826. 情報交換の夕べ
魔物退治した7人は、魔物の死体から集められるだけの肋骨を出した。ミレイオが一旦、町へ袋と綱を取りに行き、持って戻った袋に肋骨を入れ、袋を綱でくくってから、青い龍の背にかける。
不満そうなミンティンにお願いし、イーアンと親方は青い龍で。ドルドレンたちも龍を呼び、各々龍に跨ると、一仕事を終えた疲れもあって、ゆっくり町へ飛んだ。ミレイオはフォラヴが乗せてくれたので、楽しく話しながら町へ戻った(※仲良し2)。
親方は時間を見て、町の外にミンティンを降ろす。『人目に付くからな』の配慮だが、もう、壁の外を飛んでいる龍は町民に見えており、町の中が騒がしかった。ドルドレンたちも一応、町の外で降りる。
町の外で降り、荷物も降ろして、空に龍を帰すと、荷物の袋をそれぞれ持って町へ入った。人だかりはなかったが、見ている人たちがとても多く、ドルドレンたちは目を合わせないように宿へ戻る。
時折、話しかけられたが、適当に説明して歩を止めることはしなかった。
そのまま皆は、つる~っと宿の敷地へ入り、回収した袋を馬車と馬車の隙間に置く。親方がベッドを出す時に、邪魔にならない場所に積み、一行は夕方の宿に入った。
宿へ入り、風呂の準備がこれからと聞いた7人は、一階の食堂に屯す。30分くらい、雑多に喋っていると、宿に警護団が来て彼らを見つけて挨拶した。
「龍!見ましたよ!」
嬉しそうな顔で、警護団の二人は挨拶そこそこに、龍を初めて見たと喜びを伝える。旅の一行が笑って頷くと『魔物退治したんですか。どんな魔物だったか、報告したいです』と本題に入る。
紙を見せられて、シャンガマックがテイワグナの共通語で書いてあるのを確認。自分が書くと役目を引き受け、ドルドレンに言われるとおりに書き込む。イーアンと親方が退治した大型のも詳しく聞き、回収した部分のことも少し書いてもらった。
横で見ている警護団も、細かい部分を幾つか教えて、倒した魔物だけではなく、倒した人数や職業等の項目も書き入れてほしいと頼んだ。シャンガマックはその通りに書き、最後に読み上げて、総長の確認を取った。
「うむ。良いんでないの(※ドル・寛ぎモード)」
「良いですよね。俺たちが動いても、この報告書の写しを見せてもらえれば、別の部署でも話が出来ると思います」
「凄いですね。ホントにこんな数、倒してきたんですか」
信じられないと笑った二人の警護団に、ドルドレンは微笑み、一緒に裏へ来るようにと彼らを促した。他の6人は面白そうに見送り、総長と警護団は馬車のある裏庭に行った。
戻ってきた警護団は目つきが変わっていて、さっきまでの笑顔は消え、少し恐れている様子だった。『魔物を解体するんですね。そうしないと・・・材料だから。炉場で見せてもらったのも、獲ったんですものね。その、触るのは怖くないですか』一人が慎重な言い方で訊ねる。
ドルドレンはイーアンの頭を撫で、『彼女が最初にそれをこなした。誰でも出来ることを教えるために』と伝え、イーアンを見て微笑む。イーアンもニコッと笑って『そうです。誰でも大丈夫』と答えた。
――魔物を使います。そう聞いても『わー凄い』の言葉は、実際に何があるかを想像出来ないもので、目の前に獲れ立ての材料を見て、初めて何をするのか、言葉と行動の意味が繋がる。
ドルドレンは、それを見せるに良い機会だと思い、彼らに見せた。思った以上に衝撃的だったようだが、それは自分たちも最初の頃は同じだったので(※イーアンが解体するのを見守った)心境は理解出来る。
そしてこの奇怪な行為が形になるまでは、それが人々の応援を得にくいことも。よく知っている。
だがイーアンは諦めなかった。仲間に気味悪がられても、ひたすら解体しては物を作り、実行した。
そして、ハイザンジェルの魔物資源活用機構設立までに届いたのだ。
これをテイワグナの国民にも知ってほしいと、ドルドレンは思った。恐れるだけではなく、使うことが出来る可能性。役に立てることが出来、魔物から身を守る、魔物製の道具に変わることを、知ってほしかった。
