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魔物資源活用機構  作者: Ichen
見つめ直す存在
848/2958

848. ビルガメスの説く躾

 

 イヌァエル・テレンに戻ったタムズは、ビルガメスのいる卵部屋へ向かい、一緒に子供部屋の建築を見るように伝えた。


 ビルガメスは了解して、イーアンを残して部屋を出ると、タムズと共に子供部屋を作る場所へ移動した。

 タムズは立ち止まるまで何も言わなかったが、表情が硬かったので、ビルガメスは彼が話すのを待った。



「ここに建てるよ。400人ほど入れば良いだろう。低い階を作ってあげれば遊べるし、奥に続ける別の部屋は、高い天井を持たせて、大きくなった子供たちが、自分を練習出来るようにしよう」


「それが良い。全員、男龍の可能性もあるんだ。それも相当な成長速度で、自分の体を変える子供も出てくる。ファドゥの子はもう、そうだ。飛んだり、人の姿で過ごせる場所を横に作っておけ」


 頷くタムズは、両手を上げた。ビルガメスはそれを見守る。

 彼らの目の前で、建物は地面から生えるように増えて形を成し、あっという間に大きな子供部屋の塔が経った。


「魔物が来ても、すぐに()()とはならない。壁も厚ければ温度も関係ない。龍の骨を使った」


「ほう。そうか。集めたのか?」


「そうだね。そこら中から引き寄せて」


 白いもんな、とビルガメスは塔を見上げる。白く柔らかな光を撥ねる塔は、タムズ特製の龍の骨を(ちりば)めた建築物として、見事にイヌァエル・テレンの大地に(そび)える。



「それで。どうだった」


 話を変えるビルガメスに、タムズはちらっと目を向ける。少し怒っていそうな顔をしているタムズに、ビルガメスは鼻で笑う。『全く』思い入れが強いのもどうかな、と呟いた。


「ビルガメスはそう言うけれど。彼が怖がっている顔なんて見たくないんだ。私を愛していて、心を捧げている彼を追い詰めるようなことを」


「怖がらなくなるだろ?上手く行けば。何日かかるか分からんが」


「そんな話ではない。イーアンにはビルガメスが伝えてくれ。私はもう、自分の卵を孵す。

 呼ばれる回数を、()()()()()()きたのも懸念だ。私だけ、卵が少ないなんて不公平だしね」


 言いたいことを全部言うと、タムズはさっと翼を広げて、自分の家に戻って行った。空に消える姿をじっと見送るビルガメス。


「あいつはどうも・・・最近は、あれの父親に似て。嫌味になったなぁ(※タム・パパにも嫌味を言われていた時代を思い出す)」


 やれやれ、とおじいちゃんは髪をかき上げ、イーアンの待つ卵部屋へ戻った。



 卵部屋に入り、イーアンと目が合う。鳶色の瞳はじっと自分を見て、両手に子供を抱えたまま、何かを知ろうとしているように動かない。


「どうした」


 おじいちゃんは、話し出す言葉を考えながら(※うっかりすると激怒されかねないから)目を逸らし、足元をうろうろする子供を、ちょいちょい退けて、女龍の側に座る。


 おじいちゃんに退かされた(※転がされた)子供たちを、さささっと自分に寄せるイーアン。目を合わせてもすぐに逸らすビルガメスに、これは何か隠しているなと勘繰る(※女の勘)。


「何だ。イーアン。子供部屋が出来たぞ。後で見てくると良い」


「それは嬉しいです。是非見に行きます。ビルガメス」


「ん。何だ」


「何か。お話しようとしていませんか」


 自分の目を捉えようとして、顔を覗き込むイーアンに可笑しくてビルガメスは少し笑った。『お前は知りたがりだな』困るなと呟いた。イーアン、聞き逃さない。『何がお困りですの』言え、とばかりに見つめる。


 ビルガメスは困ったと言いながら笑い、覗き込むイーアンの頬に手を添える。『怒るなよ』前置き大事。その一言で、鳶色の瞳に険しい光が浮かぶ。おじいちゃんは咳払い(※怒られるの嫌い)。


