838. 男龍の卵出産計画
目を覚ましたイーアンは、午前もお昼近いと知って少し困った。
ちょっと眠ろうと思ったら、がっちり眠ってしまった・・・これじゃもう帰らないといけない時間ですよ、と悩む(※何も解決してないのに)。
横に眠っていたビルガメスも、イーアンの目が開いたことに気が付いて、目を開ける。
ビルガメスの大きな手はイーアンのお腹に乗っていたので、その手が『ぽん』と動き、イーアンはビルガメスを見た。
「眠れたか。寒くないか」
「お腹が温かいです」
ハハハと笑ったイーアン。ビルガメスの手は大きいので、お腹の上にちょっと乗っているだけで腹巻状態。重いけれど、温かい。ビルガメスも少し笑い『そうか』と短く答え『もう起きるか』続けて訊ねた。
イーアンは頷いて、体を起こす。それで少し考えているように、外の風景を見た。ビルガメスは横になったまま、イーアンの顔に手を伸ばし『まだ帰るな』と、タムズに伝えさせたことを言う。
「でも。私が帰らないと、人数が心配です。魔物と戦う時に。何だかテイワグナに入ってから、魔物の数が多いのです」
「それは大丈夫だ。タムズがいる。タムズが呼ばれ次第、向かうことになった。気にするな」
「ドルドレンはタムズを呼びませんよ。彼はそう言われても、すぐにタムズの力を借りようとは思わないでしょう」
「それはドルドレンの都合だろう。どうにも出来なければ呼ぶもんだ。放っておけ(※おじいちゃんは気にしない)」
ビルガメスの言葉に半目になるイーアン。『そうも行かないから、戻らないと。そう私は』言いかけて、ビルガメスが角を摘まんだ。
「良いからゆっくりしろ。数日ここにいれば良い。ドルドレンには伝えてあるんだから。ほら、卵もあるだろう?お前がいるなら、俺はこの際、卵まとめて生んでおくぞ(※まとめ生み可)」
「え。まとめて。卵ちゃんって、一つずつではないのですか。まとめて生めるの」
おじいちゃんの『まとめ生み』発言にビックリするイーアン。そりゃまとめて生まれていれば、自分の滞在日数で、一度にたくさん孵化する可能性も高いだろうけれど。おじいちゃんの卵で、人口増加も可能か、とあれこれ考えて、眉を寄せる。
イーアンの顔に笑うビルガメスは、イーアンの座った足に手を置いて『何て顔してるんだ』と言う。
「お前が何日かいるって分かれば、一日で卵を5~6個生めるんだから、3日もあれば20個近くは揃う(※品物扱い)。この前、俺の子供が孵ったのは、イーアンが子守してほんの数時間だ。お前が一週間いてみろ。子供だらけになるぞ」
おじいちゃんが笑顔でやる気満々(?)なので、イーアンもぎこちなく頷くが。
それってもし・・・私が一週間、本当にここにいたら、おじいちゃんの卵だけで、小さい会社の人数くらい揃うって話では、と想像する(※従業員50人くらい想定)。
この前、『子供が今増えても、魔物アタックの時、守る男龍がいないから心配だ~』とか。話していた気がするんだけれど。それは良いのか、と疑問も浮かぶ(※臨機応変多発龍族)。
そこはとても心配なので、イーアンは一応、話の流れから『魔物の攻撃時に、子供が多いと心配だ』と伝える。ビルガメスは笑顔を引っ込めて、真剣な顔で頷いた。
「そうだ。それは心配だ(※心配なんじゃないの)。だが、どうにかなるだろう(?)」
「どう。どう。どうにかって。どうするのです。赤ちゃんだらけで、魔物が万が一、近くに来たら」
「それはお前がどうにかしろ。お前。助けに来るんだろ(※人任せ)」
ええ~~~っっ!!! ビックリするイーアン。私ぃ~~~??? 卵ちゃん孵したら、責任取って守ってやれ、みたいな感じなのか(※丸投げっ)!
