881. 退治翌日の予定
宿で朝食を頂く、旅の仲間7人。宿のおじさん夫婦と一緒に、ホールの広い机で食事をする。
おじさん夫婦に時々質問を受けながら、7人はそれぞれの報告を飛び交わし、情報の共有をしたが、おじさん夫婦に聞かせないこともあるので、それは各々、気をつけて話を進めた。
でも、おじさんたちからすれば、充分に先取り情報(※自慢)。村で一番情報を掴んだ!その嬉しそうな顔が、朝食後に広める気満々と、旅の仲間は理解する。
朝食を終えて、おじさんたちにお礼を言い、今日も泊まるとお願いしてお代を支払うが、おじさんは『村宛請求なので要らない』と言った。
「村長が、あなた方の滞在費を村から出すそうです。だから村に請求しますので、気にしないで」
有難い申し出に、ドルドレンはお礼をもう一度伝え、これから役場へ向かうと話した。報告書の作成と、今後の村の展開を少し聞きに行こうと考える総長。
これらは誰にでも言うことでもないため、ドルドレンたちはこの後、一度馬車へ集まった。溜まり場に7人は座り、さきほど伏せた部分の情報をここで共有する。
「シャンガマックは、休んだと言うけれど。それは」
ドルドレンは、指を上に向けて訊ねる。シャンガマックは頷いて『起きたらタムズの家でした』と返答。ドルドレンの目が見開く。周囲も驚いたように褐色の騎士を見た。
「何?タムズ?何でお前が、タムズの家に」
「分からないです。でもタムズが俺を、連れ帰ってくれたようで。彼の家の長椅子の上に寝ていました。
目が覚めたら、向かいのベッドにタムズが寝ていて、俺には精霊の祝福があるから、同じベッドに寝かせられなかったと謝られました」
「あ、謝る?何でタムズが謝るのだ!当たり前だ!同じベッドになんか寝て良いわけがない!」
「ドルドレン、落ち着いて」
驚きと悔しさで立ち上がる伴侶を、イーアンは急いで宥める。ドルドレンに縋って座らせ、背中を撫でながら『多分、他の男龍は赤ちゃんと一緒だったから』と教えた。
シャンガマックも、興奮してふーふー息を荒げる総長に困り、自分は何も知らないと、もう一度言った(※自己防衛)。
「俺は、イヌァエル・テレンだとか、そんなことも知らなかったです。結界の中でもう、精霊が俺の体に移っていましたから、俺は記憶がないです」
「お前は。その後、どうしたんだっ タ、タムズと何をして」
「何もしていませんよ。彼は俺に触れないみたいです。少しなら触れるとかで、顔を撫でられましたが」
顔触った~~~???!!!
裏声でドルドレンが発狂しそうになるので、ミレイオが笑いながら座らせて、イーアンも苦笑いで、伴侶をナデナデして落ち着かせる。『そんなに触れない、って言ってるじゃないの』ミレイオが言い聞かせ、ドルドレンは睨むように部下を見た。
「俺だって。俺だって、タムズの家なんか入ったことないのに」
「羨ましがらないの。そのうち、言えば入れてくれるでしょ。タムズには妬くのねぇ」
イーアンへの愛は育ったのに・・・とミレイオに笑われ、ドルドレンはぶすっとする。シャンガマックも困って笑う。
イーアンとしては、伴侶のタムズ愛は、まだ恋人チックな感じだろうと理解しているので、初々しいヤキモチに微笑ましく思う(※中年の余裕)。
「タムズが。タムズが、シャンガマックを」
ううう、と愛妻の腰に貼り付いて震えるドルドレン。よしよし大きな背中を撫でながら『タムズは優しいから』とイーアンは慰めるが、可笑しくて笑いそうになるのを頑張って堪えた。
男龍相手で、部下にやきもちを焼く旦那を慰める奥さん。
その構図を、シャンガマックも親方もミレイオもフォラヴも、複雑な気持ちで見守る。ザッカリアは『総長は子供だから』と呟いていた。
この話は長引いても意味がないので、親方はざくっと切り替える。『昨日の夜。コルステインがもう一頭、魔物を倒してくれた』驚く皆の顔を見渡し、親方は馬車の向こうへ、すっと指を向ける。
「村の向こうだそうだ。テルムゾと同じだろう。村を挟むように居たヤツだな」
「私が襲われ、ミレイオが助けて下さった・・・あの魔物。それの対でしょうか」
親方の話に、フォラヴがミレイオを見ながら聞き返すと、親方は頷いて『そうだろうな』と言う。それから、フォラヴに何があったかを、もう少し詳しく聞きたがった。
