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魔物資源活用機構  作者: Ichen
見つめ直す存在
864/2954

864. 旅の十九日目 ~出発の朝

 

 朝。ようやく目覚めた総長は、早い時間に風呂に入らせてもらい、寝たきり生活を洗い流した。


 綺麗さっぱり、すっきりして、風呂場を出てきてすぐ、宿のお爺さんが『良かったね。本当に良かったね』と笑顔で言ってくれた。ドルドレンも微笑んで『有難う』と答え、そのまま1階のホールの席に行った。


「総長!」


 ホールで待っていたのはシャンガマック。入ってきたドルドレンを見て立ち上がり、走り寄って抱き締めた。『ああ、良かった!本当に回復したんだ』総長をしっかり抱き締めて喜ぶシャンガマック。


 ドルドレンも、この忠実な部下に感謝をしながら、彼の体を抱き締めた。


「昨晩もお前は喜んでくれたのに。朝もこうして先に」


「昨晩は一番嬉しかったですよ。でも眠ったらまた、どうなるのかと心配で。朝、俺より早く起きて、風呂へ行ったと知ったから。ここで待っていました」


 シャンガマックは笑顔で頬に涙が伝う。本当に良かった、と何度も言いながら、総長の大きな背中に回した腕を力強く絞った。


 フォラヴもザッカリアも、階下の声を聞いて起きて来て、ドルドレンの復帰を喜び抱き締めた。ドルドレンは部下3人を両腕にしっかり抱き寄せて、涙を流して笑みを浮かべた顔で、何度もお礼を言った。



 ――昨晩。村滞在3日目の夜。


 ドルドレンは目を覚まし、まず一発目に親方に抱き締められた。死ぬかと思った。容赦ない力強さで抱き締められ『やっと起きたか』と頭を胸に抱えられたドルドレン。


 コルステインは側にいたが、龍気をまとった首元は、もうコルステインが触れない。少し離れてニコニコ見つめるだけ。


『コルステインが助けてくれたのだ。俺を支え、導いてくれた。今こそ抱き締めてお礼を言うべきなのに。皮肉だ』


 ドルドレンはそう言うと、体を起こして少し考え、ビルガメスの毛を首から丁寧に外した。それを枕元に置くと、親方を見てからコルステインを見て、コルステインに笑いかけた。


 嬉しそうなコルステインは近づいて、鍵爪でちょんちょん触ってから、ゆっくりドルドレンを抱え上げて抱き締める。『ドルドレン。生きる。する。一人。強い。大丈夫』しっかりと夜空の色に包まれたドルドレンは、コルステインに抱きついて目を閉じ『本当に有難う』とお礼を伝えた。


 親方は、これはこれで、と思えた。俺でもこうするな、と思ったから、コルステインが笑顔で頬ずりしているのを、じっと見守るのみ。


 ドルドレンはコルステインから離れて、タンクラッドに向き直ると、自分から抱擁して『お前も。俺をいつも』そこまで言って笑った。親方も、彼の言いたいことが分かるので一緒に笑った。



 それからシャンガマックを呼び、コルステインは先に馬車へ。お休みの挨拶をして、ドルドレンはもう一度お礼を言い、窓から見送った。


 部屋にランタンを持って入ってきた、シャンガマックとミレイオ。続いてフォラヴ。ザッカリアは寝てしまっていたけれど、3人は起きているドルドレンを見て笑顔になった。


 シャンガマックが一番最初に腕を広げて、総長にゆっくり近づき抱き寄せた。ドルドレンも分かっていたので、お前の声は聞こえていたと、涙を落としてお礼を伝えた。シャンガマックも涙ぐんで、何も言えず、うんうんと頷くだけだった。


 それからミレイオ。フォラヴも彼を抱き締め『お帰りなさい』と声をかけた夜。明日、また長い話をしよう、とドルドレンは言い、夜も遅いから彼らに眠るよう促した。


 シャンガマックは同じ部屋。ずーっと涙を浮かべた目で微笑みながら、見つめる褐色の騎士。ドルドレンも笑って『お前に一番世話になった』と囁き、ゆっくり休んでくれとお願いした、3日目の夜――



