883. ティティダックの浄化と手がかり
お昼前。イーアンとタンクラッドは、焼却場付近から初めて、たい肥場も見て(※イーアンはあまり抵抗がない)焼却場からずれた場所などの地面も調べまわって、今、一つの手がかりを見つけていた。
「これ一個でしょうか」
「分からんな。しかし、それは明らかに元からあったものじゃないぞ」
タンクラッドが見つけたそれは、イーアンと二人で渡しっこしながら、異質な物体と認めた『手がかりの痕跡』。
「お前。これどう思う」
「私のいた以前の世界なら、そこそこは通用するでしょう」
「この世界でも通用するぞ。ミレイオが見たら叫ぶ」
ハハハと笑う二人は、頷いて『ミレイオが一番信用できる』と話す。『持って帰って見せてみるか?』タンクラッドは強ち冗談でもなさそうに、イーアンの手に乗ったそれを摘み上げて、太陽に透かした。
「この付近、もう少し捜しましょう。人の土地かもしれないけれど、畑でもないし。雑木林です。上から見たら、ここの斜面から向こう側は、殆ど焼却場を囲む雑木林ですから・・・調べるのにくたびれるにしても、咎められはしませんでしょう」
「そうだな。俺はこのまま探しても良いぞ。もう昼だが、食事に戻る時間よりも」
「探し物の方が楽しいですね」
親方の言葉を、イーアンも気持ちが分かるので引き取り、目を見合わせて二人はニコッと笑う。『考えていることは一緒だな』親方はイーアンの肩に手を置いて、林に顔を向ける。
イーアンも頷き『恐らく、一つってことはないです』にやーっと笑ったその顔に、親方はちょっと吹き出して頭を掻いた。
「お前はこういうところが良い。目の色が変わる。お前といると退屈しない」
「親方だって、同じような目つきをしていますよ。探すものに寄りますが」
「イーアン。このまま探すから、ドルドレンたちに連絡しておけ」
親方に言われ、イーアンは頷いて、伴侶の珠を出して呼び出す。馬車で宿へ戻っている最中で、イーアンたちが『探し物』続行する連絡に驚いた。
『昼なのだ。何か食べないと』
『手がかりかもしれないのです。位置がずれると、目印のない場所なのでまた来る時に時間が。ですから続行します』
『俺も行く』
『お昼を食べてからご連絡下さい。近くまで来て頂いたら迎えに行きます』
『今行く。昼なんて食べていられないのだ』
『ドルドレン、お腹が空いてしまいますよ。私は夢中になると空腹は後回し。タンクラッドも同様です。ドルドレンはお腹、空くでしょう』
『・・・・・空くけど。でも』
イーアンは丁寧に往なして、ちゃんとお昼を食べてから、と伝える。ドルドレンは自分も『手がかり探し』をしたいので少し粘ったが、駄々は捏ねなかった(※成長)。
『俺が行くまでに、全部見つかったらつまらない』
『早々、簡単には行かないので、私たちは戻らないのです。ドルドレンがお昼をちゃんと食べて、こちらに来るまでの間で、全部の探し物が見つけるとは思えません』
『場所どこなの。馬車で行けるの?時間が、かかったら、その間に見つかってしまうかもしれない』
『焼却場周辺の雑木林です。上がる道がありましたから、馬車は大丈夫でしょう。宿からですと、時間はかかるかもですが』
『早めに何か食べる。それですぐに行く』
『ちゃんと食べないといけません。お夕食まで探すかも知れないのです。お腹減っても帰れませんよ』
ドルドレンは渋々了解し、部下もいるからなと自分に言い聞かせて連絡を切った。
横にいたシャンガマックは、『イーアンですか』連絡珠を見て訊ねる。ドルドレンは頷き、彼らが手がかりを見つけたことと、昼を食べたら自分も手伝いに行くことを話した。
「手がかりですか。さすが。タンクラッドさんとイーアンが組むと、成果が違う気がする」
「うう。そういう誉め方をするな。確かにそうだけど。俺が頭が回らないみたいだ」
そんなつもりじゃないです、とシャンガマックは慌てて総長を慰める。『総長の機転で何度も俺は助けられました』感謝していることを一生懸命伝え、総長の機嫌は直った(※単純)。
