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魔物資源活用機構  作者: Ichen
テイワグナの民間信仰
824/2953

824. 買い物と加工と調査の午後

 

 警護団駐在所へは、ドルドレンとフォラヴ、ザッカリア。


 フォラヴとザッカリアは、ただの付き添い。ドルドレンは警護団に挨拶して、自分たちの仲間が今日、炉場を借りる理由の説明し、加工した剣などを紹介すると、近隣魔物の出現状況の情報提供を願った。



 インガル地区の警護団は嫌な印象だけだったが、ブガドゥムの町駐在の警護団は、話しても、至って普通の人。

 国境の警護団員も普通の人だったし、これが本当なのかもと、ドルドレンは思いながら話を聞いた。


 他、イーアンにお願いされていた『剣工房がある地域』を訊ね、警護団員が有名な工房と地図を照らし合わせてくれたので、それを書き写す。

 警護団は、ハイザンジェルが魔物を加工しているなんて知らず、彼らの腰に下がる剣を見て、その話を聞き、とても驚いていた。同時に、ハイザンジェルはよく頑張ったと、敬意を込めた言葉を旅人に贈った。


「わざわざ。魔物が落ち着いたハイザンジェルから、出始めたテイワグナに来てくれて。心強いです。本当に有難う。炉場の使用が出来る町は時々あります。声をかけておきましょう。

 それと、報告が朝一番で入ったのですが、龍に乗る・・・?あなた方のことだと思うのですけれど、国境治安部発信で、ハイザンジェルの騎士修道会は龍を使うとありました。そうですか」


 警護団員の質問に、ザッカリアが嬉しそうに微笑んでフォラヴを見る。フォラヴも微笑んで頷き、ドルドレンも笑顔で『そのとおりだ』と返事をした。


 少し日にちは掛ったが、国境のリュートはちゃんと報告を回してくれたのだと分かり、各地の警護団に届いた『騎龍騎士修道会』の情報に安心する。

 警護団は大変恐縮して『すばらしいです。凄い』と何度も感心していた。



 一通り、話を終えた後。彼らに激励を受けて送り出され、ドルドレンたち3人は、織物購入のため、織物通りの店へ向かう。


 ここから、フォラヴの出番。妖精の騎士を前に歩かせ、彼が店頭の生地を見ながら歩く横に、総長と子供は付き添う(※することない)。


 馬車で使う布の、お買い物なのだが。ドルドレンとザッカリアは退屈。フォラヴは丁寧に、繊維の質や色や柄や織りを見てから選ぶので、なかなか・・・女性同様の買い物時間がかかる。


 フォラヴの性格は知っているものの。日常の付き合いはないんだな、とドルドレンはしみじみ感じた。彼が支部に来てから10年、11年目?だが。同じ隊にいても、同じ支部にいても、知らないことがあると知る。


 新事実。彼は。衣服が好きである。

 ちょっと女性的な雰囲気もあるから、そういうものと思うに難しくないが、衣服も好きだし、生地にもこだわる。色や織り方の見せる印象や、使う場所に合う雰囲気のことを、いつもこんなに喋らないのにと思うくらい、ペラペラ喋る妖精の騎士。それも、楽しそう。


 馬車に乗っていて、そんなこと考えていたのかと驚くほど、フォラヴは『中が暗いから、よく明度が気になって』とか『馬車はミレイオの感覚ですから、それに合うのは』とか『今は全体が柄物でしょう?今回は、無地で織りに模様があるもの』など。


「ずっと気になっていたのです。布を買い足す機会があって良かったです。私が選べるなんて嬉しい」


 本当に嬉しそう・・・ドルドレンは真面目な顔で、うん、と頷く。


 普段、微笑み控え目フォラヴが、乙女のように喜んで布を選ぶ時間に、総長と子供は無言で付き合う。退屈だが、彼が生き生きしているので、放ったらかすわけにもいかなかった。


 時々、子供がつまらなさそうに他に行きたがるので、ドルドレンはギアッチに言われたように、小さな菓子を腰袋から出して与え、フォラヴを待つようにと小声で言って聞かせることを繰り返した(※少しは大人しくなる)。



