ですが、明日あなた方が立つのであれば、これから報告準備をして、リマヤ地区警護団施設へ早馬を出します。私も明日の朝から動けるように。
警護団施設はこの町の先ですから、行く道で私は向かいます。施設で届けを改めて出し、許可を得て合流へ」
無駄なく淡々と話が進む、仕事ストレスのないバイラ相手に、ドルドレンは丁寧にお礼を言い『宿で待つ』と微笑み(※リラックス・スマイル)部下を連れて宿へ戻った。
宿までの帰り道。部下と総長は、バイラが警護団にいたのが正しくお導きだと、褒め称えた。
一方、親方とミレイオ。ミレイオの食材買出しに、親方は荷物持ち(※これしかすることない)。『もう持てないぞ』両手を塞ぐ箱の山に、親方は不満そうに言う。
「分かってるわよ。一度戻って荷物置いて」
「さっきから何回戻ってるんだ。次で4回目だぞ」
「あんた、よく食べるくせに文句言うんじゃないわよ。あんたが一番、食料減らしてるでしょ」
それを言われると黙るタンクラッド。舌打ちして(※聞こえないように)山積みの箱を抱えて宿へ歩く。
ミレイオは一緒に歩きながら(※手ぶら)通りで安売りの食材を見ると『あ。ちょっと待って』を繰り返す。その度に止まるので、イライラする親方。
「お前な」
「ウルサイ!イーアンがこれ、好きなのよっ。あの子が使いやすい食材がある方が良いでしょ」
それに安いじゃん、と笑顔でひょいひょい籠に入れるミレイオ。店のおじさんにお金を渡し、箱に入れてもらってから、タンクラッドの箱の上に積む。青筋の立つタンクラッドを無視し、刺青パンクは『ほら。行くわよ』と歩き出す。
「もう充分だろう。これだけ買えば。馬車に乗せるいつもの量と同じか、それ以上だ(※嫌味)」
「まぁね。そうかな。でも、安いところで買っといた方が良いからさ。この町は安いよ」
ぶーぶー煩いタンクラッドに『あーウルサ』とぼやきながら、ミレイオは表通りの果物を二つ買って、ぴきぴきしている親方にも『ほら』と差し出す。
「食えるわけないだろ。両手が塞がってるんだ」
「あ。そうね。じゃ、後で食べな」
果物の一つを自分の腰袋に仕舞い、もう一つは齧りながら、ミレイオは歩く。『果物も欲しいよね』とか何とか言い、でも持たないんだよなぁと自分で突っ込む。
宿へ着くまでの間。ミレイオ付きなので、タンクラッドは特に誰に声をかけられることもなかったが、このミレイオとの買い物は、今後は避けるべきだと誓った。
屋台の出ている通りは主道なので、そこさえ通らなければ、宿には比較的早く着く。荷物持ちの親方とミレイオは三回目の買出しから戻り、馬車へ食料を積んだ。
「ほら、見てみろ。もう入らん。買う必要、ないからな」
「ええ?あー・・・そうね。じゃ、仕方ないか」
箱を置いた親方に言われて、ミレイオもふむふむ頷き『後でイーアンに見せる』と言うと、果物をタンクラッドに渡して、一緒に馬車に座った。
不満丸出しのタンクラッドは、受け取った果物をがつがつ齧る。ミレイオに『種は出しなさい』と注意され、睨みつけてから種も飲み込んだ。
それから、馬車の中を振り返り、食料を見てミレイオに訊ねる。
「今日出発か?」
「知らないわよ。でもシャンガマックの話だと、本部のある町はもうすぐでしょ?あと2~3日っていうし」
「同行者次第か」
同行者。その言葉で、ミレイオの明るい金色の瞳が空を見た。『この旅って。複雑よね』晴天に呟く言葉は、親方の勘に引っかかる。
「そう思わない?私は旅の仲間じゃないのに、シャンガマックは『私の存在が必要』って占いで見たわけでしょ。オーリンも重要な立場なのに、来たり来なかったり。
そうかと思えば、仲間として名前が上がってるのに寄って来ないヤツもいて。
道案内とか言っちゃって、あんな若造が一緒とかさ。読めないよね」
「そんなもの、旅の印象によりけりだ。旅する意味自体は、何も複雑じゃないだろ。どこに視点を置くか、それだけだ」
分かってるわよ、とミレイオは呟く。『そういうこと言ってるんじゃないの』ふーっと息を吐き出し、それ以上は言わないので、親方も黙っていた。
そうしていると、外から馴染みのある声が聞こえてきて、ミレイオが『戻ってきた』と言うと同時に、ミレイオと親方は空もさっと見上げる。
「あっちも戻ってきたな」
フフンと笑う親方。ミレイオも笑みが浮かぶ。『今日、早かった。良かった』白く光る空を見上げ、『私迎えに行く』とミレイオは立ち上がる。
「待て。俺が行く」
「いいわよ。私行くから。ドルドレンたちも帰ってきたんだし」
二人で自分が行くと言い合っていると、馬車に騎士たちが来て朗らかな笑顔で『戻ったよ』と挨拶。機嫌が良さそうなので、親方とミレイオは、うん、と頷いて流した。
そして、イーアンが戻ったから迎えに行くと、伝えると、ドルドレンは自分が行きたいと言い始める。
ザッカリアも、早くイーアンに報告したいので、自分も行くと頼む。イーアンはもう、壁の外にいると分かっているので、待たせるわけに行かず、結局は全員で向かった。
壁の外で龍を返し、イーアンはてくてくと町へ歩く。