 ドルドレンは眠る前にも、本当はイーアンに知らせたいと思ったが、連絡珠を持っていなかったので、翌日を待った。

 ザッカリアが認めてくれると良いなと(※『もう大丈夫だろう』って)思いながら、翌朝早くに起きて風呂に入り、そしてホールに入ったのが、冒頭。



 そうして、親方とミレイオが来るまでの間に、ザッカリアに交渉して連絡珠を受け取り(※良いよ、って)やっとこさイーアンに連絡。


『はい。イーアン』


『おはよう。イーアン。俺だよ』


『ドルドレン!!!愛していますよ!』


『俺も愛しているよ!もう大丈夫だよ、本当だ。ちゃんとタムズに確認してもらうのだ』


 開口一番、愛していますよと言ってくれる、大切な人の言葉に、ドルドレンは感謝で一杯。少し涙を浮かべで頷きながら『今日、タムズに来てもらうつもり』と話し、イーアンが降りてくるまで待つと伝えた。


『会いたい。でも大丈夫だ。君は俺の中にしっかりいるから』


『私も会いたいです。あなたにそんなことを言ってもらえるなんて。私は果報です』


 私もドルドレンがいつも胸のうちにいますよと、優しく答えるイーアンに、ドルドレンはこれまでにないほど、満ち溢れる喜びを感じる。それは落ち着いていて、穏やかに広がる慈しみの潮のようだった。


『俺も。男龍みたいな愛を目指すのだ。君を愛しながら、大きな愛を育てる』


『んまー・・・何て素敵なの。明日帰りますからね。もう、ここ赤ちゃんだらけですから』


 イーアンはどんな時でも、何だか笑わせてくれる(※本人そのつもりない)ので、ドルドレンは一気に緊張が解けて安心する。愛してるよと伝え、また後で連絡することを約束し、通信を切った。感無量。



「イーアン。喜んでいたでしょう」


 シャンガマックが横に立って、微笑む。ドルドレンは目元をちょっと拭って頷き、『皆のお陰だ。イーアンも心配していた分、とても喜んでくれた』と伝える。


 ドルドレンは、『皆のお陰』その一言を口にして、自分が動けなかった間、何があったかを改めて聞きたいと思った。それはシャンガマックたちも同じで、ちゃんと報告し、それから総長の心の中に起こった変化の話を聞かせてもらいたかった。

 

「俺の話は、食事の時にでも。俺は・・・3日か。今日は4日目?それくらいあのままで」


「そうです。今日はこの村に来て4日目の朝です。初日の夕方より前に到着して、3泊しています。魔物退治ということで、村長が宿泊費を、全額負担してくれました」


「何と。気前の良い・・・いや、それくらい深刻だったのだな。お前たち今日もまだ、何か行うのか。俺も手伝えることか」


 シャンガマックは、フォラヴを見る。彼は『村の方に状況を確認してから』と言う。褐色の騎士は頷き、総長に『今日は滞在するかもしれない』と答える。


「昨日のうちに、取り組みが相当、進んだんです。今日は変化を確認して、残る必要があれば滞在で。大丈夫そうなら、出発出来ると思いますが。現時点では何とも」


「そうか・・・これから確認次第でということか。それなら、俺も手伝えるだろう。確認は分かれて行うのか?」



 ドルドレンが取り急ぎ、今日の動きだけでも聞こうとした矢先。宿の玄関が開いて、少し騒がしくなった。


 何だろうと、騎士4人が振り向いてホールの入り口を見ると、ミレイオとタンクラッドが入ってきて、後ろに、村の人たちが続いて何十人も入った。


 何事かと驚くのもすぐ、ミレイオがドルドレンに笑顔で手を上げ『おはよう。どう』と、普通の挨拶。親方も嬉しそうに笑顔をくれて『大丈夫そうだな』そう言って、後ろに続く人たちを無視したまま、ドルドレンに歩み寄り、背中を撫でた。


「おはよう、有難う。この人たちは」


 ビックリしている騎士たちに、ミレイオは後ろを向いて『お礼に来てくれたの』と。


 村の人たちをよく見れば、昨日フォラヴを手伝ってくれたり、差し入れしてくれた人だったり、役場の人だったり、農家の人だったりで、騎士たちもそれぞれ思い出して『あなたは』と反応する。

 村人も笑って、朝早くから来たことを詫びると、役場の人が進み出て、シャンガマックの前に立ち、後ろの皆さんを見て話し始めた。


「昨晩。村で会議をしました。村長は今、ここにいませんが、後であなた方にお礼を伝えたいそうで。時間があれば役場へお越し下さい。

 ここにいる皆さんは、あなた方のご活躍で助かったことに、お礼をしたいと仰っています。もし良かったら、聞いてあげて下さい」


 役場の人がシャンガマックにそう伝えると、農家のおじさんが数人、親方の前に来て握手した。


「あんたが頑張ってくれて(※コルステインを知らない)。たい肥が使えるようになりました。本当に助かったんだよ。有難う。もう、たい肥ごと作り直さないといけないと、思ってたもんで」


