884. 収穫の午後
ドルドレンたちが馬車を出した昼過ぎ。
お食事も終わり、お腹も一杯。『急ぐぞ』部下二人を連れて、馬車を出したドルドレンは、焼却場を目指して急ぎがちに道を進む。近道を教えてもらったことで、随分短縮して30分ほどで現地へ到着する。
「イーアンを呼ぶのだ。馬車はここに置いて」
「俺が馬車に残ります。馬車を見ておかないと」
シャンガマックはそのつもりで来たので、行きたがる総長と子供を送り出す。
焼却場は、地面にぽかっと大穴が開き、施設も破壊されていたので、人も来ないし、当然使えない。シャンガマックが馬車と留守番するのは、特に誰に気を遣うこともなかった。
「そうか。有難う。じゃ、ちょっと行ってくるからな」
早くイーアン呼んでよ、と子供にせっつかれ、ドルドレンはいそいそと珠を出して『お願いイーアン』をする。
すぐに珠を腰袋に戻し『もう来るそうだ』と空を見上げると、お空にきらーんと、6枚の翼を広げた姿が現れた。
「イーアンはあっという間だね」
嬉しそうなザッカリアが手を振ると、イーアンは降りてきて3人に挨拶し、袋を馬車から一枚持ってきて『まずザッカリアね』早速、子供を背中から抱える。
「俺を持ち上げて飛ぶの?」
「そうです。すぐそこですけれど、歩くと時間が。少しかかります」
イーアンはザッカリアにニコッと笑いかけると、翼で宙を叩いてびゅーっと飛んで行った。わぁわぁ、はしゃぐザッカリアの声を聞きながら、ドルドレンはイーアンがいると楽しめると改めて思う(※遊園地状態)。
「俺も朝。ああして運んでもらいましたけれど。男だから少し恥ずかしいものの、龍とは違う、空を飛んでる感じは楽しいですね」
空を見つめた褐色の騎士に言われて、ドルドレンは『そうなの?』と振り返る。成長した精神は、部下にヤキモチを妬かないけれど(※だと思う)。
何となく、ちょっと、ふぅん・・・の気分。
うちの奥さんは、サービス精神旺盛なのだ。それは最初っからだから、あの人はそういう人、と思っている。最近、龍になって出来ることが増えた分、奥さんはさらに、サービス精神が活性化している気がするドルドレン。
イーアンは戻ってきて、次にドルドレンの背中に回りこむ。『シャンガマックは留守番だ』とドルドレンが伝えると、シャンガマックもイーアンを見て、ニコッと笑い『気をつけて』と声をかけた。
「あら、そうですか。ではどうぞ、馬車を宜しくお願いします。また飛びましょうね」
笑顔で挨拶して、イーアンはドルドレンを抱え上げて飛び立つ。手を振るシャンガマックを後に残し、二人はお宝現場へ向かった。
飛んですぐ、ドルドレンは愛妻(※未婚)に質問。こういうのはヤキモチじゃないよね・・・と思いながら。
「イーアンは。朝はシャンガマックも抱えたの」
「空からアオファで戻った今朝、移動手段がありませんでした。タンクラッドもここまで抱えて来ましたよ。龍気のお陰で、あまり重さを感じません(※重さの話だと思ってる)」
「そうなの。俺も重くないの」
「はい。ドルドレンより、親方の方が重いですけれど、親方もそこまで重く感じていないのです。ドルドレンはもう、全然平気」
ふーん。ドルドレンは現場に到着して、奥さんが日に日に力強くなっていくことに感心した。
地面に降り立つイーアンを振り返り、小さいのにね(※背)とちょっと声をかけると、イーアンはえへっと笑う。ドルドレンはころっとやられる。
俺のカワイイ大事な奥さんは、小柄だけど。俺よりも強い・・・頼もしい奥さんである。こんなことでも、少し自慢に思ってしまう幸せ。
