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魔物資源活用機構  作者: Ichen
見つめ直す存在
868/2954

868. 旅の二十日目 ~ティティダックの村へ

 

 翌朝。少し遅く起きた皆は、ゆっくりと朝食の支度。



 眠気が取れない朝。疲れが溜まっているのかもと、それぞれ話し合いながら、眠いよねの言葉が飛び交う。フォラヴはまだ眠っている様子。

 ミレイオも馬車に寝泊りしているので『ベッドがさぁ。硬いじゃない?枕一つだし。薄いし』寝心地良くない、と。あれこれ文句を言う。


「ミレイオが選んだわけじゃないから、それは好みだろう」


 料理の手伝いをさせられるドルドレンは、自分と愛妻で選んだ寝具に、ケチを付けられて言い返す。ミレイオはちらっと黒髪の騎士を見て『私を買出しに連れて行かなかったから』それが理由だとぼやいた。


「私が泊まることも、これからありそうだし。自分用に枕増やしとくか」


「自分の金で買えよ。俺は毎日簡易ベッドで布団はあるが、枕はないぞ(※コルステイン腕枕only)」


 煩いミレイオに、親方が『贅沢を言うな』と遠回しに押さえる。ミレイオが冷たい視線を向けて『あんたは好きでやってんでしょ。ベッドはあんた専用じゃないの(※簡易だけど)』がつっと畳み込んだ。


「コルステインが入れる馬車がないから、それは仕方ないだろう。俺はそれでも眠れているんだから、お前も」


「あんたと一緒にしないで、って。そりゃあんたの都合。私は私。町行ったら、枕買うからね(※人の金で)」


 中年組が朝から言い合い(※元気)をする横で、ドルドレンは料理の続きを引き受け、黙って朝食を作る。


 イーアンは、支部の枕と布団でも文句を言わなかった・・・寒がりだから、布団だけは買い直したが。

 寝心地がどうとか、彼女は言わなかったなぁと思うと、やはり愛妻の順応力に感謝する。愛妻は大抵のことは受け入れてくれるのだ。


 しみじみ。大好きなイーアンを奥さんに出来たことへ感謝するドルドレンは、手際良く料理を作り、手際よく片付けて、ケンカし続ける中年二人に『出来たよ』とやんわり声をかけ、休んでいるフォラヴを起こし、子供とシャンガマックに先に食事をよそってやり、フォラヴには少し野菜を多めに付けてあげた。


 眠いと言っていた中年組が、一番煩く賑やかに言い合う朝食の時間を過ごし、若手は静かに食事を終え、若手だけで片付けて、まだわぁわぁ言っている、ミレイオと親方を丁寧に引き離して(※手がかかる中年)馬車を別にして乗せると、ティティダックへ向けて出発した。



 ザッカリアが、昨日から一緒の御者台で、ドルドレンは歌いながら朝の街道を進む。ザッカリアの腕前はなかなか素晴らしく、彼は自分なりの表現も入れて演奏するが、基の曲を崩しはしないので歌いやすい。


 少し涼しい日で湿気っぽく、曇り空の様子から、もしかすると雨が降るかも知れない。早めに村に着くことを意識しつつ、横のザッカリアの、楽しい勉強に付き合う総長。


「あ。ちょっと待って」


 ザッカリアは楽器を脇に置いて、腰袋から連絡珠を取り出した。『ギアッチだ』何だろう、と言いながら手に握る。それからすぐドルドレンを見て『総長いる?って』そう言って珠を渡した。


『おはよう。俺だ。ドルドレンだ』


『おはようございます。何かこの前は、調子を崩したと聞いたけれど、元気そうですね。良かった良かった。さぁ、じゃ。報告しましょうか』


 ギアッチはこの前の、タンクラッドの伝言を伝え、ロゼール・機構の両者から受けた返事を話し始めた。


『ええっと。ロゼールからね。盾はまだ数が少ないですね。家族工房で作ってるから、製作数の進みは早いんですが。最後にお願いしたから、まだ騎士修道会にも数は少ないですね。

