825. 岩場の魔物で材料入手
「ドルドレンから連絡が。魔物が出ました。行きましょう。炉のお世話は、施設の方にお願い出来ますか」
イーアンは急ぎだと親方に言い、頷いた親方が『明日も来るから』と、材料その他を預けたい旨を職員に話すと、彼らは快く了承し『ここに置いておきます。炉は今日はもう、このまま火を落とします』と返事をしてくれた。
警護団は困惑していたので(※『自分たちも行った方が良いの?』の反応)親方は彼らに、町にいるようにと伝えた。
親方と一緒に小走りに外へ出て、イーアンはミレイオにも連絡する。ミレイオも、すぐに岩場へ向かうと答えたので、イーアンはミンティンを呼んだ。
「ミンティンで向かいましょう。あちらでバーハラーでも」
急ぐので、町の外に出る少し前に青い龍を呼ぶ。親方は一瞬、自分の龍で良いのだが、と思ったが。二人乗りの機会と思い出し、すぐに笑顔で了解した。
ミンティンがやって来たくらいで、イーアンたちは町の壁の外へ出た。青い龍が滑空してきたので、イーアンが乗せてもらおうと両手を広げたところ、親方に後ろから抱えられて跳び上がられた(※抱えやすい状態作っただけ)。
「私はミンティンに」
「言うな。一々」
親方は不服そうなイーアンを見ず、よいしょと股間座席に乗せると(※お約束)満足そうに『岩場だ、ミンティン』の命令を発する。イーアンは黙る。
青い龍は『岩場』の、ざっくばらんな場所指示に、え~?みたいな顔を向けたが、何となく見当を付けて方向を変えてくれた。
町を出てすぐ、岩場と呼ばれる様子が広がる場所に入る。木々はあるものの、岩から生えているため、見た目が岩場に見えない。でも、町から伸びる轍の跡もあるし、そこが採石している岩場だろうと親方は言う。
どこにいるのかは分からないが、ミンティンにお願いして、ドルドレンたちと魔物を探してもらう。青い龍はちょっと高く上がってから、突然何かを見つけたように加速した。
「ミンティンが見つけました。私も飛びますので、タンクラッドはミンティンと一緒に」
イーアンが見上げてそう言うと、親方はじっと見て『別に一緒でも』と緊張感のないことを言う。イーアンは目が据わり『魔物退治ですよ』びしっと注意した。
「はい。ではね。飛びますので。腕を解いて下さい」
親方は渋々、イーアンの胴体に回していた両腕をゆっく~り解く。
『最近、こうして乗らないから』ぼやいてみたが、『タンクラッドには、コルステインがいます』と言い切られ、驚いて言い返そうとしたところで、イーアンは笑いながら翼を出して飛んで行ってしまった(※翼で逃げる余裕)。
「くぅぅっ・・・『コルステインがいる』と。うう。そうだけど(※認める)。
でもコルステインは、体温ないんだぞっ 抱き締められてても温かくないんだ!そりゃ、顔も可愛いし、反応もカワイイけど」
親方は、ミンティンの背鰭にしがみ付いて、いろいろ言い訳。俺がまるで浮気者みたいだ!(※そもそも立場が違う)と嘆く。
魔物を見つけたミンティンが空中で停まり、戦いに行こうとしない親方を鬱陶しく見ているのに気が付くまで、数分そのままウダウダ言い続けていた。
ドルドレンたちは応戦中。シャンガマックは『龍を呼ぶまでもない』と言うが、岩場の奥にあると思われる温泉から出て来るのか、倒しても倒しても、気が付けばそこら中、魔物だらけ。
「これ。龍と一緒の方が、移動が楽だろう」
「でもこれ、飛びませんよ。おっ」
大顎の剣で、首を振り上げた魔物を切り裂き、総長の提案を『必要ない』と拒む、褐色の騎士。
ドルドレンは何となく思う。フォラヴもそうだが、シャンガマックも。きっと、最近の自分に自信がなくて、龍に頼らないで頑張りたいのか・・・と。
長引かせると嫌なのは、戦い慣れないザッカリアがいることに理由がある。
彼も剣は上手く、勘も良いけれど、イーアンたちと違って好戦的ではない(※好戦的比較対象⇒中年)し、敵への恐れもまだある。
騎士なり始めとはいえ、大人になって入会したシャンガマックのような腕力もない。ドルドレンのように、身体能力が高いわけでもない。
子供は徐々に慣らさないと、苦手意識が付いてしまう心配があった。
