863. 倒れた勇者 ~目覚め
(※いつもよりも長い話です。お時間のあります時にどうぞ)
初日の夜に教わってから考えて、一旦眠り。それから覚めると、人の体のコルステインがいた。
今が何時なのか。何日なのか。ドルドレンはあまりよく分からなかったが、眠りから覚めたところで、まだ頭の中に自分が居ることだけは知った。
ドルドレンはこの時点、村滞在2日目の夜のこと。
それから、今日も来てくれた、夜空色の体に腕を伸ばす。コルステインはニコリと笑って、彼を抱き寄せ『来る。話す。する』短く挨拶をした。
ホッとするドルドレン。頭の中とはいえ、誰かにこうして抱き寄せられると、一人じゃないんだなと安心する。コルステインは彼の頭を撫でて、灰色の瞳に問いかけた。
『どう。強い。生きる。分かる?』
『うーん。まだ途中なのだ。頑張って探しているが。でも少し分かったぞ』
大きなお胸にぎゅうぎゅうされると、何となく後ろめたいので(※愛妻に遠慮)ドルドレンは少し体を起こし、コルステインの顔を見上げる。コルステインも、うん、と頷いて促す。
『あのな。俺はお前に教えてもらって、一生懸命考えたのだ。
最初に分かったのは、俺はイーアンに守ってもらってるから、それが安心だったのだ』
『そう。イーアン。強い。お前。守る。する。でも。お前。イーアン。守る。ない』
はっきり・・・・・ 『お前は守ってないだろう』と言われ、ドルドレンは、うな垂れながら受け入れる。コルステインから見て、そう見えていたのか・・・・・ 俺は。俺は男として一体。
『ドルドレン。言う。する。何?』
落ち込んでないで話せ、と(※そんなこと言ってない)先を進められ、傷つきながらも頷いて話す。
『うむ。その、話しにくくなるな。ええっと。
俺はな。他の男に、イーアンを取られる気がしたのだ。分かるか?』
『イーアン?取る?他。誰?』
分からないらしい。言い方を易しくするように考えて、ドルドレンはもう一度トライ。
『あのな。えー・・・だからな。イーアンが俺を守る。俺は嬉しい。だから、イーアンが好き。分かるか?』
『分かる。お前。イーアン。好き。イーアン。お前。守る。する』
『うん。それでな。イーアンは皆も守るだろう?皆もイーアンが好きだ。でも俺は嫌だ。イーアンが、俺から離れるかもしれないと怖くなるのだ』
青い瞳は真っ直ぐ、ドルドレンを見つめ、理解しようと考え込んでいる。ドルドレンもコルステインの反応を見ながら、分かったかな~?と思って待っていると、頷いた。
『お前。イーアン。一人。自分。ほしい。そう?』
『そう、そう。俺は、俺一人でイーアンが欲しいの。そういうことだ』
『イーアン。お前。違う。誰。好き。お前。怖い。寂しい。そう?』
『そうなのだ~(※飲み屋で打ち明け話調)それは困るのだ~・・・イーアンが他の誰かを好きになったら、俺は寂しいどころじゃない。死ぬかもしれない』
『ダメ。お前。死ぬ。弱い。ダメ。一人。生きる。する』
びしっと注意された。青い瞳が厳しさをはらんでいるのが分かる・・・弱音は冗談でも言えない。
言うタイミングを考えないと、会話のままに捉えるコルステインには通じない。学んでいる意味ないだろう、くらいの勢いで訂正されたので、ドルドレン反省。
『うむ。俺が悪かった。ごめん。そうだ、そうだ。死んでいる場合ではない』
『分かる。大丈夫。ドルドレン。何。話す。する』
分かったから次を話せと促され、ドルドレンはちゃんと言葉を選んで、再び学習の成果を伝える(※発見した弱気部分)。
『それでな。俺はイーアンを信じられないのだ。イーアンが・誰かを好きになったら・俺は怖いだろう?いつも心配なのだ』
コルステインは、じっと灰色の瞳を見つめ、カクッと首を傾げた。
『何?どう?信じる。ダメ。何?好き。信じる。する。怖い。違う』