 それと。剣は結構ありますよ。弓もありますね。鎧は少し時間が要るかなぁ。材料が欲しいようなこと言っていました』


『そうか。この前、イーアンが倒した魔物を機構宛に発送している。陸路で山越えだと思うから、もうじき着くだろう。着いたら連絡を願う。それで、騎士修道会分以外の製品在庫はどうだ』


『出せるのは剣と弓でしょうね。鎧と盾はまだ、待ちです。弓矢は揃っていますよ、ダビがね。凄いんですよ。鏃も魔物製ですから、まーよく刺さるんですよ。どうしましょうね。騎士修道会で必要な分は間に合うそうですが・・・いえ、予約してるのもあるからなんだけど。外にも少しは出せる流れですって』


 ドルドレンは考えて、騎士修道会でも全員が持ってからの方が良いわけだからと、数は少なく発送を願うことにした。


『そうだな。剣と弓矢なら、騎士修道会に待たせても続きがあると聞いた以上、その二種類は出してもらうか。どちらも10本ずつでいい。矢はそこまでなくても。鏃だけでも構わん。ダビが・・・そう。嬉しいな』


『ねぇ!嬉しいでしょう!ダビに伝えておきますよ。自慢の騎士です。職人だけど。え~、じゃ、各10本で、矢も参考品に10本くらいでいいか。鏃だけ少し多くね。箱詰めしてもらいましょう』


 それとね、とギアッチは続ける。何かに書き取った後のようで、確認しながら話が進む。


『機構の方ですよ、少し強くお願いしたんです。送付状はお金の話だからとゴネていましたから『テイワグナが買い取った製品の代金を送付状に回して、って。

 すみませんけれど、私が勝手に交渉しました。こうした最初の機会は都合付けてでも、手に入れないといけませんよ』


『ギアッチに任せて良かった。資金はあるはずなのだ。単に予定通りじゃないことへの対処に慣れない連中だから、対処法を学ばせるのも大切である。俺も同じように働きかけたことだろう』


『有難うございます。そんなことでして、追加で出せる送付状が80部だったかな。送付状だけじゃないでしょうから、発送手続きに必要なもの、各80です。

 それでね。テイワグナのウム・デヤガへ。首都ですね。私も居たことあるけど、広いだけで、そんなに大きな町って感じもないですよ。そこの郵送施設本局に局預かりで出す予定です。受け取りは、イーアンか総長です。印章を忘れずに』


 ギアッチの采配にひたすら感謝し、ロゼールにも宜しく伝えるように言うと、ギアッチも旅の無事を祈ってくれた。

『ザッカリアが勉強出来るように、首都に寄ったら、博物館や美術館にも連れて行って』そんなギアッチらしいお願いももらい、ドルドレンは了解して通信を切った。


「ザッカリア。ギアッチが連絡珠を持っていてくれて、助かったぞ。意外と重要だ」


 珠を返しながら総長が微笑むと、子供は嬉しそうに頷いた。『ギアッチもそう言っていたよ。正解だって』ハハハと笑って、ザッカリアはまた楽器を弾き始める。ドルドレンも歌い、旅が始まっても仲間が支えてくれる頼もしさに、しんみり有難く思った。



 そして昼前。『村だ』思ったよりも順調に進んだからか、午後に到着と思っていた村が見えてきた。


 道の先に家が転々とあり、奥に樹木が囲む丘がある。その丘一帯が村のようで大きく隆起した地形は、遠目からでも林の向こうに見え隠れするくらい、存在感があるのだが。


「総長。あそこも可哀想」


 ザッカリアが眉を寄せて、弦を弾く指を止めた。ドルドレンも初めて見る光景に、嫌な胸騒ぎがする。『何て色だ』この時期は緑の時期なのに。枯れた冬のように、丘の周囲から丘全体を、荒んだ色が包む。


 よく見れば手前の道も地面も同じように、草葉の影もない、赤黒い嫌な色をしている。顔をしかめた総長を見て、ザッカリアは『テルムゾもこうだった』初めはビックリしたと教えた。