 こうしてあっという間に、1時間が過ぎた頃。ザッカリアは、目端に母・イーアンを見つける。振り向いて手を振ると、向こうから『ザッカリア』と名を呼ばれた。


 ザッカリアは走って側へ寄り『イーアン。終わったの』ひしっと抱きつくと(※ヒマ脱却の喜び)横に歩くシャンガマックを見上げて確認。褐色の騎士も微笑んで『収穫ありだ』と答える。


「総長。待ちましたか」


 シャンガマックが歩きながら大きな声で、こちらを見ている総長に訊ねる。総長の横のフォラヴが一瞬、こっちを見てニコリと笑った。シャンガマックは、総長の苦笑いを見て理解する。


 フォラヴと買出しへ行った若い頃。支部から近い、買い物の出来る店で、フォラヴがずーっと帰らなかったのを思い出したシャンガマックは、総長がフォラヴ初体験(※略すとイケない感じ)なんだなと笑った。


 いつも、フォラヴは自分から買い物をしようとしないし、人と一緒にはまず出かけない。単独で動く方が多い彼だが、買い物は大好き。だから、ミレイオとイーアンが食材を買う店に入ると、それを羨ましく見送っていた。


 そんなことを知らない、シャンガマック以外。


 お昼が来るまでフォラヴに付き添い、念入りに吟味した布を探し、2つほど購入して昼になった。イーアンも意外で、妖精の騎士に驚きを伝える。


「フォラヴは、何度も見ますね。すぐに買わない。気に入った品を全部探してから、もう一度お店を巡って、考えながら買う男の人は初めて見ました」


 妖精の騎士はコロコロと笑って『だって。ずっと使う物ですから。どうしても好きな物を選びたいでしょう』なーんて、女の子みたいなことを言う。こりゃ、ミレイオと気が合うかも、とイーアンは思った。



 騎士たちとイーアンは、お昼時なので職人二人を呼んで店に入ろうと話し合い、イーアンは彼らと連絡を取る。ミレイオが出て、場所を伝えると『すぐに行く』との返事をもらう。


 その場所で待って10分近くで、ミレイオとタンクラッドが見つけてくれた。7人揃って食事処を選び、広そうな店に入って、昼食にする。


 女性の従業員を気にする5人を奥へ座らせ、ミレイオとイーアンで注文する。

 従業員の彼女たちは残念そう(※軽くミレイオとイーアンに失礼)だが、ここは守備を固めねばと、ミレイオは彼女たちを奥へ近寄らせなかった(※騒ぐと面倒)。騎士4人と親方は、ミレイオに感謝した。


 運ばれてきた食事を取り分けようとした従業員を追い返し(※『自分でやる』『あっち行って』)ミレイオは大皿をふんだくると、男共の皿に取り分けてやる。


「なまじ顔がイイってのも。面倒臭いわね」


 ちょっと笑うミレイオに、騎士たちは苦笑い。『選んでこの顔でもない』とぼやいたドルドレンに、ミレイオはチラッと目を向けて『そういうことじゃない』の釘を刺す。ドルドレンは慌てて頷き『分かってる』と答えた。


 タンクラッドは一人、首を傾げて分からなさそうだった。『こんなおっさんに何の用があるんだか』と、いつもどおり、自分を全く分かっていない呟きを落とすので、イーアンは『この人は貴重な人』の上塗りが分厚くなった。



 何はともあれ。食事をしながら、午前の報告を済ませ、午後の予定を決める。


 情報交換もあり、ミレイオはフォラヴのお買い物好きを知ったから、そちらへ行きたがる。


 なら、イーアンと一緒に炉場へ行くと親方が言い始め、えっ、と振り向いたイーアン(※自分も買い物したかった)にニッコリ笑った。『行こうな。面白いぞ』これも仕事だと言われると、断るわけに行かず、渋々、炉場へ付き合うことにした。


 ドルドレンは自分も炉場へ行きたいとお願いしたが、親方に『お前が見ても分からんだろう』と呆気なく却下された。


 そうだけど・・・そうだけどさ。寂しそうに呟く総長に、シャンガマックは『今夜の宿泊をお願いしに、宿へ行こう』と誘ってくれた(※優しい部下)。

 シャンガマックは、ザッカリアも一緒に連れて、その後、見に行きたい場所があるとも言い、やることのない総長と子供は、褐色の騎士と一緒に、町の外の岩場を調べる午後決定になった。