「お。来たか。ほら、探せ。面白いぞ」
そんなニコニコ見つめあう夫婦を見つけ、子供を案内していたタンクラッドが、手を上げて呼び寄せる。ザッカリアは何やら、夢中になって背を丸め、地面を探している様子。
「何を探すのだ。ザッカリアはもう見つけたのか」
頭をゆらゆらさせながら、枯れ草の倒れる地面を見つめる子供に、ドルドレンは何を見ているのか訊ねる。ザッカリアはさっと顔を上げて、これだよと、手に掴んだものを見せた。
「石か?何だ、この色は。こんなの落ちているのか?」
ドルドレンは淡いピンク色の透き通った石を見て、目を丸くした。タンクラッドが可笑しそうに笑い、自分の腰袋の蓋を開け、ドルドレンの首を引き寄せて見せた。ぐっと頭を寄せられたドルドレンは、もっと驚く。
「凄い。こんなに」
腰袋一杯に同じ石が入っている。大小あるが、大きいと、殻付き木の実くらいの大きさがある。小さいのは小指の先くらい。ドルドレンがタンクラッドを見上げると、彼は笑顔のままで頷く。
「資源だろ?村が立ち直るのに、少しは使えそうじゃないか」
「手がかり・・・これのことだったのか」
ガラスのようだと呟くドルドレンに、イーアンが微笑む。『同じように透き通っていますものね。だけど、ずっと硬いのです。宝飾品以外でも使い道はあるでしょう』それから、ドルドレンにも探すように言う。
「私が明かりで照らします。石は光りますので、皆さんはそれを探して下さい」
イーアンは指先を龍の爪に変えると、白く光るそれで、枯れ草をひょいひょい分け始める。『あ。光った』ドルドレンが見つけると、ザッカリアがぱっと手を伸ばして拾う。
「あった!」
喜ぶ子供に、ドルドレンは取られた気分。イーアンとタンクラッドは『ハハハハハ』で、子供の笑顔を見守る。ムスッとするドルドレン。俺が見つけたのに、と心の中でぼやく(※36才童心)。
子供が袋にそれを仕舞ったので、イーアンがまた同じように草を掻き分ける。真剣に下を見つめる男3人。ちらっと光を見つけたドルドレンは、何も言わずに、腕を伸ばしてそれを掴む(※無言で動く=学習)。
「見つけた。これだ」
手に持った小さな石を見て、嬉しくなる黒髪の騎士。ふわーっと笑う無邪気なドルドレンに、イーアンは、ぽえ~っとする。
笑顔が素敵~ 伴侶の笑顔は一生モノ~ 愛するイケメン伴侶に祈りを捧げ・・・手は組めないので。心で感謝し、『良かったですね。大きいです』と誉めてあげる。
嬉しいドルドレンも笑顔で頷いて、袋に入れる。ザッカリアは、総長が拾ったので、自分に回してくれても良いのにと思った(※俺は子供なんだから、の気持ち)。
「ん。イーアン、もう一度こっちを照らしてくれ。これだ、これ。あった」
タンクラッドは目が良い(※宝専用)。ちょっとした影や色の違いで見分けて、さっと拾う。『なかなか』大きさに満足し、フフンと自慢げに鼻で笑って、次を探す親方。
「これもだろ。ほら、そうだ。ふむ、あっち照らしてみてくれ。お、勘が当たった。良いな、この好調さ」
ハハハと愉快そうに笑いながら、タンクラッドはささっと背を丸めて、長い腕を伸ばし、ぴょぴょいと摘んで石を連続で拾う。横で『俺も俺も』と騒ぐ子供に、一緒に地面を見せて『その辺、どうだ』と指差し、子供にも取らせてやる。
「見つけた!あったよ」
喜ぶザッカリアに、笑顔で頷く親方。『こっちもありそうじゃないか』『そう?あ、あった!見て、大きいよ』『本当だ。随分大きいの見つけたじゃないか』『これは?これもそうだ。ほら見て・・・』二人は笑顔で、イーアンの照らす足元を見ながら、喜びを交わす。