フォラヴは、昨日、自分が魔物に捕らわれるまでを話し、森まで辿り着かなかったことを言うと、少し気後れした様子で続けた。
「ご迷惑を。私が一人で飛び出してしまって。でも、今日はまた森へ向かいたいのです。村の土を癒さなければ。そのために森の木の精にお会いして、力の補充を頼みに行きたい」
「一人じゃないなら、動いても大丈夫だろう。フォラヴの行動は大事だ。夜はコルステインに頼んで雷を落としてもらうが、日中は彼の力で土を癒さなければ」
ドルドレンはすぐに、フォラヴの意見を了承し、今日の行動はそこに重点が置かれると言った(※ヤキモチから立ち直る)。
それから、イーアンに貼り付いた体を起こし、イーアンにお礼を言うと(←『すまないね』って)咳払いして、皆の自分を見守る、距離のある眼差しに頷き(?)ドルドレンは考えていることを話す。
「魔物は多分。コルステインが倒してくれたもので最後だ。タムズが昨日、そう言っていたのを今思い出した(※忘れてた)」
魔物がいるのを忘れたそのことに、皆の目が驚きに開いたが、ドルドレンは睫を伏せて『疲れ過ぎてすぐに忘れた』と正直に言う。
「それでだな。有難いことに、もう倒されているわけだから。今日は修復作業だ。土の浄化と、報告を兼ねて、提案及び相談だろうな。
浄化は、フォラヴが妖精の力を借りて、水を癒し、土を癒すのだろう。夜は、村の周りを、コルステインにお願いして雷で浄化する。
報告に関しては、俺がこの後に村役場へ出かけるが、その際、村長と今後の話もするだろうから・・・ここなのだ。
あちらは相談すると思う。今後の心配を。俺は提案出来ることがあれば、そうしたいが」
「ないわね。今のところ。テルムゾは・・・調査してから魔物退治だったから、流れで提案も出来たけど」
ミレイオに続きを引き取ってもらい、ドルドレンは考える。イーアンを見て『どうだろうね』と訊ねるが、イーアンも少し首を振って『これから調べますもの』まだ何も、と困り顔。
「そうだな。イーアンも来たばかり。来て突然、戦って。終わったら即、空だ。朝に戻って・・・イーアンはどこに泊まったの。ビルガメスの家か?」
脱線する伴侶に、イーアンはちょっと笑って『卵部屋』と答える。
「男龍は、赤ちゃんが沢山生まれたので、家に引き取って過ごしています。私の休む場所は、空いている卵部屋しかなかったのでしょう。龍の子の女性と、卵ちゃんに守られて休みました。私は寝ていましたけれど、卵、また孵ったみたいです」
そうなんだ、と納得するドルドレン。愛妻は休んでいても業務だったと知り、お疲れ様と労わる。
「話を戻す。そうか・・・これから調査なのだな。では、今日はイーアンが調べに回るのか」
「私とタンクラッドでしょう。ミレイオはフォラヴと同行頂いて」
ドルドレン。イーアンがタンクラッドを選んだことで、じっとイーアンを見る。
イーアン的には、仕事モードは効率重視。情報収集は、機転の利くタンクラッドかミレイオの同行(※宝探しメンバー)と思っているので、『何?』の視線を返す。
業務優先イーアンの視線を、受け止めたドルドレン(※愛妻は業務的と認める)。それから、自分に注がれる視線を辿り、親方を見る。親方は様子を伺うように、ドルドレンを見つめている。
しばらーく自分の心の動きを感じて(※しばらく=3秒)ドルドレンは頷き『大丈夫だ』と親方に笑った。タンクラッドも笑って『お前は成長した』と答えた。顔が笑っているミレイオは、軽く拍手をくれた。
「分かった。では、俺は村役場へ報告へ向かうが、相談を持ちかけられても『調査中』と答えておこう。テルムゾの話は出さないつもりだ。可能性を探るとだけ話しておく。シャンガマック、ザッカリア。俺と一緒に動け」
今日の行動が定まったので、皆は立ち上がる。ミレイオはイーアンを捉まえて『これ、縫い終わったわ』そう言って、グィードの皮製パンツ(※ズボン)を渡した。
イーアン、大喜び。感激してミレイオに抱きついて『今日はこれを穿く』と笑顔で言う。そしてイーアンもハッとして『そうでした。私も実は』と腰袋から何かの破片を取り出す。
