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魔物資源活用機構  作者: Ichen
見つめ直す存在
858/2954

858. テルムゾの魔物退治 ~村に潜む影

 

 総長のベッドの横。机の上に資料を広げて見ていたシャンガマックは、扉が叩かれて開いたので、顔を上げる。タンクラッドとミレイオとザッカリアが戻ったので、時計を見た。



「早いですね。さっきかなり近い地震があったけれど、何かありましたか?まだですよね」


「倒したかどうか、なら。もう倒したぞ。俺じゃないけど。地震はミンティンだ」


「倒した・・・2頭ですか?ミンティンで」


「そうだ。だが、あれだけでもなさそうなんだ。それで一旦、ここへ戻った」


 親方たちも空いている場所に座り、シャンガマックは資料を片付けて、彼らに水を出す。『何か別の魔物でも』他の存在があるのかと訊ねると、ミレイオは水をもらって飲み干し、首を振る。


「何も分からないの。とりあえず、一部始終話すわ」


 ミレイオは子供に、休憩して楽器を奏でてと頼み、ザッカリアは笑顔で了解し、部屋に楽器を取りに戻る。戻ってきてすぐ、シャンガマックに総長の近くを譲ってもらい、総長の枕元で音楽を聴かせ始めた。


 伸びやかな音が、午後の暖かな部屋を流れる中。開けた窓から入る風の心地良さに浸ることもなく、ミレイオはこの一時間足らずで起こったことを、褐色の騎士に伝える。


「ってことでさ。ミンティンが、どっちも倒してくれたんだけど」


「根も千切(ちぎ)り、二つの魔物が繋がっていそうな状態は断ったにしても・・・帰る前に、村を見たんですか。色はどうでした?ミンティンが倒した後、地面の変化は」


「ないわね。染み付いちゃったからじゃないの?」


 シャンガマックは親方の意見も聞く。親方は口を開いたと同時に『イーアンに相談』と、簡潔な答えをくれた(※自分の得意範囲じゃないと基本丸投げ)。


「あんまり相談しても。どうなのよ、あっちだって卵孵してるでしょ?気が散ったら困るんじゃないの?」


「しょうがないだろう。分からないまま、放置するわけに行かないんだ。今すぐ対処しないとダメかもしれないんだぞ」


 ミレイオは、タンクラッドがやたらイーアンを当てにするので、迷惑じゃないかと思うが。

 確かに。思いつく範囲が違うことに、自分たちが粘って、無い知恵を絞る時間も勿体ない。タンクラッドに言われて、ため息と一緒に頷いた。


 親方はザッカリアに連絡珠を渡してもらい、ニコニコしながら(※嬉)早速報告。早く早くの嬉しい時間。業務的なイーアンでも、自分だけがやり取りしている優越感が幸せ。


『はい。イーアン』


『おお、イーアン。言われたとおりにやって来たぞ!そっちはどうだ』


『私は卵と一緒ですよ。変わりません。後数日このまんま。はい、では報告して下さい』


『お前は本当に・・・余計な事を一切言わないな。全く。子供は可愛いだろうに(※また言う)』


『可愛いですよ。ビルガメスもデレデレしています。あら、何です。そんな目で見て。だってそうでしょう?』


『ビルガメスも話を聞いているのか。そうか、何だか複雑だな。まぁ良い。とりあえずな、魔物だが』


 親方は、シャンガマックの持ち帰った話と、それを元に出かけた自分たち、呼んだミンティンが凍らせたことと、根を千切ったこと。2頭の魔物は倒したが、ミンティンは村を最後に見た後、空に帰ったことを伝える。イーアンは聞くだけ聞いて、質問。