ドルドレン、何だかちょっとつまらない。
この人たち、お父さんと子供みたい・・・俺がザッカリアのお父さんなのに(※二番手)。無表情で、はしゃぐ子供と笑う親方を見つめる時間。
宝探し・・・・・ 親方&ミレイオ&イーアン(※これを中年組と呼ぶ)。この3人は、宝探しにやたら能力が高い。それは知っているけれど。親方の的中率は反則だ(?)と思いたくなる羨ましさ。
目の前の光景は、休日に、家の裏庭で宝探しゲームを用意したお父さんと、それを楽しむ子供のような。
俺も。こんなお父さんが欲しかった(※親父は変態犯罪者)。それに、こんな無邪気に楽しい子供でありたかった(※子供ドルは生真面目)。
羨ましさが、心のあちこちに飛んで、自分より遠くの存在を思わせる、切ない宝探しタイム。
伴侶の、寂しさ滲む雰囲気に気がついたイーアンは、ハッとして、ドルドレンにも見つけさせてあげなきゃ、と考える(※やっぱりドルドレンはお子サマ)。
イーアンはきょろきょろっとして、きらーんとした死角に目を付ける。そーっとそっちへ、さり気なく移動してから、ドルドレンを呼んで『この辺も見て下さい』と何気に言う。
うん、と寂しそうに頷いたドルドレンは、奥さんの言うことを聞いて、とぼとぼ寄ってきて地面に目を凝らす。そして、光るものを見つけた。『あ』うっかり声に出して、慌てて手を伸ばす。
タンクラッドが見ていたが、イーアンが目で彼を止めた。親方も理解したらしく、少し笑って頷いて返す。
「イーアン。これ、大きいのだ」
見て見て、と差し出すドルドレン。イーアンはビックリして『本当、デカ!』と声を上げた。思ったよりもデカくて、素で驚くイーアン。わざとらしさゼロのため、その反応にドルドレンは純粋に喜ぶ。
「ハハハ。こんなのもあるんだね」
嬉しさ一杯。ドルドレンは大きな石を袋に入れて、イーアンの側で探すことにする。『イーアンの近くだと、良いことがありそうだ』そう言って、見上げるイーアンに『ね』と笑いかけた。
伴侶のご機嫌が立ち直ったのでホッとするイーアンも笑顔で、何気に・さりげなく・何となく、教えてあげて、ドルドレンを誘導する。
①「すみません。ちょっと、後ろも見れたら見て頂いて」
②「そこに立つと、光が。ドルドレンはこっちへ来て」
③「あらやだ。ドルドレン、申し訳ないですが、靴に草が絡みました。取ってもらえますか」
④「木の根元辺りなんかもね、見てもらいますとあるかも」
⑤「あ。クロークが引っかかりました。すみませんけれど枝を外して」
イーアンはせっせとドルドレンに声をかけ、ドルドレンは『どれどれ』『何々』『どうした』と言いながら、その度に『あ!イーアンちょっと待って』嬉しそうに、うっかり見つける石を拾う。
喜ぶ伴侶が見せてくれる度に、イーアンは『まぁ、凄い』『あら、大きい』『そんなところにありましたか』笑顔で誉めて持ち上げる。
ザッカリアは、タンクラッドに誘導してもらって拾っていたが、ふと、イーアンと総長のやり取りに不自然さを感じて、じっと見つめた。
タンクラッドは子供の頭に手を置き、自分を見上げた子供に『お前の良いところは、大人なところだ』と囁く。ザッカリアはその意味が分かり、うん、と頷いて、総長たちを見るのを止めた(※大人なザッカリア)。
そんなこんなで。不自然さに気がつかない、嬉しいだけのドルドレンと、伴侶の笑顔で幸せなイーアンと、宝探しのコツを教えるタンクラッドと、自分は大人だと思うザッカリアの4人は、夕方までに、大きな袋の半分を埋める量の石を集めた。