手渡されたそれは、厚さが6~7mmほどの美しい平たいもの。緩い曲線を描く板のようで、何枚もあり、色も模様もそれぞれ違う。ミレイオはしげしげと破片を見つめ、イーアンを見た。
「これは」
「男龍の卵の殻です。ビルガメスに相談したら、持って帰って良いと言われました」
「えっ!赤ちゃんが入ってたやつ?これ、卵の・・・龍の卵の殻ってこと?」
そう、と笑顔のイーアンは、これを加工して装身具を作ったら綺麗だと思ったと話す。ミレイオは感動して、手の平大の殻の破片を見つめて微笑んだ。
「すごく綺麗。有難う・・・これ、とても貴重よね。ホント、言われてみると。彼らの卵の色って、彼らの体の色と似てる?これ、ビルガメス?」
「そうです。ビルガメスの卵ちゃん。こっちはニヌルタです。これがルガルバンダかな。シムと少し似ていますが、これはシム。こっちはファドゥですね。銀色の。タムズは赤っぽいのです、これタムズ」
イーアンが摘み上げて見せる6種類。ミレイオは喜んで、イーアンを抱き締めると『最高の素材』と感想を言い、これで首飾りを作りたいと言った。『男龍が守ってくれる感じがするもの』それが嬉しい、と。
「あんたって。人を笑顔にする才能がある。有難う」
ぎゅうっと抱き締めてからイーアンの頭にキスをし、ミレイオは笑顔でお礼を言うと、もらった殻を丁寧に布で包んで、自分の荷物に仕舞った。
この後。イーアンはグィードパンツに穿き替えて、ミレイオお手製・龍の皮タンクトップと、グィードクロークも羽織り、龍の皮製手甲&脚絆セットで、めでたく龍皮製フル装備に落ち着いた。
「快適。快適ですよ。最高に快適!ミレイオのお陰です」
龍気ムンムンです、と腰に手を当て胸を張る(※平ら)イーアンに、皆が笑って『力強い』と誉め、各自予定に向けて出発する。
ドルドレンとシャンガマックは、出発前に昨日の昼食代金を支払いに向かいの店へ行き、お代を渡してから、馬車で待つザッカリアと役場へ。食事処の主人は、『助けてくれたから要らない』と言ってくれたが、被害の足しにと代金を押し付けた。
御者台に乗ったドルドレンは、この村の一軒一軒を助ける方法がなくても、全体を助けられる画期的な望みが生まれることを祈りながら、馬車を出した。
フォラヴは龍を呼べないので、ミレイオのお皿ちゃん。『龍は疲れているのよ。私と動く分にはお皿ちゃんがあるから』そう言って、妖精の騎士の背中から胴体に腕を回し、浮上。
「お世話かけます」
「こんなのお世話にならないわよ。お皿ちゃんが飛んでるんだし」
ハハハと笑って、ミレイオは白いお皿ちゃんの向きを変えると、一直線に森へ向かった。
見送ったイーアンとタンクラッド。タンクラッドはイーアンを見て『それでか』と一言。見上げるイーアンはニコッと笑う。
「俺を選んだのは、フォラヴに足がないからか」
「ミレイオは唯一、龍を使わずに移動出来るのです。私とミレイオが組んでは、あなたとフォラヴは徒歩です」
徒歩の言葉に笑うタンクラッドは、『それは困るな』と頷いた。
「で?じゃ、俺はどうするんだ。お前が抱えるしかないぞ」
「そうですね。ちょっと重さに自信がないですけれど。でも最近、強くなりましたから練習です」
ニッコリ笑うイーアンに、笑顔でお願いするタンクラッド。白い翼を6枚出して、親方の後ろから彼の胴体を両腕でぐっと締め、イーアンは宙に浮く。
「重くないか」
「この前に比べますと、そうでもありません。もしかしますと、あなたのベストのグィードの皮も、私の龍気を補っているからか」
イーアンは、そう答えると『一先ず、村の外れへ向かいましょう』と少し高く浮上した。下で見ている人たちが『龍の女』と指差している。
「どうも目立つな。お前が俺を抱え上げているのも、男としては気恥ずかしいが」
「目立つのは仕方ありません。大丈夫ですよ、男としてと言うなら、シャンガマックも今朝、こうして運びましたもの」
笑うイーアンは宙に翼を叩いて加速。『早く調べましょう』その声が耳元で聞こえたと同時に、タンクラッドの顔に加速した風がぶつかり、思わず笑った。
「加速する時は先に言え」
イーアンも笑って『すみません』と頷き、二人は村の外れ、コルステインが倒した魔物の近くまで飛んだ。
お読み頂き有難うございます。




