876. ティティダック村 ~夜の報告
飛ぶとやはり、早い。疲労した4人は、間もなく宿へ到着する。
着いてすぐ、ミレイオは宿の主人に預けたフォラヴの事を訊いた。主人のおじさんは『彼は眠っている』と答え、お礼を言ったミレイオは急いでフォラヴの容態を見に行った。
親方は、馬車の影にコルステインを待たせ『ちょっと用事を済ませるからな』と伝えると、風呂と食事へ急いだ(※疲れていても忙しい)。
忙しなく風呂へ入り、ゆったりする暇もなく食事へ出かける4人。だが。
「店が閉じている」
地震のせいで、飲食店が閉まっていた。通りの明かりも少ない。食事は馬車の食材か~と、疲労感一杯で話していると、後ろから宿のおじさんが『うちで食べますか。普通の料理だけど』と誘ってくれた。
「魔物。倒してもらって有難う。本当に有難う。あんなの見たら、もう諦めたんですよ。皆死ぬと思った」
何のお礼も出来ないけれど、食事くらいは出せるとおじさんは言い、戦ってくれた4人を台所に連れて行った。
疲れた4人は、有難く夕食を頂く。量が少ないとかそんなことは言えない。本当は食事を出さない宿なのに、出してもらっているのだ。腹ペコの親方とドルドレンは、味わいながらゆっくり食べた。
おじさん夫婦は、彼らと食事を一緒にしながら、龍に乗るハイザンジェルの騎士修道会の話を聞きたがった。そして魔物を倒したことも聞きたい様子。
疲れているドルドレンは少し話したが、話が上手く進められず『今は。思考が付いていかない』と苦笑いする。その返事に、おじさんとおばさん、急いで『すまなかった』とお詫びした。
「また明日にでも。元気になったら教えて下さい。村の皆も聞きたいと思うから」
食事を終え、美味しかったとお礼を伝えた4人は、おじさん夫婦に挨拶して部屋へ戻る。親方は裏庭の馬車。ドルドレンは、自分の部屋にミレイオとザッカリアを呼んだ。
「フォラヴは、あれは眠っているのか?」
先ほど彼の部屋を見たドルドレンの質問に、ミレイオは頷く。『経緯は分からないけど』自分が見た様子と、言い難いが、助かった後のことを話した。
「そうか。よく。そんな難しそうな状況で・・・ミレイオも頑張って、助けてくれて。本当に有難う」
ドルドレンは頭が回らないので、何となく気になることがあっても、今はお礼を言うに留めた。助かるミレイオも『いいえ』と答えて終える。ヨーマイテスのことは言いたくなかった。
それから話はザッカリアに移る。ザッカリアをベッドに座らせて、並んで座るドルドレンは『あれは』と切り出した。子供は、総長とミレイオの不思議そうな視線を受け止めて、ゆっくり話す。
「上手く言えないんだよ。でもね。ソスルコが・・・俺の龍の名前だ。ソスルコがね、俺が中に入れば大丈夫って教えてくれたんだ。
最初はどういう意味か分からなかったけど、大丈夫で死なないって分かったから信じたの」
ミレイオはちょっと理解出来ない。ミレイオが見たのは、イヌァエル・テレンで、ザッカリアの龍が変わった姿だったところと、次に見た時にザッカリアがいたところ。
さっきまで見えなかったのに、彼はどこにいたんだろ、と思ったが。まさか、龍に混ざっていたとは。
ドルドレンも似たようなもので、自分が追いかけた背中を思い出す。それは、結界突入直前に光を放って、ザッカリアが吸い込まれるように龍に入った数秒だった。
「ソスルコ。お前の龍。あれは、前から思っていたんだが。俺たちの龍と少し違うよな。理由はあるのか?」
総長は見た目の違いを訊ねる。子供はこの際、何かを知ったのではないかと思っての質問だったが、実にその通りで、ザッカリアは眠い目を擦りながら話してくれた。
「俺が、龍の目だから。ソスルコはミンティンたちと近いんだって。『龍の目』は龍にはならないけど、ソスルコみたいな龍には入れるって」
ふと、ドルドレンの頭に過ぎる姿。ティグラスの龍も風変わりだったが。それを訊くと、ザッカリアは首を傾げた。