「イーアン。ちょっとな。その、怒りそうな顔はよせ」


「怒っていません。怒るなと言われたので、警戒しているだけです」


「お前の良いところだが、そう、何でも口にするとな。こっちも言い難いだろう」


「なぜですか。私が怒ったり警戒したりは、ビルガメスに困りますか」


「こら。急かすもんじゃないぞ。ちょっと待て。今、考えるから」


 イーアンはおじいちゃんに叱られ(※『こら』)黙って待つ。目が据わったイーアンに、じーっと見られるビルガメスも、両腕に子供たちをワサワサ集めて、あやしながら急いで考える(※おじいちゃんも誤魔化す=あやす)。


「ふむ。そうだな。ドルドレンのことだ」


「タンクラッドに続いて、ドルドレンにも何か言い聞かせたのですか」


「少し黙って聞くんだ。そんな目で見るな、こら(※叱る)。大切だからだぞ、忘れるなよ。

 あのな。ドルドレンは今日から躾だ。俺たちと同じような躾け方で」


「何ですって。躾?どうしてドルドレンが躾けられるのです。彼は何も問題ありませんでしょう」


「イーアン。黙って聞けって言っただろう。ほら、この子供持て(※子供を持たせて和らげる作戦)。こいつも、こいつ・・・ほれ、こっち来い。よし、ほら。こいつらちょっと抱えて(※お子たまの扱い雑)。

 ちゃんと聞けよ。怒るなと言っただろう。そんな怖い顔をするな。子供が困っているぞ」


 イーアンは目が据わっているが、『子供が怖がるような顔』と言われると、止むを得ず微笑む(※目が笑ってない)。お子たまは、イーアンによじ登って遊んだり、背中に貼りついたりして楽しむ。

 ビルガメスは、考えても時間が無駄だと思い、ぶっちゃけることにした(※彼の性格上こうなる)。



「ドルドレンはな。弱い。お前を求めて会いに来る。会いに動く、それが悪いとは言わん。だが、その理由を本人が気が付いていない。それは問題だ。

 あいつがお前を慕うのは、不安からだ。お前を信じれば慕わないわけではないが、不安が理由で慕うと、それは本人の備わる力を覆い隠す。分かるか」


「分かる気がします。ドルドレンがそうかどうかは、別としても。仰る意味は理解します」


「うむ。ドルドレンはそうなんだ。お前も贔屓目に見るからな。少し問題だ。次はお前だからな(※不穏な発言)。

 ドルドレンは、自分を信じ切れない。彼はその人生で、幾つも責任を抱えたことがあるだろうが、どの責任も、彼の()()()()にはならなかった。我慢だと感じているうちは、強くはならん。それはただの我慢だ。時期が過ぎれば『耐えた経験』にしか残らん。そして()()の発生は、自分に無いと思い込む」


「ビルガメス。ドルドレンは理解している気がしますが。感情を交えずに、理解している場面は幾つも」


「その()()の行動は、我慢から生まれている。立ち止まり、我慢し、理解をすることで、自分はするべきことをしたと納得が出来る。

 理解は知識と経験に変わるが、それと我慢の発端は別だ。人間が十年も続ければ、自然に出来るようになるだろう」


 イーアンは頷いて聞き続ける。ビルガメスは、イーアンの目を見て、分かっていそうなので頷いた。


「自分を被害者にしているうちは、誰かを求めるものだ。自分を攻撃する相手の存在、自分を守る存在、自分を理解する存在・・・誰でもない、自分自身がそれを求めていることさえ、気がつかん。

 イーアン。お前に会いたくて、彼はイヌァエル・テレンへ来た。人間の愛情表現からすれば、それは喜ばしいことなんだろう。見ていてそうだったから。だがな、中身はそうでもないぞ」


