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魔物資源活用機構  作者: Ichen
見つめ直す存在
865/2955

865. 報告の午前・お空の卵タイム

 

「イーアンにも報告しないとな」


 馬車を進めるタンクラッド。昨日は報告しないまま、うっかり眠ったと話す。『やることが多かったから忘れた』通り過ぎた道を振り向きながら、横のドルドレンに言う。



 ――先ほどまで。村を出てすぐ、ドルドレンは皆がこの3日間で何をしていたのか、詳しく教えてもらっていた。


 ベッドに横になっている時間で、彼らの話を聞くことが出来ているのは、皆が集まった時だけ。お留守番時の、親方もシャンガマックも、そこまで状況報告はしていない。

 シャンガマックが夜の終わりに、少し話してくれてはいたが、彼も自分に『聞こえてないかな』と思いつつの言葉なので、あまり詳しくは言わなかった。


 それもあって、最初から最後まで話してもらった時は、休憩時に彼らの話した内容と噛み合い、実は凄いことをしていたと理解して驚いた。


 親方に素直にそう伝えると、彼も少し笑って首を振り『皆が頑張ったんだ。それぞれ出来ることをした』と答え、イーアンは空から知恵をくれたし、コルステインは夜に来ては、お前の導きと魔物退治で力を貸してくれたと教えた。


「バニザットが気にしていなかったら。いろんな情報が落ちていたと感じる。植物に関しても、遺跡に関しても。それに、お前との日々をちゃんと学んでいるから、役場に連絡にも行ったし。総長だったらこうする、と何度も言っていた」


 嬉しいドルドレン。背中を見て育ってくれたのか、と思うと、今以上に頑張ろうと思う。親方は続ける。


「フォラヴもそうだ。あいつが村に入るなり、土に反応して。単独行動だ。ずーっと。食事もろくに摂らずに、一生懸命に土を癒し続けた。その姿は、村人の目にしっかり焼きついて、彼の努力は実った」


「フォラヴが単独行動。自由な時はそうしているが、彼は自分から大きく動かないのに」


「役割を感じたんだろう。お前もあんな感じだったし、自分に出来ることを、懸命にこなしたんだと思う」


 部下の動きに、ドルドレンは成長を感じる。シャンガマックもフォラヴも、自分の隊で育てた。彼らが独り立ちしたような気がして、感慨深い。


「ザッカリアはな。子供だから。まだあれこれ出来ないにしても。いろいろ付いて行って、勉強したと思うぞ。お前にも音楽を聴かせたり、優しい心はどんどん育まれている」


「そうだ。お礼を言わなければ。俺は馬車の音を聴いて、落ち着いて考えることが出来た。彼がそうしてくれた」


「皆が出来ることをしたんだ。ミレイオも・・・大変だった。今回は。まぁ、あいつらしいが。それにしても、動き回ってくれたな。あいつの一言は、意外と重要なんだ。目の付け所が違うからな」


 友達のことを話す親方の横顔を見つめ、ドルドレンは微笑む。彼らは何のかんの言いながらも、お互いをよく理解しているし、自由にさせている。大人でそんな付き合いが出来る関係は、良いなと思った――



 ドルドレンに、3日間の報告を終えたタンクラッドは、『そうだった』とイーアンへの報告も思い出す。総長に『お前はもうイーアンと連絡を取ったか』訊ね、彼が頷いたので、自分も完了報告・・・と、なった。


 手綱を彼に渡し、タンクラッドは連絡珠を取り出す。卵だらけの中にいる、イーアンを思いながら呼ぶと。


『おはようございます。タンクラッド』


『おはよう。イーアン。どうだ。そっちは』


『順調です。少々寝不足ですが、明日戻りますから頑張りどころ。ビルガメスも眠そうですよ。村はいかがですか』


『昨日の夜は、いろいろ詰まって連絡忘れたんだ。すまんな。村は今出たところだ。凄い話が沢山ある』


『んまー。素晴らしい!大詰めでしたか。何々?』


 分かりやすい聞きたがりなので、彼女の反応が楽しいタンクラッドは、少し笑って、シャンガマックが金鉱を見つけた所から、順を追って話した。


 精霊に聞いて、場所と対処を教わった話。金鉱の状態。フォラヴの癒し。採石した袋を見せた時の村長の反応。活用についての、役場での話し合い。コルステインの雷。ドルドレンの目覚め。