「ティグラスって誰?」
「あ。そうか。知らないのか。俺の弟だ。イヌァエル・テレンに住んでいて、彼の龍も変わった姿なのだ」
「ふぅん・・・会ってみたいな。でも俺、総長の弟も知らないし、その人の龍も分からないよ」
そうだね、と頷くドルドレン。ミレイオも、うんうん頷く。それからもう一つ質問するミレイオ。
「ねぇ。『龍の目』って人間でしょ?他にもいるのかしら。それでその子たちも、あんたみたいに龍がいれば、今日みたいになるの?」
「『龍の目』は人間だよ。でもね、能力は龍族とも違うの。俺以外にもいるよ。俺は龍を貸してもらったから、ソスルコと混ざる。他の子は出来ないと思う」
ふむふむ、頷いて、何となく理解するミレイオとドルドレン。目を見合わせ『旅の仲間だから』と納得した。ザッカリアは話している間に何度も欠伸をするので、ドルドレンはもう眠るように促した。
「疲れたのだ。お前は勇敢だ。ギアッチに報告して、すぐに寝なさい」
お休みを言って、子供を部屋に返してから、ドルドレンはミレイオに、空へ行ったイーアンのことを訊ねる。ミレイオは知っている範囲で話したが、それは詳しいことでもなかった。
「男龍のところだと思うけど。タムズは『彼女を寝かせた』としか。私たちに会いに来た時は、もうタムズ一人だったし」
「そうか。イーアンは早ければ夜に戻ると。遅くても朝だろうとは言っていた」
「中で・・・結界の中。何があったの?」
首をゴキゴキ鳴らしながら、ドルドレンはミレイオに掻い摘んだ流れを話す。
『見えてはいたのだろうが、中は凄まじい騒音と振動、あの羽の風圧が渦巻く世界だった』翻弄されて大変だったこと、自分はタムズが守ってくれたから生きていたこと、イーアンが手伝ってくれて羽を落としたが、彼女が疲れ、自分が守らねばと思って飛び込んだ話をすると、ミレイオは大きく頷いて『スゴイ』と真剣に答えてくれた。
「あんた。やっぱり、そんじょそこらの男じゃないのよ。タムズの祝福もあるだろうけれど、あったって動けるヤツじゃなきゃ。あんたはそれ以上のことをしたわ。大した男よ」
ミレイオの賛辞に、有難く微笑んで頭を垂れるドルドレン。
時間を見たミレイオは立ち上がり『もう寝ましょ。寝てる間に戻ってくるかも知れないし』黒髪の騎士を一撫ですると、部屋から出て『明日ね』と挨拶して扉を閉めた。
ドルドレンも大きく息を吐き出すと、天井を見上げて目を瞑る。『疲れた』呟きは空間に消える。冠や祝福、イーアンの龍の姿があって、あそこまで戦えた。
「イーアン。お疲れ様なのだ。早く戻ってきたら嬉しいが、充分に休んで元気になってほしい」
愛する奥さんと一緒に戦った今日。皆の協力もあってこその勝利。ドルドレンは明かりを消して、窓の鍵を開けると、ベッドに倒れこんでそのまま眠りについた。
外の馬車では。夕食から戻った後の親方が、コルステインに抱えられて、労いを受けていた。
コルステインは頑張ったタンクラッドに『タンクラッド。強い。嬉しい』そう笑顔で伝えて、鍵爪の背で彼をナデナデ。親方も照れ笑い。それからコルステインは、ちょっと気になっていることを話す。
『タンクラッド。魔物。いる。どう?倒す?』
『何。何?!魔物がいるのか?』
やっとこさ、休めると思った矢先。コルステインに『魔物がいるけど、どうするの~』と訊ねられ、疲れが倍になって襲い掛かる親方。『まだいるのか?倒さないと』そんな、と思うものの、こればかりは仕方ない。起き上がって剣を取ろうとして、コルステインに止められた。
『コルステイン。倒す。一人。平気。どう?』
『倒す、ってお前。あんな・・・知らないだろうが、とんでもない大きさだぞ』
『違う。いる。する。動く。ない。土。悪い。する。倒す?』