 いった~い言葉を、おじいちゃんは手榴弾のように投げる。イーアン、こういう時は、黙って話を聞くに徹する。


「仲が良いのは結構だ。お互いに、愛していると言い合うのも、好きにしろ。

 しかし、それが何かの一瞬で揺らぐなら、本物かどうかを見定める機会と捉えることは、決して愚かじゃない。

 揺らぎを一時的と、妄信的に思い込む愚かさに比べれば、小さいとはいえ、よほど賢い気付きだ。留まる怠惰か、成長への一歩か。そのくらいの差はある。


 お前たちは、お互いの言葉を使っても越えず。お互いの信頼を認めても離れ。心を共にすると感じていても通じ合わなかった。

 だから、イーアンは一人でここへ来たし、ドルドレンは『お前を信じられない』と他人(※親方)に打ち明かした。


 お前に訊ねるのは、さすがに俺も気が引ける。だが俺は、その状態のお前たちを見て『愛し合っている』とは思い難いな。会いに来たから問題が終わったと思い込むのも、随分と目隠しを好む行為に見える」


 ごくっと唾を飲むイーアン。嫌な感じの汗が流れる。おじいちゃんは鋭い・・・容赦しない。


「タムズも思った。俺も思った。恐らく男龍の誰もが、思う。このままでは、またお前たちは繰り返すだろう。

 自分を守る、余計な理由が多過ぎるんだ、人間は。事情だか、都合だか、気分だか知らんが。

 良い悪いを見つけることに四苦八苦しているのに、気分で動かす『自己流の良し悪し』に自分も振り回されている。


 ドルドレンの場合は、自分を信じていないから、それが起こる。

 あいつの我慢が利かなくなった時。理由はさておき・・・ん?理由を置く意味? そんなもの、あいつだけの都合だよ。本来、理由にもならん(※おじいちゃんは見抜く)。


 我慢が利かなくなると、それまで()()()()()()()の誰か(※嫌味)さえ、追い払う。『相手を信じられない』と他人に伝え、しかし、慕う気持ちが両立しているから、苦し過ぎると不安に負けて、また()()()()()()()()()に入る。結果、前進した気がして再び甘える。それが昨日と今朝だ。


 分かるか? 信じられないのではない。信じないのだ。この意味は大きく違うぞ。

 普段は『作り上げた我慢の経験値』を自分の姿にしているが、本当に強くなるために越える目標がない。目的もない。つまり成長をしない」


「ドルドレンを、そこまで言える方がいるとは」


「お前のその言い方。嫌味じゃないな?認めたな?」


「人のことは言えません、私です。私は彼と比べて」


「それも間違いだ。なぜお前を比べる。愛し合っていたら、お互いを守るはずだ。

 相手の未熟を正す時、自分のことを棚に上げるとでも思うのか。そのやり取りの意味は何だ。

 ()()意味が浅過ぎるぞ。愛すると言葉にして伝えたいなら、浅い未熟をなくしてからにしろ。そうではないから、お前たちの『うろ覚えの愛』が、他人にまで響いてややこしくするんだ」


 イーアンが黙って、ビルガメスを見つめる。その目は悲しそうだった。ビルガメスは小さな溜め息をついて『大事にする意味を考えろ』と伝える。



「ドルドレンは人間だ。人間は(俺たち)から見れば、関わる必要など一切ない相手でもある。だが、そうもいかん。彼は女龍の相手に選ばれ、俺たちの祝福も受けている。しっかり学ばせる必要があるんだ。

 あいつが自分を信じるために。本当に強くなるために。あいつから気力を奪った。覚えているか、ルガルバンダがお前を動けなくさせた時を」


 ビルガメスの言葉に、イーアンの眉が寄る。男龍は頷く。


「タムズに命じて、さっきそうした。お前は龍気があるから、あの時でもすぐにルガルバンダから回復したが、ドルドレンは人間で気力も儚い。暫く動けないだろう。自分で、自分の気力を立ち上げるまで」