『す。素晴らしい。感動一杯です!帰ったら、皆さんの口から聞きたいことばかり。皆さん、タンクラッド。お疲れ様でした。そしてご活躍に心から賛辞を送ります』


『お前の知恵ありきだ。イーアン。お前が導いてくれた。有難うな』


『そうでした。知恵といえば。知恵絞ったのです。もう村を後にされたようなので、早いうちに対処して、どうぞお知らせ下さい。白い花や、あの雑草ちゃんのことです」


 イーアンは、燃やしてはいけないと思うことを伝える。

 なまじ燃やして、発生した煙を吸い込んだ人が、どうなるか分からないので、あれらは刈り取るか何かした後、乾燥させてから、金鉱の奥に片付けるように話した。


『調べようがない以上、何の金属を含んでいるか分からないのです。万が一は困るので、分かるのは天日乾燥処理と、同じような金属を含む地下に置くことくらいです』


『そうか。分かった。早めに伝えよう。農家は雑草は燃やすか、たい肥に使うかだから』



 そんな報告も終わり、明日を楽しみにしていると伝えて、それを挨拶とした親方は通信を切る。明日戻るのか、そう思うとニコニコする親方。ふと、視線を感じて横を見ると、ドルドレンの灰色の瞳が自分を見つめていた。


「イーアン。何て言っていたのだ」


「昨日の午後からの報告には喜んでいた。金属を含む植物の扱いを、最後に」


「俺は。今。嫌じゃない」


「ん?」


 タンクラッドは、自分を見つめる男の言葉に、意味が分からず聞き返しながら、手綱に手を伸ばして引き取る。『何?嫌じゃないって』何のことかともう一度言うと、ドルドレンはアハハと笑った。


「タンクラッドがイーアンと話していても、俺は大丈夫だ。今までと違う。俺が変わったのだ」


「ああ、そういう意味か!そうか。良かったな!」


 ドルドレンの肩を組んで、親方も笑う。『やっと、自分のが立ち位置が上だと、受け入れたか』嫌だけどな、と続ける親方に、ドルドレンは笑って首を振る。『嫌だと思うが。有難いことだ』組まれた肩をそのままに、二人は兄弟のように笑い合った。



 親方は、ドルドレンの様子にしっかりした感じを受ける。もう大丈夫と思える顔をしている。

 ふと、ドルドレンの不在時にした連絡を思い出し、その話を忘れないうちに伝えることにした。


「あのな。お前が一日いなかった日。あの日、俺はギアッチに送付状と魔物製品の手配を頼んだ」


 いきなり話が変わったので、ドルドレンは顔を向けて詳しく聞かせてほしいとお願いした。親方が言うには、ギアッチに伝言し、送付状の追加・魔物製品の発送・ロゼールに各工房へ確認願いの3点を頼んだと言う。


「タンクラッドは騎士修道会ではないのだ。それなのに。思いっきり俺たちの業務を」


「そんなもの。側で聞いてりゃ分かる。俺は委託工房の作り手なんだ。それでな、まだ連絡はないが、ギアッチから折り返し、向こうの返事が来る手筈だ。ザッカリアが中継するから、受け取り場所とロゼールの話は訊けよ」


「お前は・・・何て優秀なのだ。騎士でもないのに、やることが的確である」


「話を聞いていたって言っただろう。こんなことで誉めるな」


 こんな部下がいなくて良かった、とドルドレンは思った(※仕事なくなる)。笑うタンクラッドにお礼を伝えると、ハッとしたように親方は、思い出したもう一つ教えた。


「そうだ。そうそう・・・あのな。同じ日だ。通りすがりの集落で魔物が出たから。俺とシャンガマックとフォラヴで退治したんだ。それで、そこが老人ばかりで心配だから、アオファの鱗を渡したぞ。