親方は、疲れた脳みそフル回転で考える。コルステインは『動かない魔物』と言ったが・・・続けて『土を悪くしている』と被害内容を付け加えてくれた。じっと自分を見ている青い瞳に、タンクラッドは訊き直す。
『お前は今、魔物の種類を教えているな?それは、あれか?お前がテルムゾの外で見た、二つの魔物・・・分かるかな。地面にくっついた花みたいな』
『分かる。そう。あれ。ある。あっち。倒す。コルステイン。すぐ。する?』
親方了解。あっち、と指差された先は丘の向こうで、まだ見ていない場所。そこにいるから、コルステインが一人で倒してこようか?と言われている。
何て・・・力強い・・・・・ 親方はヘロヘロなので、コルステインにそっと抱きついてお礼を言った(※&『頼む』も)。
ニコッと笑うコルステインは、うん、と頷いて『待つ。する。倒す』そう言うと、早々霧に変わって消えた。
頼むと、あっという間に叶えに出かけてくれる、行動の早さも親方好み。そして完璧に仕事をこなすのも親方好み。一人ベッドに寝転がって、タンクラッドはコルステインの恩恵にどっぷり浸かる。
「あれなぁ・・・女だったら。ホンットに俺は、多分。もう、やられてたかも知れん」
イチモツがなぁ~と悩む親方(※イチモツ付きコルステイン)。アレさえなけりゃなぁ~・・・・・
性格も良いし、何やってもカワイイし、顔もカワイイは、強いわ、頼もしいわ、純粋だわ、で。好きになっちゃう親方は、悩ましかった(※大別で『好き』の範囲)。
村の外へ移動したコルステインは、自分が来たことを知って種を飛ばそうとした魔物に、口を開けて声なき声を発して、消した。
そして気がつく。『違う。コルステイン。間違い。雷。する』間違えちゃった、と思うコルステイン。雷で消してと、この前、言われたことを思い出す。
消した後を見に行き、よーく見て。何度となく、向きを変えて見て、少しだけ根っこが残っている気がしたので、うん、と頷いて、そこに紫色の雷を多めに落としておいた(※これでOKだと思う)。
『雷。使う。した。コルステイン。大丈夫』
これで合ってる、と判断し(?)タンクラッドの待つベッドに戻る。青い霧に姿を変えて、ふわふわと馬車へ進み、待っているタンクラッドの側で形を戻すと、嬉しそうな笑顔の彼の横に寝そべった。
『有難うな。お前は本当に強いから。俺たちが戦うよりも、あっという間だ』
『タンクラッド。強い。コルステイン。タンクラッド。好き』
親方は、こんなに圧倒的な強さを誇るコルステインが、『あなたも強いから好きだよ(※訳すと、こう記憶に残る)』と言ってくれるのが、たまらなくカワイイ。ニコニコ笑って言う顔が、何てカワイイんだろうと思う。
よしよしナデナデをせっせと繰り返しながら、どんな魔物だったかを訊くと、やはり相手は、花のような形だと知った。『雷。する(※やり直したからこれで良いと思ってる』コルステインはちゃんとやった、と話した。
『コルステインは凄く頼り甲斐がある。俺もお前を守るからな。俺もお前が好きだぞ』
嬉しいコルステインは、タンクラッドを抱き寄せて頬ずり。
それから、雨が落ちてきたので、前のことを思い出し、タンクラッドは雨が嫌いかと訊いた。答えは『濡れて眠れない』。了解したコルステインは頭上に青い炎の天井を作り、ベッドの上だけ雨が落ちないようにした。
『お前は雨まで遮る。どうすると、そんなに素晴らしくなるんだ(※絶賛)』
『眠る。大丈夫。する。タンクラッド。濡れる。ない』
親方は幸せ。イーアンでも幸せだと思うけど、最近はコルステインで幸せを感じられるようになった。
そしてこれは、絶対に浮気ではないと自分に言い聞かせながら、優しいカワイイ、地下最強のコルステインと一緒に、今日もぐっすり眠った。
2台の馬車の間だけは、雨に濡れもせず。夜中に降り続いた雨は、タンクラッドとコルステインの場を除く、ティティダックの村全てを洗うように静かに落ちた。
お読み頂き有難うございます。