「お前は。そう・・・俺の下の世話まで請け負ってくれたくらいだから。本当に感謝を感じ続けてくれているのだと分かる」
徐にこの前のことを話題に出したドルドレンに、シャンガマックは少し赤くなって目を逸らす。総長が目覚めてから、一度も『下の世話』話題に触れたことがなかったので、それは意図的に避けていると思っていた。
ドルドレンも言い難かったが、どこかではっきり、お礼と喜びの気持ちを伝えなければと思っていたので、少し恥ずかしいが、シャンガマックに『有難う』とこの際、きちんと伝えた。
「でも。その。総長は我慢強くて(※我慢で出さなかったと思ってる)。俺は何も。着替えさせたりはしましたが、下着までは」
小さい声で恥ずかしそうに言う部下に、ドルドレンはうんうん頷きながら『我慢していない』と正直に言う。
「俺も焦った。もし出たら大変だと思ったが、助かったことに、何も気配がないまま、事無きを得た。
お前の勇気は優しさでもある。なくて良かったが、本当に世話されることになっても、お前は頑張ってくれたと思う」
「それは。はい。人は誰でも・・・自然なことですから。だけど、俺も総長の。あの。拭くとなると、俺は男だし。どうしようとは思いました。でも総長はいつも、俺たちを守ってくれたので、恩返し」
シャンガマックが赤くなりながら、ぼそぼそ話すのを聞き、ドルドレンは感動して片腕を伸ばし、抱き締めた。『お前の心が痛いほど嬉しい』手綱片手に、もう片手に部下を抱き締め、ドルドレンは感動を囁く。
褐色の騎士は照れてどうしようもなく、総長の腕の中で固まる。子供はその横にいて、二人を見ていたが『手綱が危ない』とか『前を見て』とか注意していた。
すれ違う村人は、昨日魔物を退治したと思われる男前の二人が、御者台で意味ありげにくっ付いているので、そういう関係なのかと見送り、これは村の話題になった(※男色のヒーロー説)。
ドルドレンたちの馬車が宿屋に入る頃。ミレイオとフォラヴも戻ってきた。二人は一仕事してきたようで、お昼を食べたらまたすぐに出かけると話す。
「宿に何度も食事をもらうのも悪い。開いている店を探そう」
昨晩、今朝と食事に与っているので、ドルドレンは表の通りに看板を出している食事処を探し、隣の通りに一軒見つけたそこへ、皆で入った。
「昨日の地震で、店が少し壊れて」
店主がガラスの割れた場所を見せて、中の席へ案内する。食事も出来ることが限られているというので、選ぶことなく、それをお願いした。
「どこでもそうだけど。いろんな形で被害が出ているのよね」
ミレイオは、カウンターに入る主人の背中を見つめて呟く。『地震以前に、土と水の被害がある。食事処もひやひやしながら、営業していただろう』と、思うところを言うと、ドルドレンも午前の話をする。
「村長の話が。どうにかして欲しいとそればかりだった。どうにもならない、そうは言わないが。旅人に頼りたくなるほど・・・被害が深刻なのだ。それが分かるから、俺たちも悩んだ」
シャンガマックが、やることがあるからと断ったら、ようやく聞いたけれどと話す総長に、フォラヴもミレイオも同情するだけだった。
「土を今。少しずつ癒しています。私は夕方にまた森へ行き、力を補充して明日も・・・そのつもりですが。テルムゾでもそうであったように、もしかしますと、村人の協力をお願いできるかも知れないです」
浄化作業を見ている村人に、何をしているのか聞かれてミレイオが説明すると、村人は自分の畑の土で試して欲しがったと言う。
「すぐ近くでしたから、移動して桶に張った水を先に癒し、それを畑に撒きました。土は濡れた後に傷みが消えて、村人が信じて下さいました」
「あの後、人が集まったわね。皆見ていたから、午後はもっと広範囲に水を運べるかも」
フォラヴとミレイオの話を聞き、ドルドレンたちはその行動を誉め、午後も無理がないようにと伝える。それから、自分たちはイーアンたちを手伝いに向かうと話した。
料理が運ばれてきて、5人は食事を始める。食べ終わってすぐの行動が決まっているので、誰もゆっくりしようとはしなかった。