好きなのに、信じることが出来ないのは、コルステインには全く分からない様子。信じるのは、怖いことではないと言う。
ドルドレンは、自分がこれほど率直な感覚だったらどれほど良いだろうと思う。
『コルステインは凄いな。疑わないんだな。好きなら信じるだけなんだな』
『そう。好き。信じる。強い。一緒。守る。する。同じ』
『あのな、お前にこんなこと言うと。どうかなぁ。タンクラッドが心配なのだ。一番心配なのは、タンクラッドがイーアンを好きだから。イーアンが俺より、タンクラッドを好きになりそうで』
ビックリするコルステイン。大きい青い目がもっとまん丸になる。ちょっと可愛い顔で、ドルドレンは笑ったが『そう思ってしまうんだよ』と慌てないように言う。
『タンクラッド。イーアン。好き。お前。イーアン。好き。同じ。ダメ。何?困る。する。どう?何?』
『え?』
ドルドレンは、コルステインの質問に驚く。コルステインは分からなさそうに、まだ目を丸くして見ている。
コルステインはタンクラッドが大好き。彼がイーアンを好きになったら悲しむ、と思っていたドルドレンは、言い難いけれど自分の気持ちを伝えたのだ。思ったとおり、コルステインは驚いたから・・・と思ったら。
『どうして好きじゃダメなんだ、何が問題だ』と言われた。
・・・・・心が広いよ~~~ 男龍の愛(※消すんじゃないヤツ)も広いけど、コルステインの心も広過ぎるよ~~~
『お前は。平気なのか?タンクラッドが、イーアンを好きでも。お前だってタンクラッドを一人で好きでいたいだろう?』
『コルステイン。タンクラッド。とても。好き。タンクラッド。コルステイン。好き。言う。する。
タンクラッド。イーアン。好き。同じ』
ドルドレン。完敗。男龍たちと同じ感覚なんだと理解する。ビルガメスの愛と、コルステインの愛の意味は同じだ。自分が愛していることが大切。
ふらつく頭を支え、ドルドレンは、崇高な方々の教えを請う機会に感謝する。
コルステインは分からないままなので、今日は戻ってタンクラッドに伝えておくと言い、ドルドレンをぎゅっと抱きしめると、すぐにすーっと消えた。
あっさり帰られてしまったので、ドルドレンは今日(※2日目)のお浚いをする。
自分が探した学びは、間違えてはいなかったと思うが・・・だが、コルステインには、理解出来ない感覚が、自分にあることも分かった。
『凄い人たちなのだ。人じゃないけど。
そうだった。コルステインの親が、元祖タンクラッド(※初代)が好きだったのを、始祖の龍に連れて行かれたと話した時も、少し寂しそうだっただけだ。
連れて行かれることが寂しくなっただけで、彼を愛している気持ちが寂しいわけじゃない。愛は愛なんだ。注ぐだけ、与えるだけ。それが自分を満たすと、コルステインは知っている』
俺がそこまで成れるだろうか、とドルドレンは考え込む。俺はこれから、自分を信じなければいけないのに――
足りていないことも、沢山ある。俺が引け目を感じる相手が、沢山いる。いつもハラハラしてしまう。自信か・・・・・
コルステインには、言葉を砕いて言う必要があって、ちゃんとは伝えられていないが、ドルドレンは気づきのお浚いをもう一度して、客観的に見てみることにした。
守られたい気持ち。気を張っていた日々の救世主がイーアンだったから、甘えたのだ。いつしか、彼女に判断を任せ、彼女の反応は、自分を映す鏡を見ている気分に変わっていたのだと思う。
『これはもう。自分で判断していない。彼女に何もかも丸投げだ。彼女は俺じゃない。俺の気に食わない言動があれば、俺は不愉快になった。あって当然なのに』
でも自分の欲しい反応を、彼女越しじゃないと得ようとしない自分がいる。周りが強敵だらけで、自信を失ったから・・・ん?そうか? 本当にそうだろうか?