 シャンガマックがその場で報告書のような紙を書いたから、それも多分、警護団に渡れば記録になるだろう」


 タンクラッドの至れり尽くせりに、ドルドレンは『こんな上司がいて欲しかった』と思った(※そうでもない人ばっかだった)。


 そうしたら、酒と漬物をくれてな・・・笑いながら親方は、その日の夕食が郷土料理みたいで、と話し、久しぶりに酒を皆で飲んで、少し和んだことも教えてくれた。


「ザッカリアはさすがにな。無理だろ?だから特別に、夜だけど菓子を許可してやった。喜んでいたな。夜中に魔物も出たようだが、コルステインが倒してくれたから、俺たちは何も知らん」


 ハハハと笑う親方に、ドルドレンは尊敬の眼差しを送る。


 何て良い上司なのだ・・・・・ 手際良く仕事を片付け、気配りもあれば、労いもすれば、気を抜く時間も与え、一人も漏れないように皆で楽しむことを選び、夜間の手配もばっちり(※Byコルステイン)。無駄な心配もさせない、こんな上司がいて欲しかった。


 親方の良いところを見つけたドルドレン。自分も頑張ろうと、心に決める。

 頼もしい親方の背中を見て育つ総長は(?)彼の場合、3度生まれ変わっても、きっと最初からこんな人だったんじゃないかなと思った。



 午前の馬車はトコトコ進む。次の村に入る前に、途中で駐在所がある話なので、そこへまず立ち寄って報告してから。次の村・ティティダックまでは一日の距離。駐在所は今日中の予定で進む。


「お前。そう言えば。タムズに報告しないのか」


「そうなのだ。いつが良いかと思っていたのだが。馬車も動いているし」


「今呼べば良いだろう。もしくは昼の時間か」


 ドルドレンは少し考えて、お昼にすると答えた。お昼が済んだら、駐在所に寄る前にタムズを呼ぶことにして、と話すと親方も頷いた。


「時間があるだろうから。駐在所はこの道から外れたところにあるようだけど、そう離れてはいない。午後の早い時間で到着すると思う。

 オウィド地区の警護団施設は、次の村のもっと先と言うし、まぁ、あまり見回りもしていないようだから、すれ違うこともないだろう。馬車を止めて、少し昼を長く取るのも構わんな」


 親方は、警護団の馬車で邪魔されることはない、と。そう言いたかった様子。タムズも喜ぶのではないかと微笑む親方を見て、ドルドレンも嬉しく頷く。


 ドルドレンは、少しの間。タンクラッドと一緒に過ごしたかった。何となく、彼に持っていた誤解を解ける時のような。そんな御者台の時間だった。



 *****



 イーアンは卵部屋勤務。気がつけば、ここに来てから、全く一口も食べていない。お腹が空かないので忘れる。飲み物もない。気にもならない。不思議だなと思う。


 ビルガメスは卵を生んでいる最中で、話しかけても答えてくれるが、やはり気になるので喋りかけることは少なくなる。


「歌ってて良いぞ」


 黙っていると、お歌のお願いが入るので、そういう時は歌うようにしているイーアン。おじいちゃんは歌が好きらしい。イーアンが鼻歌を歌っていても、微笑んでいる。卵ちゃんたちも大人しく聴いてくれる(※卵だから)。


 赤ちゃんはポコポコ生まれるので、歌いながらあやして、真似する子は『んー、んー』で頑張って揺れてくれる。可愛いので一緒にゆっくり歌って、皆でんーんー言う。



 そんなことをしていると、ビルガメスの両手指を合わせている掌の内に、白く暖かな光が満ち満ちて、微笑む男龍の眼差しの元で、光はくるくる渦を巻き始める。


 初めて見た時は、驚きと感動で歌うのを忘れた。大きな掌の内側に、少しずつ光を集めて形作られ、それが暫く続くと卵の形に変わり始める。卵の形が現れると、合わせていた指を少しずつ離して、それに伴うように光は卵を纏い、卵は徐々に大きくなってゆく。