その頃。
タンクラッドとイーアンは『手がかり』探しに奮闘中。二人とも口数少なく、嗅ぎまわる猟犬のように、地面を見ながら雑木林をうろつく。
「どうだ」
「ないです。暗がりが多いです。私は少し、明かりを使います」
下草も枯れていると探しやすそうなものだが、現実はそう甘くなく。『枯れた下草が倒れていて見え難いな』草が延び始めた頃の枯れた状態は、折り重なるように地面を覆う。親方は足で草を払いながら、目を皿にして、地味に進むしか出来ない。
イーアンは人差し指に、龍の爪の先をちょびーっとだけ出して、地面に明かりを当てる。これで見つかるかな、と揺らす指先の爪で、ちょいちょい、草を掻き分ける数分間。
「あった」
さっとかがみ込んで、腕を伸ばすイーアン。その音に振り返ったタンクラッドは走り寄って『どうだ?あったか』と急ぐ。イーアンは慎重に枯れ草を避けて、手にしたものを引き上げた。
「おお。やったな!やっぱりあるな、これは」
イーアンの手からそれを引き取り、タンクラッドは嬉しそうに光に翳す。イーアンもニッコリ笑って『光を当てれば、もっと早く見つかるかも』と言う。
「火を使うわけにいきませんから、私が照らして、タンクラッドは側で一緒に探して下さい」
「そうしよう。光を当てたすぐに見つかったんだ。もしかしたら、ここまでの間にも結構あったかも知れない」
進んできた後ろを振り向いて、親方がそう言うと、『もう一度探してみましょう』とイーアンも来た道を見つめた。
二人は、お昼の太陽の差し込む、枝ばかりの木々が立つ林の中、地面を見ながら丁寧に歩き進む。
イーアンの白い光に導かれるように、タンクラッドは見つける回数が増えて、いつしか二人は笑顔で『探し物』徘徊していた。
「結構、あるじゃないか。絶対、最初の方は見失っていたな」
「そうですねぇ。これ、良い方法ですよ。進むだけ進んだら、また戻って探しましょう」
「入れる場所がなくなるかもしれないぞ。ハハハ、どうしような」
「そうだ。ドルドレンたちは馬車で来ますから、林に入る前に袋を持ってきて頂きましょう」
そうしよう、そうしようと、二人は満面の笑みで嬉しい悩みに浸る。
タンクラッドの腰袋も、イーアンの腰袋も、淡いピンク色の透き通った石で一杯。
「ザッカリアの恩恵ですよ。あの子が龍になった時、何をしているのかと思ったのですが。まさかこんな変化を起こしていたとは」
イーアンは嬉しかった。昨日。龍となったザッカリアが、魔物の飛ばしてくる金属片や礫を、口から吐く何かで落としていた、その正体。
「彼は、高圧と高温を吐き出す能力を持っていたのです」
にこーっと笑ったイーアン。
ザッカリア龍は、魔物の金属を瞬間的に、ハイ・プレッシャ&ハイ・テンプァチャーで変化させていた。
それは混合ザッカリア龍の息の壁でもあり、そこに触れた金属は『ダイヤモンドですよ。結晶に歪みがあるから、綺麗なピンク色』見つけた石が、人口ダイヤモンド状態と分かった時、これでも村の為にはなる!とイーアンは嬉しかった。
工業用ダイヤモンド作りの原理と同じだが、実際には何日もかけて、加圧加温するものと聞いている。
しかし、魔物が相手だからか。ザッカリア龍の息の質だからなのか。聖なる結界の力の作用なのか。この世界の仕組みが違うのか。はたまた、奇跡なのか・・・・・あの一瞬一瞬で、魔物の攻撃でしかなかった金属の欠片は、確かな姿に変わっていた。
今、イーアンとタンクラッドが、見つける度に小金持ち気分ではしゃいでいる、この『ピンク色のダイヤモンド的存在』は、とにかく村の力にはなりそうな美しさだった。
「総長が見たら、悔しがるな。自分も昼を抜けば良かったと良いそうだ」
笑う親方は、イーアンの照らす明かりの下で、また一つ美しい色の石を拾う。イーアンも笑って『そうですね。ご機嫌取らないと』と頷いた。
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