 食事終えて外へ出ると、7人はそれぞれの目的地へ。

 町の外へ行く3人にだけは『何かあったらすぐ呼ぶように』と、親方とミレイオがしつこいくらいに注意し、ドルドレンは有難く了解(※魔物出たらお任せ)。


 ドルドレンたちは最初に宿へ。ミレイオとフォラヴは布選び。親方とイーアンは炉場へ向かった。


 宿屋へ行くと、主が『馬車ですか』と時間を見て先に言ったので、ドルドレンたちはもう一泊したいと話し、お代を支払って用事は終わる。


 宿屋の主人は、馬車が珍しいと笑顔を向け『どこの馬車?それとも絵が好きで塗っているの』と世間話のように問いかけた。

 ドルドレンは、自分たちはハイザンジェルから魔物退治の仕事で来ている、と教え、国境からここまでの道のりで、結構魔物を倒したことも話す。


 おじさん、ビックリ。『そうなの?凄いじゃないの』驚きながら、彼らの腰の剣を見て『警護団もそのくらい、頼もしかったら良いのに』と、ぼやく。弱そうな警護団の裏づけが得られ、情報は騎士たちに埋め込まれる。


「警護団は、訓練なんてしないんですよ。ちょっとはね、護衛の稽古なんかしてるみたいですが。だから、魔物が出たなんてなっちゃったでしょ?辞める人続出ですって。まー気持ちは分かるけど。情けないですよねぇ」


「仕方ない。誰だって魔物なんて、どうやって扱って良いのか分からないのだ。だからその懸念から、テイワグナに出たと知って、俺たちが派遣された」


 おじさんは首を振り振り『いや~ お世話かけます~』すまないねぇと、眉を寄せて謝る。ドルドレンたちは笑ってしまって、『仕事だから』のお返事で済ます。


 それから、地域の対策なのか、既にアゾ・クィの村の壁が防御的で印象に残った話をすると、おじさんは『ん。アゾ・クィですか?違いますよ。あれは昔から』と言う。


「あの村は、凄く昔ですけど、一度壊滅したんですよ。何だったっけね。理由・・・魔物じゃないんですよ。何に襲われたんだったか。あの村の一帯、丸ごとです」


「魔物じゃないのに壊滅。そんな被害に遭っていたのか。その理由は」


「え~っと。思い出せないなぁ。壊滅した、ってのは、有名な話なんですけど。何せ、もう200年くらい前ですから。歴史の本か、そのへんには載っているでしょうね。

 まぁ、それからですよ。あの村があんな、要塞みたいな壁になったの」


 シャンガマックは凄く気になる。見落としたものが多そうで、もう一度調べに行きたくなるが、それは皆に相談してからの話。


 ドルドレンたちは宿屋の主人の話に礼を言い、午後は出かけてくると伝えて、町の外へ出発した。



 ミレイオとフォラヴは、早速、品定め開始。

 二人は好む色も柄も違うが、お互いの良さを認めているので、あれもこれもと手に取っては『扉代わりに夏使う』『ベッドの掛け布はこれも』『少し寒い日の為に』広げて見せ合って、値段を確認。使用に思いつく理由は、口をついて出るので制限なし。