 ビルガメスは3時間くらいで卵を生む。これは早いようで、『本当はもっと時間をかけて、一つ二つ』らしい。でも今は()()()()()


 時間をかけない分、何か足りなくなるとか、そうした事はないのだろうか。そんなことを思うイーアンだが、大急ぎだと集中力が強烈という話で、卵ちゃん自体は無事のよう。いろいろあるのだ。



 ビルガメスはイーアンの歌を聴いて、卵を生むのが『楽だな』と言う。なので、どちらかと言うと、歌付き出産が推奨される。

 ビルガメスは、イーアンが業務に就いてから6日目の今日までに、30個の卵を生んだ。今日も5つくらいは生もうとしているので、明日になるまでにビルガメ・ベイベだけで35人兄弟(※年子にもならない凄さ)!


 改めて。物凄い人口増加である。イーアンとビルガメスのセットだと、100%卵が孵るのが分かってからは、おじいちゃんも部屋から出ようとしない。イーアンは時々出るが、気になるのでやはりすぐに戻る。


 タムズも、遅れを取り戻す勢いで頑張っているので、預かった卵ちゃんは30近かった気がするし、シムも必死に数を稼ぐ(※子供)ため、32~33はあったと思う。


 ニヌルタとルガルバンダは、なぜか双子率が高く、一つの卵が孵った時に、赤ちゃんが2頭出てくることが4~5回あった。双子のお陰で彼らは余裕がある。


 ファドゥはと言えば、彼は慎重に愛情を込めて生むようで、一日3個くらいが限度。でも彼の子供たちは、彼が龍の子の時代に結構たくさん孵っているようで、龍の子の一族としては、ファドゥ・チルドレンは多いと話していた。



 今もまだ。イーアンは疑問が残る。誰に聞くこともないまま、過ぎているが。なぜこんなに突然、孵すのか。なぜ今なんだろうか、とか。これからも時々、あるのかなとか。


 イーアンの業務は卵ちゃん集中なので、今回は卵部屋だけだが、明日地上に戻ってからも、子供たちにちょくちょく会いに来るような話も出ている。


 少しでも子供たちを大きくして、イヌァエル・テレンの攻撃時に守りやすくするのかとも考えるが、答えは分からない。



「どうだね。様子は」


 あれこれ考えながら、卵ちゃんを抱っこして赤ちゃんと遊ぶイーアンに、タムズが声をかけた。いつの間に来たのか。ちっとも気がつかなかったイーアン。顔を上げて、彼の手から新しい卵を受け取る。


「タムズ。ドルドレンが目覚めました」


「おや。そうか。ではそろそろ行くかな。目覚めたということは、もう心配要らなさそうだけど」


 ビルガメスは卵中(※生んでる)ので、ちらっと見て笑うだけ。タムズも微笑んで『後で会いに行こうか』とイーアンに伝えた。


「もう少しかかるかと思ったが。ドルドレンは頑張ったね」


 何か。少し気になる言い方のタムズに、ビルガメスも卵を見つめるまま笑みを深める。イーアンは事情が分からないけれど、とにかくドルドレンを認めてくれたのだけは良かったと思った。



 卵ちゃんは彼の側でまた一つ孵り、タムズは殻から出ようとする赤ちゃんを優しく見つめて『よく出てきたね。愛する子供たち』と囁いた。小さな頭に付いた殻の欠片をそっと取り、タムズはゆっくり頷く。


「ようこそ。男龍の子」


 殻を取ってもらった赤ちゃんは、小さな細い角がちょこんと額に付いていて、畳まれた短い翼を持っていた。彼の横にいる赤ちゃんたちも、小さな角付きがわちゃわちゃ、ハイハイしていた。

お読み頂き有難うございます。

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