『皆さん良く動かれました。お疲れ様でした。それに素晴らしいミンティン。後でお礼を言っておきましょう。

 その、ミンティンが地面を掘った穴ですが、もしかしますと、使いようがあるかも知れないです。これはこれで、最後に』


 イーアンは何か考えているようで、親方はそれが知りたくて仕方ない。でも黙って続きを聞く。


『魔物は2頭で、地下茎で繋がっていたと』


『地下茎?根っこだぞ』


『いえ、きっと違いますでしょう。繋がっていましたし、北の魔物は根株を持っていた様子ですから。もっといそうな気もしないでもないですが、とりあえず、大元は倒した気がします。北の魔物がそうだったかも』


『不思議な植物の状態だな。俺はさっぱりだ』


『私もさっぱり。知識とムリに合わせると理解が難しい。大雑把にですよ、魔物は大雑把な作りですもの。こっちも大雑把で。

 いっぱい持っているのが大元で、それが地下茎を伸ばして、南にも似たようなのを出して。そんな感じです、私の理解は』


『そうか。で、村の中は何だろう。村にあんな魔物の話はないぞ』


『それね。私が思うにですよ。村は二つの魔物の中間地点ですから、花じゃなくても何か、似たようなものが出現していると思います。村のどこかに。ただ、それは種子を飛ばしたりではなさそうです。ふーむ』


『どうすれば良いだろうな。村の中のも心配だぞ。いると分かれば、今こそ退治しないと』


 親方は一度に倒しておかないと、また復活されても困ると、イーアンに言う。イーアンもそのとおりだと思うので、自分の知識を片っ端から探る。結果。分からない。


『申し訳ありません。自分で調べ回っていれば、また違うでしょうが。私にもどこを探せば良いやら、分かりません。

 私なら、南北にいた魔物の繋がる線を地図を見て出し、その線上付近を手当たり次第、異変がないか捜します』


『そうか。それなら、俺たちでも出来るな。とにかくそうしてみる。怪しいと思える場所があれば』


『迷わずその勘を試して下さい。決して一人で動きませんように。気をつけて』


 そうしたことで、次は異変を見つけた時の報告。先に倒せれば、完了報告をするだけなので、午後もまだ明るい時間のうちに、次の行動に移る。

 イーアンと通信を切り、親方は言われたことを伝え、シャンガマックが地図を出す。広げた地図は宿で借りたと言い、まずは村の南北にいた魔物の位置を大体、指で示す。


「ここです。こっちと。この距離を見ると・・・次の村も範囲に入りそうですね。気にしておきましょう。

 それで、2頭の魔物を繋ぐと、ここを真っ直ぐ。ちょっと待って下さい」


 シャンガマックは別の紙を一枚取り出し、定規代わりに紙の一辺を当て、地図を覗き込む皆に、直線を見せる。ミレイオがじっと見て、宿屋はここかと、一角を押さえて訊く。


「(シャ)そうですね。ここがこの宿でしょう。そうか・・・この直線の意外と近くですね。でも、村の真ん中からは結構ズレているかな。村自体の真ん中はこっちだけど。魔物と魔物の丁度、中心くらいとなると・・・ん?」


「(タ)お。そこは何だ。建物がないな。住所もないぞ。空き地なのか」


「(シャ)空き地。かなぁ?結構広いですね。村の中を通る道は、この空き地を避けて通っています。何だろう?」


「(ミ)用がないってことでしょ?普段は。道を通す意味がないって言うか。いいわ、見に行きましょう」


 ミレイオとタンクラッドは二人で出かけることにする。ザッカリアが楽器を奏でていると、ドルドレンの表情が少し和らいで見えることから、確認だけだしと、ザッカリアを置いて行く。


「じゃ。行って来るわ。そこ見て、周囲の人に聞き込みしたら戻」


「いや、暫く探すぞ。一々戻ってくるのも時間が勿体無いぞ」


 タンクラッドは『イーアンなら、探すと言った』とミレイオに押して、ミレイオも『まーじゃー』の已む無し調で、渋りながら了解する。『二人で戦う羽目になったら、困るんじゃないの』ぼやくミレイオ。『そうなりゃ戦うだけだ』見もせずに返すタンクラッド。