おじいちゃんが真顔で『お前が助けるって言うから』と。本当に人任せな提案を通す気でいるので、イーアンはこういう時、ビルガメスが信用出来ないと思う(※度々あるけど)。
そしてそれは顔に出たらしく、ビルガメスは不満そうな表情になる。
「何だ。その目は。俺が無責任みたいな目で見るのはよせ(←分かってる)」
「だって。だって、ビルガメスが戦ったら命の危険があるから、私はここへ来ると約束しましたけれど。赤ちゃんたちも山ほどいる状況とは、思っていませんでしたよ」
「その辺は、日が経てば事情も変わるもんだろう(※個人の野望=龍王は伏せる)。お前が戦わないと、俺は死ぬ(※軽い)」
げ~~~・・・・・ イーアンは、目を瞑って悩む。うーんうーん悩んで、このワガママなおじいちゃんの提案に、自分がどこまで付き合えるのか、凄く考える。
死なれちゃ困るし、でもビルガメスも守りながら、赤ちゃんsも守るのかと思うと、誰か手伝って~!の弱音が全面的に出てくる(※普通はそうなる)。
悩むイーアンに、おじいちゃんは咳払いし、『大丈夫だ。他にもいるんだ。タムズとかな、ファドゥなんかも、そこそこ強いだろうから。シムやニヌルタは、ちょっとあれだけど』励ましてるのか慰めているのか。分からないことを言うおじいちゃん。
「シムとニヌルタは・・・何かあるのですか」
「ん?あいつらは力が大きいからな。特にニヌルタが危険なんだ。あいつが動くと、下手するとイヌァエル・テレンが吹っ飛びそうになる」
「吹っ飛ぶって?爆破ですか」
「そんなところだな(※軽い)。前も大変だったんだ、ニヌルタは力の加減がテキトーだから。強いんだがな、扱い方が分かってないと言うかな。あいつも気分で動くだろう?せめて方向を考えてくれたら」
ニヌルタ・・・・・ イーアンは怯える。彼は方向も考えずに、星を作るエネルギーを使うのか。自爆って言うんじゃないの、それ・・・恐ろしい想像が脳を埋め尽くす。
「シムもちょっとな。ニヌルタの力を受け取っている分、同じようなことをする。あんなの二人分で、テキトーにやられたら、大変どころじゃないからな。よそでやれば、まだしも(※よそもダメ)」
こんなおじいちゃんのお話で、ニヌルタとシムはとても危なっかしいことが判明し、ルガルバンダは、力の種類が攻撃用ではないので、龍の特性で攻撃するのが殆どらしい。『でも強いには強いぞ』ルガルバンダの気質が物を言う部分で、攻撃に長けた性質とおじいちゃんは言う。
「タムズとファドゥは分からんな。生まれてないから」
どうなるやら、と。そっぽ向いて他人事のおじいちゃん。聞いているイーアンは、とっても心配だった。
この話だと。思うに、おじいちゃんは最強なんだろうけれど、参戦は基本的に却下状態(※死ぬから)。控え選手にも入れられない恐れがある。
そしてタムズとファドゥは、前回の魔物アタック以降に生まれているので、未知。ファドゥは特に未知。
ルガルバンダは、戦闘向きの性格(※そんな気はする)だが、能力が攻撃用ではない。
最も懸念なのは、ニヌルタと、彼の力をコピーしたシム。この二人の性格も、能力も危険極まりない(※味方も滅ぼす恐れ有)。
この人たち(※男龍)を率いて、私は赤ちゃんsも守りながら、お空の皆さんも守るのか。
想像すると、おぶい紐で赤ちゃんを背中に貼り付けて、戦うお母さん・・・・・
無理あるだろ~~~それ~~~~ お母さんにやらせることじゃないよ~~~ (※お父さんたちがアテにならないとこうなる)
イーアンはこの想像だけでも、卵ちゃんをまとめて孵すことに反対意見しか出なかった。
だが。イーアンの反対意見はあっさりと押しやられる。
イヤイヤしているところに、ファドゥがやって来て『いると知っていたけれど。もう会いに来ても良いかと思って』優しい微笑を湛えて顔を見せた。
「ファドゥ。イーアンは数日はいるぞ。焦らないでも大丈夫だ。卵を孵すから(※勝手に決定)」
驚くイーアンが首を振りかけると、銀色のファドゥは嬉しそうにイーアンを見つめ『それなら、私も卵を集中して生むよ』と満面の笑みを向ける。そんなムチャなと言う間もなく、タムズもいらっしゃって『どう。目が覚めたかね。話を聞かせて』笑顔で側へ来る。
「タムズ。イーアンが卵を孵す話をしていてな(※方向が違う)。イヌァエル・テレンの危機も子供を守るから、今孵しても良いだろうとな(※おじいちゃん独断)」
ええ~~~! ビビるイーアンが声をあげると、ビルガメスはアハハハと笑う。
二人を見ながら、タムズが少し笑った顔で『そうなのか?それは頼もしいね。じゃ、私も卵を生んでおこう』卵数増加の発言が容赦なく出た。
「(ファ)数日って。どれくらいなのかな」
「(ビ)うん?一週間だ(※勝手)」
「(イ)一週間(※裏声)?!そんなこと」
「(タ)それだけあれば、子供が増える。シムたちにも言わないと(※卵増量)」
イーアンが絶句していると、ファドゥは顔を覗き込んで、ニッコリ笑う。『子供たちを守るのは、私と二人で守ろう。大丈夫だよ』優しいスマイルをくれるのだが、今の発言どおりとなれば。
一週間中で5日間。皆さんが頑張って、卵ちゃんを生むとして、6日目の朝に揃う最高数の卵ちゃんは、ざっと180個近いような気がする・・・・・それが翌日に目出度く全員孵ると、今日から一週間後には赤ちゃんが180人!!!
