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魔物資源活用機構  作者: Ichen
見つめ直す存在
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897. 祭りの夜に ~道案内のお告げ

 

 一行は、夕食のために移動する。

 時間は早いが、祭日なのでどこもかしこも混んでいて、食事処も休憩時間ナシでこの日は営業している。



 宿の主人に教えてもらった店は満員で入れず、通りも人・人・人だらけの状態で歩きにくく、遠くへもいけない状態だった。


 ドルドレンとミレイオはイーアンを、フォラヴとシャンガマックと親方でザッカリアを守りながら、ぶつかる人混みを進む。守られているこの二人は、背が高くないことと軽いことで、人波にもまれて消える可能性が高い。


 イーアンは一応、クロークのフードも被って角を隠し、ザッカリアは親方の片腕の内に保護されて、食事処を探す。


「ここまで人が多いと。あんたたちの見た目がどうとか、そんなことも関係ないから、意外に楽」


 ミレイオは、ドルドレンにちょっと笑う。ドルドレンは苦笑いで『この状態で、更に身動き取れないのは困る』と答えた。ミレイオはふと、人の声の中から元気の良い呼び込みを聞き分ける。


「あそこは?呼び込みしてるわよ。これから開店なのかしら」


「一日通して、開いていそうだが。夕食用の料理が出来たということか」


 ドルドレンがひょいと頭を動かしてみると、6~7軒先の並びにある食事処の表に従業員が出ていて『焼き立ての』とか『本日用にぶつ切りで大盛(※魅力的な響き)』と叫んでいる。


 呼び込みを出しているということは、席があるということ。

 いつまでも歩く気になれない人混みなので、そこへ行こうと決まり、一行は呼び込みをしている店へ向かった。



 表にいる若い従業員の女性は、ドルドレンたちを見て少し照れたが、ミレイオを見て引く。それからミレイオに『7人よ。座れる?』と訊ねられ、急いで頷く。


「2階の円卓が10人掛けです。開いていますから、そこをお使い下さい」


 この町の店屋は2階もあるのが普通らしく、大人数は2階の席。空いていると分かったので、中へ入って階段を上がる。

 広々しているはずの空間も、人が多いために狭く見える。忙しそうに従業員が動く合間を、7人は案内される円卓へ進む。ドルドレンは先に代金を支払い、金額内で収まるように7人分の料理を頼んだ。


 窓際の円卓に座り、夕暮れ時の外を見ながら、運ばれる料理を待つ時間。


 窓の外に見えるあちこちに、屋台も出ているし、外れにはぼんやりと明るく光るテントも見える。音楽が始まって、人の歓声や、大道芸人のような催しが、いかにも祭りという雰囲気。


「何の日なんだろ」


 ミレイオの質問に、フォラヴが側を通りがかった従業員の女性に『今日は何のお祭りでしょう』と訊ね、頬を染める女の子が『聖炎の日です』と答えてくれた。忙しいところを呼び止めたお詫びとお礼を言い、フォラヴはミレイオに伝える。


「聖炎。変わったお祭りね。何かしら?」


「もう一度訊きましょうか」


「いいわ。やめときなさい、ここで人気者になっても困るわ」


 ハハッと笑うミレイオに、フォラヴも笑って頷いた。『それでか』食卓に肘をついた親方も、窓の外に輝く松明の多さに目を留める。


「炎の祭りなのか。危なく見えるほど、背の高い松明がそこかしこに」


「そうだな。倒れたら炎上するだろうに。そんなことも過去にはありそうだが、それでもやっているんだろうから、元気な祭りだ」


 ドルドレン、遠征の松明を思い出す。イオライはよく松明を使った。イーアンが来てからは使わなかったが、長引く夜戦などだと、イオライは燃えるものもない場所なので、松明の使用が多かった。


 その話をイーアンにすると、イーアンはちょっと驚いて『松明』と繰り返した。

『松明を使う印象がありませんね』イーアンの言葉に、シャンガマックが頷いて『イーアンは、夜まで持ち越さないから』少し笑って理由を伝える。


 ハハハと笑う騎士たちに、イーアンもちょっと笑う。『そうでしたか。イオライなら、松明が幾らあっても危なくないですね』と答えた。



 料理が運ばれてきて、大皿が6枚ほど出たところで、従業員の男性にミレイオが『聖炎』の意味を訊ねる。彼はすぐに窓の外を見て、笑顔で説明する。


「あれ。見えますよね。一番背のある松明です。ここの他に4箇所出されていて、5本の長い松明が町を囲みます。

 昔、その場所に大きな炎が上がりました。それは町を壊そうとした魔物から、守った炎だそうです。青い炎と言い伝えられ。さすがに、青は再現出来ませんけれど」


「え。魔物。今、出ている魔物みたいなもの?」


「ずっと昔の話ですから、ちゃんと記録はないんですけれど、多分そうです。空から魔物が来て、この町に被さるほどの大きさだったと。それを突然、地面から吹き上げた5本の炎の柱が焼き尽くした、そんなお話があります」