警護団の彼らは困ったような顔のまま頷いて、自分たちもいつか出来るようにしたいと思う(※かなり消極的)と答えた。
そして、旅の一行にお礼を言い、守ってもらったこと・代わりに戦ってもらったことに感謝し、警護団は帰った。
「警護団の彼らは、午後に炉場へ作業を見に来ました。それで剣や鎧をハイザンジェルから買い取ることは出来ないかと、訊ねていました。在庫は分かりませんが、幾つか見本に取り寄せようと思います」
宿の玄関を出て行った警護団の背中を見送り、イーアンはドルドレンに伝える。ドルドレンはそうした方が良いと同意し、送付状の追加を頼む際に、そのことも手紙にして送ろうと言った。
「一先ず、ロゼールに連絡を取るのだ。在庫と、工房の製作状況を教えてもらって。本部の機構にも輸出の走りだと言えば」
イーアンは頷いて、ロゼールに連絡をすることにし、ドルドレンは手紙を書くことにした。
退治・回収・加工・技術の応用と、急いで最初から動かすよりも、完成品を見て、作り手が同行して説明して。そっちの方が浸透も理解も早い。欲しくなる。真似したくなるものだ。
イーアンはいつも、自分が着用し、持参し、どう作ったか、どこを使ったか。それを説明し続けた。小さなハイザンジェルで、魔物に辟易していた末期の国だったから、彼女の動きを支えるだけでも通用した。
だが、テイワグナは出始め。また境遇が違うことを意識して、進めないといけないな、と。ドルドレンは考えていた。
この後、風呂の用意が出来たと宿の主人に教えてもらい、それぞれ一仕事後の風呂を満喫した後、夕食を摂る。
夕食が並び始めた一階の食堂に集まり、7人で食事。ミレイオは食べてから地下へ帰る予定。
時間が暗くなり始めの頃なので、親方はコルステインを気にしながらも『まだ大丈夫かな』とぶつぶつ呟き、外をちらちら見ながら、それでもいつもよりは少しゆっくり夕食を食べていた。
皆が集まっている夕食の間に、今日の報告をしようとドルドレンは言う。最初に、炉場はどうだったのとイーアンやミレイオに訊ね(※親方は夕食で必死)加工の状態を教えてもらう。
炉の温度がもう少し上げられたら、また違うかもとミレイオは話し、今回の場所では少ない変化を見ただけだったと教えた。
「今日集めたあれ。もしかするとあれはここでも、何か作れるかも知れない」
金属質の肋骨は、炉の温度の低い加工でも使い道はある、そうミレイオとイーアンは考えていた。でもとにかく、先に持ち込んだ魔物の体が、熱入れ時に変化する様子を見せることは出来た、と続けた。
「すごく熱心だったわ。知ろうとするのね。紙に書いといて、って言ったら、一生懸命書いてたの」
ドルドレンも、手応えありと感じる様子。テイワグナの国民全体はどうか知らないけれど、現時点までは、龍の話も手伝ってか、テイワグナの人々は素直に受け入れようとしている気がする。
ミレイオとイーアンに『お疲れ様。また明日試して教えて』と労い、次にシャンガマックに話を振る。褐色の騎士はちょっと考えて『俺の意見も言って良いですか』と最初に言う。
「構わない。でも。何だ、何かあったのか?すぐに行動に移すような」
「あります。気になるので、もう一度調べられたらと思うんです。離れると距離が開いて、恐らくもう、調べることも出来なくなるから」
シャンガマックの話の内容は、伝説絡み。この数日で集めた情報と、自分の考察から、ミレイオを何度も見て話を進める。フィギからアゾ・クィ、ブガドゥムで聞いた話を、全て皆に教えた。
この際だからと全部話したのは、ミレイオと話す時間が少なくて、それも彼の中で、進まないもどかしさの一つだった。聞いてもらえる時に、と思ってのこと。
ミレイオも関心が高まる。シャンガマックが、かなり密に古代の碑に入れ込んでいると分かると、自分の質問もいつか解いてくれる気がする。
イーアンは黙って聞いていたが、そう言えばと思って、彼の話が終わったくらいで訊ねてみた。
『温泉の石柱。私は見ていませんでしたが、それはあったのでしょうか』温泉の奥に神隠し・・・ティファウトが話していたが。