「呪われたようだ。何かの呪いでも掛かったように」


「うん。だからね、テルムゾはフォラヴが真っ先に動いた。フォラヴは耐えられなかったんだ。土が苦しい、って言うんだって」


 親方に聞いた話を思い出し、ドルドレンは村に入る前に行動を決めておこうと考えた。自分は倒れていて知らないが、仲間の彼らは、先の村と同じように行動に移そうとする。先に指示があった方が良い。


 荷馬車の後ろにいるタンクラッドを呼び、タンクラッドが御者台に来たところで、村に入った後の手筈を教える。


「どうした。あれか。あっちも酷いな」


 御者台に腰を下ろしながら、タンクラッドも首を振る。ドルドレンも頷いて『先に行動を決める』と伝えた。


「俺はまず、村長へ挨拶に行く。騎龍することを先に話しておく方が、動きが楽だ。それとテルムゾ村長の手紙と、警護団で作った報告書の簡易版、この二つの書類を渡す。

 村中に、緊急で回してもらう。村人に協力してもらいやすい状態を作っておく。


 フォラヴが動き出すだろう。彼を一人で行かせるのは避けたい。ミレイオに同行してもらう。お前とシャンガマックは」



 そこまで話すと、彼らの前の空に光が見られ、続いてフォラヴの龍が馬車の上を飛んで過ぎる。『あ!』ドルドレンが叫ぶ。フォラヴが龍で先に動いてしまった。水色の龍の姿は、村へ向かって小さくなる。


「あいつは。気が気じゃなかったんだ。だから休んで、回復を急いで」


 親方も困ったように頭を掻く。ザッカリアもフォラヴの勢いに、何と言って良いのか分からない。言えることは一つだけ。


「フォラヴはね。聞こえるんだ。土の声が。生き物の声も。助けてって聞こえるんだって」


「あの性格じゃ、助けないで止まっているはずもない。木材を切り出すとか、花壇の手入れで摘み取るなども、声をかけるくらいだ。悲痛な助けの声など、動かずにいられないだろう」


 ドルドレンは彼のこれまでを思い出し、止むを得ないかと理解を示す。親方は、とりあえず龍と一緒だから大丈夫だろう、と言った。


「仕方ない。とにかく村へ入ったら宿を頼む。シャンガマックと動いてくれ。俺はこの足でザッカリアと役場へ向かうから」


「ミレイオはどうする」


「フォラヴが戻ってからだな。きっとフォラヴも偵察だろうと思う。一旦戻るはずだ」


 ミレイオは、親方たちと一緒に動くことにして、ザッカリアとドルドレンは、村役場へ向かうことに決まる。ドルドレンは、シャンガマックもフォラヴも自分と連絡が付くから、何かあればシャンガマックを通して教えてくれ、と頼んだ。


「分かった。騎士たちはお前だもんな。イーアンが戻れば俺たちとだが。しかし、どうなるやら」


「イーアンはもっと後だろう。フォラヴも出た以上、昼休憩は後回しだ。食事は夕食まで待つか、余裕があれば各自で」


 急ぐか、とドルドレンは手綱を動かして馬を早める。親方は後ろに戻って、ミレイオとシャンガマックに、村に入った後の行動を伝えた。一人で出かけたフォラヴに、ミレイオはとても心配そうだった。



 村手前から、既に土の色は変わり、草は枯れた状態で倒れていた。広範囲で赤い染みが浮き出ている土は、雨が降っても亀裂が戻らないと思えるほど罅割(ひびわ)れ、捲れ上がっている。


 馬の足と車輪を取られないように、あまりに大割れしている箇所を避け、ドルドレンは村の中へ入る。村は背の低い生垣を丘の周囲に巡らせただけの、簡素な囲いしかなく、生垣の内側は木々が覆っているのだが、その木々は葉を落とし、樹皮に黒い線が走っていた。


 枯葉の山を踏みながら、緩い上り坂を上がる馬車。道の脇は栽培している植物だったろうに、気の毒では済まないほどの悲惨な状態を見せている。


 ドルドレンの胸が痛む。仕事がなくなることも辛いが、丹念に育てた植物が枯れ果てたなんて。早くどうにかしてあげなければ、と何をしたら良いかも分からない内から気持ちが焦る。