シャンガマックの気持ちは分かるが、無駄に長引かせるのも違うと、ドルドレンは思う部分。中年組早く来て~ 心の中で応援を求めて、魔物に応戦する時間。
そして、ドルドレン待望の愛妻(※未婚)登場。お空に、きらーんと輝く白い6枚の翼。
ドルドレンはハッとして見上げ、待ってました!とばかりに名を叫ぶと、愛妻は凄い勢いで滑空してきて、一瞬で龍の爪に変わった片腕を、魔物のいる地面に振り、10頭くらいの魔物を一気に薙ぎ払った。
「おお。いつもながら、見事なぶった切り方。さすが俺の奥さん(※奥さん最強)」
「すみませんねぇ。ちょっと遅れました。タンクラッドがもう、上にいるはずなのですが。ミンティンと一緒に」
愛妻は申し訳なさそうにドルドレンにそう言うと、もう片方の腕も爪に変え、両腕を広げて地面すれすれにかっ飛び、騎士たちの前にいる魔物の群れをざく切りにする。
行って戻ってくると、愛妻の通った後に動いている魔物がいない・・・ドルドレンは、自分たちは剣を仕舞ってもいいんじゃないか、と思い始めるが。
「これ。どこから出ていますか。私は出ている場所を攻撃します。こちらを頼みます」
イーアンは振り向いて、魔物の大元を倒すと言う(※即ち『あなたはここで戦え』の意味)。
「え。イーアン、一人で行くの。確認していないが、多分、奥だよ。でも奥に大きいのがいても」
大丈夫よ~・・・・・ あっさり白い翼を宙に叩き、イーアンは『大丈夫』の返事を残して、岩場の奥へ飛んで消えた。
頼もしい愛妻。ドルドレンは感謝することにして、自分は小物を相手に頑張ることにした。
ザッカリアも、イーアンが来たので気持ちがホッとしたのか、また頑張り始めた。
シャンガマックは苦笑い。イーアンに敵うわけはないと分かっていても、それを認めて進むのが一苦労だと、呟きながらの魔物退治。
間もなくして、ミレイオとフォラヴも到着。ミレイオはお皿ちゃんで、フォラヴは龍に乗っていた。そして遅れて、親方もミンティンと一緒に参加する。
青い龍に強制的に、背中に立たされ『ほら、戦え』と促された親方は、悲しい気持ちをぶつけるように、時の剣を抜いて、岩場に動く魔物を斬りつける。
ミレイオはザッカリアの側へ来て、保護しながら魔物を倒す。『大丈夫?何でこんないるの?最初から?』ザッカリアに訊ねると、『ここに入ったら出てきたよ』との答えをもらう。
「出てきたって。どこから?地面?」
「ううん、あっちだよ。黒い絨毯みたいにどんどん広がって。えいっ」
ザッカリアの『えいっ』の掛け声に、可愛くて笑いそうになるミレイオだが、我慢。一生懸命、戦う子供に付き添い、彼の援護をして過ごす。強くはない魔物だけど、大きさがあって数も多い。
イーアンはどこかしら、と思っていると、奥に続く岩棚の向こうから『てめぇ!』と野太い怒号が聞こえた。
「あらやだ。あの子、あっちなの」
「イーアンは、魔物が出るところに行ったんだ」
間違いなくイーアンの声だと思い、ちょっと心配したが(※怒ってる=攻撃受けた)ミレイオが心配した矢先、青い龍に跨ったタンクラッドがすっ飛んで行った。
「やだよ。イイトコ、見せようとして。あの子のが強いのにねぇ(※事実)」
笑うミレイオは首を振り、タンクラッドの横恋慕に呆れながら、ザッカリアの側で魔物退治に専念した。
ドルドレンも、親方が向かった先が、イーアンのいる場所と思うと複雑。
だけどまぁ、の気持ちもある。愛妻は戦う時、誰かと一緒に戦うことはまずない。あの人、単独なのだ。意識が飛んでいたイオライみたいな時は、オーリンが付いたが・・・普通、ない。
「タンクラッド。イーアンとは一緒に戦えないのを、まだよく分かっていないのだ」
これまた経験だね、と頷きながら、ドルドレンは目の前の敵を片付けるに徹した(※心の広い旦那)。
『てめぇ』の怒りを叫んだイーアンは。
大元が温泉からびょーんと出てきて、思ったよりも素早く動き、近付いたイーアンの翼を齧ったから。傷は付かないし痛みもないが、かちーんと来たイーアンは『てめぇ』と叫び、爪で魔物の顔を斬る。
斬った直後、魔物の口が離れて、イーアンはすぐに距離を取る。
「タンクラッドが倒した、この前の魔物と似ている。何だろう。腐ってるみたいに見える」