シャンガマックは首を振り『そこまで見れなかった』総長とザッカリアに目を向ける。彼らも頷いて『それらしいものは何も』見当たらなかったね、と頷き合う。
「壊されたとは思いにくい。もっと先か。しかし採石の場からは、そうすると相当遠ざかるのに」
褐色の騎士の言葉に、イーアンは安全と小回りの問題から、自分が調べに行こうかと思う。
ただ問題があり、自分では文字も何も読めない。シャンガマックを連れて行くにしても、魔物と戦う際に、人数を減らしてしまうのが困る。
イーアンが悩んでいると、シャンガマックは彼女の表情から『イーアンが調べに行くのか』気になったように訊ねる。
「私一人なら、と思いました。私は爪も出せます。龍が不在でも少しは飛べるようになりました。龍が入れない狭さでも、私単体なら動けるでしょう。ただ、肝心の『読み』が出来ないので、私が行っても意味が」
ドルドレンは愛妻の言葉に、続きが想像出来るのでムスッとした。思ったとおり、シャンガマックは『俺が一緒に行こう』と言い始めた(※『ほらなー』の気持ち)。イーアンは、褐色の騎士の言葉に困る。
「人数が減るのはいけません。一人ならまだしも。こちらが探索中に、馬車の移動で魔物と戦うかもしれません。そうしますと、2台の馬車を守りながら5人で戦うのは」
「私は?私じゃダメかな」
ミレイオが『自分代わりに出ても』とシャンガマックに言う。『私お皿ちゃんだし、狭いところも入れるけど。ただ、あんたが欲しい情報を手に入れるかどうか、そこまで自信ないけど』それでもイーアンが行くよりはと、ミレイオが買って出る。
「ミレイオ一人、という意味ですか」
褐色の騎士の意外そうな顔に、ミレイオは『そう』の返事。『二人いなくなるより、良いでしょ』イーアンを見てから、ドルドレンの顔も見た。目を閉じて頷くドルドレンは感謝(※人数確保&愛妻確保)。
シャンガマック、考える。
ミレイオなら遺跡巡りもしていたし、見てきてほしい部分を持ち帰ってくれる気がする(※イーアンだと心配)。自分の用事でミレイオを出すのも気後れするが、乗り気でいてくれるので、ここはお願いした。
「では。ミレイオは、明日一日留守だな。馬車は明日の午後か、その辺には出発する予定だ。
イーアンとタンクラッドは、炉場で午前を使うだろうし、フォラヴとザッカリアは、特に用もないから俺と一緒だ。
シャンガマックはどうする。町にいる間に何か調べるか?」
ドルドレンは、部下に明日、何をしたいのかを訊ねる。シャンガマックは実のところ、もう一度、温泉奥を見に行きたかったが。今日もそれで魔物に遭遇しているので言い難かった。
フォラヴが察して『奥。採石場の奥はまだ未確認でしたね』と微笑む。シャンガマックは友達の言葉に、ニコッと笑った。ドルドレンは苦笑い。ザッカリアもちょっと嫌そうだった。
しかし、部下二人で行かせるわけにいかない総長。ここは子供のお守りをしながら戦おうと決め(※子供が嫌そうだから)明日は再び、採石場へ向かうことに決まる。
ザッカリアが不安そうなので『明日は龍と一緒』と先に伝えておく。シャンガマックは地上戦を望んだが、子供には緊張が大きいので先手で『龍』を出した。ザッカリアは少し安心したようだった。
夕食が終わり、この日はこれで解散する。
買い物した布は出発以降に確認するとして、イーアンは、ミレイオとフォラヴに今日のお礼を言う(※自分も行きたかったとこぼす)。
ミレイオは、シャンガマックとイーアンに、明日は何をどう調べてくれば良いのかを細かく聞き出した。話だけでは情報が不充分で困るだろうと、シャンガマックはミレイオを馬車に連れて行き、自分がまとめた情報や、それに伴う疑問を書き込んだ紙を渡した。
ドルドレンはお父さん代わりなので、今日頑張った子供に『お菓子をもう少し食べて良い』と許可し、早めに食べて歯をちゃんと磨くようにと念を押す。そして、一緒にお菓子を選んでやった(※ザッカリアお菓子箱持参)。
お読み頂き有難うございます。