『タンクラッドは、人に被せるなと言った。ミレイオは、不安は自分で作ると言った。
じゃあ、周りが強敵だらけだから、俺の自信が消え失せたわけじゃないことになる。ややこしいな。また振り出しみたいだ』
まだ何か。見落としている気がする。
弱いから、いけない。足りていないから、いけない。
人のせいじゃないなら、俺のせい?俺が自分で――
うっ、と呻いたドルドレン。眉をぎゅっと寄せて、核に触った気がしたことで、びくっとした。『まさか。俺は。そんなに』そんなに? 自分の一番ど真ん中に指が触れたと知る。
『俺が、足りることを拒否していたのか。俺は弱くあろうとしたのか。
足りたら、強かったら、守ってもらえなくなるから。守ってもらいたいから。甘えたかったから。足りたら、困るんだ』
気がついたその部分を口にした時、ドルドレンは、大きな古い鍵が壊れて落ちたのを、見たような気持ちだった。
――思い出す。馬車の日々。子供の頃『ドルドレンが、デラキソスの次の馬車長になる』と周囲が話していた。
ダヴァート一族が代々、馬車長だった。事情で交代したり、立候補する別の者がなることもあったが、いつしか自然に、ダヴァート一族の男が馬車長として定着していた。
弟のティグラスは、小さい頃に馬車を降りたから、ダヴァートの男子は俺だけだった。後は皆、女の子供ばかり。必然的に自分が馬車長を務めると理解していた。
でも、ジジイの時も、親父の時も。あいつらの泣き言を聞かされる度に、馬車長なんてなりたくないと思った。
金のこと、馬車の人間問題、病気の対処、一般と関わる際の差別・・・自分が悪くなくても、全部を引き受けるのが馬車長。
今思えば。ジジイや親父の性格から、単に何でも口に出すから、軽い気持ちで話していたんだろうが。子供の俺には、馬車長は責任の多い嫌な印象がついた。
子供の頃はそれを何度となく意識して、でも『なりたくない』と言える相手がいなかったから、黙ってやり過ごした。
親父に言えるはずもない。母親でもいれば話せただろうが、母親代わりに育ててくれた女たちは、皆、俺が馬車長になる時の話をするし、不安は話しにくかった。
年月が経つにつれて、別の世界や生き方も見たい思いが募ったのは本当で、それを理由に馬車を下りた。
騎士修道会は、家を探すこともなく支部生活、日に三度の食事も、もらえた。仕事は見回りや書類運び、演習、稽古・・・特に大きな責任はなかった。
居心地で言えば、差別だけは許せなかったが、強くなればそれも変わったし、隊長に任命されてからも、大きな責務はなかった。せいぜい、部下の面倒を見るくらい。
取れる範囲の責任を取るのは、全く問題なかったし、信頼関係も強まるから、良いと思えたくらいだった。
それが魔物退治が始まって、総長たちが消えた後。騎士の中で一番強いと言われたために、やりたくもない総長に引き上げられた。
そこからは。一番、強くなければいけなかった。どうやっても、皆の命を守らねばいけなかった。総長の立場だけに、責任は意識する。自分と一緒に動く以上、絶対に部下を死なせないと決意して、死ぬ気で戦い続けた。
投げ出すわけにいかなかったが、自分一人で立ち向かうには、あまりの重圧で、精神は限界に達した。のらりくらり暇に過ごした20年近くは、突如一変したのだ。
そして、イーアンに出逢った。疲弊し切ったボロボロの心に、イーアンが舞い降りて、慰めて励まして労って、一緒に戦い、勝たせてくれ、立ち直らせてくれて、常に笑顔をくれた。
『分かった』
ドルドレンは認める。オシーンが言っていた言葉。『負けたくない気持ちは、いつまでも負ける』・・・これのことだと理解する。
強くなると、甘えが許されない。気がつくと、一歩下がりたい自分がいる。勝つのは嬉しい。一番強いと自覚するのも嬉しい。でも、同時に甘えがない立場に変わるのだ。
勝ち続けなければいけない。強く在り続けなければいけない。泣き言が言えない。弱音が吐けない。その苦痛を避けたくて、弱さを選ぶ。
『イーアンに守ってもらいながら。イーアンに愛してもらいながら。俺は強くなりたく、なかった』