 言い合いしながら二人は部屋を出て行き、現地へ向かった。そんな二人を見送るシャンガマックとザッカリア。彼らはあれで、結構仲良しと頷いて笑った。



 お空でイーアンも考えていた。イーアンの脳裏に浮かぶのは『レンコンですよ』そんなイメージしかないんだけど、と赤ちゃん両手に呟く。赤ちゃんは、レンコンの言葉にアハハと笑う(※分かってはいない)。


 ビルガメスが聞いていて『レンコンって何だ』と訊いてくるので、前の世界で食べた植物だと教える。


「今回の魔物が。何だかその植物を思い出すのです」


「食べるなと言っただろう」


「魔物じゃなくて、以前の記憶の植物は食べ物だったのです!今回、それに似ているって」


「お前は何でも食べようとするから」


 ビルガメスが煩くて話にならないので、赤ちゃんを適当にまとめて押し付け、あやさせる(※赤ちゃんはビルガメスに登る)。

 おじいちゃんは赤ちゃんによじ登られて、髪を食べるな、角を握るな、そこ(※アレ)を齧るなと忙しく叱る。頑張るビルガメスを確認し(※口出す余裕を消す)イーアンはまた考える。


 レンコン・チックな魔物だとすると。つまりレンコン的な、栄養分をためる場所があるのではないかと思えてくる。『え。そうするとジャガイモ』レンコンよりジャガイモか(※ジャガイモ=塊茎栄養たっぷりのイメージ)。


 どっちみち、村の中に何かあるなら、それが魔物の蓄えみたいな役割をして・・・魔物、栄養要らなさそうなんだけど、何かあるんだろうなと、首を捻るイーアン。

 どんなに考えても、結局はお空のイーアンには、次回の親方報告を待つしか出来なかった。



*****



 出かけた現場に立ち尽くす二人の中年は、目の前の風景をどう捉えて良いのか、各々の脳みそで悩んだ。


「これ。私、イヤよ」


「俺だってイヤだ」


 戦っても良いようにと、親方は剣を背負い、ミレイオも自分の盾を背負って、戦闘モードで来たものの。向こうの道から、二人を見た村の人が大声で『どうしたの!それ、使うの?』と声をかける。


 振り向いたミレイオは『使わないわよ!見てるだけ!』と叫んで返した。村の人は手を上げて、了解のサインを出した。溜め息をつく親方。


「どうするんだ。ここ、掘り起こすのか」


「絶対イヤ」


 二人の目の前には、積み上げられた、幾つもの三角。たい肥場に立つ二人は、呼吸をするのも厳しい。『たい肥って、材料が植物だけじゃないのね。栽培って言うから、私、腐葉土の印象しかなかったんだけど』ミレイオが呟く。親方も頷く。


「この臭い。鶏糞なんかも。家畜の糞も混ぜてるだろうな」


「ここで魔物出ても、私願い下げだわよ。だったら、ドルドレン一人分の、下の世話のが耐えられる気がする(※イヤ度:ドル<たい肥)」


「それをシャンガマックに言うなよ。彼は勇敢にも、それを何の条件もなしに引き受けたんだ」


「どうすんのさ。ここ、調べろって言われたって。気配もないわよ。魔物の気配より、強烈な臭さのが・・・あっ!あっち行け!止まるんじゃないわよっ」


 ぶーんと飛んできたハエに怒るミレイオは、この場を調べることを物凄く嫌がっている。親方も手で虫を払いながら、顔をしかめて悩む。どうしたもんか。


 たい肥場の前で、イケメン職人と刺青パンクは立ち尽くして悩む。

 時々、通りがかりの村の人に『分けて欲しいのか』と訊かれ、ミレイオが本気で嫌がって『要るわけないでしょ』と叫び返す。これを繰り返すこと10回を越えた頃。



 いい加減、村の人が3人くらい近寄ってきて、『さっきから何してるの』と質問された(※当然)。


 魔物退治の件で調べているんだと、親方が教えると、村の人は顔を見合わせる。それから二人に、たい肥場から離れた場所に来るように言う。親方とミレイオは、彼らの表情の変わり方に何かを感じて付いて行った。


