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魔物資源活用機構  作者: Ichen
テイワグナの民間信仰
828/2956

828. 旅の十三日目 ~ミレイオの石碑調査の午前

 

 この日。朝一で、フィギへ向かったミレイオ。


 シャンガマックに持たされた資料と一緒に、山奥の町へ出た。

『地下からならね。物もないし、私一人だし』動きは楽よね・・・ぶつぶつ言いながら、ミレイオはフィギに入る。



 でも。ここ最近、この『楽』な地下を日々、行ったり来たりする上に、魔物退治も地下の力を使っているため、体がサブパメントゥ寄りに変わってきているのを感じる。これは、どうにかしたいところ。


 嫌だなぁと思いつつも、ミレイオは涼しい木陰を歩く。物影の方が気が楽、なんて思いたくもないのに。いつも光が好きな自分が、疲れていると、光を少し避けるのが寂しい。


 フィギの町を歩きながら、早い時間に出ている看板と食堂を見て、ちょっと立ち寄る。お店の人は一瞬驚いたように刺青男を見たが、すぐに『この前の人?』と訊ねてくれた。


「この前。魔物を退治してくれた人たちでしょう?あの時は有難うございます」


 ミレイオは微笑んで首を振り、良いのよと返事をすると『早い時間だけど外で食べるもの何か買える?』と訊いて、焼き生地に挟んだ、野菜とチーズの一巻きを受け取った。飲み物も付けてくれて(※テイクアウトってこと)ミレイオはお礼を言って、店を出た。


 どこへ行くのかと訊かれて、壊された家へと答えた時、『持ち主がもう建て直す気がないから』との情報をもらい、調査なら誰も気にしないことを教えてもらったので、ミレイオは安心して町の外れへ向かう。


 もぐもぐ食べながら、朝の町を歩き、木漏れ日を見て嬉しくなる。やっぱり、地下の力は使いたくないな、と思う。


 美味しいもの食べて。明るい場所を歩いて。たったそれだけのことでも、ミレイオには大切。


 地下の力を使い続けると、食べ物さえ要らなくなる。食べれるけど、食べなくても体が持つ。地下にいれば尚更。

 でもそんなの、嫌だった。食べないと死んじゃうのが当たり前・・・の、そんな自分でいたかった。


「イーアンは龍。空はいつも明るい。私も()()()生まれが良かったな」


 まぁ、あの子。生まれは別の世界だけどさ・・・イーアンのことを羨みながら、もぐもぐ食べて、ちゅーっと飲んで、刺青パンクは町の人とすれ違うと『おはよ』と微笑を向け、町の外れに辿り着く。



「ここ。そうよねぇ、こんだけぶっ壊れてたら、もう金かけて、建て直す気になんないかもね」


 目の前にある廃墟は、この数日で降った雨に濡れて、壊れて散らばる木材が黒っぽく、最初に見た時よりずっと荒んで見えた。


「さて。シャンガマックが見たいのは・・・この真ん中か。って、これ。土、(えぐ)るしかないんだけど、そこまでしちゃうと、さすがに何か言われないかしら」


 川原から立っている、とシャンガマックは話していたので、そうすると石柱は、結構な高さがあることになる。『10mで済まないんじゃないの?立てた当時の、川原の位置にも寄るだろうけど』ミレイオは下を覗き込み、崩れた地面と石柱の見える先端を比べる。


 廃墟の木材を跨いで中へ進み、この前と同じままに、少し出ている石柱の先を見つめるが、『温度も同じか。だよね』と諦める。土の中に、石柱以外の石がないわけでもないので、温度でこれ単体の大きさを調べるのは、当てにならないと思った。


 仕方なし。一度、町の人に確認を取ってから行うことにしようと振り返ると。ミレイオを後ろで見ていた、数人の人が眉を寄せていた。


「あら。ごめん。あんたたちの家?見ても良いって、他の人に聞いたもんだから」


「いいえ。私たちの家じゃないんですが。あの、何か」


「ああ~・・・えっとね。調査よ。あの石柱あるでしょ?あれをもっと見たいの。でも埋まっちゃってるから、掘り起こして良いか、誰かに聞こうと思ってたところ」


 ミレイオの答えが意外だったのか、4人いる町の人が顔を見合わせて『ここを買い取るんじゃなくて』と訊ねる。その質問の方が驚くミレイオ。


「私が買うように見える?買わないわよ。この前、旅で立ち寄ったから覚えていて来ただけ。調べたら帰るし、そんな」


「あ。そうだったんだ。なら、はい。良いんです」


「はい?何?買われると思ったの?」


「ええ。でもそれなら注意しようと思って。やめといた方が良いですよって」


 どういう意味よと、話が見えないミレイオは少し笑って首を振る。『買ってほしくないんじゃなくって。買わないほうが良いって言いたいの』そう確認すると、彼らは頷いた。



 それから、彼らは話し始める。この家のある場所は、()()で崩れることを。

 数十年前まで、ここは町の一部ではなかったけれど、職人見習いが増えた一時期に、土を盛って固めたそうだ。


「数十年って、いつ?」


「ちょっと大袈裟に言いました。20年以上前です。そんな前でもないか」


 えへっと笑ったおじさんに、ミレイオも笑って『良いわよ。続けて』と促す。

 その際、町の両脇の木々を切り倒し、土を盛って町の域を増やしたそうだが『それがいけなかったのか』もう一人の男性が嫌そうな顔をした。『最初に建てた家が雨で流れました』もう一人がミレイオに教える。