その結果。自分の判断をおろそかにし、イーアンに判断させる自分が生まれ、弱い自分を選んでいるのに、弱いことを被害者のように哀れむ自分が、見せかけ用に作られた。それが、本当の理由から、一つ手前の答えだった。
『信じられないんじゃない。信じないんだ』
一人じゃ癒せない、わけじゃなかった。一人で癒したくない。甘えていれば、癒してもらえる。守ってもらえる。
強くなれば、頼られる。頼られたら、責任が生まれる。強くならないといけない。そうすると、甘えられなくなる。 ――たった、これだけのことか。こんな小さなことが、俺をここまで作り上げて――
ドルドレンは、どっと疲れが襲うのを感じる。
母親がいないことを寂しいと思ったことはないが、頼れる相手は、思い切り甘えられる相手ではなかった。
馬車は気楽で楽しかったが、馬車長になると決められているのは、想像すると辛かった。
何もない時は、甘えることもしなくて良かったし、誰かに助けを求めることもなかったから、強い自分が好きだった。嫌でも我慢して、理解を示し、心を広く接して、道徳的な自分を高めることに抵抗がなかった。
上辺だけの連中が目障りになって暫くして、強い自分にも疲れが出てきたことがある。だが、誰にも心を開く気になれず、馬車の家族を懐かしく思うこともあった。小さな弱音を言える、一息つく場所を。
魔物退治が始まって、イーアンが来て、気がつけば彼女が全てを包んでくれていた。
彼女に会ってから俺は、もう、強くなりたいと思っていなかった。強くなったら、甘えられなくなる。それだけのために。
ドルドレンは、コルステインが帰った二日目の晩から、ほぼ丸一日かけて、とうとう辿り着いた場所に座り込んでいた。
呆然としていて、心が軽くなったような気もするし、これからどうすれば良いのかとも思うし。
『それにタンクラッド。彼の問題がまだ片付いていない』
俺が弱いうちは、気にし続ける存在だろう。それは明確だった。
タンクラッドも甘えるのだろうか・・・俺とは違う甘え方なんだろうが、彼は普通の範囲のような気がする。俺の甘え方は病的だ(※やっと自覚)。
俺がもし、自信を持って自分を確立したら。彼女とタンクラッドが一緒にいても平気なのか?
ふと、そんなことを思い、首を傾げる。そんなこともないだろうな、と思う自分がいる。『それは何か、また違うような』言いながら、他の男版を想像してみる。
自分を信じて、彼女に甘えるだけではない、心の強い男を選んだ俺は・・・例えば、シャンガマックとイーアンが一緒に出かけても。
『ぬ。大丈夫だ。何でだろう。嫌な感じがない。イーアンは大丈夫だと思える』
念のため、フォラヴならどうだろうと想像する。一緒に買い物、一緒にお茶を飲み、二人で楽しそうに笑い・・・『平気だな。イーアンはフォラヴをちゃんと知っている。ふむ。俺に変化が生まれたのか?』不思議な感覚を不思議に思うドルドレン。
『では、改めて。タンクラッドはどう・・・う。ムリだ。タンクラッドはイケメン職人で、イーアンを自分の妻のように扱う。強いし、堂々としているし、俺より2cm高いし(※背)頭も良いし、一人で何でも出来る』
心臓に悪い想像で苦しむドルドレン。なぜ、タンクラッドはこんなに苦手なんだろうと悩む。
隠し続けた核に触れ、自分を知った瞬間、いろんな飾りが剥がれ落ちた開放感と、これまで無視してきた疲れが溢れ返った。
その後、何か目でも開いたのか、イーアンが他の男と一緒にいる想像をしても、不安がない自分に不思議に感じたのに。タンクラッドだけは、まだ難しいとは・・・・・
『ドルドレン。コルステイン。来る。した。話す』
ハッと気がつくと、コルステインが側に来ていた。『あ。そうか、もう一日経ったのか』ドルドレンは抱き寄せられながら訊ねる。大きな青い目を向けて、うんと頷くコルステイン。
『どう。分かる?お前。生きる。見つける。した。そう?』
『あ・・・え。そう感じるのか?俺が、生きることを見つけたと』