 へぇ~・・・・・ 一同ビックリ。そんなこともあったのか、と口々に思うことを言い、従業員にお礼を言って戻らせた。


「思い出します。『5つの炎』」


 イーアンが料理を食べながら、ドルドレンを見る。ドルドレンは察しがつくように瞬きで理解を示す。ミレイオがイーアンに『何?』と訊ねたのも、答えは分かっていそうな顔。


「親方の大事な、あの方です」


「その言い方はよせ」


 イーアンが冗談めかして言うと、皆が笑った。食べていたものを詰まらせかけたタンクラッドも、何度か(むせ)た後、苦笑いで注意する(※外れてはいないから、否定しない)。


「冗談です。()()大事なあの方。ですね、正確には。津波の日を思いました」


「そうだな。青い炎、炎の柱。(まさ)にあの家族だ」


 親方は咽た口元を手で拭って、困ったように笑いながら答えると、食事に戻る。ミレイオは、暗くなる外の背景に、一層、輝きを増す松明の炎を見つめ『その可能性もあるかもよ』と呟いた。



 それから料理を楽しんで暫くすると、シャンガマックが、ザッカリアを少し気にしながら『今後の話をしないと』と言い出した。子供は一瞬、食べる手が止まるが、諦めたように料理を口に運んだ。


 ドルドレンも小さく頷いて、ミレイオとタンクラッドを見る。『どうする』話は聞いていたな、と問うと、彼らは首を大袈裟に傾けて、お互いの顔を見て鼻で笑った。


「どうするって。どうよ、あんた」


「お前だ。お前がどうなんだ」


「私ぃ・・・?あの話だと、町まで連れてって終わり?なの?」


「どうなんだ。ドルドレン。彼の目的の町まで連れて行けば、それで終わりなのか」


 それだけなら、といった具合の反応に、ミレイオの了解が得られそうな雰囲気を見た親方は、ドルドレンに確認。ドルドレンも困る。如何せん、宿の主人の話は、当人ユータフの話ではない。


「はっきりは断言出来ない。あれは主人の話で、ユータフ自身が説明していない」


「もし。そうだったら。町まで連れて行くだけだったら。ユータフを連れて行くの?」


 ドルドレンの返答に、子供が心配そうにすぐ訊ねた。ドルドレンは何とも言えない。条件もある。それは、ユータフと話し合わない内は確定しない。


「分からん。彼はこの町から出たことがないだろう。恐らく、魔物も知らなければ・・・うーむ。

 俺の懸念は別の部分だ。イーアンの角を見て、あれだ。これでタムズやコルステインを見てみろ。何を言うか。コルステインは夜になれば、必ず現れる」


 ハッとした親方は、それを思うと顔つきが変わる。『コルステインに何か言ったら』言われてもないのに、顔が怖くなるタンクラッド。ミレイオが蔑んだ目で剣職人を見て『私の時と大違いね』と嫌味を言う。


「そうなるだろう?コルステインは優しいが、これがタムズ相手に何か言ったとしたら」


「あら。それは危険。龍の愛で消えかねません」


 愛妻(※未婚)のほんわかした言い方に、眉を寄せるドルドレン。『あら、って範囲じゃないぞ。消えるとなれば』それが心配、とドルドレンは言う。


「シサイ。羊飼いのな。彼みたいな純朴さだったら、驚きはしてもすぐに畏敬の念で接してくれるから、特に心配もない。

 だが、ユータフは思ったことを、何でも口にする気がする(※大当)。畏敬の念もなさそうだし」


「宿の主人は、イーアンを見てすぐ『龍の女』と分かったみたいですよね。何でユータフは分からないのか」


「興味ないんじゃないの。誰でも強く信じてるわけでもないでしょ」


 総長の言葉に、龍の女のことを思い出したシャンガマックが疑問を言うと、ミレイオが何てことなさそうに呟いた。


「うーん。でもですね。俺の占いだと、この時期にちょっとだけ、道案内が出る感じなんですよ。彼かもと思うんです」


 褐色の騎士は、料理を食べながら、言おうかどうしようか考えていたことを皆に話した。皆の目が彼に集まる。その目は、驚いているのもあれば、眉を寄せて困惑する目もある。シャンガマックは続けた。