180人って。どこに入れる気なんだ!と、それも気になる。この前、確か双子もいたのだ。双子率は知らないが、もし双子だったら200人はイケる可能性も出てくる。
私は。私は―― イーアンはもう、何て言って良いのか分からない。
この前孵った卵ちゃんや、その前に孵った卵ちゃんたちも合わせたら、凄い人数のような気がする赤ちゃんs。
旅も始まったばかり(※テイワグナ入国後、まだ半月も経っていない)で、私はどうすりゃ良いんだ。イーアンは放心状態になる。
だって。話も唐突に変わっているのだ。確か、この前来て話した時は『午前だけで良い』と言っていた気がする。で、午後は帰っても良いよ・・・と。私の留守中は男龍が、私の代わりに中間の地で戦ってくれる話でまとまった。
それも、『旅が心配だろうから』って言って・・・いましたよねーーーっっ!!!違うじゃないですかーーっっ!!!話が全然変わっちゃってるよーーーーーっっ
そんな女龍の白目をむいた状態を無視し、男龍の3人は楽しそうに今後の計画を話し合う。子供部屋を増やそうとか(※建設=タムズ)龍の子に手伝わせて子守を増やそうとか、好き放題に話が弾む昼。
イーアンが放心状態でぶつぶつ言っている間に、呼ばれたルガルバンダやシムやニヌルタも来て、ビルガメスの家で6人の男龍が『じゃあ、今日から卵だな(※早速、出産)』と喜んでいた。
「(ビ)よし。それじゃな。タムズ、ドルドレンに一応伝えておけ。これから一週間は帰らないとな。イーアンが途中で帰っては、卵も無駄になる。それはダメだから(※都合=善は急げ)」
「(タ)何度も言いに行くのは嫌だが」
ドルドレンに。悲しいことを伝える用事は行きたくなさそうなタムズ。ファドゥはちょっと思い出し、イーアンを見て『イーアン。珠がないだろうか。ドルドレンともやり取りする珠』以前、自分ももらった連絡珠の存在を訊ねた。
ボケーっとしているイーアンは、ビルガメスに『おい、イーアン』と肩を揺さぶられ、我に戻る。何?急いで訊くと、ファドゥは『連絡珠で知らせても良いのでは』と言う。
かくして。
イーアンは地上に戻ることなく、男龍6人の見守る中、連絡珠でドルドレンを呼び出し、出てきたのがザッカリア(※取り上げた人)だったので、言い難い『一週間は空』の報告。ザッカリアは寂しそうだったが『総長に伝えておく』と了解した。
それから、タムズが代わって『ザッカリア。イーアンがいない間に苦戦したら、私をすぐに呼びなさい』と教えた。名前を何度も呼べば行くよと言うと、子供は安心したように喜んだ。
通信を終えたタムズは、イーアンに珠を返すと微笑む。
「私はいつ、中間の地に呼ばれるか分からないからね。今から急いで卵を生むことにしよう」
そう言って、彼は翼を広げると友達に挨拶し、あっという間に飛んで帰った。タムズに続いて、他の男龍も喜びの笑顔を見交わし『張り切るか』と呟くと、皆それぞれの家に戻って行った。
見送ったイーアンとビルガメス。ビルガメスは、ちらっとイーアンを見て、自分を不満そうに見上げた女龍の頭に、笑ってキスをし『良かったな』と無責任な労いをかけた。
お読み頂き有難うございます。