コルステインは、ドルドレンの変化に気づいた。質問に対して、そうであるような返事をもらったので、コルステインはドルドレンの頭を撫でる。
『お前。龍気。作る。出来る。する。お前。一人。大事』
一気に安堵が満ちるドルドレン。コルステインの言葉に、何がどうそう思ってもらえたのか、表現に難しいにしても、感覚が喜んでいる。
夜空の色の体を両腕にぎゅーっと抱き締め『有難う!お前のおかげなのだ。本当に有難う』何度もお礼を伝え、笑顔のコルステインにナデナデしてもらった(※良かったね、の意味)。
『ドルドレン。タンクラッド。言う。する。お前。昔。気持ち。残る。する』
新たな挑戦のような言葉に、喜びも束の間。ドルドレンは抱きついていた顔をさっと起こして『何だって?』と聞き返す。
『お前。昔。気持ち。苦しい。残る。する。タンクラッド。言う』
『タンクラッドの伝言か?彼が俺に言ったのか?』
そう、と頷くコルステインは、どうやらドルドレンの過去の気持ちが、ドルドレンに残っている話をしたらしかった。
『昔って、いつなのだ。俺が子供の頃だろうか』
『違う。ギデオン。ずっと。昔。勇者』
『え!ギデオンや、最初の勇者のことか?彼らの気持ちが俺に残っているって言うのか?』
『そう。龍。昔。勇者。一緒。違う。昔。龍。タンクラッド。好き。した』
げっ、と思うものの。この前聞いたな、それ、と思い出す。確か、始祖の龍は勇者じゃなくて、時の剣を持つ男を最後に愛したのだ。だから彼を連れて行ったと、コルステインが教えてくれた。
ごくっとつばを飲んで、まさか、と思う。さっき、ギデオンも名前が出ていたが。ズィーリーは、超ド真面目な我慢人のような女性と思っていたが。
コルステインは頭の中の会話なので、全部何となく理解し、頷いた。
『ギデオン。龍。一緒。違う。龍。ヘルレンドフ。一緒。ギデオン。一人』
がーーーーーんっ そうなのーーーっっ??? ズィーリーもなのかーーーっ!
ドルドレン、ショック。つい最近まで、親方は、三回生まれ変わって横恋慕人生だと信じていたのに。それがどんでん返しで、まさか勇者が捨てられていたとは(※捨てられて当然の男だけど)。
衝撃を受けた顔のドルドレンに、コルステインは、はっきりと頷く。『そう。龍。ヘルレンドフ。一緒』もう一度ちゃんと、自分が見た現実を教えてあげた(※親切のつもり)。
『ちょ、ちょっと。ちょっと、待ってくれ。ってことはだぞ。俺は、彼らが最後に捨てられた気持ちが、俺の中にもあると・・・分かるかな。勇者が、龍と一緒じゃない気持ちが、俺にはある?そう言っているのか』
『お前。イーアン。寂しい。言う。する。信じる。ない。タンクラッド。怖い。違う』
『それらは、俺の昔の記憶が、そうさせている?そうか?』
『そう。タンクラッド。言う。ドルドレン。昔。勇者。ギデオン。気持ち。ある。残る。する』
ビックリしたが、何かどこかですっきりした(※憑き物取れた)ドルドレン。そんなことあるのか、と疑ったのも一瞬。だからじゃないのか、と自問自答すると、一発で納得した。
タンクラッドに取られる気がしていたのは。違ったのだ。
彼に取られるのではなく。イーアンが彼を選んでしまう恐れだったのだ。
二度もあったから。三度目の俺にも同じことが起こると・・・俺は、どこかで恐れていたのかも知れない。愛想を尽かされた(※特にズィーリー)悲しみの記憶が、まさか勇者の俺にあるなんて、思いもしなかった。
『だが。そうだ。そうかも知れない。でも分かる。今なら分かるぞ。コルステイン。
俺は大丈夫だ。俺はイーアンを愛しているんだ。これは本当だ。これまで弱い愛だっただろうが、これからはイーアンをちゃんと守る男になるんだ。お前や、男龍のように。力強い大きな愛を、俺も持つんだ』
そう言い切ったドルドレン。コルステインの笑顔がわっと明るくなった。今までで一番、嬉しそうに笑ったコルステインは、一気に消えてしまった。
「コルステイン!」
驚いたドルドレンは名前を呼んだ。その時、暗い部屋の中で瞼が開いた。
お読み頂き有難うございます。