 お店の人も側へ来て、買ってくれると思うので、一緒になって布を広げてくれるのだが、二人はいい加減見終わると『後で来るかも』と曖昧な挨拶をして去って行く。


 これを思う存分繰り返し、目星を付けた店を選んで『あの布、こうして使いたい』『私が選んだ布は基調にしても』と最後の購入の目処を立てる。


 そして、喋り過ぎて喉が渇いたとなり、二人は購入前に店に入ってお茶の時間(※女子)。

 お茶を飲みながら、フォラヴが『美味しそうなお菓子がありました』と微笑んで、焼き菓子を注文。ミレイオと二人で、焼き菓子とお茶の時間を過ごすフォラヴは楽しかった。


「あんたって。本当はもっと違う人生もあった気がする。騎士じゃ、監禁じゃないの。何で不自由な騎士なんかになったの?」


 午後のデートを楽しむフォラヴに、ミレイオは不思議そうに訊ねる。妖精の騎士は焼き菓子を飲み込んでから微笑む。


騎士に(そう)なった方が良い、と知っていました。私が選んだと言えば、最終的には自分の判断ですが、成るべくして騎士に」


 ふぅん、と頷くミレイオ。この子は予感みたいなもので、騎士になったのかと理解する。


「でもさ。知らなかったけれど。こういう時間を過ごしてる、あんたの方が、あんたらしくて良い感じよ。これから、時間が出来たら一緒にこうやって動こう」


 ミレイオの言葉に、フォラヴは嬉しそうに笑顔を向ける。微笑む刺青パンクに『是非』とお願いして、もう一つ焼き菓子を追加すると、ミレイオとの午後のお茶を楽しんだ(※買い物そっちのけ)。



 イーアンは勉強中。楽しい時間とはいえ、真剣な時間でもある。


 親方にチマチマ『ここ見ろ』『こうだろ』『そっち側ばかりじゃダメだ』の指導を頂戴しながら、はいはい言うことを聞く。イーアン・・・魔物の材料加工見物のはずが、自分がやることになり、必死に頑張る午後。


 親方チマチマはタイムリーなので、急がないと『ほら。また』と言われる(※迷うヒマなし)。頑張って、付いて行くようにするイーアンだが、緊張でヘトヘト。


 へ~~~・・・ 情けない疲れた声を漏らすと、親方が笑って代わってくれた。


 タンクラッドは説明を交えて、変化の様子を見せ、ああだこうだとイーアンに教える。イーアンはどうにか脳ミソを駆使して、記憶に残すよう努力した。


 イーアンと親方が、加工を再開してから間もなくして、お客さんが炉場に来た。施設の人が紹介した相手は、駐在の警護団。彼らはドルドレンに話を聞いて、二人の作業を一緒に見たがった。


 元々の魔物の体の一部と、試しで加工している作業を見せると、彼らは熱心に身を入れて説明を聞き、『こんなふうに扱えるのですか』と大真面目に頷く。


 そして、自分たちも使える武器や防具が手に入るだろうか、また、性能はどのようなものかと訊ね始めた。

 施設の人たちも側へ来て、午前の作業内容や、それを書き留めた紙を見せながら、警護団員と一緒に質問に加わる。


 親方は、ハイザンジェルでは、騎士修道会で実戦に使っていることを教え、性能については、総長たちに話を聞いた方が良いことを教えた。


「総長から話を伺った際に、あなた方がテイワグナの剣工房なども訪れたいと聞き、場所を教えておきました。今日のことは、私たちが警護団の報告で回すつもりです。

 それでもし今後、剣工房や鎧工房の地域を訪れたとしたら。相手の職人次第でしょうが、出来れば教えてあげて下さい。職人が返事をすることだから、無責任なことは言えないですけど」


 それが出来れば、そう望んでいると親方は答え、イーアンの肩を抱き寄せ(※イーアン無表情)『彼女が魔物資源を使う取り組みを始めた』と自慢し、ハイザンジェルの魔物資源活用機構の情報を得て欲しいと宣伝した。


 警護団員はちょっと考えて『製品を買い取ることは出来ますか』と訊ねる。テイワグナですぐに作れないだろうから、ハイザンジェルから少しでも回してもらえないかと。


 イーアン。この流れに少し驚く。本当だ~と思う瞬間。


 機構の叩き案をセダンカと王様が持ち込んだ、雪のある日。既に製造している国があると知れば、急いで買い取るかもしれないと、彼らはドルドレンと話していたのだ。


 タンクラッドはイーアンを見て『どうなんだ。在庫はあるのか』の質問。

 イーアンは、ロゼールに確認してもらうと答え、在庫の量がないかも知れないが、参考にもなる品だから、少量で良ければ送ってもらうよう話すことを彼らに伝えた。


 警護団員は喜んで、報告書に書くから、値段を大凡教えてほしいとまで言う。これは親方が答え、高く感じても、釣り合う価値は充分にあることを添えた。



 そしてここで、イーアンの腰袋の珠が光る。イーアンはふと腰袋を開けて珠を取り出すと、それは伴侶の珠だった。


『イーアン。魔物がいる』


 緊張しているドルドレンの声が頭に響いた。

お読み頂き有難うございます。



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