「オーリンの時も。そうだったんです。彼がイオライ遠征に来た時。何かずっと彼の存在が引っかかっていて。旅の仲間じゃないんですけれど、関係する人だろうかと占ったら、そうでした。

 ミレイオもそうなんです。旅の仲間じゃない場合は、はっきり星に出ないから分かり難いんですが、他の占いだと見えてきます。ミレイオは違う立ち回りで、俺たちを支える人だと分かりました」


 ミレイオは不思議そうに、褐色の騎士を見つめる。皆も、彼の言葉を黙って聞きながら考えていた。


「ユータフ。彼がそうかどうかまで、断定出来ないけど。『テイワグナに入って一ヶ月の間に、道案内と出会う』らしいです。そろそろ一ヶ月ですから、この時期に会った彼は。

 それも突然、彼にも同行したい目的を告げられたわけで。元々の目的以外に・・・まぁ、その。別の目的も出来たようだし」


 言いにくそうにザッカリアを見て、苦笑いするシャンガマック。ザッカリアは大きく溜め息をついた。


「これもまた、運命。ってこと?」


 好きになれそうにないと、ぼやいたミレイオは目を閉じる。『私もね。何かありそうとは感じたのよ。勘だけど』夕食に出た薄い酒を飲んで、首を振った。

 親方はそんな友達を見つめ『お前の勘はいつも当たるだろう』と呟く。


 黙っていたイーアンだが。今が伝える場面かなと、ルガルバンダの話をここで出す。

 掻い摘んで『飛び入り』の出会いが齎すものを皆に話すと、ミレイオはもう一杯飲んでから、背もたれに体を預けて『そんな感じよね』と言う。


「問題は。人間以外の存在を、相手にする時の・・・彼の反応だな。怒らせることも有り得る。

 仮に第一関門を()()()通過しても、後々、それを余計な尾鰭と共に他言されても困る」


 どうしようね、とドルドレンも髪をかき上げ、皿に残った料理を食べ終えた。


 イーアンも何とも言えない。ユータフの反応は、普通の人の反応の内だろうが、口にしてはいけないこともある。

 それが龍族や地下の住人となれば、非常に気にしないといけない部分でもある。彼の明け透けな態度に、待ったが間に合うなら良いけれど。


 そう思いながら、後ろが気になるイーアン。

 何だか近くで聞き耳立ててそうな感じ。それならそれで、しっかり聞いておいてもらいたい。



「とにかく。今の段階では、憶測ばかりのようです。彼に直接、聞いてみたらどうでしょう。連れて行くかどうかは、その後でも」


 フォラヴは落ち着かないザッカリアを見て『あなたは部屋にいらっしゃい』と微笑んだ。『大人だけで話します。あなたは控えて』そう言うと、自分の部屋の鍵を持たせた。


 それまで黙っていた、妖精の騎士の言葉に、皆が彼を見る。フォラヴは微笑んだまま、少し躊躇うように、向かい合う親方の後ろに視線を動かした。


「分かりましたか。ユータフ」


 フォラヴの声で、驚いた仲間が目を見開くと、円卓から二つ離れた席に人が立ち上がってこっちを見た。済まなさそうな顔で『知ってたの?』と訊ねる。フォラヴはコロコロと笑って『あなたが教えていましたよ』と答えた。


 それから一行は、食事を終えて外へ出ると、話をするために珍客付きで宿へ戻った。



 この夜。親方はコルステインから、絶対に離れなかった。

 その態度が心配の塊で、コルステインに『何があったのか』と驚かれたが、親方はコルステインを心無い言葉から守るために、馬車の置き方を変え、荷馬車から板を出して目隠しをし、覗かれないように固めてから眠った。


 コルステインとしては、彼が自分を守ろうとしているそのことは伝わるので、それを嬉しく思って自由にさせた(←『隠して』って頼めば、力でそうしてくれる人)。

 タンクラッドを丁寧に抱き寄せると、大切にされている幸せ一杯の笑顔で、コルステインも眠りについた(※起きてるけど)。

お読み頂き有難うございます。


本日は夕方の投稿が都合によりありません。この、朝一度です。どうぞ宜しくお願い致します。

皆様に良い週末でありますように。

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