 背の高い男の大きな手を、しっかり両手に握る農家のおじさんは、節くれだった荒れた指だった。『被害後に最初にたい肥に触った時、夜にはこんなになってね。でも、もう安全だと分かって凄く嬉しいよ』そう言うと、ニコッと笑う。親方は可哀想にと思う。


「あんた方の体に影響が出ているなんて。そこまでは役に立てないことが済まなく思う」


「何言ってるの。土があればね。どうにかなるんだから。手だって治るよ。本当に有難う」


 よく見れば、農家のおじさんたちの手や、袖をまくった腕の皮膚が荒れている。知らずに触ってしまった土で、体を痛めた彼ら。これも被害なんだと、親方も皆も辛く思った。


「フォラヴ。お前の力を注いだ水は」


 親方がふと思い出して言うと、フォラヴも同じことを考えていたようで頷く。『どこまで出来るか。でも試しましょう』妖精の騎士は農家の皆さんの体にある毒が、少しでも癒せればと話した。



 白金の若い騎士を見て、農家のおじさんと商店を営む人は、彼にもお礼を言う。昨日、フォラヴを手伝い、休ませた人たちの何人かだった。


「あなたは類稀(たぐいまれ)な力で、私たちの土を以前と同じ、健康な土に戻してくれて。どんなに疲れただろうと思うと、何もお礼らしいことが出来なくて。でも本当に助かりました。これ、持って行って下さい」


「その言い方ですと。土はもう。昨日の今日で、まだ半日程度ですが。土は?水を撒いた場所はどう」


「大丈夫そうですよ。水が染みこんで乾いた後、土の色が変わりました。きれいさっぱり・・・では、ないにしても。

 大丈夫そうだと分かるのは、水溜りに虫や動物が、水を飲みに来ていたからです。その場でひっくり返ったりしませんでした。

 あなたが浄化して下さった水は、土を癒して、毒を抜く。畑や花壇に撒いた水も、土の様子が。あんなに気味悪かったのに。水は、普通の土に変えてくれました。きっと植物も戻ります」


 空色の瞳は、笑顔で差し出された綺麗な籠を見つめる。籠に幾つもの瓶が入り、可愛らしい小さな花の輪が添えられて飾ってある。

『これは』フォラヴが受け取りながら訊ねると、差し入れをくれた商店の人が微笑んだ。


「この村の栽培種で作った香水です。香水作りはよそに頼んでいますが、販売はここでもするから。良い匂いなんです。良かったら使って」


 香水大好きなフォラヴ。じーんと胸に温かいものを感じて、そっと目を閉じる。それから微笑み、彼らに頭を垂れて『私にこんな・・・素晴らしい産物を。有難うございます』溢れる感謝にお礼を伝えた。


「皆で作る香水です。これからは、あなたが助けてくれた土が育てるでしょう」


 商店の人から受け取った籠を机に置き、フォラヴは皆さんと握手して『お役に立てたことに感謝します』と何度も言った。皆さんも笑顔で『また来て下さい』『本当に有難う』を繰り返す。



 それから、ザッカリアとミレイオにも村の人は近づき、彼らにも贈り物で石鹸を渡す。ザッカリアは可愛い形の石鹸を見て『良い匂い』と笑った。ミレイオも一つ手にとって、蝋引き紙を開いて香りを楽しむ。


「うーん、素敵。こんな、花そのものみたいな石鹸があるんだ」


「香水を作ると精油が。精油を入れた石鹸を作ったら、これも良い評判です。

 旅は長く、お風呂に入れる日ばかりではないでしょう。男は耐えても、せめてお子さんと・・・(※ミレイオ(オカマ)の表現に困る)あなたは綺麗なものが好きそうだから(※頑張った)。この石鹸で、顔や手を洗って、心を癒して下さい」


 ミレイオは、今の溜めは何だったのかと、一瞬真顔になったが、思うに、自分が女性的な口調で話しているから、きっと気遣ってくれたんだと解釈した(※オカマ=女性の感覚)。