姿形は似ていて、肉や皮が黒く変色し垂れ下がる、形だけは龍に似せたような魔物。
タンクラッドが倒した魔物は、口を開けた瞬間に高速の礫を放っていた。あれを食らうとキツイと思ったイーアンは、先に口を斬ってやろうと近付いたのだが『思ったより速ぇ(※素)』ちっ、と舌打ち。
「しかも使えませんよ。このブラブラ加減では、材料にもなりはしない」
とっとと倒さねばと気持ちを引き締め、イーアンは両腕の爪を振り上げた。そのすぐ後、『俺がやる』と後ろから親方の声。
振り向くと、ミンティン&タンクラッドが突っ込んで来た。またタンクラッドの敵なのか、と思ったイーアンは、少し避けて道を譲る。
タンクラッドは通り過ぎざまに、ニヤッと笑って見せる。親方カッコイイ~ イーアンは、この魔物が親方の敵なんだと思い、ここは譲ることにして、自分は引っ込んだ(※一緒に戦わないスタイル)。
タンクラッドは剣を抜いて、黒い龍もどきを退治にかかる。ミンティンに突っ込ませ、振り上げた剣で直に斬りつけると、反対側まで切り裂いて飛び去り、戻ってきてもう一度逆側から切り裂いた。
イーアンはこれを見ていて感じたが、タンクラッドの『時の剣』が振られると、大体の魔物が鈍くなるような気がした。何か怯えているようにも思う、動きの躊躇いがいつもあるような。
そんなことを思っている間に、親方は魔物を切り刻んで倒してしまった。
戻ってきた親方に、イーアンは微笑んでお礼を言う。タンクラッドはちょっと誇らしげ。『あれ、使うのか』魔物に顔を向けて訊ねたので、あれは腐ってそうで無理じゃないかとイーアンは答えた。
「そうだな。ドルドレンたちが倒している方がマシかも知れん。山のようにいたから、回収出来ればしめたもんだ」
親方は機嫌宜しく、そう言うと笑顔を湛えたまま、ドルドレンたちのいる岩場へ青い龍を飛ばした。イーアンも後に付いて向かった。
戻ると、魔物は思ったとおりで数が増えていない。見たところ100以上はいたと思う数が、死体になって転がっており、まだ残っている魔物は、騎士たちで倒しにかかっていた。
手伝おうとしたが、もう僅か。親方とイーアンは彼らに任せたまま、自分たちは、これが回収対象かどうかの死体観察に入った。
「イーアン。中身は使える気がするぞ」
ほれ、見てみろと、親方が剣の先で魔物の割れた腹を示す。イーアンはその部分を覗き込み、じっと灰色の肋骨を見つめた。『これは』白いナイフを抜き、ナイフで骨を少し削いでみる。骨の表面は削れ、中が銀色に光った。
「何でしょう。金属的な色ですけれど。でも金属なら、こんなにあっさり切れる気がしません」
「うーん。そう言われるとそうだが。でも光り方が金属質だろ」
イーアンはちょっと思い出す。もしこの岩場の要素を得た魔物なら・・・と、考えてみる。イオライもそうだった。魔物の体のどこかしらは、その土地から作ったような部分がある。
そうすると、さっき炉場で使っていた鉱石は、柔らかい金属を取り出していると話していたので、この魔物がそれに近い質の体の一部を持っていても、変ではない。
これをタンクラッドに話すと、タンクラッドも頷いて『そういう可能性もあるな』と、回収出来そうに思うことをイーアンに言う。
イーアンは魔物の肋骨の繋ぎ目に白いナイフを当て、上から力を込めて叩き折ると、一本を取り出して(※素手)肋骨を眺めた。親方は『直に触るな』と困っていたが、気にならないので無視して観察。
「ふむ。使えるかも知れないです。もしかしますと、柔軟な金属の品には丁度良い材料かも」
何かを思いついたイーアンを見て、親方は面白そうに微笑む。『じゃ。回収するか』親方はそう言うと、屈みこんで魔物の腹を割り始めた。イーアンも横に並んで、隣の魔物の肋骨を取る。
全部退治し終えたドルドレンたち。
やれやれ終わったと、剣を仕舞って顔を上げ、離れた場所で二人が回収しているのを見つけ、ドルドレンはげんなりした(※回収作業気持ち悪いからキライ)。
騎士たちも苦笑い。手伝わないわけには行かないので、側へ行って指導を受けながら、全員で肋骨集めに精を出した。青い龍は、自分も手伝わなきゃいけないのかと、嫌そうな顔をして待っていた(※運送)。
お読み頂き有難うございます。