「雨?土砂崩れってことか」


「そうじゃないかと、皆で話し合いました。偶々(たまたま)、その時に住んでいた人が、町を離れて買出しに出ていた夜だったんです。だから死亡はなかったけれど。でも」


 その後も、何度か家を同じ場所に建てたらしいが、それらは必ず、壊れる運命を辿ったという。『何かで、です。理由はその時で違うんですが』そう言う男性は、反対側の町の入り口を指差して『あっちもです』と教える。


「あっち。何があったの?」


「倒壊です。川が氾濫して」


 それは違うんじゃないの、とミレイオは思う。何だか迷信じみてきた話だが、祟られてるとか、そうとまで言い切れない事故のような。

 そんなミレイオの顔を見て、おじさんは『本当なんです。信じられないかも知れないけど』彼は何かを恐れるように声を小さくした。


「とにかく。まぁ。分かったわ。それで、買うなら止めた方がと言いに来たのね」


 そうですと頷く4人に、ミレイオはお礼を言う。それから、後ろの廃墟を見て『これ。じゃ、どうするの』と訊ねてみると、近いうちに更地にすると思うことを言われる。

 なら、今ここを崩して川原に土を落として良いか、と続けて訊いてみると、凄く驚かれたものの『まぁ。誰にも迷惑が掛らないなら』どうせそうすると言う。


 持ち主の許可はどうかを訊ねると『もう手続きされて、ここは町のもの』の返事。ミレイオは了解し、自分は石柱を見たいから、土を落とすともう一度伝える。彼らは了解した。


(ついで)だから、もう一つ訊きたいんだけど。あの石柱って。前は出てたんでしょ?これ、一本だけなの」


「いや、違います。反対側の。その、言いたくないですけれど。さっき話した氾濫の被害にあった家がある辺りにも、もう一本ありました。でもそれは倒れて、土手に添えて横倒しにしたままです」


「土手?この前来た時、何もなかった気がするけど」


 あるんですよ、と川原を指差すおじさん。土手の草刈りをした時に、倒れた石柱の上くらいに落とすから、枯れ草で見えないと思うことを教えてもらう。

 遺跡物なのにエライ扱い悪いな、と苦笑いのミレイオ。それも調べたいと言うと、おじさんたちは了承してくれた。

『学者さん?ってふうに、見えないですが』男性の一人が訊くので、ミレイオは『私の友達が学者みたいなの』と答えておいた。



 それから彼らに案内してもらい、先に土手の石柱のある場所を確認した。案内に感謝してそこで別れ、ミレイオは枯れ草を取り払い、石柱を確認した。『倒れてるから。地面に付いた絵は確認出来ないわね』見えるところだけでもと、枯れ草を取り除きながら、少しずつ現れる石柱の全貌を知る。


「これ。へぇ・・・こりゃ意外。ホントね。シャンガマックは良い目をしてる」


 私は()()()が面白いかもと言いつつ、ミレイオは取り出した紙に炭棒で、全体をさらさら描いてゆく。

 写しながら、一つのことに気が付くミレイオ。『これ。表裏が同じかな』三面のうち、対になる面の絵が同じ。文字も同じ。であれば、地面に付いた面と、上を向いている面も同じかもしれない。


 思ったことは一応書きつけ、石柱を描いた40分後。最初の崩壊した家の跡へ向かう。ここからだとお皿ちゃん。川面を移動して、町の反対側へ行く。



 廃墟の周囲に人はいない。向こうに見える人影は、こっちを見ていないことを確認し、『急ごう』力を使うところを見られたくないミレイオは、崩壊した家の川に向いた斜面に手を当てて、消滅を繰り返す。

 消滅させると土が消えるので、不自然に思われないよう、消す場所を互い違いにして、土を落としながら石柱の本体まで土を(えぐ)った。


 川原に落ちた土を振り返り『ちょっと少ないか』でも良いわ、と独り言を呟き、ミレイオは丸出しになった石柱を見て、最後に石柱に触れて、貼りついている濡れた土を消した。


「おお。これは確かに。このことね。真ん中に意味がありそうなの、分かる気がする」


 ミレイオはお皿ちゃんに乗って浮上し、少しずつ石柱の絵を描き、刻まれた文字を書き写す。龍がいる・・・古代の龍だろうか。でもその龍の話が新しい箇所を示す部分に刻まれているので、この石碑の内容が、イーアンの話す始祖の龍の時代ではなさそうに思う。