「有難う。大切に使う」


「俺も大事に使うよ。すごく良い匂いだね。なくなったら、総長に買ってもらうよ(※お金の感覚ゼロ)」



 最後に、シャンガマックの前に出てきた、後ろにいた女性は、彼を見上げてニコッと笑った。『サニ』シャンガマックも微笑む。


 サニは、粗紡ぎの繊維で織られた小さな袋を、彼に渡す。シャンガマックが受け取って、彼女を見ると、サニは袋の中を見るように言った。中には乾燥させた葉が沢山入っていた。


「これは。もしかして」


「はい。うちで栽培した植物の葉と、その樹皮が入っています。乾燥させてあるから、いつでも使えると思います」


 どうしてこれを俺に、とシャンガマックが少し驚いて尋ねる。自分が乾燥植物を使う占術や、薬作りをしているとは、一言も話していないのに、それに通じた気がする。サニは笑顔のまま彼を見上げ、教えた。


「あなたの体から、多くの植物の香りがしました。まくられた袖にも、それは植物を相手にする人がつける染みです。だからきっと、何か役立つと思ったんです」


 そんなところを見ていたのか、と感心するシャンガマック。周りの皆も『へぇ』と声を漏らす。

 サニは、自分の家の栽培種の名前を書いた紙を渡し、そこに袋の中に入れた葉や樹皮の種類も書いてくれた。


「有難う。こんな贈り物をもらうとは。そうだ、俺は薬を作る。サニの畑で育ったこの植物は、今後、俺のためになってくれるだろう」


 シャンガマックがお礼を言って、彼女と握手すると、サニは少し照れて嬉しそうだった。総長はそれを見て、彼は誰にでも固まるわけじゃないと知った(※範囲がある)。



 この後。皆は朝食に出るつもりだったが、お礼ということで役場に呼ばれ、そのまま役場へ行き、なぜか役場の食堂でもてなされて、思わぬ朝食を頂戴する。


 その席には村長もいて、彼は昨日に見せられた(きん)のことで、何度も何度も、親方&ミレイオを始めとする、旅の人たちにお礼を言った。『こんな奇跡があるなんて。龍の加護、精霊の加護』村長は言いながら、鼻が赤くなるほど涙を落とした。


「もうダメだと思った」


 村長だから、決して言えなかった言葉だが、奇跡が起きた今。もう、村に心配ないと分かって、その言葉を口に出来たと、泣き顔で笑った。

 同席するドルドレンは、3日分を取り戻す食欲で食べていたが(※今回唯一、何もしてない人)、村長の気持ちはよく理解出来る。食べながら、彼が笑顔になったことを喜んだ。

 村長は食後。次の村と、途中にある警護団の駐在所あてに一筆書いてくれて、また立ち寄ってと、全員と握手を交わした。



 役場で豪勢な朝食をもらい、謝礼金を渡されそうになって、『宿代は出してもらった』とそれを断り(※採石した金も貰った)。


 皆は出発の準備をする。ここにもアオファの鱗を一掴み、袋に入れて渡す。使い方を教えて、無事を祈った。


 状況の確認は、朝一番で村の人に伝えてもらって了解。村の外は、出てから確認が出来るし、懸念があるならまた夜に戻って、雷を落とすことにする(←コルステインが)。大丈夫と言われたので、ここは無事な回復を祈って、旅の一行は次へ向かうことに決めた。



 フォラヴは離れる前に出来るだけ、沢山の水に触れて井戸の水に戻し、流れる川に祈りを捧げ、龍に乗って森の木の精霊に、お礼を伝えてから馬車に戻った。木の精霊も、フォラヴの旅の無事を祈ってくれた。


「村の土は。皆さんが井戸の水を撒いて浄化をされるようです。井戸にも力を捧げました。きっと使ううちに、皆さんの体も治ると思います」


 彼を待っていた馬車に乗り込んだフォラヴは、贈り物の香水の籠を抱きかかえ、見送る村の人たちに手を振る。


 シャンガマックが御者で、ザッカリアとミレイオは、フォラヴと一緒に寝台馬車の後ろ。皆さんにさよならの挨拶をする。


 荷馬車は親方が御者で、ドルドレンは横に座る。こっちも、親方が村を出る道すがらで『気をつけて』『有難う』『あんたカッコ良かったよ(?)』の声をもらい、笑ってお礼を言いながら手を振って通る。



 ドルドレンは横に座って、仲間がすごく活躍したことに、とても嬉しく思った。

 村を出る道はゆっくり進み、遠ざかるさよならの声を背に、2台の派手な馬車は次の村へ進んだ。

お読み頂き有難うございます。

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