「出来るのでしょうか。(から)になってしまった気力を作るなんて」


「出来るだろうと思ったから、俺は命じた。タムズは嫌がったが、俺がやろうかと言えば『自分がする』と引き受けた。俺は手加減しないからだろう」


 イーアンは、ビルガメスがこの話の初めに話していたことを思い出す。『俺たちの躾』と言っていた。


「龍であれば。その方法で躾けるのですか?龍気で戻るから」


「そうだな。繰り返して、自分の魂の力を自覚させる。自分しか作れない漲る気力は、存在を高める」


「その。ドルドレンは、気力がないと。食事も出来ず。もしかすると呼吸も」


「それを、タムズが引き受けたんだ。俺なら気にしないだろう。死にかけたら生き延びようとするもんだ、と。俺はそう考えている。それが手っ取り早い。

 だがタムズはそれを望まない。だから、そこまでしていないだろうな。全ての気力を奪うと言ったが、死ぬ寸前までは奪わない。まぁ。怒っていたがな。『こんなことをさせて』と」



 怯えるイーアン。ビルガメスはやりそう・・・本当にやりかねない。『龍の愛だぞ』ちょいちょい・・・で、人が消えるのだ。

 だからきっと、実際に、命を奪うギリギリまで取って『死にたくないなら頑張れ』とか、ケロッとした顔で言う気がする(※親方はセーフだった)。ドルドレンを何だと思ってんだ~


 タムズが代わりに動いてくれて、本当に感謝しかない・・・・・


 勇者だ何だと、男龍はあまり気にしていないから、彼の扱いが予想外の動きばかり。イヌァエル・テレン解放の時だって『ドルドレン入れてみるか~』って笑って話していた。あれ、止めなかったら、ドルドレンは今頃、お空の星。



 ビルガメスは、困惑している女龍の眼差しを、見つめ返すこと30秒。


「ということでな。躾だな。自分で立ち上がれば、その時には自信を持つ予定だ(※予定の範囲)。

 自分を信じられるようになれば、お前を信じもする。口先じゃなく、な。何かの拍子に、安易にひっくり返ることも、なく。本人のためになるのは勿論だ。

 お前を慕うのも、弱さではなく、お前を守ろうとする気持ちに変わるだろう」


 ビルガメスの言葉に、イーアンは頷いて呟く。『慕うのが、弱さではなく。守ろうとするから』今まで。そうじゃなかったのだろうか、と少し寂しく感じた。


 会った最初から、彼には守られていたと思っていたし、それを疑うこともなかったが――


 イーアンの胸中を察するおじいちゃんは、女龍の顔に触れて自分を見させると、教えた。


「最初の出会いから、記憶を並べて考えているのかも知れないが。最初のあいつの態度より、お前と馴染んでからの態度の方が、重視する部分だろう」


「ドルドレンはいつでも。私を守りました。堂々と守り、いつでも助けてくれたのです」


 ビルガメスは寂しそうなイーアンの声に、咳払い。『責任と我慢。お前を好きになった()。それらも同じような行動を(もたら)す。自覚のあるなし、態度の呼び名に別も関係なく』そう言うと、男龍は子供を両腕に集めた。



「お前たちは未熟だ、と。俺はこの前言っただろう。この子供たちと同じだ。

 俺たちの子供は、自力で男龍になるか、そうではないかを目指して努力する。一度形が決まれば、そこからは能力を伸ばすだけだが、子供のうちはどれが反応するか分からないから、手当たり次第頑張る。それは成長する先を望んでいるからだ。

 お前も。ドルドレンも。タンクラッドも。主軸の3人だ。この世界を守るために呼ばれた。成長するからには、目を瞑るな。手当たり次第、努力して、成長する先を常に望め」


 イーアンは大きな男龍に、頭を垂れた。そして伴侶の無事と、立ち上がるその時を心から祈った。


「今夜から、あいつはイヌァエル・テレンに来ない。だがそれを悲しむのではなく、励ませ」


 ビルガメスはイーアンと子供たちを、ゆっくり両腕に抱え込んだ。

お読みいただき有難うございます。


本日は、朝と夕方の投稿です。お昼の投稿がありません。

5月中に、一日2回投稿に変わりますため、事情を活動報告に書こうと思いますが、まとまりが悪く時間がかかっています。

いつもお立ち寄り頂けますことに心から感謝して。



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