「こういうの・・・ヨライデにもあったな。今だからこそ、分かることもあるけど」


 呟くミレイオは、丁寧に文字を書き、見える殆どの絵を写した。それから川原に下りて、横倒しになっていた石柱の絵と見比べる。


「ははぁ。これか。あっちの柱は入り口向きってことね。こっちは出口の説明か。シャンガマックがいたら喜んだだろうな」


 フフンと笑って、ミレイオはじっくり石柱を見つめ、書き残しがないことを確認して、フィギを離れることにした。民話にあった『隠された印』のことも気掛かりはあったが、川が増水していて探すのに時間がかかりそうなので、これは諦めた。


「さーて、次よ。ここでのんびり出来ないもの」


 ミレイオはお皿ちゃんに乗って、次なる場所『アゾ・クィ村』へ向かった。



 暫く飛ぶと、見えてきたアゾ・クィ。この前、自分はここに夕方しかいなかったが、村の中は覚えている。まずは門をくぐるので、門番に挨拶して通してもらう。門番は派手な刺青男を覚えていて、『また来ましたね』と笑った。


「ちょっと調べ物で戻ったのよ」


 井戸見せてと頼むと、門番の一人が同行してくれた。『井戸調べるんですか』横を歩く門番の質問。ミレイオは『何かさ。板で名前が掛ってんでしょ?』と答える。


「ありますね。誰も読めないんですけど」


「読めないの?誰か読めそうなもんじゃない」


 似てる字はあるけど配列も違うし、との返答。ミレイオは、そんなもんかしらと思いつつ、見えてきた大きな井戸を見つめる。


 ここですと示された、井戸の屋根の内側。『あれですよ。板って』門番はそう言うと、水汲みに来ている女たちに『この人が少し調べるから』と先に断りを入れてくれた。


 お礼を言い、ミレイオは遠慮なくお皿ちゃんに乗ると、ふわーっと浮いて、そこにいる女性を驚かせた。『気にしないで。これ浮くの』見りゃ分かる状態を普通に紹介し、そのまま板に近付いて眉を寄せた。


「何よ。これ・・・・・ 」


 シャンガマックの写しを見た時、何か描き間違えたのかなと思ったが。自分の目で確認して、ミレイオはごくっと唾を飲んだ。『本当?』小さな声が漏れる。暫く考えて、写しは訂正する必要がないので、次の場所、立て碑へ向かった。


 門番に帰りがけお礼を言い、壁の外でお皿ちゃんに乗り、村を後にする。確かに壁の様子が印象的な村。あの時も思ったが『一度壊滅』したことがあったとは、と思う。


「分からないままの壊滅の理由と、この井戸の板の言葉が・・・すっごいイヤなんだけど」



 やだなぁ~と眉を寄せたまま、ミレイオはすぐに見えてきた丘の陰にある立て碑へ速度を上げた。


 間近に来て、ここでイーアンが攫われたのかと思うと、くさくさした気分になる。『攫ったのが、私の親って』何てことしてくれんのよ!怒るミレイオ。


 ぶりぶり怒りながら、お皿ちゃんに乗ったまま石碑をぐるっと回り、先ほどの石柱と比べる。


「シャンガマックが織手に聞いた、真ん中の絵だけが少し違うって。そうかもね。周りも違う箇所が増えてるけど。細かい説明かな、これは。違う部分・・・あー。やっぱそうか」


 大きな溜め息をついて、ミレイオは首をゴキゴキ鳴らす。『これ、言えないわよ』どうしよ~・・・悩むミレイオは、見当の付いた内容に困らされながら、とりあえず先に石碑を写すことにした。


 シャンガマックは正確に書き取るようで、殆ど間違いがない。慣れているのか、重複する箇所も飛ばし方が分かりやすい。それを見ながら、ミレイオが気になった箇所を描き込む。



 するべきことを終えたミレイオは、大きな石碑の必要な部分をじっくり見て、資料に漏れがないことを確認する。


 そして時間を考え、ブガドゥムの方向を見定めると、用事はここまでとして帰ることにした。気付けば、太陽は空の高い場所へ動いていて、ブガドゥムに戻る頃には昼前だろうと思われた。


 お皿ちゃんをかっ飛ばしながら、ミレイオは憂鬱な顔で移動していた。


 あの石柱。あの石版。あの石碑。ほんの少しの距離で、同じ時代の産物が集まっている・・・シサイが話していた7頭の龍の話よりも、遥かな昔へ導く遺跡。


「共通しているのは『別の場所』ってことね。伝説の話と、それに関係した各地の。別の場所へ行く話が刻まれている」


 それから、と溜め息をついた。『アゾ・クィは気の毒に』落とす言葉は風の中へ消える。一度壊滅した理由は、魔物が相手ではなかった。魔物じゃないけど、誰かの目には区別でも付いたのか。


「地下の住人が襲ったのね」


 何でだろう。サブパメントゥの御伽噺にあった話と重なる。石碑や、井戸の石版の絵や文字自体は、うんと昔だけど。



「一度どころじゃ、なかったじゃないの。何度も襲われてるのに、記録に残っているのは、200年前(最近)の一度だけ」


 こんな理由、分かったところでシャンガマックに言えないよと、ミレイオは頭を振った。

お読み頂き有難うございます。

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