 たい肥場から離れ、ようやく深呼吸するミレイオ。『服に臭い付いたか』と、不愉快そうに服を引っ張って臭いを確認する。


 親方はミレイオを放っておき、村人に何かあるのかと尋ねる。たい肥場を後にして、林の影に入ったところで、一人のおじさんが振り向いて頷いた。


「あのね。たい肥が変なんだよ。あそこにも、何かいるのかもしれないって、皆で話すんだけど」


「変とは?どんな」


「たい肥の質が変わった気がする。あれの端の方から使うんだけどね。使って、作物が枯れたんだよ。嫌な虫でも涌いたのかと思って調べても、虫も見えない。

 今、村の外側から中に向かって、色が変わってるだろう?たい肥場(ここ)は、少し場所がずれているからか、土の変化がまだ来ていないんだ。だから、使ったのに」


「使ったら枯れるのか。被害がないはずの場所にある、たい肥でも」


 そう、と彼らは頷く。それにたい肥に群がる虫も減ったと言う。ミレイオは首を振って『あれより、いたの』と嫌そう。おじさんたちはミレイオに頷いて『もっとだよ。暖かくなってきたし、もっと虫が増えるのに』それもない、と親方に話した。


「速度は?たい肥を使ってどれくらいで枯れたんだ」


「あっという間だよ。翌日まで持たなかった。土が危ないと分かって、棚を作ってね。僅かでも残そうとしたんだよ。その棚上げした土に混ぜたたい肥で枯れたんだもの。たまらないよ」


 今、誰も使っていないようで、親方たちが立って見ていたから、使いたいなら、この話をしないといけないと思ったそうだった。


 親方は、他の変化も聞く。音や何かの動きはないかと訊ねたが、『そういうのはないね』と。誰もそうした事は知らないみたいだった。


「魔物退治する人たちって。今日、村長が朝ね。緊急配布で知らせてくれたから。あなた方に必要なことがあれば、出来る範囲で手伝いますから」


 村の人はそう言うと、頑張ってと二人を応援して戻って行った。ミレイオと親方は彼らの話から、やはりここが何かあるんだろうと、それだけは理解した。


「どうする。調べるしかないぞ」


「思うんだけど。もう夕方よ。4時くらいじゃない?暗くなったら、コルステインに調べてもらいましょうよ」


「コルステインに、何させる気だ!」


「怒るんじゃないわよ。コルステインなら、臭いも何も分からないんだから、良いじゃないの。魔物が出てもコルステインにやらせれば、あっさり終わるし。大体、アイツ汚れないのよ?分かってる?」


「汚れなきゃ良い、ってもんじゃないだろう!可哀想だ!俺たちが嫌なことを押し付けるなんて」


「あんた一緒にいれば良いでしょうが。私はイヤだけど」


 ぐぬぅと唸る親方。ミレイオは絶対、やりたくないのは分かるから、仕方ないが。コルステインに、こんな場所で調べさせるなんて・・・分かっていないから良いだろうなんて、とてもじゃないが思えない。


 唸る親方を無視したミレイオは、勝手に決定してお皿ちゃんを出すと『帰るわよ。夜まで待機』そう告げて、さーっと戻ってしまった。



「コルステイン・・・お前に。俺は。いつも、あんなに優しくしてくれるお前に、俺は。頼めない・・・・・ 」


 拳を握って震える親方。でも自分で手を突っ込んで、たい肥の山に潜れと言われても、それは耐えられない。悩む親方は、よろよろしながら、宿への道を歩いて帰った。


 頭の中では、最終的にコルステインに頼むしかないのは分かっていても、納得出来ない自分に苦しんだ。

お読み頂き有難うございます。

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