 周囲を見回していると、先の家の並びに村人の影が見え、ドルドレンはすぐに声をかけて、役場と宿屋を訊ねた。村人は側へ来て、派手な馬車と見栄えの良い男を見て『この村に泊まるの』と心配そうな問いかけをした。


「そうだ。問題があるのか」


「いえ。あなたみたいな人が泊まるような場所じゃ。一週間前から、こんなになってしまって、宿屋も多分、ろくなお世話が出来ないかも。

 それに土が汚れて・・・見て分かるでしょうけれど。水も怪しいですよ。体に悪いかも」


「知っている。テルムゾから来たのだ。俺みたいな者が泊まる場所ではない、その意味は分からないが、とにかく用があるのだ。役場と宿屋はどこか知りたい」


 悲しそうな初老の女性に気遣われ、ドルドレンは、そんなことを気にしないでほしい、と答える。

 女性は2台の馬車をさっと見て、宿屋は坂を上がった最初の通りで、役場はその先を進んだ、丘の下りにあると教えてくれた。


 ドルドレンはお礼を言い、まずは宿屋が通過地点と知り、馬車で上まで進み、最初の広い通りに出た。そこで後ろの馬車のシャンガマックに声をかけ、宿をあたるように頼んだ。


「じゃあ、総長。俺たちは宿の手配をして、宿で待ちます。後で連絡します」


 後ろから大声で答えた部下に『分かった、頼む』と伝え、ドルドレンとザッカリアの馬車は、道をそのまま進んで役場を目指した。



 通りは長く、村は広く感じる。人口は少ないだろうし、人口密度もないから、敷地が広いだけなのだろうが、大きな村といった印象を受けた。その広さで、殆どの植物が枯れている様子は、実に無残だった。


 馬車で10分過ぎる頃、通りに間隔を取って並ぶ施設が目に入り始め、一つは少し引っ込んだ前庭を持っていた。『あれだ。役場だな』役場と思しき雰囲気を見つけ、馬車はその敷地に停まる。


 ドルドレンとザッカリアは役場へ入り、受付の男性に、ハイザンジェル騎士修道会であることと、魔物退治で派遣されている業務を伝え、村長に挨拶を願い出た。


 一階建て建物は狭く、受付で話す声は室内全員の耳に届く。奥に座っていた男性が立ち上がり、近づいてきて挨拶をした。

『私がここの村長です。ハイザンジェルの騎士修道会。魔物退治の』すっかり聞こえていたようなので、ドルドレンはテルムゾの村長からの手紙と、報告書の写しを渡す。


 手紙に目を落とす村長に、ドルドレンは『今日から数日間滞在し、テルムゾ同様、魔物退治をしようと思う』ことを話すと、受付の男性他、職員たちも一斉に旅人の二人を見た。その視線は切実で、村長が了解して欲しそうだった。


 村長は頷いて『分かりました。それでは行動の許可をします』とすぐに答えてくれ、少しだったら噂を聞いていると言った。


「俺たちは龍に乗る。龍と動くが、危険はない。恐れないでほしい」


「龍。やはり本当ですか。そんな話を警護団に聞いたけれど」


「それと。仲間には類稀な能力を持つ者もいる。強力で魔物退治には必ずと言って良いほど、参加してくれる。俺たちの仲間だ。無駄に怖がらないでくれ」


「その。それは、もしかして。龍の女ですか?それと、一昨日の雷の話」


 そうだ、とドルドレンはしっかり頷いた。村長も、この状況に動転している状態が長引いて疲労している。何度もうんうん首を振りながら『分かりました。協力出来ることは話して下さい』と答え、ドルドレンたちのことを速報で回すと約束してくれた。


 お礼を言い、ドルドレンとザッカリアは役場を後にする。馬車を出し、宿屋の通りまでまた戻った。曇り空で太陽の位置は分からないが、時間にして、まだ1時前だった。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に心から感謝します。とっても嬉しいです!有難うございます!

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