袋が相当重くなったので、歩いて運ぼうと言う親方は、自分が袋を持ってやり、皆と一緒に歩いて馬車へ戻る。
ザッカリアはもっと集めたかったと、名残惜しそう。ドルドレンもイーアンの肩を抱き寄せて、満面の笑みで『楽しかった』と素直に喜びを伝えた。イーアンも満足。
「たとえ。宝石扱いじゃなくても。あまり他に類を見ない石の種類ですから。きっとお金には変わると思います」
イーアンがそう言うと、前を歩く親方が振り向いて『宝石扱いにする方法を教えてやろう』と微笑んだ。
「これだけ硬いと、同じ石で削るしかないかもな。石の加工に関しては、俺よりミレイオだ。ミレイオに見せれば、加工方法を知っているだろう」
ザッカリアは、記念に一つもらって良いかと親方に訊ね、親方が『勿論だ』と答えると大喜びで、気に入った石を腰袋に入れた。『ギアッチにあげる』と言うので、大人3人は微笑ましい。
夕方の雑木林を抜け、本を読んで待っていたシャンガマックにお礼を言い、馬車に乗り込むと、大量の収穫に笑いながら、5人は夕陽差す道を宿へ戻った。
フォラヴとミレイオの午後も、満喫。午前中の出来事で希望を見た村の人たちは、彼ら二人を井戸や貯水場へ案内し、川へ連れて行って、水から先に浄化をしてもらった。
見ている前で色が変わる水に『こんなに綺麗だったのか』と、しみじみ水の透明度に感じ入る村の人たち。
「汚染された水を飲んでいたかも」
「最近、体が痛いと思った。水はどうしても、毎日使うから」
テルムゾの村でも、農家の人たちは土に触れて体を痛めていた。フォラヴたちが来るまで、雨も降らなかったのが幸いだったか、水はすぐに毒に侵されずに済んでいた様子。
それでも村人は『水にも染みていたと思う』と話す。村の形状が丘なので、引いた水や貯水場の水が、上から下に流れることで、土の毒を拾う働きを作っていたかもと。
昨日は夜中に雨が降ったが、その雨は何を齎したのか、毒を広げるのではなく、毒を薄めたようだった。村の人は、それは水の精霊が哀れんでくれたのではと話し合っていた。
「でも今日は、水をこんなに綺麗にしてもらった。こんなことが出来るあなたは、精霊の人?」
フォラヴは微笑んで首を振り『私は妖精の流れを汲む人間』と答えた。精霊とはまた異なる、と教えると、村の人たちは信じ切って頷く。
「テイワグナに、龍の女が来たでしょう?あなたの仲間の龍も来た。昨日は、『7頭の龍』の話を思い出しました。龍が沢山降りてくるなんて、伝説が始まったんだと思いました」
村の人の一人がそう話し、ミレイオとフォラヴを見て『水を運ぶので、ここに皆を集めて良いか』と訊ねた。
フォラヴたちが『そうしてもらうと早くて助かる』と答えると、村人は皆に連絡するように分担し、手の空いた者から、フォラヴに力を与えてもらった水を運び始めた。
この方法で、一つの地区が終わると別の地区へ移動して、そこで使っている水を癒し、その地域の村人が水を運ぶ。
これを繰り返して午後は過ぎ、夕方もそろそろ暗くなる頃に、フォラヴたちは最後の地区を終えた。
皆さんにお礼を言われ、フォラヴもミレイオも笑顔で励ましを送る。
そうしてミレイオのお皿ちゃんで、フォラヴは森へ連れて行ってもらい、力を補充して戻る頃には、もう夜の帳が下りていた。
「お疲れ様。よく頑張った」
ミレイオはフォラヴを抱えて、夜の森を後にし、宿へ向かう。フォラヴも大きく息を吐いて微笑み『満足です』と頷いた。
お読み頂き有難うございます。