『今日は早かった。意外にお昼前帰宅って、貴重ですよ』いつも気がつくとお昼過ぎるものね・・・うんうん、頷きながら、ついうっかり赤ちゃんsと遊び過ぎちゃう楽しさを思う。
てくてく歩いていると、町の入り口からわらわらとお仲間が出てくるのを見つけた。正確には、遠目が利かないので、気配で察知。
「あら。皆さんで来て下さいました。有難いですねぇ」
手を振って『ただいま戻りました~』と叫ぶと、向こうも『お帰り~』と返してくれる。そうして歩み寄って、笑顔で合流。7人一緒に町へ入り、昼時前の混み始めた道を歩く。
出てきた序にお昼を食べようとなり、一行は混む手前の店屋に入って昼食。
祭り時だからか、従業員も多い。女性の従業員に騒がれながら、『一々これだよ』と笑うミレイオに守られて、皆は出てきた料理を黙々と食べる。
笑顔の多い騎士たちの様子。イーアンもミレイオもタンクラッドも、何かあったことくらいは分かるが。
『何かあったの』話を聞こうとすると、女性従業員が用もないのに笑顔で来て、総長始めとする騎士たちに話しかける。親方も漏れなく話しかけられる。
「鬱陶しい。落ち着かない」
ここでは会話にならないと、ミレイオが従業員を追い払って(※『あっち行け』『用ねぇだろ』)皆に早く食事をするように急かし、詰め込むように昼食の時間を終えた。
「はい。終わり。行くわよ。戻って話し聞かせて」
ミレイオは全員を立たせると、慌しく追い立てて、店の外へ誘導。めげない女性たちを睨みつけ『寄るんじゃない』と一喝。仲間を保護して、宿へ戻った。
「祭りの期間だから。皆が開放的なのか」
ドルドレンは面倒そうに呟いた。それは他の者も同じで、宿に戻って馬車に集まると『食事が一番疲れた』と苦笑い。
「まぁ良いわよ。で?何かあったんでしょ?機嫌が良いから」
騎士たちのゆとりのある様子に、何やら安心することでもあったのかとミレイオが訊ねる。ドルドレンが頷き、ザッカリアを見て微笑む。ザッカリアもニコッと笑ってから、イーアンに『さっき話したかったんだけど』と言いかけた。
「こんにちは。馬車にいますか?」
ザッカリアが話そうとした矢先、馬車のある裏庭に男の低い声が響いた。ドルドレンたちはさっと顔を見合わせ『もう?』と驚く。職人たちは誰だか分からない。
『誰?』ミレイオがフォラヴに訊ねた時、声の主が近づく足音と一緒に、馬車をひょいと覗き込んだ。
「あ。すみません。今、立ち寄ったので」
警護団のバイラが、荷馬車の後ろに集まった旅人たちを見て、すぐに謝る。それから、新しく目に入った、刺青の男性と、背の高い顔つきの厳しい男性、そして『まさか。あなたが龍の』角のある女性に、少し驚いた。
「私は警護団のジェディ・バイラです。すごい。こんなにすぐに、この聖なる存在に出会うなんて。テイワグナに来て下さって有難う」
跪いたバイラに、イーアンびっくり。皆もびっくり。イーアンは急いで馬車から出て『立って下さい』とお願いした。バイラを覗き込んで『そんなに早く分かるものですか』と、そっちのが驚くので、質問をすると、バイラは嬉しそうに笑顔を向けて頷く。
「あなたのその、白く輝く角。崇高な顔立ち。空の大きさを知る眼差し。私たちが子供の頃から聞かされ、大切にしてきた龍の女そのものです。ゼーデアータ龍そのもの。
初めて会ったけれども、初めてではないような。いつも龍に守られ、精霊に守られて、私たちテイワグナの民は生きてきました」
物凄~く感激されて、イーアンは真顔で、うん、と頷く(※どう反応して良いか分からない)。でも誉められたので『この方は通過』と認める(※カオツノ評価大事)。
驚いている皆を見て、バイラはドルドレンたちに一度微笑むと、すぐにタンクラッドを見た。
「あなたは職人でしょう?何て鋭い目なんだ。剣ですか」
「なぜ分かる」
「テイワグナにも剣工房はあります。あなたくらい若い人は少なくなりましたが、一つの技術を磨く年輪のある雰囲気は、国や年齢が違っても同じと分かります」
タンクラッドは、この男はなかなか良いヤツではないのだろうか、と思った(※誉められると弱い人)。
剣職人の仕事を見抜いたバイラに驚くミレイオ。『あんた、何者』と呟くと、バイラはミレイオの目を見て、目を丸くした。
「何と。龍の人ではないと思うが。その瞳はまるで龍のようだ。彼を見た時も気にはなったが(※と言って、ザッカリアを見る)あなたは・・・古代の伝説を体に。人ではないでしょう?もっと大きな存在だ」
「え?」
ミレイオはビビる。こんなふうに普通の人間に言い当てられたことなんて・・・一度しかない。驚くミレイオに、バイラは心から感心したように、深く微笑みを見せる。
「素晴らしい。総長、あなたの旅の仲間!協力者は、こんなに力強く、信頼関係が築き上げられた方々で、固められているのですか。あなたがどれだけ慕われているのか、見て分かる」
ドルドレンはちょっと照れて、はにかみながら頷いた(※やっぱこの人だよ、と思う)。
「ドルドレン。彼じゃないの?」
少し困惑しながらも、テレテレしている刺青パンクが、ぎこちない笑顔でバイラを指差して『でしょ?』と確認する。ドルドレンも『そう願う』と真剣に答えた。
お読み頂き有難うございます。




